雪が降っている。
 白い粉雪は暗い夜に映えて様々な灯りを透かして色を変える。
 まるで地上に散らされた星のイルミネーション。
 クリスマスとかの記念日ならさぞ盛り上がったでしょうね。
 空を見上げる。
 ずれた季節の雪。
 視界の隅に映ったビルに張り付いている大型のテレビから声が聞こえる。



 今日、明日は北からの寒波が張り出し全国的に真冬並みの冷え込みになりそうです。
 明け方、深夜には雪が降るところもありそうですね。
 これからお出かけなさる方は十分に注意をして出掛けましょう。



 作られたような底抜けに明るい笑顔で天気を告げる天気キャスター。
 例え作られたものだとしてもそれは眩しくてちょっとだけ真似してみる。
 目尻を下げて頬を緩めてえくぼを作る。
 不自然だった。あまりにも。
 私は愛想笑いも出来ないのか。
 不器用すぎて泣けてきた。
 ちらりちらりと視界を横切り存在を主張する白。
 でも、真っ白に染めるには少なすぎる。
 タバコや空き缶の落ちた道に少しずつシミを作る。
 髪や肩口にはところどころに白い点が存在している。
 外面だけじゃなくて私の心も真っ白に染め上げてくれればいいのに。
 そう思う。
 白…可能性の色。何にでも変わっていける。
 白…無垢な色。何にも侵されていない純粋な色。
 白い雪に――可能性に、無垢に憧れる私は、きっと塵の纏った雪の出来損ないで。
 憧れるということは自分がそうではないと認めることだから。
 塵から生まれた薄汚れた雪。憧れるのは純白の六花。
 そのことに気づいて、ココロが痛くなった。
 何と浅ましいことか。
 ふっと息を吐く。
 自嘲気味にゆがんだ唇から吐き出された空気は白くて。
 望んだものは変わらないのにどうでもいいものこそは欲しいものに変わる。
 何と無く悲しかった。
 ままならないわね。
 小さく呟く。
 隙間無く巻いたマフラーを少しだけ緩めた。
 別に熱くなったわけじゃない。。
 ただ、思い出して苦しくなっただけ。
 あの二人のことを。

























PURE  SNOW
























 別に用事があった訳じゃない。
 それでも私は街に出ていた。
 私はあの寮の部屋に居たくなかったのだ。
 ズキズキと胸の辺りが痛む。
 あの部屋にはクドリャフカがいる。
 笑顔であいつの話をしてくるクドリャフカが。


 ―――――リキが、リキが…

 その声は凄く幸せそうで楽しそうで…
 純粋に今を満喫している笑顔。
 笑えない。笑わなきゃいけないのに。
 少しだけでもいいから笑って「そうね」って返さなきゃ。
 私の立ち位置は友人なのだから。
 でも、頬はセメントで固めたように動かない。
 耐えられなかった。耐え切れなかった。
 これ以上、彼女の話を聞いていたら私自身の思いを吐き出してしまいそうで。
 彼女はまだ気がついていない、と思いたい。
 だからこそ、下卑た疑惑が頭を過ぎる。
 もしかして彼女は分かっていて私に自分の幸せを話しているのではないか。
 当て付けじゃないか?
 そんなことしか考えられない自分が嫌になって私は寮を出た。
 クドリャフカには少し用事があるからと。
 そうですか?いってらっしゃいなのですーと笑顔のクドリャフカ。
 出来るだけ早くと出かける準備をする私。
 行ってきます。と告げる。
 ドアのノブに手を伸ばしかけたところで彼女から声が掛かった。
 とてとてと近づいてきて彼女は手に持っている物を掲げる。
 マフラーだ。
 朝から少し冷え込んでいるからと私にマフラーを巻いてくれる。
 例によってえへへーと満面の笑み。
 そんなに優しくしないで欲しかった。
 こんなに私は汚れているのにそんな太陽のような笑顔を向けられる資格なんてない…
 ありがと…
 小さく礼だけを告げると私は足早に部屋を出た。
 最低限のラインは守れた。
 礼を言えた自分を褒めてあげたい。
 そう思える。
 寮の玄関から見える外は重厚な灰色が覆い隠しているのかいつもは見える満天の星は見えない。
 おかげで外に出た時の開放感はなかった。
 それでも一人になれたことが少しだけ私の心を軽くする。
 門の前、一度だけ振り返る。
 先程まで自分自身もいた部屋。灯りが漏れている。
 彼女は彼にでも電話しているのだろうか。
 また悪い方向に考えが行ってしまいそうで軽く首を振り他の事を考える。
 何処に行こうかしら…
 まぁ何処でもいいか、と自己完結しながら歩きだした。









