「あれ杉並,体育は見学?」

 セミロングと言うにはやや長めに過ぎる髪をオレンジ色のリボンで結わえた少女が,今や絶滅危惧種となってしまったブルマのヒップラインを指先でくいくいと整えながら,夏の終わりの日差しの作る濃い木陰の隅にたたずむ少女に声を掛ける。

「……あはは,今日,ちょっと体調悪いんだ?保健室行ってくるから……」

 気持ち秋色を帯び始めた風に制服のスカートを揺らしながら,杉並と呼ばれた少女が気弱げな笑顔で応える。

「ふーん,ま,いっか。お大事にー」

 ひらひらと手を振ると,みんなのところに駆けだしていくリボンの少女の元気な後ろ姿を見送っると,彼女は校舎に向かって振り返る。

(……ごめんね,みんな……)

 水の中の熱帯魚のような,華やかな体操着姿の少女達の嬌声がグラウンドの向こうに消える頃,栗色の前髪の下に決意の眼差しを秘めた彼女−杉並睦美は,意を決したように校舎の中へとその歩みを進めていく。

(……直枝君,覚悟!)






「杉並さん,優しいんだね」

「……えっ……?」

 彼のやわらかな微笑みに,不意に胸の鼓動が高まる。
 それは一週間前の昼下がり,たまたま重なった日直の,共に教材を抱えて並んで上る階段の途中。




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