「すまんな理樹君、待たせてしまったかな」

「大丈夫だよ、僕も今来たところだから」

「君なら1時間待っててもそう言いそうだが…まあいい、では行こうか」

「そうだね、折角のデートだし」




あねごころ




今日は久しぶりの唯湖さんと二人っきりのデート。

普段から一緒にいる事は多いけどデートはそう頻繁には出来ない。

だからこういう時にいっぱい楽しまないと。

「ところで理樹くん…実際は何分待ってたんだ?」

「えっ?」

しばらくぶらぶらと歩いたところで唯湖さんに急に尋ねられた。

確かに唯湖さんを持たせまいと約束の40分前には来たけどなんで…

「君は自分の手の状態ぐらいは把握した方がいい」

「なるほど、そういう事か…」

言われてから手を見てみると、手袋をしていない手が随分と震えていた。

「すまないな、私に用事があったばかりに…」

「大丈夫だよ、唯湖さんのせいじゃないし、それに西園さんから借りた本があったから」

「………それでも待たせてしまった事には変わりはない、どれお姉さんがご褒美をあげよう」

今、少し唯湖さんが悲しそうな顔をしたような…

気になったが手に急速に伝わる温もりに思考が遮られる。

その温もりは二人の手がしっかりと重なり合った証。

「ありがとう、唯湖さん」

「なに、これぐらい朝飯前さ…それとも更なる温もりの方がいいかな?」

「えっ?」

ふにゅ…

擬音の後、重なり合った手の暖かさはそのままに今度は腕の部分に温もりと柔らかさを感じる。

「唯湖さん、これはさすがに…」

「そんなに恥ずかしがることもあるまい、それともさっきの方が良かったかね?」

こんな今の状態を他の人が見たら全員が「腕を組んでる」と答えるだろう。

しかし正確には腕が唯湖さんの胸にサンドされてるという危険な状態。

嫌かと言われれば断固として「否」と答える。

だって男の子だから。

「こっちでお願いします…」

「はっはっは、理樹くんも健全な男の子だな」

当たっているので何も反論出来る要素が無い。

こういう場合は話題をそらすのが一番だろうか。

「ところで唯湖さんは行きたいところとかある?」

「む、露骨に話題をそらしたな…ままいい、実は是非君と行きたい所があるのだよ」

僕と行きたい所…

雰囲気のいい喫茶店とかあるんだろうか。





「ここだ」

「これって…洋服のお店?」

あれからしばらく歩いて唯湖さんに連れてこられたのは同年代ぐらいの女性客が多い洋服店だった。

うちの学校の生徒も何人かいるようだ。

「ここは可愛い服が多いと評判なのだよ」

「確かに…」

でもなんで僕と一緒になんだろうか。

それに唯湖さんの趣味とは違うような服が多いし。

「あの、唯湖さん?」

「これとこれと…ふむ、これもいいな」

真意を聞こうと呼びかけてみるが既に唯湖さんは買い物に夢中だった。

その手に持たれている買い物カゴには服や髪留めなどが入れられていく。

『まあ、たまにはこういう姿もいいかな…』

そう心の中で思いながら僕は買い物に夢中になっている唯湖さんの顔を眺めていた。




「よし、これでいいだろう」

「終わったの?」

それからしばらくしてやっと唯湖さんの視線がこちらに向けられた。

「うむ、満足の行くコーディネートが出来た。それでは試着といこうじゃないか理樹くん」

「え?」

今、とても聞き逃せない言葉が出たような。

試着?誰が?