 何と無しに街に出て見たけど別にすることなんてない。
 とりあえず、それなりに歩いて暇を潰してクドリャフカが寝た頃にでも帰ろう。
 そう決めて夜の街を歩く。
 周りを見ると様々な人がいる。
 スーツを着て足早に歩いている男の人。
 一人で所在無さ気に歩いている人。
 ボードで色々な芸を練習してる男の人。
 ギターを弾きながら楽しそうにしているメガネの男の子とちょっと柄の悪い赤髪の男の子と大人しめな印象の男の子の三人組。
 厚い化粧をしていかにもな格好で路地裏に入っていく女性。
 彼氏連れで腕を組んで楽しそうに話しかけている女性。
 鋭い目付きをしたコートを羽織った小柄な女性。
 私がこうして周りの観察をしているように他の人も私を見ているのだろうか。
 見ているとしたら私はどういう風にみえるのだろう。
 立ち止まりこじゃれたお店のショーウィンドウに自分が映る。
 恋に破れた女か。
 家出でもしたか。
 道化ね…。
 自らに皮肉を込めて笑う。
 何故か、こういう時はしっかりと顔は笑っているのだ。
 少し、相手を馬鹿にしたような表情だけど。
 やっぱりこんなもんね。
 軽く肩をすくませる。
 ガラスに映る自分に興味が薄れるとその向こうにあるものに目が行った
 新春!春はコレに決まり!
 お決まりのうたい文句と共に服が飾られている。
 ああ、これは確かに…着たら似合いそうね。
 隣のはちょっと明るすぎるかな?
 んー…アレは年寄りくさいわね。
 視線を少しずつ横にずらしながら一つずつ感想を残す。
 想像の中で着せて見る。
 似合っていたり、似合っていなかったり。
 私はどうだろう?コレは似合うかな?
 …イメージ違うわよね。
 ちょっと苦笑いが零れる。
 らしくないか。
 何で他の人じゃダメなんだろう。
 他の人と腕を組んだり、抱き締めたりしてるのを想像してみる。
 唇がゆがむ。
 嫌だった。堪らなく嫌悪感が襲ってきて胸を絞める。
 吐き気にも似た何かがぐるぐると体中を駆け巡る。
 その場でじっと耐える。
 一人でいるとやっぱり考えてしまう。
 帰ろう。
 一度寝れば少しは気持ちも落ち着くだろう。
 そう当たりをつける。
 軽く傍にあった備え付けの時計に目をやる。
 まだ彼女が寝付くまで時間があった。
 ゆっくり帰ろう。
 傍の自販機でホットのコーンポタージュを買って冷えた手の中で転がす。
 チクチクと内側から刺す様な痛みが心地いい。
 少しだけぬるくなってからプルタブを空けて飲み口の下を凹ませた。
 この前テレビでやっていた飲み方だ。
 コーンを残さず飲めるらしい。
 試してみたけどやっぱり少しコーンが残る。
 嘘吐き…
 呟いて、ゴミ箱に空き缶を投げる。
 全然なっていないスローイング。
 それでもそれなりに綺麗な弧を描いた。
 金属同士がぶつかる音とがさりとビニール特有の音がする。
 上手く入ったようだ。
 小さなことだけどちょっとだけ自分の思い通りになったようで気分がいい。
 寮に帰る足は少しだけ軽くなった。 









 外から見える私の部屋は明かりは消えている。
 彼女が何時も起きている時間はもうとっくに過ぎている。
 私が帰ってくるのを待っているかも…と思ってそれなりに遠回りして時間を引き延ばしたかいがあった。
 まだ、正常に対応出来ないかもしれない。
 だから、面と向かっては辛い。寝ているなら一方通行でいいのだから。
 廊下を他の寮生を起こさない様に音を立てないように歩く。
 部屋の鍵を開け中に入る。
 ベッド横のスタンドライトだけが薄暗い光を放ち闇を緩和している。
 クドリャフカのベッドの上だけ人の形に膨らんでいた。
 規則正しく時計のようにリズムを刻むクドリャフカの寝息。
 飛び出す前の自分の気持ちを思い出す。
 負の感情に振り回された私。
 ごめんなさい。
 起こさないように唇を動かすだけに止める。
 本当に無防備に寝ている、クドリャフカ。
 すっと自然に彼女の頬に手が伸びていた。
 ふにっと柔らかく形を変える頬。
 不快感を感じたのか嫌そうに首を振りうきゅー…と寝言が漏れる。
 仕草が可愛くて思わずふっと表情が軽くなる。
 でも、次の言葉が時間を止めた。


 ―――――リキ…

 針がゆっくりと膨らんでいたハート型の風船を一瞬で割るように気持ちが冷えた。
 直枝…理樹、この四文字の言葉を心の中で反芻する。
 どうして私じゃダメなの?
 どうして……。
 想いなら負けない。絶対に。
 可愛い子がいいなら可愛くなれるように頑張る。
 凛々しい子がいいならもっとシャンとする。
 好みになれるように頑張るから。
 どうか…気づいて…。
 私に振り向いて…クドリャフカ―――――











 後書き
 

 まさかの第二段。クドほとんど出てきていません、本当にありがとうございました。
 ギャグです、というか本人はギャグのつもりです。勘弁してくださいorz
 調子乗って二作目も上げるとかごめんね。ごめんね。樹海とか行ってくる。