
KAMUI
7話・紅蓮(前編)
あの後結局風紀委員の攻撃はなかった。
カムイが自分の寮に戻るころには日が暮れてあたりは真っ暗になっていた。
「はぁ・・・無駄に疲労した・・・」
重いため息をつくと自分の部屋の扉を開く。
そこには見たことある奴がいた。
「よっ!邪魔してるぜー」
「お・・・お前・・・!!」
そこにいたのは温室でキールと一緒にいたシデンの兄だった。
部屋の鍵はしまっていてシデンがいないのにも関わらずなぜか密室の中にいたのだ。
「どうやってここに・・・」
「あぁ、窓からな!」
窓といってもこの部屋は10階近いところにある。
登ってくることはほぼ不可能だろう。
「何のようだ・・・説教なら聞かないぞ・・・」
「いやいや、いつもシデンが迷惑かけてないかと思ってさ」
「いまここにお前がいることが迷惑だ・・・」
「冷たいねぇ・・・」
「本当に兄弟だな・・・」
しばらく時間が過ぎる。
二人とも黙ったまま冷蔵庫の機械音だけが部屋を支配する。
「そういや、あんた名前はなんていうんだ・・・?」
「オレの名前?トウガだ、キールがそう呼んでなかったっけか?」
「覚えて無いな」
「眼中に無いてか?」
「あの時はこちらが不利だっただけだ、普通に戦えば・・・」
それを聞くとトウガは笑い始めた。
「ハハハ、あいつはふざけた奴だけど実力はたいしたもんだぜ?」
「・・・」
「ま、確かにあの水蒸気の霧の中じゃ炎は弱くなるし雷のほうが断然有利だけどな」
しばらくするとトウガは窓を開けて身を乗り上げる。
そしてカムイのほうに振り向くとニッと笑いかけた。
「んじゃな!夜更かしすんなよぉ〜!シデンによろしくなっ!」
「何・・・!?」
するとトウガは窓の奥の闇に消え去る。
カムイは急いで窓に向かい外を見た。
「あいつ・・・」
なんとトウガは窓から飛び降りたと思えばそのまま魔法で作った風に乗り飛んでいたのだ。
そしてトウガや夜空の闇に溶けるように飛び去っていった。
「なんだったんだ、あいつは・・・」
カムイが呆れていると突然部屋の扉の大きな音がする。
シデンが帰ってきたようだ、ドタドタと大きい足音でリビングにやってくる。
かなりハイテンションのようで、部屋が違うのに鼻歌が聴こえるほどだ。
「たっだいまァ!」
「あぁ〜はいはい、なんかあったのか・・・?」
「ふっふっふ〜聞いて驚くなよぉ〜・・・ジャン!!」
するとシデンは自分のカバンから大きめの丸まった紙をカムイに見せ付けた。
その紙はいろんな生徒の名前が書き込まれた先生の書類のようだ。
「お前・・・これって・・・」
「今度の模擬戦闘試験の取り組み表をこっそりコピーしちゃったんだゾ〜」
シデンは鼻息を荒くして得意げだ、褒められるのを待っている犬のようにカムイをじっと見つめる。
しばらくカムイはその書類を確認する。そこに気になる名前を見つける。
「この[リース]って奴、俺らのクラスにいたか・・・?」
「あぁ、なんか転校生らしいゾ。あの氷使うすごい先輩の弟らしイ」
「何?弟だと・・・?」
カムイは少し考え事をすると怪しげな笑みを浮かべる。
シデンを初戦で叩けないのが残念そうだがそれ以上に何かを考え出したようだ。
「明日が楽しみだ・・・」
「そうかそうかァ!オレも楽しみダ!!」
この日、二人は明日の模擬戦闘に向け早めに休むことにした。
しかしあまりカムイは寝付けなかったようだが・・・
翌日、快晴に恵まれて学園の大校庭で模擬戦闘が行われることになった。
この学園には校庭が3つある。
校舎に囲まれた生徒以外は入れない広い中庭のような校庭。
校庭といってもどちらかというと公園に近く、巨大な温室がある。
もうひとつが学園正門から正面玄関までの間にある校庭。
校庭中央は正門から正面玄関までの道を作るために花壇や水路で道が仕切られている。
そして学園の中でもっとも広い大校庭。
この校庭は模擬戦闘用のスタジアムが建っており、一般公開用にとても大きい造りになっている。
