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十二章 〜赤陽 星天 そして暁光〜

 

 アベルについて極秘ルートを辿る一行。 シャニーでも知らないような森の中の獣道とも言えないうっそうとした熱帯を踏みしめ

時には川を渡り、滝を抜けてもうここがどこだかまるで方向感覚を失いかけたその時だった。

目の前に広がった暗黒を見上げるアベル。 彼はゲイル達に目配せするとその中へと消え、遅れて彼らも意を決し中へと入っていく。

「みんな、遅くなってすまん。」

洞窟の中はしっかり整備されており、ガスランプに照らされる坑内にはたくさんの物資が整然と積み重ねられ

多くの者達が行き来して海賊団さながらの光景にシャニーは空いた口が塞がらない。

「リ、リーダー! よかった!! 心配していたのですよ!」

「ああ、大丈夫だ。」

よく見ればそこには知った顔を数多く見受けられて、シャニーには故郷に帰ってきた実感が溢れ返って来る想いだった。

海賊団で一緒だったクルー、奴隷だったもの、よく遊びに言ったバーの店主までいるではないか。

「アベル・・・本当にレジスタンスのリーダーだったんだ・・・。」

懐かしさと共に湧き上がる驚き。 あの奴隷だったアベルが、人を動かすトップとして今までルケシオンを守ってくれていた。

そう思うと感謝してもしきれないし、幼馴染が立派に指揮を振るう姿を自然と自分と比べてしまい、情けなくない思いに唇を噛む。

「みんなには伝えたいことがある。 集まってくれ!」

まさに軍隊と言った感じで、各々銃や刀剣で武装した者達はリーダーの呼びかけに一斉に集まってくる。

物資を包んだ木製のコンテナに囲まれて部屋のように作られた、ガスランプの照らす小さな作戦用のテーブルの周りには

どこにこんなにも潜んでいたのかと思うほどの人数があっという間に集まった。

「ついに姫が返ってきたんだ。」

皆が静まり、じっとリーダーの言葉を待っている。 その目は誰もが獲物を狙う狼の如く鋭い。

だが、アベルは前置きもなくストレートに彼らに吉報を継げる。

ずっとずっと、それだけを希望に生きてきた者達にとって、もたらされた情報はすぐさま歓喜を爆発させて洞窟を吹き飛ばしそうだ。

「おおおお!! 本当か! リーダー!」

「ああ、本当だ。」

耳が吹っ飛びそうな怒号にも似た歓喜に、それまで鋭い眼差しで武装していた者達はまるで別人のように満面に笑みをたたえ

ある者は拳を突き上げ、ある者は抱き合い、そして涙を流して希望の帰還への喜びを全身で表現している。

「ゲイル、入って来いよ。 みんながお待ちかねだ。」

手をさっと挙げて彼らの歓喜を静めたアベルは、外で待っているゲイルのほうを振り向くと呼び寄せる。

まるで借りてきた猫のように静々と歩くゲイルの背を後ろからルーチェが容赦なく押し、

シャニーもまた早く仲間の様子を確かめたくて紐が切れるぐらいにぐいぐいとゲイルを引っ張っていく。

「リーダー、この人は?」

たくさんの眼差しが一斉にゲイル達へと向けられる。

わあっと嬉しそうに口を開けたまま笑みを浮かべ、左右を見渡すシャニーとは正反対に

ゲイルのほうはガッチガチに固まってまるで銅像かのように立ち尽くす。

「ゲイルって言って、姫をずっと守ってきてくれたらしい。」

姫を守ってきた守護者として説明するアベルを思わず振り向いて見つめるゲイル。

なぜ守ってやらなかったんだとあれほどに怒ったアベルの説明に申し訳なさで一杯になる。

「アベル・・・。」

横目でチラッとゲイルのほうを見たアベルだったが、彼はすぐに部下達のほうへ視線を戻す。

目の前で膨れ上がる歓喜をゲイルに見せつけ、何も彼は語らなかった。

「ありがとう! 姫はオレ達にとって最後の希望なんだ!」

最前列に座っていた海賊風の男が立ち上がって駆け寄ってくるとゲイルの手を両手で握ってきた。

その目には涙が溢れており、他の者達も釣られて立ち上がるとゲイルの周りを取り囲む。

驚いたのはシャニーだ。 こんな風に自分を信じてくれるその顔の中には、かつての奴隷だった者の姿もあったのである。

「姫は命をかけて我らを救ってくださった。 恩返しできる日を今までずっと待っていたのだ。」

フェンネルに殺されようとしていた奴隷たちを救った海賊姫。

