『クリスマスだぜひゃっほい! カラオケ王者とトナカイの鼻は誰ものだ選手権』も残り十分となった時、葉留佳さんが意地悪そうな笑みを作って言った。

「やっぱシメは、恭介さんのたっぷり愛のこもった歌が聞きたいですネ」
「はぁ? お前なに言ってんだよ」
「わふー、聞きたいですー!」
「うむ、甘酸っぱいラヴソングをありったけの想いをこめて歌いあげるがいい」

 あまり乗り気じゃない恭介に、皆がヨイショする。珍しく真人も「歌ってやれよ」なんて言ってるし、西園さんもどこか夢見心地な顔でうんうんと頷いている。

「いいじゃないか、恭介。どうせ素直に想いを伝えられないお前だ、歌に乗せて送るのも一つの手だぞ」
「って言ったってなー、やっぱ恥ずかしいし」
「歌ってやれ、恭介。小毬ちゃんもきっと嬉しいはずだ」
「り、鈴ちゃんっ!」

 小毬さんが顔を真っ赤にして鈴の口をふさぐ。でもちらちらと期待の眼差しを恭介に向けたりしている。
 もはやバレバレすぎて皆わかっているんだけれど、当の二人はなぜか頑なに付き合おうとしない。というよりは、恭介が思わせぶりな態度を取り続けて、小毬さんがやきもきしている、という構図が正しい。
 恭介の言い分も尤もだとは思うけれど、小毬さんの気持ちも十分わかる。きっと、はっきりとした答えがほしいんだろう。
 だから僕は、そっと恭介に耳打ちする。

「歌ってあげたら?」
「……ったく、お前らなぁ」

 今回だけだぞ。
 渋々といった感じを出しておきながら、恭介はさっそくリモコンを取って曲を予約した。言われなかったら自分から切り出してましたと言わんばかりの早業に、皆の歓声が響き渡る。そして、耳まで真っ赤になった小毬さんが緊張を解すかのようにメロンソーダを一口飲んだ時、イントロは流れた。
 典型的なラヴソングだった。喜怒哀楽をこれでもかという程に詰め込んだ恋人同士の日々を、恭介はいつになく真面目に、それでいて少し照れたように淡々と歌った。
 気持ちが伝わる、というのはこういうことなのだろう。そう感じたのは僕だけじゃなかったと思う。だって、恭介の歌が終わった途端、皆がスタンディングオベーションしたんだから。

「な、なんだよお前ら、気持ち悪いな」
「お上手でした、恭介さん!」
「いやー、あそこまで力込められると、聞いてる方が恥ずかしいですネ」
「……伝わっているのならばいいと思います」

 ぼそりと呟いた西園さんが向けた視線の先には、優しい微笑みを浮かべて拍手をする小毬さんがいた。多分、世界で一番可愛い笑顔だった。
 恭介も見とれていたのだろう。マイクを持ったまま、照れを隠すかのように一つ咳払いをした。 

「あー、まぁ、わかってるんだろうと思うけど、けじめってのはあるからな。今ここで告白したいと思う」

 恭介がそう言った瞬間、室内が静まりかえる。回るミラーボールの煌めきが、皆の真剣な表情を舐めまわしているのがちらと目に入る。
 なんだかんだでお膳立ては完ぺきだった。いよいよ来るか。
 皆の気持ちが一つになり、固唾を飲んだ時、恭介が口を開いた。

「お前に向けた歌だ。受け取ってくれ、理樹」
「僕かよ!!」

 沈黙が降りた部屋の中で、「理樹くんもてもてだね〜」と呟いた小毬さんの笑顔は、多分世界で一番冷たくて美しかった。




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