「たたた大変なんです!」
「ど、どうされたんですか先輩」

 夜、唐突に鳴り出した携帯電話から聞こえてきた声は、先輩にしては珍しく興奮していた。
 普段の先輩からは興奮した様子なんてまるで想像できない。
 いつもは大人しすぎるくらいに大人しく、むしろおどおどしているといった表現がぴたりと当て嵌まるのに一体どうしたのだろう。

「と、ととととりあえずですね! 相談したいことがあるので明日時間取れませんかっ!?」
「え、あ、はい。お昼休みでいいですか」
「はいっ! はいっ! じゃ、じゃじゃじゃあお昼休みに裏庭でっ!」

 先輩は最後まで慌てた状態で電話を切った。

「……一体どうしたんだろう、先輩」










 翌日。
 いつも一緒にお昼を食べているれいちゃんとさきさきに断ってから裏庭に向かう。
 待ち合わせ場所には既に先輩が着ていた。 

「先輩、お待たせしました」
「あ、な、中村さん〜〜〜」

 遠めに見てもおどおどしていた先輩だったが、私が到着したとわかった途端に顔をくしゃくしゃにして私の方に近づいてくる。
 先輩だとは解っているのだが、とても可愛いと思ってしまった。

「一体どうしたんですか」
「あ、あの、それがですね……で、で、で、で」
「で?」
「で、で、で、デートすることになったんですっ!」
「で、デートっ!?」

 信じられない単語が出た。
 だって、あの杉並先輩がデートだなんて。

「え、ちょ、どういうことなんですか?」
「だ、だ、だ、だからデートする事になったんですっ!」
「だからなんでですかっ!?」
「その、その、その、文化祭の準備をする為に買出しをすることになって、それで、私とあの人が買い出しの係に」
「……それ、デートなんですか?」
「お、お、男の人と女の人が2人っきりでお出かけしたらもうデートじゃないですかぁっ!」

 涙目でこちらを見上げながら訴えてくる先輩。
 どうしよう、可愛すぎる。

「はぁ、でしたらまぁデートということにしましょう」
「だから最初からっ……」
「で、相手はどなたですか?」
「へぇっ?!」
「いや、へぇっ?!ではなくて、相手はどなたなんですか、と」
「い、いいいいやその、あの、相手の人はですね」

 先輩はあちらこちらに視線を移しながらどう答えようか悩んでいる。
 別に先輩のクラスメイトなんてごく一部を除いて私が知るはずないのだから別にいいと思うのだけど。

「あの、あの、あの……直枝くん、です」
「なお……え」

 それを聴いた瞬間、私は酷く後悔していた。
 そうだ、何故その可能性に至れなかったのだろうか。
 杉並先輩と直枝先輩は同じクラスなのだ。
 単純計算で1/18だとしても、可能性がある以上考えておくべき事柄だった。

「ずっと、ずっと前から好きだった人なんですっ。だから今回は凄くチャンスだと思うんですっ」




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