目の前で仲間だと言って自分達のために単身戦うその姿を奴隷たちはしっかりと焼き付けていた。

子供を持つ親は、あの日から毎日のように彼女の勇士を英雄伝として子供に教え込むものまでいたほどだ。

もちろん、毎日遊んでくれたお姉さんへの憧れが子供たちの間にも広がっていた。

「俺にとってもこいつは大事な相棒なんだ。」

相棒がどれだけ故郷で愛されていたのかを思い知るゲイル。

だが、今までの旅で見せてきた相棒の全てへの愛を知っているからそこまで驚くことはない。

彼らと同じく、彼女を愛する一人として打ち解けようと差し出される手一つ一つと相棒の分まで固く握手をかわす。

「ゲイル君、オレ様たちもお忘れなく!」

ゲイルの周りばかりに人だかりが出来る中で、レイがぴょんぴょん飛び跳ねて見つめてくる。

目付け役に拳骨で鎮められる相変わらずを見せ付けられて送られて苦笑いをしながらも

レジスタンスたちへ自己紹介を兼ねて悪友達のほうへ手を広げる。

「俺達、シャニーと一緒に世界を回ってエズダー・シアと戦ってきたんだ。」

ようやくに彼らの注目が自分達にも注がれて満足そうにピースをして見せるレイ。

またしても歓喜に似た声が上がる。 姫がずっとルケシオンを超えて世界のために戦っていたというのだ。

今まで必死になってルケシオンを守ってきたことが実と結ばれて、誰もが新たな勇気を芽生えさせる。

「そして、ついにルケシオンまでくることが出来た。 ここがマイソシア最後のエズダー・シアの拠点なんだ。」

マイソシア最後・・・その言葉がレジスタンスたちの表情を下の厳しいものへと引き戻す。

他の地域は既に闇から脱した。 この太陽の町が、いつまでも闇の中ではデムピアスが築いた栄光を汚すことになる。

「仲間がいることは嬉しい。 協力してフェンネルを倒そう!」

ぐっと決意を篭めて突き上げられたゲイルの拳に誰もが己の覚悟を突き出して怒号を上げずにはいられなかった。

フェンネルが恐ろしい力を持った敵であることは誰もが知っている。

エルピスの申し子でさえ勝てなかった相手だ。 だが、希望の下に集まった者達は勇気を隆々と讃えて決意した。 絶対に勝つと。

「リーダー、従者達しか姿が見えないようですが・・・。」

ゲイルにも、そしてアベルにも、来るとは分かっていたその時が訪れて心に電撃が走る。

早く姫の元気な姿を見たいレジスタンスたちが辺りをきょろきょろとしはじめたのである。

彼らは互いを横目で見てうなずき、掲げられたリーダーの手で皆は静まり返る。

「・・・落ち着いて聞いて欲しい。 みんな。」

やたらとかしこまった前置きが、レジスタンスの注目を集めて離さない。

彼らが一体どんな風に嘆くか・・・一度目を瞑ったアベルは不安を噛み砕いて彼らのほうをきっと睨むように見つめた。

「姫は・・・戦いの途上、エズダー・シアに・・・殺されたらしい・・・。」

「?!」

蒸し暑いルケシオン。 鳥や虫の鳴き声が響き渡る亜熱帯のジャングルの中の洞窟が極寒に凍り付いていた。

誰もが微動だにできぬ凍てつきに包まれたその瞳も、空いたままの口も、まるで静止画を見ているかのようだ。

無情にも時だけは進んで絶望を心に深々と刻んでいく。

「な、な・・・なんだって?!」

突然の静寂を引裂いた一人の声が、封じ込められていたものを一気に噴出させて極寒は粉砕され吹き飛んだ

怒号と絶望、困惑と絶叫が洞窟の中に洪水のように押し寄せて、全ての心を押し流していく。

「でも、リーダー。 今姫が帰ってきたって言ったじゃないですか!」

困惑と絶望に堪らずなだれ込むレジスタンスたちはアベルに詰め寄りわらをも掴む思い。

悪い冗談だといって欲しい眼差したちが一斉に向けられるが、アベルは静かに目を瞑り首を縦に振る。

その彼自身も悲しみを噛み砕く姿に、部下たちの眼差しは弱くなるばかり。

「ああ・・・確かに人間としては死んでしまったかもしれない。  けど・・・生きているんだ。」

改めてあたりを見渡すレジスタンスたち。 だが、そこにはあの天真爛漫な朗らかな笑みはどこにもない。

そしてリーダの口から明確に伝えられた姫の死。 全てが受け入れられないままに現実として横たわり

彼らは跳ね除けることも出来ずにただもがくばかり。

「どういうことですか! 全く理解できません!」