「もちろん理樹くんに決まってるだろう。」

「いやいやいや、当たり前のように人の心を読まないでよ」

「それぐらい顔を見れば分かるさ、ちなみにここの店員には話が通ってるから安心したまえ」

さらに聞き逃せない発言の押収。

そうか…店の人の許可を得てるなら男が試着室使っても…

「ってそうじゃなくて、話が通ってるってどういうことさ!」

「コマリマックスがここの常連でな、店員とも仲がいいそうだ」

なるほど、確かに小毬さんに良く似合いそうな服が多い気がする。

「理樹くんはこういう服が似合う子の方が…」

「えっ?何?」

店内を見渡していた僕に対して唯湖さんが何かを言ったようだが僕は聞き取れていなかった。

「いや、なんでもないんだ忘れてくれ」

「ならいいけど、じゃあそれ着てるところを唯湖さんに見せてから…」

「ちなみにご協力頂いた店員にも理樹くんの姿を見せると約束してあるからな、しっかりと出てきてくれたまえ」

「…………今回だけだよ」

本当は嫌だけど、こういう時の唯湖さんから逃げるのは不可能だろう。

それに例えこんな形であっても唯湖さんが望む事をしてあげたいという気持ちもある。

「いろんな意味で大好きだぞ、理樹くん」

「なんか嬉しくないよ!?」

そんな漫才みたいな会話をしながら僕は更衣室へ向かった。





「ありがとうございました、いろんな意味で」

「だから嬉しくないって!」

僕の女装姿に満足した店員さんが笑顔で送り出してくれる。

あの後、唯湖さんの選んだワンピースや髪留めをして出てきた僕を見て店員さんや唯湖さんは驚愕していた。

「しかし見事だ理樹くん、どこからどう見ても可憐な美少女だ」

「僕は男だよ……」

「不服そうだな理樹くん、事故だよこれは」

そう、僕は店を出てからも女装をしたままだった。

僕が着替え終わって出てきてから制服を店員さんに預けて、その店員さんにジュースを持った子供がぶつかって…

うん、確かに事故だ…唯湖さんにとって都合が良すぎるような気がするけど。

「それはもういいよ、それよりこれからどうするの?」

「人通りの多いところは君も嫌だろ?」

「当たり前だよ…」

ただでさえ男とばれないかひやひやなのにこれ以上人通りの多いところなんて行きたくない。

「最後に行きたい所はこの時間ならあまり人はいないだろう、安心してくれ」






「さあ、着いたぞ」

「ここって…」

落ち込みながら歩いていたから気付かなかったけど、ここは学校近辺でも割と有名な公園だ。

少し坂を上ったところの高台にあり、遠くが見渡せる。

「ここに理樹くんと来たかったんだ、気に入ってる場所だからな」

そう言ってベンチに座る唯湖さんの顔に違和感を感じる。

よくよく思い返して見ると今日の唯湖さんは少しおかしかった。

待ち合わせの直後に感じた違和感。

店での発言にしても、あの時はなんでもないとは言っていたけど実はそうではないのではないか。

それらが意味する事は…

その結論が出た時、僕は自分がいままで不機嫌だった事などすべて忘れていた。

「唯湖さん…何かあった?」

「やっぱり理樹くんには分かってしまうか…」

「伊達に唯湖さんの彼氏じゃないよ」

「ふふ、理樹くんはやっぱり理樹くんだな」

そう言って立ち上がった唯湖さんは後から僕を抱き締めた。

「何があったのか気になるかね、理樹くん」

「言いたくなければ無理には訊かない。でも僕に出来る事があれば言って欲しい」

「優しいな、理樹くんは」

その直後、僕を抱き締める力が強まる。

それに応えるように回された手の先を僕はぎゅっと握った。

「ねえ、唯湖さん…これって男女逆なんじゃない?」

「私がこうしたいんだ…それと理樹くんは今は可愛い女の子だ」

「そうだったね…」

そんな会話を繰り返しながらも、僕達はお互いの手を離さない。

彼女が満足するまで…

例え雨が降ろうとも。





「ふと思ってしまうんだ、君の相手は私でいいのかと」

「えっ?」

それからしばらくして、唐突に唯湖さんが語り始めた。

無論まだお互いの手は握られたままで。

「今日はたまたま鈴くんが一人でピッチングの練習してるのを見てしまって…」

「それでこの様だ…」

今にも泣き出しそうな気配が背中に伝わってくる。

不謹慎だけど、こんな唯湖さんも可愛いと思ってしまう。

「ふふっ」

「むっ、何故ここで笑うんだ理樹くん」

「ごめん、ごめん、唯湖さんが余りにも可愛いから」

「なっ!?」

自分の気持ちのありのままを伝えると唯湖さんの顔は羞恥で紅く染まった。

「それにね、釣り合ってないのは僕の方だよ」

「そんな事は…」

「だって僕にとっては唯湖さん以上の彼女なんて考えられないから」

「理樹くん…言っていて恥ずかしくないのかね」

そんな唯湖さんからはもう悲しげな気配は感じられなかった。

「だって事実だから…それとも唯湖さんは違うの?」

「鈴くんの言っていた通りだな」

「えっ」

「君はいじわるだ」

そう言って唯湖さんは僕を抱き締める力を強めた。




おまけ

「理樹くんは可愛いな…」

「ってなんで寝る時までこの恰好じゃなきゃいけないの!?」

「それは…」

「恍惚な表情!?何するつもりさ!?」

「そんな事を女の子に言わせるモンじゃないぞ理樹くん」

「言えないような事!?」






あとがき

どうも、初めましての人は初めましてBlueです。
麻雀に敗退して書いた短編SSが予想に反して好評(?)だったので続きを書きました。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


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 なんていうか、青さんは卑怯なSSを書くなぁって改めて思いました。(幹事男)






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