スタジアムの中には9つのフィールドがある。
フィールドとは白いタイルが敷き詰められたやや広めの空間で、1VS1と2VS2、3VS3まで対応できる。
選手が人数分フィールドに入ると特殊なバリアがフィールドを包み込む、戦闘中の魔法がそれて観客に飛ばないのと外からの妨害を無くすためだ。
このフィールド内での肉体的なダメージは精神面のダメージに転換され、実際はどんなに強い攻撃を受けても死ぬことは無く、無傷で戦うことができる。
スタジアムには四方に巨大なスクリーンがあり、フィールドに入った選手の精神力がパーセント表示で表される。
この模擬戦闘試験のルールは先に相手の精神パーセントを30%未満にさせたほうの勝利となっているトーナメント方式。
成績に反映されるがそれより重要とされるのが、上位3名は学年の代表として選ばれ、魔術大会という世界中の魔法学園の代表が集って争う大会に出場できる事だ。
この大会で良い実績を残すと国の研究所や魔導師軍にスカウトされたりする可能性があり、実力を示せる場所なのだ。
「いやぁ!良い戦闘日和だナ!!」
「朝は苦手だ・・・」
異様に元気のあるシデンの後をカムイが重い体を引きずるように付いて歩く。
シデンがスクリーンを見るとそこに最初の対戦カード8組が発表されている。
「初戦カムイでるじゃないかァ!大丈夫カ!?」
「・・・やるしかないだろ」
「オレは控え室で応援してるゾ〜!」
カムイは自分の指定されたフィールドに向かう後ろでシデンが大きく手を振った。
カムイは無表情のままフィールドに上がる。
黒いローブをまとった審判役の先生が時計を確認する。
カムイの正面には女子生徒が自信満々の表情で仁王立ちしている。
よく見るとフィールドの外、女子生徒の後ろにホープに良く似た生徒がいる。
「・・・(あいつがホープの・・・こいつの友達か?)」
「あのさ、ちょっといいかしら?」
「ん・・・?」
カムイの相手の女子生徒が腕を組んでカムイのことを睨みつける。
どうやらカムイに対して怒っているようだ。
「あなた!私のホープ様に手を出したんですってね!!」
「は?」
「は?じゃないわ!ホープ様に手を出した罪を償ってもらうわ!」
「あ、そう・・・(あの野郎と同族か・・・)」
しばらくして審判役の先生が号令をかける。
「それでは第一回戦、カムイ対スウィンクル、用意はいいな?」
「はい」
「もっちろん!」
そして少し先生は黙ると手をかがげる。
するとフィールドがバリアに包み込まれた。
「それでは、はじめ!!」
戦いの号令と同時に炎の詠唱を即座に済ませカムイはスウィンクルに向けて火炎を放った。
「なんのぉ!私の風の前ではそんな火の粉跳ね返してあげるわ!」
「・・・!?」
スウィンクルは少し後ろに下がり詠唱とともに手のひらを炎に向ける。
スウィンクルは手袋をつけていて手のひらに魔法陣が描かれていた。
魔法陣とは体内の魔力を効率よく魔法として使用するためのパイプのような役割で、この魔法陣を使用することによってある程度詠唱が短くとも大量のマギ吸収と高性能の魔法を放つことができ、魔法を放つまでの時間短縮ができるものなのだ。
実力のあるものが使えば下級の魔法なら無詠唱と同じほどの速度で魔法を放てるのだ。
魔法陣には大小あり、複雑な図形に属性を象徴する精霊の姿や名前が刻まれていることで一つの属性の魔法を重点的に効率よく使用できるようになる。属性を現すものが刻まれていないと全体的に魔法陣の性能を発揮できるが大した効果は期待できない。
魔法陣でしか使うことのできない魔法も存在して、大型の魔法陣での結界や、同形の魔法陣を描き魔法人の上に乗せたものを瞬間移動させたりなどさまざまなことに魔法陣は使用されている。
カムイの放った火炎はスウィンクルの手のひらから放たれた巨大な風の壁に阻まれカムイのほうに跳ね返ってくる。
「ちっ・・・(小道具ありかよ・・・)」
カムイは一瞬眼をそらし教員用テントの方を見る。
そこにはカムイの父親代わりのヘルとヨミの姿があった。