騒然としてもはや誰が何を言っているのかなど分からない。

押し合いへし合い、誰もがリーダの前に飛び出して真相を聞きたくてパニックに包まれていた。

アベルだってまだ心の整理がついたわけではない。 だが、彼はぐっと叫びたくなる気持ちを抑えてゲイルへ視線を送る。

「このゲイルが、姫の魂を引き止めてくれたらしい。」

全ての視線がゲイルへと注がれて、彼はその全てと向き合った。

これもまた、自分の不甲斐なさの報い、そしてこれからシャニーの代弁者として生きていく第一歩。

そう己に言い聞かせ、強い眼差しで困惑の瞳たちを無言のうちに説得する。

「引き止めた・・・? そんな夢みたいなことを!」

誰もが信じられるはずもなく、怒りの眼差しと激しい絶叫がゲイルへ直に降り注ぐ。

己の存在を予想通り誰にも信じてもらえなくて、心細いシャニーが心の中で身を寄せてくる。

その身をしっかりと抱き寄せて強い眼差しを崩さないゲイルへ、横から助太刀が入る。

「俺が自分で見た事しか言わない事は知っているはずだ。」

リーダーの腕がさっとゲイルの前に入ったかと思うと、彼は部下たちを鋭く睨みつけた。

彼はいつでも、憶測だけではなく、自分の目で全てを確認してから指示を下してきた。

そのやり方を知っている部下たちは、リーダーの言葉に真実を受け入れざるを得ず下を向く。

「シャニー、そこにいることを見せてやれ。」

だが、自分でもすぐには受け容れられなかった話。 部下たちがこんな風にしょ気るのもよく分かる。

彼らがどうしたら一番に元気付くかを考えたアベルは、ペンダントを指で弾いて幼馴染の名を呼んでみせる。

レジスタンスたちが姫の名前をリーダーが読んできょろきょろとあたりを見渡したそのときだった。

「みんな! あたしは生きてる! ここにいるんだ!」

どこからともなく響いてくる声。 アベルにして見せたのと同じように

彼女は辺りを自身のマナで満たし、幻術のテリトリーの中に包んだものたちの聴覚を操ってみせる。

「ひ、姫?! ああ・・・なんと言う姿に・・・。」

直接頭に響いてくる懐かしく待ちわびた声と共に

ゲイルの胸で跳ねるペンダントを見て彼らが飛び上がったのは言うまでもない。

彼らはゲイルの周りに集まって、最前列を手に入れたものは我先にとペンダントに手を触れる。

「泣かないで。 あたしは元気だから!」

自分のために皆が涙を流してくれている。 そう思うだけでもシャニーは幸せであると同時に申し訳なくてならない。

もっと自分が強くあれば、彼らを、仲間を、そしてゲイルを悲しませなくて済んだのに。

だが、今は皆を幸せに出来る力を持っている。 その力を彼女は相棒に託す。

「体は失ったけどあたしの分もゲイルが戦ってくれる!」

誰もがシャニーの口にした男を見上げた途端だった。

目力溢れる眼差しが降り注いで、全てをエルピスへと捧げる決心をした漢の威圧が彼らを圧倒する。

「彼を信じて! ずっとあたしを守ってきてくれた、大好きな相棒なんだ!」

彼女の心からの叫びを聞いて、ゲイルを責めることが出来るものは誰一人としていなかった。

受け入れがたい事実、だが守るべき者は祈り、彼女が心を寄せる男からは覚悟に差をまざまざと見せ付けられる。

そして、間を取り持つように、背を壁に預けて腕を組みながら目を瞑ったまま話を聞いていた頼れる頭がゆっくりと動き出す。

「姫がこれほどまでに信じる男だ。 俺も信じてみようと思う。」

レジスタンスたちは未だに半信半疑であるが、アベルは何とかまとめようとしてくれている。

彼には確信があった。 この声、そして辺りを包むマナ、全てが自分の知る幼馴染のものであると。

だが、さすがのリーダーの言葉とは言え、やはりすんなりとは行かないようだ。

「リ、リーダー、本気ですか?!」

こんな実も知らずの者達を信じて極秘事項を握らせようとするリーダーを引き止めにかかる者もいる。

無理もない、今まで打倒フェンネルを掲げてどんな辛いことでも耐えてきた。

リーダーの決断は、それが一瞬で無に帰するかもしれないものなのだ。

「何かの幻術かもしれないじゃないですか!」

アベルの周りをあっという間に取り囲んで口々に反対の意見が飛び出す。

信じて欲しい、その祈りをまたマナに載せてシャニーが外へ声として届けようとマナを集めたその時だった。

「俺が騙しているって言うのか!」

