Little Busters! Short Story

Stardust boys





ふと気が付くと、目の前には満天の星空が広がっていました。
いつの間に夜になったのか、初夏にしては涼しい風の感触が、焼け爛れた身体には心地よいです。
―――修学旅行のバスが路肩から転げ落ちて、その後ガソリンに引火して―――
恐らく、今鏡を見たら、どこのお化けかと思ってしまうでしょうね。
分かっています、私の身体はほぼ黒コゲで、お気に入りのマントと帽子もボロボロでしょう、
不思議と、もう死ぬと分かっていても、どこか冷静な――というより、なんとなく現実感がないというか、自分なのに他人事のような感じがします。
―――ただ、死ぬ前にマントや帽子を煤や焼け焦げだらけのままにしておくしかないのは、少々残念ですが…。



―――――……………
――――…………
―――………
暫く星空を見上げていたら、色々なことが思い出されてきます。
吹き飛ばされて意識を失ってた間、色々な、本当に色々なことを頑張ったような気がします。
私自身、色々と吹っ切ることもできたし、大切な仲間のために何かを為すこともできました。
―――でも、あれは本当のことだったのでしょうか?
感触はあまりにも真に迫っていて、しかし出来事はあまりにも荒唐無稽で、
すべては私が見ていた夢だったのではないか、とも思えてしまいます。



「……違うよ、クーちゃんの夢なんかじゃない…本当に頑張ったんだよ、クーちゃんも私たちも。」
その声は、小毬さんですか?
「…うん。奇遇だね、吹き飛ばされた先がこんなに近いなんて。」
そうですね、私もたった一人で最期を迎える破目にはならなくて嬉しいです。
「――同感です、私もお二人の近くに飛ばされたとは。…どうも目は役に立たなくなっているようですが、声で分かりました。」
西園さんも!…私も、身体を起こせないので姿は見えませんが、どうやら私の足元にいらっしゃるようです。
「…えへへ、実ははるちんもいたりして…。」
「はるちゃんも…!そうなると、ゆいちゃんがいれば新メンバー全員揃うね。」
そうですね、こうなると偶然では済まされません。まさに天の配剤というものでしょうか。
「いやいやー…、姉御は格好悪いところを見せたがりませんからね。きっとどこか人知れずひっくり返ってるに違いありませんヨ。」
「ふふ…そうすることも考えたが、流石にそれはおねーさんとしても寂しいからな、最期くらいは皆と一緒に居させて貰うさ。」
わふーっ!本当に揃ってしまいましたっ!
「全く、リトルバスターズという集団はよほどの腐れ縁のようですね、最期までこの様子とは。」
西園さんの言葉に、皆さんがかすかな笑い声で答えます。今わの際でもいつもと変わらない調子に、私もなんか可笑しくなってきました。



「…でもさー、今死ぬってときに思うのもどうかと思うけど、リトルバスターズって一体なんだったんだろネ?」
はい?葉留佳さん、それは一体どういう意図で?
「今クド公も言ったじゃない、アレは夢だったんじゃないか、って。いや、夢だって言う気はないけどね、結構スゴいことやったような気がするんだけど、はるちん達ってそんなすごい連中だったのかな?」
「はっはっは、それはないだろう。私たちは決してそんなスーパーマンじゃない、しかも主役より狂言回しが似合う問題児集団、と言った所じゃないか。」
「あはは、どっちかというと粋というより野暮だし、周りから拍手貰うようなこともしてないし…。」
「全く、改めて見ると、個々の問題はともかく、これほどの厄介な方々が集まってるのは珍しいですよ。」
「いやははは、所謂るいびとん、って奴ですか?」
わふー…確かに間違いではないですが、皆さん容赦ないです…それに葉留佳さん、それを言うなら類友です…。
「…でも、決してダメダメじゃなかったよ。」
小毬さん?
「…みんないっぱい欠点を抱えていた。でも、だからこそみんなで頑張った、だから、甘えん坊さんだった理樹くんと鈴ちゃんを、一人でも大丈夫にして送り出せたんだよ。」
「コマリマックスに同意だな。完璧な人間ほど、自分で解決できると考えるから、往々にして一人で抱え込んでしまう。私たちくらいに欠点だらけの奴等で却って良かったのさ。」
「一人では動かせないことも皆で為せば成る…それが能美さんがどこかで仰っていた“良き歯車”ということではないのでしょうか。」
そうです…そうですよね。皆が歯車みたいにかみ合って力を合わせたから、こんな凄いことも出来たのですね。
「あとは、そうだね〜…みんななんだかんだ言って理樹くんとりんちゃんのことが大好きだった、ってことかな〜?」
「ふふ、その通りだな。それがまず第一、だろうな。」
うんうん、同感ですー。
「…でも、これって理樹君と鈴ちゃんには、夢の中の出来事みたいにしか覚えてもらえないのかな?」
それは…仕方ありませんけどちょっと寂しいですね。
「お二人にとって辛いなら、そう思ってもらうのも…いえ、いっそのこと忘れてしまうのやむを得ないかもしれません。」
「…たまには懐かしがってくれたら嬉しいけどね、ちょっとそれも贅沢かな。」
裏腹にお二人も寂しそうです…。
「そう悲観したものでもないさ、彼らが私たちのことを忘れたとしても、私たちが覚えていればそれでいいじゃないか。」
「おお、流石姉御、この期に及んでポジティブシンキングですネ。」
「葉留佳君、褒めているのかそれは…?まあ、そう考えた方が精神衛生上いいだろうからな…、っ!」
来ヶ谷さん、どうしました?
「姉御!?」
「…ふふっ、死にかけの癖に無理して笑ったのが祟ったらしいな、そろそろ意識が保たないようだ。…一足先に行ってるぞ。」
その言葉を最後に、来ヶ谷さんの声が聞こえなくなりました。何か言おうとしたそのとき、今度は葉留佳さんが、
「あらら…?どうやらはるちんは最期まで姉御を追いかける宿命のようですネ?それじゃ姉御についてくことにしますヨ……。」
葉留佳さんも行かれたようです……。
「そういえば、恭介さんに真人くん、謙吾くんはどうしたんだろ?」
「恭介さんはガソリンタンク付近にいらっしゃったようで、真っ先に吹き飛んでいかれたようです。」
…そういえば、井ノ原さんも鈴さんをかばうように黒焦げになっていたような…。
「とすると、謙吾君も同じ感じかな。あのみんなともお話しておきたかったけど、ちょっと残念。」
「そうですね。でもまあ、やり取りは容易に想像できますから、それで補完しましょう。」
「ふふ、そうしようか。…あ、なんか私もそろそろみたい…それじゃ、ね…。」
小毬さん…。残ったのは私と西園さんですか…。



