「…新手のイヤガラセか何かなのかなあ…」

 ある冬の寒い放課後。
 委員会とやらで長時間縛り付けられてようやく戻ってきた,誰もいない教室の片隅の自分の席。
 椅子の寒さを覚悟しながら下ろした腰の衝撃で,直枝理樹の机から転がり出てきたのは色とりどりのラッピングの施された小さな包みの数々であった。机の中にいろいろと得体の知らないブツを入れられる,と言う悪戯は,理樹の記憶の遠い向こうである。

「うわ,これ中身が入ってる!」

 その包みの中から一つを取り上げてみると,いかにも女の子の好みそうなそれらしい,何とも可愛らしい薄緑色の小袋に赤いリボン。
 軽く振ってみると,なにやら中にそれなりに重みのある何かが入っているご様子である。

「………」

 せっかくのラッピングを,あまり小汚く損ねてしまわないように注意をしつつ,しゅるっとリボンをほどいてみる。
 漂ってくるチョコレートのほのかな甘い香りと共に,小さく折り畳まれた紙片が理樹の目に付いた。

『バレンタイン・チョコです。義理のつもりはありませんから,食べていただけると嬉しいです』

「!!」

 あわてて床から,その大量のラッピングの山を拾い上げて机に戻す。
 そういえば,確か,今日は。
 思わず取りだした携帯をプッシュオープンすると,でかでかと表示される『2/14』の日付と,もう夕食には間に合わないほどな今の時刻を示すデジタル数字,そしてマナーモード故に気が付かなかった大量の着信メールが目に飛び込んでくる。

「…バレンタイン・デーだったのか…」

 モテるモテない,とかそういう次元で捉えたことの一度もないこの日のイベント。
 去年までの実績が,小中学校の時に博愛を旨とする女子からもらった累計3コと,意外と義理堅い幼なじみであるところの棗鈴から毎年のように配布されるチロルチョコ×年数分であった理樹である(チョコをせがまれたことは腐るほどあるが)。そんな彼にとって,まさに青天の霹靂と言っても差し支えのない,まさかそんなもしかしてなこのチョコの山であった。

「理樹君!」

 嬉しくも困惑な魅惑の甘いマウンテンを前にどうしたもんか固まりがちな理樹の背中に,明るく元気の良い声がかかった。

(この後は好きなヒロインに妬かせたりとか,交際を迫られながらも結局誰も選べなかったりとかしてヒロインみんなから袋叩きにあったりとか理樹にいろいろさせてみよう!よう!)










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