かちりかちりと時計が今日を刻む。
 後少しで今日が終わる。
 ほぅ…と溜め込んだ何かを吐き出して体の力を抜いた。
 暫く、何も口にしていなかったのを思い出して脇の冷めたコーヒーを口にした。
 少し眠い。でも、もう少しで終わるんだ。
 だから、もう少しだけ………もう少し。

























手紙。
























「はわぁ…綺麗…です」

「でしょ?」

 手を広げ空を見上げるクド。
 もう結構な時間だから二人だけしかいない屋上。
 小毬さんに渡されたドライバーがあったし比較的楽に上がれた。
 やっぱり夜は綺麗だ。
 近場では一番空に近い。
 それに周りには街のネオンも無い。
 それぞれの星の光が輝いていて空の宝石箱という表現も別に間違いと感じない。
 でも、クドの方が星よりも綺麗だよ。
 とかそんな歯の浮くようなセリフとかでも今なら言えそうだ。
 …奥歯が溶けそうだ、甘くて。

「リキ、私達ずーっと一緒ですよね?」

 クドが空を見たまま問う。

「今、私達が見ている星の光はもうずーっと前の物だって聞いてます。
 私とリキも変わらずに傍で輝いていられるでしょーか…」

 顔だけをこちらに向ける。
 クドの瞳はただ澄んでいて僕の目を射抜く。
 でも、どうだろう。
 僕はずっとクドと一緒にいたいしクドのことが好きだ。
 この気持ちが続くならきっと…

「うん、大丈夫。ずっと傍に居られるよ」

 僕は隣のクドをすっと抱き寄せてぽんっぽんっと頭の帽子を叩く。
 わふっ、わふって言いながらも凄く嬉しそうに頬を緩ませるクドが堪らなく可愛い。
 ひとしきり頭を撫でてぎゅーっと抱き締める。
 クドの香りがふわりと舞う。
 見られるかも…とか最初から考えていない。
 深夜の学校に人なんていないからどれだけいちゃいちゃしても構わないんだから。

「リキ…キスして欲しいです」

 抱き締めた時から僕の足の上に座っていたクドが振り返り、んー…と唇を突き出す。
 何故かちょっと笑ってしまう。
 指の腹で誤魔化すのはどうかな?
 感触が似ているから意外と誤魔化せるんだよね。
 でも、一生懸命だし。悪戯しちゃ可哀想かな。
 僕はゆっくりとクドの唇と僕のを合わせる。
 唇にキスするのはやっぱり全然違う。
 相手の顔が見えるし、一番近くにいるって感じられる。
 その瞬間だけは僕はクドのものでクドは僕のものだってそれぞれの一番であるとしっかり感じられる。

「ぷはぁ…」

「リキ、私を窒息させるつもりですか!?」

 色々と考えているうちに結構な時間が経ってしまっていたらしい。
 僕もクドもキスの時に息をしないから長い間のキスは辛い。
 何か、鼻で息すればいいらしいけど、息臭くないかな…とか考えちゃって息を止めてしまうのだ。
 ぷくっと頬を膨らませていて頬に食べ物を入れたリスみたいで可愛い。
 この優しい気持ちが好きってことなのかな。

「クド…好きだよ」

 この一言でこの夜の暗さの中でも分かるくらいに赤面する。
 まだまだ、僕も言いなれてないし、クドも言われ慣れてないのだ。

「わ、私も…リキが好きです」

 たどたどしくも答えをくれるクドが初々しくて好きだった。















「リキ、流石に携帯の料金がやばいことになってたです」

「だよね…メールにしろ。電話にしろ。物凄いから」

 確かにほとんど携帯のメール履歴がクドだったりするし、僕自身も酷い。
 付き合う前の3倍近くの料金になっている。
 つい最近ド○モから料金明細が来ていてげっそりしたのを覚えている。

「ということでリキ、こういうの何てどうでしょう!
 来ヶ谷さんに教えてもらったです」

 じゃじゃーん!と効果音すら付きそうな勢いでクドが綺麗に出来た押し花を貼り付けた手紙を掲げる。
 掲げても僕の目線より…いや、やっぱり何でもないよ。
 可愛そうだしね。何も気づいていない笑顔のクドが凄く可愛そう。

「そうだね、それじゃ今度から緊急じゃない場合は手紙にしようか」

「はい!です」

 その日から手紙のやり取りが始まった。
 毎日それぞれの寮に手紙を届ける。
 毎回毎回、自分で持っていくから少しめんどくさかったけどその苦労さえも楽しい。
 取り留めの無いことばかりしか書いてないし、書かれていないけど。
 クドの書いた文字からその時の表情が読み取れる。
 手紙ってめんどうだなって思っていたけど。
 こんなに楽しいものだったなんて新発見だ。
 メールとかじゃ味わえない面白さ。
 筆が進む、明日はどんなことを書こう…
 そんなことを考え、自然と笑みになった。





















