こてん、と可愛らしく頭を肩に乗せてきた唯湖の仕草に、恭介の胸は跳ねた。ちらとそちらに
目を向けてみれば、ブラウスから零れんばかりの乳房が眼前に押し寄せてきたので、すぐに顔を
背けた。

「素面でグビグビ飲んでるからイケる口かと思ったら、全然ダメじゃねぇか。俺の前でなに意地
張ってんだよ」
「意地、か。はは、そうかもしれないな」

 照れ隠しのぼやきに、唯湖は力のない声で答える。気分が悪い故のものなのは十二分にわかって
いるが、息を漏らすような唯湖の喋りが、恭介には快感に悶え微かに吐き出される喘ぎのように
も思えた。

「恭介氏の前では、強い自分でいたかったのかもしれないな……」
「……なに、言ってんだよ」
「そうだな。今の私はおかしい。酔っているんだ」

 すまない、少し休ませてくれ。
 最後にそう呟くと、唯湖はさらに寄り掛かってきた。個室にも関わらず、恭介は誰かいやしない
かと辺りを見回したが、やはり二人きりだった。それを確認した後、緊張を解すかのように大きく
息を吐こうとしたが、弛緩しかけた体に唯湖の重みがよりささやかに伝わってきて、恭介はすぐに
息を止めた。
 肩から伝わる体温が落ち着きを奪っていた。唯湖のじゃじゃ馬すぎるボディのおかげで視線も定
まらない。互いが身じろぎする度に霞める唯湖の髪の芳香が、酔った恭介の頭を痺れさせる。まる
で波紋が広がっていくかのように、恭介の体は唯湖への意識に支配されていく。
 友情でも愛情でも呆れでも慈しみでもない。劣情、ただそれだけだった。

「く、来ヶ谷らしくないぞー。そんな来ヶ谷なら、俺がとっておきのイタズラしちゃうぞー」

 恭介は期待した。いつもみたいに「微塵に砕ける覚悟があるならやってみるがいい」とか、あの
不敵な笑みで死ぬほど怖いことを言ってきてくれることを願った。そしてこのまま自分の迂闊な感
情を押し流して、馬鹿話ができるだらけた空間が作られればいいと思った。

「……しようか?」

 え、と小さく声を上げたその刹那、唯湖が恭介の手を握った。普段は冷酷とも言わんばかりにい
じめてくれちゃう唯湖の手は、火照ったように熱かった。
 生唾を呑む。思いっきり音が立った。聞こえたのだろう、唯湖が青い顔をしたまま微笑む。

「恭介氏のしたいようにすればいい。私は構わない」
「……お、お前、なに言って――」
「酔ってるからな。おかしいんだ、私は」

 そう言うと、唯湖は握った恭介の手を、そっと胸元へ持っていった。柔らかな乳房の感触が指に伝
わる。少しの間があって、心臓が激しく鼓動しだした。これい以上いけば戻れないと思いつつ、恭介
は手を跳ねのけられない。

「なぁ、恭介氏。私の寂しさを――」

 埋めてくれないか。
 耳元で囁かれた言葉をうまく働かない頭でぼんやりと味わった。
 ――あぁ、そういえば別れたんだったか。
 答えに辿り着いた時には既に、恭介の指は唯湖のブラウスのボタンを外していた。




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