漫画はいい。心のオアシスだ。就職活動で疲れた俺の心を癒してくれる――で、肝心の就職は決まったかって? ……はは、決まってたら癒される必要がないだろ? そんなわけで心のオアシス――という名の逃避に俺はまた埋没していく。ああ、俺って駄目人間。
 そうしてまた漫画に目を落とすと、ドタバタと廊下から音がするのが聞こえた。時刻は十時過ぎ、正直非常識極まりない時間帯だ……まぁ、俺もよくやるからあんまり強く言えないけどな。それに別に小説を読んでいるわけでもない、多少うるさくたって読めないことはない。
「たたたたたたたた大変だ恭介ええええええええッ!!」

 ――騒音そのもの(×2)が部屋に侵入してこなければ、の話だが。




" 『理樹に彼女が出来た』と言うハナシをどこから聞いて,本人にその旨の真偽を確かめて(いてもいなくても可)その後のリアクションを書く "



「……で、なんで正座させられてるかわかるな?」
「「はい……」」
 隣に並ぶと一回り以上大きく見える大男二人が、椅子に座る俺の足下で正座して肩を落としている。もの凄くシュールだ。もっともこの二人に限っては、今までもなくはなかった光景ではあるが。
 しかしこのように真人と謙吾が暴走する際は必ず理樹が巻き込まれているか、もしくは俺より先に理樹に話が通っているはずだ。そう考えると二人がこうして大騒ぎして俺の下へやってきたということは、それなりに重大な話である可能性がある。
「はぁ……まぁ、いいや。それで話はなんだよ?」
「そそそそそれなんだっ! ききききき聞いてくれ恭介っ!!」
「おおおお落ち着くんだ真人っ! まずは深呼吸だっ!!」
 すーはー、すーはー……正座したまま大男二人が深呼吸している姿は余計にシュールだった。流石の俺でも見たことはない。写メで撮ったら某大型掲示板で人気になれそうだ。
「げほっ! ごほっ!」
「真人おおおおおおおおおおおおおおッ!!」
 ……こいつらはコントでもやりにきたのだろうか。大した話じゃないならさっさと済ませてもらって漫画に戻りたいし、もし大した話だったとしても――うん、やっぱりさっさと済ませてもらってそっちもさっさと片付けて漫画に戻りたい。つまり、さっさとして欲しい。
「で、用件は?」
 伏せておいた漫画を手に取る。このまま話を聞いて、「ふーんそうなんだ」ぐらいなノリで終わらせよう。うん、それがいい。今丁度いいところなんだ、早く続きが読みたい。咳き込む大男の背中を大男がさするという、そんなやっぱりシュールな絵を見つつ思った。
「ああ、実は……」
 我慢できずにくるりと手首を返して漫画に目を落とす。いつも巻き込んでいる側なのに申し訳ないが、漫画だけは仕方がない。真人と謙吾だって十分理解しているはずだ。そう思いつつページをめくる。
「りっ、りっ、りっ、りっ……理樹に彼女ができたらしいんだっ!!」
「ふーんそ――」
 今から主人公の必殺技が炸裂しようとする、正にその瞬間――時が止まった。いやそういう「傍に立つから云々」という漫画の必殺技にそういうのもあるけど、そういうわけじゃない。というか漫画はもういい。静かにページを閉じた。そして二人に向き直る。
「……すまん、もう一回言ってくれ。なんて言った?」
 そして訊き直す。
「「理樹に彼女ができたらしいんだっ!!」」
 俺はこのまま話を聞いて、どうすると言っただろうか……確か云々ぐらいなノリで終わらせようと思っていた気がする。さて、どのぐらいなノリだったか――ああ、そうだ。これに違いない。

「――紛争ッ!?」

 言っていて違うような気がしたけど、多分間違っちゃいない。これからのことを考えたら。

<希望さえあれば続く>




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