 最初は些細なことだった。
 それぞれが思い合った結果のちょっとした行き違い。
 他のメンバーとの遊ぶ約束でデートが潰れたり。
 きっとどうしようもないこと。
 それでも、自分の中に浮かんでくる負の感情。
 独占欲。見返りを求める気持ち。嫉妬、素直になれない気持ち。
 幸せな、楽しい日々の中に確かに潜り込むノイズ。
 そして生まれる疑問。
 これは本当に好きという感情なんだろうか。
 何で僕はクドを信じきれないんだろう。
 どうして僕はこんなに醜い。
 クドはこんな僕のことが本当に好きなんだろうか。
 小さな波紋だった。
 でも、それは少しずつ大きく広がって。
 最後には僕の心全部にまで浸透した。
 何度も忘れようとした。
 けど、何時も気がつくと後ろに居て。
 問い掛けて来る。
 好きって何なのか、と。
 彼女は君のことが好きなんじゃない。
 ただ、君が他の人よりちょっとだけ優しいから寄り掛かっているだけなんだよ。
 そう語りかけてくる。
 他にいい人がいればすぐ君から乗り換えるさ。
 蔑むような目で見下ろすもう一人の僕。
 逃げられない想いに押し潰されそうだ。
 気がつくとクドといることが苦痛になってきていた。
 何故こうなったのだろう?
 何時からこうなったんだろう?
 ただ、僕はクドを好きなっただけなのに。
 人を好きになっただけなのに。
 起きていても寝ていても辛かった。
 だから、僕は逃げることにした。
 もう頑張った。僕は十分頑張った。
 言い訳ならたくさん考えた。
 僕にクドと一緒に夢を追うことは出来ないよ。
 僕とクドはやっぱり合わないのかもしれない、クドにはもっといい人が居るよ、と。
 そして、ある日僕は告げた。二人でデートした後で。

「クド、別れよう」

「え…?」

 僕はきっと無表情だ、うん。出来ている。
 演じられている。
 対するクドは未だに理解出来ていない表情。
 聞いたことを信じたくないのだろう。
 見開いた目が凄く印象的だ。

「じょ、冗談ですよね?リキ。リキはぶらっくじょーくが上手いです。
 で、でも、ダメですよ。私が本気にしてしまうです。」

 あはは…と乾いた笑いを見せるクド。
 でも、僕にはもう泣いているように見えた。
 クドを傷つけたくない。結局、僕のエゴだから。
 だけどダメなんだ。僕ももう傷つきたくない。

「冗談じゃないよ。冗談で言えるわけないよ」

 だから、突き放す。
 心が軋む。
 表情が漏れてしまいそうだ。
 ダメ…まだ、ダメ…。

「リキ…」

 彼女は笑っていた。目の端にはたくさんの水滴を溜めて。
 凄く痛かった。心臓を雑巾のように硬く硬く絞られているみたいで。
 彼女をもう真っ直ぐ見れない。
 早く、ここを去りたい。
 だったら言わなきゃ、最後の言葉を。

「さよなら、クド」

 僕の声は震えていた。
 クドが息を呑んだ。
 今までずっと繰り返してきた『またね』はない。
 背を向けて僕は歩き出す。

「……ッ…ぅ……うぇ…ひっく」

 後ろから聞こえてくる嗚咽。
 抱き締めたかった。出来るのなら今すぐ引き返してぎゅっと。
 嘘だから、冗談だからと。
 でも…もう辛いんだ。
 ごめん…
 心の中でだけ謝って。
 僕は走り出した。
 その後はもう覚えていない。
 僕の中で達成感と喪失感がごちゃ混ぜになって何が何やら分からない。
 ただ、一つだけ。
 やっぱりクドは僕にとって大切な人だったんだと。
 それは少しだけ僕の心を軽くした。
 次の日、僕は最後の手紙を投稿する。
 この手紙が初めてだったかもしれない。
 初めて自分の手以外から渡される手紙。

『クド、頑張ってね』

 たったこれだけしか書いていない。
 クドは悪くない。
 悪いのは僕だ。
 耐えられなかったんだ。人を好きになるってことに。
 だから、我侭だと知っていてもクドに幸せになって欲しかった。

























