「直枝理樹っ!」
「うわぁっ!?」

 勢い良く部屋のドアが開け放たれる。
 それと同時に呼びかけられた声に、僕は思わず身構えてしまった。

「って、あれ? 笹瀬川さん?」
「棗鈴が私から奪った布団を返して頂きま……」

 笹瀬川さんは口上を述べている途中に固まってしまった。

「……何をしていますの、貴方」
「何って……見ての通りだけど」

 僕は今、布団を両手に抱えている。
 誰のかと言われれば勿論笹瀬川さんのだ。
 ちなみに何でこれが僕の手元にあるかというと、鈴が持ってきたから。

「その布団を何処にもって行くつもりですの?」
「笹瀬川さんの部屋のつもりだったんだけど」
「何故、私の部屋に?」
「いやなんで、って言われても、困るでしょ?」

 特に今は冬だから無かったら相当寒いだろう。
 風邪とかインフルエンザになる可能性だってある。
 というかかなり高い。
 だから返しに行こうとしていたんだけど……これは手間が省けたとおもっていいのだろうか。

「そ、そうでしたの……それは失礼致しました」

 今の自分の状況が恥かしくなったのか、途端に笹瀬川さんの態度が小さくなる。

「いや、まぁ元はといえば鈴が奪ってきたのが悪いんだし。入り口まで持っていくよ」
「……そうですわね。お願いいたしますわ」

 そのまま笹瀬川さんと一緒に寮の入り口まで歩く。
 道中、笹瀬川さんはずっと無口だった。

「僕が女子寮に入るわけには行かないから……」
「ありがとうございます。ここからはもう大丈夫ですわ」

 女子寮の入り口で布団を渡す。
 笹瀬川さんはこちらに目線を向けずに、受け取るとそのまま去っていった。

「……それにしても、鈴もなんで布団なんか奪ってきたんだろう?」

 その疑問は翌朝、意外な形で氷解する事になる。





「で、どーだったんだ、佐々美」
「……思っていた以上に匂いが残っていていい感じでしたわ」
「じゃあ、約束どーり次はあたしだからな」

 翌朝、食堂の隅でなにやら話し込んでいる2人を見つけた。

「おー」

 い、と声を続けようとしたが、聞こえてきた声に僕は思わず言葉を飲み込んだ。

「それにしてもあの方の匂いがついた布団は溜まりませんでしたわ。何なら次は布団を交換すれば……」
「ふん、甘いな。それは既にあたしが実行済みだ」
「な、なんですってぇ!? な、棗鈴、そこに直りなさい! なんてうらやま……もといはしたない!」
「なんだ、使いたかったら今夜貸してやるぞ」

「……みなかったことにしよう」

 僕はトレイを持って180度踵を返したのだった。





後書き
あんぱん子の変態病がうつった。



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