KAMUI

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  8話・紅蓮(後編)  

ヘルから渡された手袋を身につけるとカムイはシデンの戦いをモニター越しに眺めている。
シデンは風と炎をバランスよく扱える。
主に風を扱うがシデンが得意とするのは短めの詠唱で炎を連続で放ち、風を使ってその威力を増す事で相手を広範囲に攻撃する団体戦向けの戦法なのだ。
そのため、この模擬戦闘は1対1のためにシデンにとっては不利な戦いなのだ。
シデンの戦い方を見てカムイは少し苛立ちを覚える。
 
 「相変わらず動きだけすばやくてトドメを刺すのが遅すぎる・・・」
 「風魔法なんてそんなものさぁ」
どこからともなくトウガが現れ、
カムイは思わず席を立ってしまった。
 「いったいどこから・・・ここは1年用の控え室だぞ?」
 「カギが開いてたら入れちゃうだろぉ〜!」
 「そういうことじゃなくて・・・(流石兄弟というか・・・)」

しばらくしてシデンが戦い終えて控え室に戻ってきた。
そして前半の試験は終了し、休み時間に入った。
シデンはカムイに声をかける。

 「なぁなぁ!カムイ!なんか先生達が面白いことするらしいゼ!」
 「・・・行ってみるか」

2人でスタジアムの観客席に座ってフィールドを見ると2人の先生が立っていた。
そしてジャハナ先生が教員用テントから出てきてスタジアムのマイクで話し始めた。

 「これから教員同士の模範対決を行います。今後の参考にしたり、気になる方は観客席で見ていてください」
そのままジャハナ先生は審判のバッチを胸に着けてフィールドの中央に立つ。
するとスタジアムの西と東の入場口から先生が一人づつ出てきた。
一人はとてもいかつい体格の壮年の教師で、服の袖をめくり筋骨隆々の体をさらしている。
カムイの周りの生徒が騒ぎ出す。

 「ガーランドじゃね?」
 「あぁ!土属性の魔法を使う先生だっけ?」
 「噂では素手でドラゴンの首をへし折ったって話だぜ!」

カムイはそのガーランド先生の相手のほうが気になった。
ヘルだ。
女子生徒たちの黄色い歓声が聞こえる。

 「頑張ってー!ヘル様ー!!」
 「キャー!カッコいいー!!」
 「あんな筋肉のオヤジなんて敵じゃないわー!!」

どうやら男子に人気の先生と女子に人気の先生で戦うらしい。
もっともそんな事はカムイには興味なかったようだが。

フィールド内にガーランドとヘルが入るとフィールドにバリアが張られる。
するとガーランドがヘルに声をかけた。

 「若造にはまだまだ負けんぞ?」
 「フッ・・・お手柔らかに、お互い生徒の見本になる戦いをしましょう」
 「当たり前じゃい!おぬしもすぐに根を上げるなよ!?」

ガーランドは独自の構えを取り全身に力を入れる。
ヘルはただ立っているだけで構えもせず魔法を使う様子もない。
ジャハナが戦いの開始を宣言する。

 「それでは、始め!!」
 「うおお!行くぞ小僧!!」

ガーランドは開始と同時に拳に岩を吸い寄せながらヘルに突っ込んでいく。
ヘルは余裕の表情でただそれを見ているだけだ。
 
 「なるほど、岩を刃物状に拳に装着し破壊力を増す戦法ですか」
 「なにを悠長に言っておる!おぬしも攻撃をしてこぬか!」

ガーランドの岩の拳がヘルの顔の目の前に迫る。
しかしヘルはまったく動じない。
そしてそのままガーランドの拳が突き抜ける。

 「ふふん!青二才が・・・ぬ!?」
 「素振りとは戦闘前にするものですよ?ガーランド先生」

ガーランドの拳はヘルの顔面を捕らえられず空を切ったのだ。
そしてヘルは音も気配もせずガーランドの真後ろに立ち、何もせず、ただ笑っている。
ヘルを殴ったのを確信したガーランドは驚きを隠せない。
殴りぬけるまではそこに気配が無かったはずの気配を、殴りぬけた瞬間に後ろに感じることになったのだから。
一部始終を見ていた生徒たちも何が起こったのかが理解できない。
ただ静かにスタジアムがざわつく。
 
 「見たか?ヘル先生の動き・・・」
 「いや・・・何も見えなかった」
 「何が起こったんだ?」
 「わからねぇ・・・」

生徒たちがざわつくなかでカムイとシデンはただ固まっていた。
ガーランドが後ろに振り向いて再び殴りかかる。

 「なんの小細工だが知らぬが!今度こそ当ててやろう!!」
 「・・・私も年は取りたくないものだ」
 「なめるな小僧!年寄りの長年培った実力を、得と味わえい!」

ガーランドが力一杯地面を殴りつけるとフィールドのタイルを突き破り土が隆起してヘルを閉じ込めた。
そして取り囲んだヘルのいる場所に剣山のごとく岩の刃が地面から突き出たのだ。
地面が突き出るたびにスタジアム全体が地響きを起こす。

