「にゃあぁぁっ!」
「まだまだですわっ!」

 発端は些細なことだった。
 鈴と佐々美が顔を合わせ、いつものように顔を顰め合う。次いで口論になり、今に至る。
 なんとも単純な話だ。身内には子猫同士の闘争として認識されてしまっているが、当の本人たちは至極真面目であった。

「やっ!」
「くっ!? …あ、危なかったですわ」

 睨み合いから発展した鬩ぎ合いは、最初鈴のハイキックが佐々美の髪の片房を撫でることで優勢となったが、ここからだ。

「いいこと、棗鈴! 私はあなたを倒すために、必殺技を編み出したのですわ!」
「必殺技だと…?」

 観衆の中からきゃいのきゃいの囃し立てる完成が沸く。佐々美の取り巻きだ。

「先週の部活の休みを最大限利用して編み出した私の技、受けてみなさい!」
「必殺技…波○拳とかか?」
「あんなエナジー出るわけありませんわっ」

 ネタは知ってるらしい。

「じゃあ、百○式大蛇薙?」
「炎を生み出すことも出来ませんわよ! 徒手空拳ですわ!」

 律儀にツッコんでから佐々美は、勢いよく踏み出し、鈴の懐に潜りこむ。その一歩は今までの動きよりも早かった。
 一歩で相手との距離を縮めるその歩法を「縮歩」と言った。しかし、それは基礎中の基礎。佐々美の必殺技はここから始まる。
 一瞬で間合いに入り込まれた鈴は、その間合いから離れようとする前に、

「捕まえましたわ」
「っ!?」

 佐々美は鈴の右足を踏むことによって動きを制限していた。

「喰らいなさい! 孤高の猫乱舞!」
「にゃうっ!」

 左腕、右腕、胸、左足、右足、余すことなく訪れる連打の嵐。その猛打に鈴は動けず、ガードするだけ。腕は追いついてない。
 そこで狙ったのは隙となった腹。そこにアッパーを叩きこむ。刹那、佐々美は足を解放し、鈴は空中に放り出された。かなりの威力だ。

「超必殺技、猫薙!」

 ジャンプし、その勢いのまま鈴の頭上まで上がり、身体を捻り、鞭のような動きの足で相手を蹴り落とした。
 背中は無防備だった鈴に、容赦ない一撃だった。
 叩き落とされた場所は幸運にも陸上部が使う砂場だった。異常なほどの砂埃が舞う。

「これでおしまいですわ!」

 あのまま硬い地面に叩き付けていれば大怪我は免れない。今の状況でも小程度の怪我はしているだろう。
 しかし、わざわざこの場所まで追い詰めて決め技を放てたという事実は、佐々美の実力が優勢だったと思わせるには充分だった。
 そう…だったのだ。

「な、なんで…」

 砂埃が晴れ、一番近くにいた佐々美が漸く鈴を目視出来るようになったとき、鈴は、

「ふぅーっ!」

 既に佐々美に牙を剥いていた!

「きゃっ!?」

 鈴の飛びかかりは寸前のところで佐々美に避けられたが、手を付いて、そのまま切り替えし、背後から襲い掛かる。

「くぅっ…!」

 佐々美の苦痛を表す声が漏れる。掠っただけだが、制服は裂かれていた。
 面前に戻った鈴は、立っていなかった。否、立ち方を変えていた。

「四速歩行……まさか、猫の境地!?」

 猫の境地、それは――、




 続くよん♪



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