「今日、お風呂覗きに行くから」

 夕食の最中になされた理樹の予告。唐突かつ大胆で、ほんのり変態塩味が塗されたそれを、葉留佳は十回程頭の中で反芻させた後、了承の旨を告げた。別に見られて困るものでもないし、覗けるものなら覗いてみればいいと思ったのだ。

「ってことで、今日理樹くんが覗きに来るから」
「はっ!? あなたなに言って、ばっ、ちょっ、いやっ!」

 湯船に漬かったところで佳奈多に告げると、面白いように慌てた。まだ来てもいないのに胸元を抱きかかえるようにして隠したので、葉留佳はねっとりとした視線を寄せられた谷間に送ってみた。思いっきりお湯をかけられた。

「やらしい、やらしいわっ! いつからそんな子になったの!? 私の育て方が間違っていたのかしら!?」
「なんでおかんモード?」
「それよりも聞いてないわ! というか葉留佳、謀ったわね!?」
「なにが?」
「今日に限って「何か〜、やっぱり恥ずかしいし〜」とか言って水着を着てきたのは、そういうわけね!?」
「うん」
「あっさり頷かないで!! というよりも、そんな対策するくらいなら直枝が来ないように説得――」
「やっほー、覗きに来たよー」
「普通に来た!? 覗きじゃないし! というか何食わぬ顔して入ってきてるし!」

 ガラガラと扉を開け、極々普通に風呂場に入ってくる理樹。身につけているのは腰元のタオルのみ、紛うことなきお風呂モードだった。

「もう理樹くん、全然違うじゃん。もっと変質者っぽく、はぁはぁ言いながら外の小窓からこっそりと覗くくらいの徹底ぶりじゃないと」
「ごめん、今日けっこう運動したから、普通にお風呂入りたくなって」
「もう、しょうがないなァ。じゃぁとりあえず、先に体洗ってね」
「うん」

 シャワーを浴び始める理樹。タオルを頭に乗せ鼻歌を口ずさむ葉留佳。何事もなくお風呂を満喫する二人に、佳奈多は開いた口が塞がらない。

「ん? お姉ちゃんどったの?」
「いや、あの……とりあえず、直枝は何してるの?」
「言ったじゃん、お風呂だよ」

 確かに、ゴシゴシとボディタオルで体を擦っているその姿は風呂での行動そのものだった。実に気持ちがよさそうであるし、何も文句がつけようがない。けどなんだろうこの違和感。この存在を認めてはいけなかったはずなのに。

「私たち、入ってるんだけど」
「そうなんだよねぇ。強引だよね、理樹くん」

 ほんと、しょうがないよねと葉留佳は笑った。葉留佳からすれば、この状態はしょうがないで済むらしい。佳奈多はようやっとそのことを悟った。

「なんだかもう……しょうがないわね」

 とうとうその言葉を出してしまった自分は、のぼせているのかもしれない。佳奈多は未だうまく動かない頭でそんなことを思ったが、それもしょうがないことなのだと心の中で呟くと、あらゆる感情と思考を丸めた諦念を溜息と一緒に吐きだして、理樹に言う。  

「直枝、後つかえてるんだから早くしなさいよ」
「うん。あのさ、佳奈多さん」
「なによ」
「おっぱい、きれいだね」

 しょうがないで済むわけがなかった。




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