街中を並んで歩く理樹と葉留佳のやや後方の電信柱に身を潜める佳奈多、のさらに後ろのタイ焼き屋の屋台に隠れた恭介は、隣で同じように縮こまるクドリャフカに声をひそめて言った。

「説明しよう。理樹と三枝が何やら密談の末に街へ繰り出したという情報を受け、闇の魔王“フーキーンカナタ”は嫉妬のあまり、調査という名目で二人を尾行することにしたのだ」 
「そ、そーなんですか……!」

 色々と脚色されまくったいきさつに、心も体も子供で純真無垢なクドリャフカは「佳奈多さんはリキのことが好きだったんだ」とか「闇の魔王って、具体的にどんなお仕事をする職業なのだろう」とか「タイ焼きおいしそうですー豆乳クリームがイイ感じですー」とか、様々な思考が脳内に入り混じったが、全てをその小さなお胸に押し込んで、とりあえず首を縦に振った。

「そして今、俺達はその二木を尾行している」
「……はい」
「ヤツは今、虎視眈々と餅を焼き続けている。隙あらば、すぐにでもストーブに理樹のつるつる卵肌なほっぺを押しつけようとするだろう。そうなれば――」

 言わなくても、わかるな?
 飲み込まれた言葉を把握し、クドリャフカは生唾を呑む。世話になっているルームメイトの邪魔をするのは気が引けるが、悪いことをしているのならば止めなければならない。どんな悪さをしているのかは全然全くこれっぽっちもわからなかったが、多分恭介の言い分は正しいのだろう。だって、厚手のコート、ニットキャップに大きめのマスクな出で立ちなんて怪しすぎる。少なからず佳奈多にやましい部分があるのは間違いないのだと思った。

「俺達の使命はただ一つ。二木の野望を阻止し、理樹と三枝のデートを無事成功させ――」

 恭介が肝心の任務を説明していたその時、佳奈多が勢いよく電信柱の陰から飛び出した。

「あっ、佳奈多さんが!」
「馬鹿なっ!? まだ早すぎるっ!」

 理樹と葉留佳は依然、談笑しながらぶらぶらと歩いているだけである。変化はなかった。佳奈多が何を見て動き出したのかクドリャフカにはわからなかったが、事態は予想以上に急展開を迎えていることだけは感じていた。そして、やるべきこととも悟っていた。

「ちぃっ、仕方ない! 能美、お前の出番だっ!」
「はいっ!」

 返事と共に飛び出した。何か手違いがあったのか、佳奈多は戸惑うように蹈鞴を踏んでいる。好機だった。
 ――いける!
 全速力で駆けあがった体で、クドリャフカはそのまま佳奈多の背中に飛び込んだ。

「わふー!!」

 声で気づいたのだろう、慌てて振り返る佳奈多の驚愕に満ちた表情に、クドリャフカは捕獲を確信した。
 ――私たちの戦いは、これから始まる……!




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