ヘルは仮面越しに少し笑っているようだがヨミは相変わらずの無表情だ。
「あいつらが見てる前では負けられないな・・・」
「なにブツブツ言ってるの?いくわよ!!」
スウィンクルが手のひらをかざすと複数の真空の刃が作り出されカムイに襲い掛かる。
バットをフルスイングするかのような風を切る音とともに一瞬にしてカムイに接近する。
「手数か・・・魔法陣使うんだから有効な手段だろうな・・・」
カムイの肌にいくつの真空の刃が食い込み無数の切り傷を負ってしまった。
しかしその傷はたちまち癒えてしまうが体に痛みが残る。
「っ・・・精神面に転換されるというのはこういうことか・・・」
カムイは痛いという感覚を耐えつつ戦況を見定める。
スクリーンにカムイの精神力ゲージにダメージ分減少が見られる。
それを教員テントからヘルは見ると鼻で軽く笑ってみせる。
「フッ・・・(アレほどのダメージは蚊に刺された程度だろうカムイ・・・)」
スウィンクルは真空の刃を撃ちきるたびに短い詠唱ですぐに攻撃をつなげる。
カムイはそれをフィールドを回るように避けて、炎で地面を焼いてゆく。
「なにをしているの?時間稼ぎでもしてるつもり?」
「・・・馬鹿な奴」
「何よ!!」
カムイはフィールドを一周し終えると地面に手を付いて詠唱を始める。
「え・・・これって・・・」
「あぁ・・・気づくのが遅かったな」
カムイはスウィンクルを中心にフィールド上を円形に焼いて地面に巨大な魔法陣を作り出したのだ。
そして魔法陣にはサラマンダーの文字が刻まれている。
その難解な魔法陣の複雑さと炎を連想する曲線、サラマンダーの紋章の力は簡単な炎の魔法でも魔法陣内の酸素を全て燃やしきれる力を発揮する。
「終わりだ、止めれるものなら止めてみろ」
「ふ・・・ふん!魔法陣使っているなら私だって!」
スウィンクルは両手を空にかざすと巨大な空気の塊を作り出す。
「これで圧殺してあげるわ!!」
「・・・お前、本当に馬鹿だな」
カムイが詠唱を終えて手を地面から離す。
手が地面から離れた瞬間カムイの描いた魔法陣が真っ赤に光り輝く。
「え!?な・・・何!?」
「俺の魔法の威力をお前が上げてくれるなんてな」
「え・・・あっ!」
スウィンクルはすでに詠唱を終えて空中、魔法陣内に大量の空気の球体が浮かんでいる。
カムイは魔法陣の外で余裕の表情で口を開く。
「炎は空気中の酸素を燃やしその威力を上げる、お前は自分で空気を圧縮した魔法を使うために多くの酸素を魔法陣内に集めたってわけだ」
「こ・・・こんなのって!!」
「ご愁傷様」
カムイがそう言い終えると魔法陣内が一瞬にして大爆発を起こす。
その爆音は魔法学校中に響く大きい轟音だった。
魔法陣内のみをきれいに燃やし尽くした炎は全てを燃やしきった後自然に消えていった。
カムイがスクリーンを見上げる。
カムイ :090%
スウィンクル :001%
審判が慌ててフィールドのバリアを解除してスウィンクルを担ぎ出す。
フィールド内の戦闘だったため無傷ではあるが痛みだけは感じるのでスウィンクルは気絶しているようだ。
フィールドからカムイが降りてくるとヘルが待っていた。
ヘルが軽く拍手すると軽く微笑む。
「なかなかじゃないか・・・見直したぞ」
「ふん・・・これくらい・・・」
ヘルはカムイの肩をポンと叩くとカムイの制服に何かをしまいこむ。
「次からは魔法陣を作っている暇は無いぞ・・・」
そういうとヘルは教員用テントに戻っていった。
カムイは無言のまま自分のポケットからヘルの入れたものを取り出す。
「これは・・・手袋?」
それは手のひらに炎の簡易的な魔法陣が描かれた手袋だった。
手袋の中には一枚の紙切れが入っている。
"よくやったな、頑張れ"
「あのキザ野郎・・・」
カムイはその紙を再びポケットにしまうと生徒控え室に戻っていった。
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