 ぶぅん、ぶぅん。
 リズム良く机を叩く音で僕は目を覚ます。
 見ていたのは懐かしい風景。
 寝まいとしながらも何時の間にか寝てしまっていたようだ。
 ほっぺたは赤く染まりそばに転がっているイヤホンの線の跡が残っている。
 時間にすればほんの数時間だったが酷く体が疲れている。
 もう時計は次の日を刻んでいた。
 意識をしっかりするため、首を振って頭をシェイクする。
 ふと頬がひんやりとしていることに気づく。
 泣いていたのか…
 手を当てたところにまだ少し湿り気のある川が出来ていた。
 傍にあったティッシュで拭う。
 そういえば…と、僕の下敷きになっていた便箋がぬれていないことを確認する。
 濡れてる箇所はない。良かった…
 涙にしろ、もしかするとよだれとか被ってしまっているかもしれなかったから一安心。
 でも、被害0とはいかなかった。
 僕が下敷きにして寝てたせいで便箋はくしゃくしゃになっている。
 うん、流石にこれは使えないな。
 とりあえず、くしゃくしゃに丸めて近くのゴミ箱を目掛けて投げる。
 紙は壁にワンバウンドしてゴミ箱に収まった。
 ゴミがしっかりと放り込まれたのを確認し次の便箋を取り出す。
 便箋を置いている引き出しを開けようとしてその下の引き出しから一封の封筒が落ちる。

「そろそろ入り切らないな」

 落ちた封筒を拾い、下の引き出しを開けて呟く。
 そこには宛名の無い住所も番号も何も書かれていない封筒。
 それも一つじゃない。
 今までずっと出し切れなかった手紙。
 あの日からずっと…どんなに疲れていても絶やさなかった習慣。
 …僕の自己満足なのかもしれない。
 書くことでクドが傍にいるように感じて。
 何処で間違ったのだろう。それとも正しかったのか。
 あの頃の互いの思いを無邪気に信じていた日々。
 甘え。ただ、それだけだった。
 知らなかったんだ。人を好きになるのがこんなに辛いことだったなんて。
 もう一つの引き出しには彼女からの手紙。
 既に陽に焼けたり、色褪せてしまっているけれど。
 ただの一つも捨てられなかった。
 小さな押し花がぺこりと僕に謝っている。
 その一つ一つに押し詰められた思い出。
 まだ思い出の中は色鮮やかだ。
 彼女の残り香が便箋にぽつりと染みを落とした。
 もう僕は彼女に会うことはない。
 リトルバスターズのメンツと会うことは会っても彼女とだけは会えない。
 いや、リトルバスターズとしての彼女とは会える。
 でも、付き合っていたあの頃の彼女にもう会えない。
 だけど、叶うなら最後に一つだけ。
 何時も手紙に絶対に欠かさずに書いてきた言葉。
 貴女に届きますように。






 ―――――ありがとう、クド。
















後書き

 どうも、日向の虎です。くうきよめませんorz
 マジこんなの送ってしまってすみませんったらすみませんっ!
 スライディング土下座しながら幹事男さんのところに送らせてもらいました。
 まず、開催してからネタ考えないとな…ってなってた時点でおかしい僕。ごめんね、ごめんね。
 ということで175Rの手紙。題材ですが、曲より全然救いありません。
 本当はもっと幸せにしようと思っていたんだよ?本当だよ?
 でも、気がつくとどんどん暗くなる…らめぇええええ、そっちはらめぇえええええ。
 止まらず、逝ってしまいましたorz
 とりあえず、途中途中が途切れ途切れなのは夢だからです。ええ、ちょっと意図的にぶつ切りでいきました。
 少し違和感感じますかね…うーん…まだ技量足りないな。
 まず、シリアス系なんて書いたことないので凄い心配。というか、祭りで救いの無い話とか誰が得するんだと、小一時間説教ですね…ハァハァ
 まぁ、祭り自体は僕なんか参加しなくても盛り上がってるし、作品のレベル高いから僕いらない子だけど。
 とりあえず、このメンツの中に自分の名前が刻まれるっていいな。とか思って出してみた。
 ほら思い出作り、みたいな。
 あ、そうそう。スペシャルサンクス、仁のアニキ。ネタ出しの時点でお手伝いして貰いました。あざーす!凄い斜め下に行ってごめんねwww
 でも、仁のアニキはリトバスやってないんだよなw
 曲の選曲で悩んでいたので凄く助かったの。
 ここまで読んでる変人とかいないだろうけどさ。とやさぐれてみる。
 っと、何かちょっと長くなったぞ?ま、いっかww
 幹事男さんも根詰めて頑張っているようですがふぁいと、おーですよー。
 では、祭りが盛り上がることを祈って…筋肉、筋肉〜♪