「!?」

レジスタンスの一人の肩をぐいっと引っ張って振り向かせたゲイルが、修羅の如き剣幕で一吼え。

そのあまりの威圧感に目を白黒させたレジスタンスたちは一斉に黙り込んでしまう。

静まり返ると、彼はレジスタンスの群れを裂け入ってアベルを庇うようにしてその前に立つ。

「俺の無力がこいつの命を奪っちまった・・・それは・・・本当に申し訳ない。」

彼は四方から突き刺さる眼差しを甘んじて受けながら、その一つ一つとゆっくりと目を合わせる。

そして、どれだけ取り繕っても逃れられない罪を心から詫び、

言葉だけでは足らずに、彼がとった行動に誰もが目をまん丸に見開いて驚いた。

「ゲ、ゲイル! やめなよ!!」

静まり返る中で堪らず声を上げたのはシャニーだった。

なんと彼は膝を折り、皆に向かって土下座をし始めたのだった。

自分のためにこんなにも尽力しているものが、これ以上恥辱を味わうのを見てはいられない。

「だけど、俺は一生をかけて、シャニーが為そうとしていたことを二人で実現させていくつもりだ。」

シャニーが懇願するように訴えてきても、ゲイルは頭を下げることを止めなかった。

ルケシオンにとっての最後の希望・・・それを奪ってしまったことには変わらない。

相棒が許してくれるならそれでいい。 だが今はどうしても理解を取り付けたく、土下座しながらレジスタンスを見上げる眼差しは覇気に溢れる。

「たのむ・・信じてくれ・・・信じてくれとしか・・・言えない。」

がっとまた地面に額がつくほどに頭を下げるゲイルを見下ろすレジスタンスたちは思わず互いに顔を見合わせる。

悪い人間には思えない。 けれど、やはり姫の姿見えないというところが最後まで心の中で葛藤を生み続けていた。

「みんなお願い! あたし達を信じて!」

相棒だけを矢面に立たせておくわけにはいかず、シャニーはマナを振り絞るとありったけで叫んで仲間達に訴えかけた。

響いてくる大好きな声に懇願されると、レジスタンスたちはますますどうして良いか分からない。

これが本当に姫のものなのか、決断しかねていた。

「みんな、俺は彼を信じる。 だからお前達も信じてくれ。 妙な真似を見せたら俺が責任を取る。」

やはり最後はリーダーの言葉だった。 滅私敬愛する姫の祈り、そして頼もしいリーダーの強い信念

それらが少しずつレジスタンスたちの心を動かしていく。 彼らはゲイルとアベルを交互に見つめながら

未だ全てが収まることのない心を少しずつ整理していく。

「彼からは邪悪な気を感じないし、このペンダントから溢れるマナ・・・シャニーのものだ、間違いない。」

彼らを説得するべく、アベルもまたしゃがみこみ、地面に付いたペンダントを手にとってじっと見つめる。

自分をじっと祈るような眼差しで見つめるシャニーの姿が見えたような錯覚に囚われて、

辺りを包むマナのひとつ頷くと、彼は部下達を無言で見上げ、そうされるともう彼らに返す言葉はなかった。

「・・・リーダーがそう仰るなら、私達も従います。」

ついに折れた彼らは、自分達の手で未だに土下座し頭を地に着けるゲイルの手を取り立ち上がらせた。

アベルは感じていた。 辺りを包む幼馴染のマナが温かく揺れたことを。

「ありがとう、みんな。 本当にありがとう・・・。」

まだ完全に心を許してくれたわけではない。 だが、仲間として受け入れてくれたことに見せた男泣き。

それを決して演技とは思えず、レジスタンスたちはもう疑うことを止めた。

心の中では嬉しそうに飛び跳ねたシャニーがゲイルにぴったりと抱きついて微笑む。

「体は失っても! ゲイルがいれば・・・う・・・。」

愛する彼女がこんなに喜んでくれるのであれば、どんな苦痛も屈辱も耐えられる自信があった。

悔しさは彼女の笑顔に解け、抱き返してやろうとしたその時だった。 突然に膝から崩れるシャニーに血相を変える。

「大丈夫か! もう無理するな!」

いくらエルピスとなったと入っても、マナを讃える器である肉体を失った影響は大きい。

貧血を起こしたかのように座り込むシャニーはそれでも笑いかけてくるが、ゲイルは抱き上げてそれ以上をやめさせた。

「シャニーが・・・死んだ?!」

 

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