「…能美さん。こういう話を知っていますか?」
はい?
「北斗七星のζ星、ミザールの伴星でアルコルという星があります。」
えっと、見えるともうすぐ死ぬ暗示の星でしたっけ?
「…何所の漫画ですか。確かにそういう暗示もあるかもしれませんが、もともと二重星としてミザールに隠され、古代アラビアの兵士の視力検査にも使われた位、見えにくい星です。」
はい…。
「多分、全天からしたら無数にある星屑の一つでしょう。でも、その星が星図から消されたら、もはやその星図は星図ではありません。」
…西園さん、一体貴女は何を?
「貴女が歯車として表現したものを、星空に仮託して現してみました。能美さん、貴女も私も、この空からすれば星屑の欠片でしかないものかもしれません。しかし、それでも、私や能美さん。誰が欠けたとしても成り立たない…すいません、良く分からないことを言ってるかもしれませんが、最期にどうしてもお伝えしておきたかったので。」
いえ…ありがとうございます。最期にそのような言葉を聞けて嬉しいです。
「…誰かにも同じことを言った覚えがある言葉ですが、リトルバスターズ、悪くなかったです、正義の味方ではないかもしれませんが、私の仲間でいてくれました。クドリャフカ=アナト…いえ、能美クドリャフカさん。聞いてくださってありがとうございました。それでは、お先に失礼させていただきます。もし、死後の世界というものがあるのなら、能美さんがいらっしゃるのをお待ちしております。」
…! は、はい!ゆっくりお待ちください、私も…再会を楽しみにしてます!



―――――……………
――――…………
―――………
一人になってから、私はまたじっと星空を眺めていました。身体が動かなかったということもありますが、西園さんの最期の言葉のせいか、自分自身を星空のどこかに置いているような気分にもなっていました。…おかあさん、クーニャは自分なりに歯車でいることが出来ました、褒めてくれるでしょうか?それとも、こんなことになったら褒めてくれないでしょうか?…でも、私の大切な仲間が、褒めてくれた、今となってはそちらのほうが嬉しかったかもしれません。これはお会いできましたら考えたいと思います。
…なんか、段々星空が近くなってきました。僅かに痛みが残っていた体も、もう痛みを感じません。あるのは心地よい浮遊感だけです。そして遂に星空の中に自分がいることを感じたとき、もうすぐ皆に会える、そのことを確信しました。

―――あ、皆さんそんなところにいらしたんですか、ちょっと待っててください、すぐ追いつきます―――。











Appendix

「―――はい、5人です。ええ、バスに乗車していた人数とこれで一致しました。」
年配の捜査員がそういって通信を切り、再び現場に目を向けると、同じ服装の捜査員達が、そこに転がっているモノ―――焼け焦げた5つの遺体―――の周りで、計測したり写真を撮ったり記録を取ったりと忙しく動いていた。
「…たしか、女子生徒5人だったな。」
年配の捜査員が、1つの遺体のそばで記録を取っている若い捜査員に尋ねると、
「はい。詳しくは解剖しないと分かりませんが、死因は火傷によるショック死かと思われます。」
「そっか。…生きてりゃ年頃の娘っ子だろうによ、こんな黒焦げになっちまって、気の毒になあ…。」
首を振りつつ、そう呟いて他の捜査員のところへ向かおうとするその捜査員だったが、
「あ。」
「?」
今話していた、若い捜査員の呟きに思わず足を止める。
「どうした?」
「…いや、この遺体なんですが…なんか口元、笑ってるように見えませんか?」
「笑ってる!?生きたまま焼かれちまってるんだぞ!」
苦しんで死んだに違いないこの少女と思しき遺体に対して不謹慎だと感じたのか、声を荒げる年配の捜査員に、若い捜査員が気圧されたように黙る。
「…お前ね、あまりホトケさんに失礼なこと言うなよ。」
「すみません。」
素直に謝られて逆にバツが悪くなったのか、年配の捜査員は咳払いを1つすると、くるりと後ろを向く。そのとき、若い捜査員が調べていた遺体が目に入る。
「…?」
年配の捜査員が一瞬だけ首を捻る。分厚い生地の帽子とマントに護られたのか、他の4体よりも比較的損傷が少ないその遺体。体中、無論顔面も焼け爛れていた
が、後輩に言われたせいなのか、その表情はどこか満足げに微笑んでいる、そのように思えて仕方がなかった。

END