ある日、廊下を歩いていると唯湖はまたまたとある光景に出くわした。

「ん、あれは……」

 男と女が口論をしている。しかもよく見れば見覚えのある顔。
 一体何を話し合っているのだろう、そう思った唯湖はその現場に近づく。

「どうしたんだい、少年、それに二木君」

 口論している二人は彼女の友達であった。しかし見る限り、理樹の困っている表情に対して佳奈多のほうは怒りの形相。

「あ、来ヶ谷さん」
「つい先日夫婦喧嘩をしたばかりじゃないか。一体何があったのか、おねーさんに話してみるといい」

 そう、この二人はつき合っているのだ。
 しかし意外と喧嘩はするらしい。内容自体はたいしたこと無いのだが。
 前回はペットがどうのこうのという話だった。今回は何だというのだろう。

「直枝が私のお願い事を聞いてくれないんです!」
「お願い事……?」

 まさか、前回みたいな無茶なお願いごとをしたのだろうか。
 その可能性は大いにありえる。そうでもしない限り、理樹がここまで困った表情を見せることはない。

「どうして僕がやらないといけないのさ!」
「直枝にやってほしいのよ! それが私の望みなの」

 一体何をお願いしたのだろうか。
 それほど理樹が困ることなのだろうか。
 気になった唯湖は聞いてみることにする。

「すまない、一体どういうことなのか詳しく教えてくれたまえ」
「実は……」
「私から説明するわ」

 いいあぐねている理樹を手で制し、佳奈多が口を開く。




「直枝が私の陰毛を剃ってくれないんです!」



「……は?」

 思わず耳を疑った。
 誰が、何を?

「いやだって流石に無理だよ!」
「どうしてなのよ。生まれた頃の状態にされることで、全てを委ねているってことを証明したいのよ!」
「いやその証明式はおかしいから!」
「ついでにそのまま事にしけこみたいのよ」
「そっちが本音じゃないの!!?」
「あー……」

 唯湖は悟った。ここにいてはいけないと。間違いなく、何か変なものが漂っている。

「あとは二人で仲良く喧嘩でもしておいてくれ。私には解決するのが無理な問題だ」
「ちょ、来ヶ谷さん!」
「直枝、おとなしくこの剃刀を受け取りなさい!」

 毛を剃るか剃らないか、まさに不毛な言い争いだな。
 そう考えながら再び口論を始めた二人を見向きもせず、唯湖はその場を去っていった。




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