おかしい。
 どう考えてもおかしい。
 
 特定の人物の前では、自分主導で事が進まなくなる現象が起きている。
 どうしてだろうか…。
 
 原因はわかってる。
 わかってるんだ。
 あの娘のせいだ。
 
「どうしたの? ゆいちゃん」
「や、やめてくれ…と何度も……」
「そうやって、照れるゆいちゃんもかわい〜ぃ」
「……」

 こうなのだ。
 いつもこうなのだ。

 私は自他共に認めるサディストだ。
 ドSだ。
 なのにこのザマは何だ?
 
 恥ずかしい。
 情けない。

「ゆいちゃんど〜したの? 元気ない?」
「……ほうっておいてくれ」
「ゆいちゃんを怒らせるようなこと、したかな?」
「……頼むからほうっておいてくれ」
「ああっ、ゆいちゃ〜んっ」

 私は逃げるように、小毬君から離れた。




「で、僕に相談なんだ」

 私が相談すること自体が既におかしいのだが、背に腹は変えられない。
 で、思いついたのはこの少年だ。

「どうしたらいい? 私はどうすれば、以前のように小毬君をおもちゃにできるんだ!!」
「いやいやいや、おもちゃじゃ悪いからっ」

 的確なツッコミが欲しいんじゃない。
 答えが欲しいんだ。
 
「じゃあ、そういう呼び方に耐えられるようにするとか? ゆいこさん」
「ぶっ殺すぞ」
「うわっ」
「今の私は理樹君とのフラグが立ってないんだ。だからそう呼ばれても全く感じない。
 どころか相手が理樹君だというのに殺意を憶える」
「ごめんなさいすいません」
「それは半分冗談だが…フラグか」
「フラグか…って自分で言ったんでしょ?
 あ、でも…同じことかもしれないよ?」
「どういうことだ」
「ほら。来ヶ谷さんが小毬さんに対するフラグが立ってるってことだよ」
「小毬君へのフラグ?」
「うん。だから、来ヶ谷さんは小毬さんのこと、好きなんじゃないかって」
「もちろん好きだ」

 そうだ。小毬君のことが好きだ。
 だがそれは、可愛いから、いじると面白いからではないのか?

「たぶん、来ヶ谷さんは小毬さんに恋してるんじゃないかな?」
「恋…だと?!」
「うん」

 恋…。
 しかも同性相手に。
 
 まあ同性相手と言うことに不足は無い。むしろ男は理樹君くらいしか守備範囲に入ってこないのだから、女子のほうが相手にしたいとさえ思う。
 だがこれが恋なのかはよくわからない。

「小毬さんに、ゆいちゃん、って言われて殺意を憶える?」
「…無い」
「恥ずかしい?」
「…恥ずかしいな」
「ならやっぱりそうだよ。来ヶ谷さんは小毬さんに恋しちゃってるんだよ」

 恋なのか? これは恋なのか…。

「なら…私はどうしたらいい?」
「そうだなあ…僕にもよくわからないけど……」
「委ねてしまえばいいと思います」

 突然の第三者の乱入。その声は…。

「美魚君か。聴いてたのか」
「はい。守備範囲外の話題でしたが、盟友が悩んでいるのを見ていて口を挟んでしまいました」
「いや、いいんじゃないかな。僕じゃ決められなかったし」
「しかし、委ねるだと? 私が、小毬君に?」
「ええ。ああ見えても神北さんには包容力があります」
「ふかふかのセーターとふくよかなおっぱい。お菓子で築いた適度な脂肪。確かにアレは包まれ甲斐があるな」
「いえ…そういう物理的なものじゃなく、精神的に、です」
「精神的に…だと?」
「はい。彼女は多くの女生徒に慕われてます。来ヶ谷さんのカリスマ性も見事ですが、神北さんは、自然に皆の中心に立っているような人です」
「だから…なんだ」
「だから、攻めることばかりを考えないで、逆を行ってみれば良いんじゃないかということです」
「ううむ。納得できん」
「私も、無理にとは言いません。でも、来ヶ谷さんの悩みを根本的に解決するためにはそれしか方法は無いかと思いますが」
「僕もそう思うよ」
「理樹君もか?」
「うん。小毬さんも受け入れてくれると思うよ?」
「そうか…」
「応援してます。上手く行くことを願ってます」
「頑張ってね! 来ヶ谷さんっ」
「ああ、ありがとう、理樹君、美魚君。じゃ」

 私はその場から離れた。
 そして…行こう、愛しい彼女の元へ。


<さすがに続きますね>




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