 「ふふふ・・・年寄りをからかった罰じゃよ」
 「そんな大技を見せてしまったら誰も参考にできないじゃないですかガーランド先生・・・」
 「なんじゃと!?」

すでにヘルは岩の壁から脱出し、そしてまた音も気配も無くガーランドの背後に立っている。
ガーランドはすぐさま振り向き、今度は不意打ちのごとく振り向いたのと同時に殴りかかった。

 「ぬおお!」
 「ふん・・・」

ヘルは仮面越しにガーランドを睨みつける。
その瞬間スタジアム全体が静寂に包まれ、ガーランドの拳がピタリと止まる。
そしてしばらくヘルもガーランドも動かない。

 「か・・・体が・・・(体が動かない!なんだこの小僧・・・この小僧が恐ろしくて体が動かないだとぉ!?)」
 「流石のドラゴン殺しと名高いガーランド先生でも、怖いものはあるのですねぇ・・・」

他の人も近くで見るとわかるほどにガーランドの体が恐怖に怯え震えているのがわかる。
嫌な冷や汗がガーランドの頬をつたう。
どんなに動こうとしても言う事を聞かない体にガーランドは余計焦りを感じるのだ。

 「ぬ・・・ぬぅ!」
 「おや・・・?生徒の見本になるんでしたよね?」
 「くっ・・・小僧・・・!」
 「そろそろおしまいにしましょう、これ以上恥をかくのも嫌でしょうからね・・・」

そう言うとヘルがゆっくりとガーランドの方へ歩いて近づいてゆく。
そして手のひらをガーランドの腹部に押し当てる。
するとその瞬間真っ黒な波動がヘルの体からあふれ出しその波動はどんどんヘルの手に集まってゆく。

 「外傷が残らないっていいですね、これ食らったら本当なら死にますから・・・」
 「な・・・に・・・!?」

そして爆音とともに黒い波動がヘルの手から放たれガーランドはフィールドのはじまで吹き飛ばされバリアの壁に思いっきり叩きつけられた。
そのガーランドには意識は無く、すでに気を失っていた。
ヘルの言っていたように、フィールド内だから良かったものの実際にくらっていればきっと上半身か下半身かがなくなっているくらいの威力だろう。
呆然として見ていたジャハナはハッと我に返るとフィールドのバリアを解除する。

 「誰か!担架を!早く来てください!」

ガーランドは複数の職員に担架で運ばれてゆく。
ヘルはそのまま職員用テントに戻っていった。
そしてしばらくして生徒も控え室に戻っていった。

どの控え室の中でもヘルの事で話がもちきりになっているようだ。
カムイの控え室ではみんな落ち着きがない。

 「なぁカムイ。そういやヘルってあんたの親父代わりだっけカ?」
 「あぁ・・・」
 「あんな親父さんがいるって自慢になるだロ?」
 「そんな事はない・・・」

カムイは冷めた感じではき捨てる様に言うとシデンは驚いた。

 「だってあんなに強いんだゼ!?あの筋肉親父を赤子同然に倒す親父だゾ!」
 「俺に親はいない!!」

カムイは珍しく感情的に声を荒げた。
家族や身内のことには敏感であまり干渉されたくなかったのだろう。
流石にまずかったと思ったシデンは黙ってしまった。

 「・・・すまない、そろそろ行く」
 「お・・・おう、頑張れヨ!」

控え室を出て行くカムイをシデンは明るく見送った。
カムイはまっすぐフィールドに向かう。
カムイの目の前にはホープの弟、リースの姿があった。
互い自然に距離を取り合う。
審判が対戦カードを読み上げた。

 「では2回戦目はカムイ対リース!準備はいいな!?」
 「はい」
 「大丈夫です・・・」

審判がフィールドから出るとバリアが張られる。
するとカムイが口を開く。

 「お前、奴の弟ならお前も使えるのか、アレを・・・」
 「え・・・無詠唱・・・ですか?」
 「それ以外に何がある」
 「えっと・・・その・・・」

リースがうろたえている間に戦闘の合図が出される。

 「模擬戦闘はじめ!!」
 「ちっ・・・まぁ使えるかは戦ってからわかるさ」

カムイはリースに向かって指を刺すと手袋の魔法陣が赤く光る。
それと同時に指先から炎が現れ次々とリースに襲い掛かる。
するとなんとリースは身を屈めてふさぎ込んでしまった。

 「なんだあいつは・・・ヘタレか?」

そして炎がリースに当たろうとしたその瞬間に一瞬にして煙とともに炎が消し去ってしまった。
 「なに!?(やはりあいつ、何かしてやがったか)」
 「ふぅ・・・魔法陣使うなんて思っても見なかったです・・・」
リースは起き上がると胸をなでおろす。
その動作にカムイは苛立った。
 「この野郎・・・なめてるのか・・・?」
 「それではこっちからもいきますよ・・・!」
リースはそう言った瞬間、カムイは足に極度の冷気を感じ取る。
冷たいを通り越して痛いほどだ、カムイの足は一瞬にして凍り付いていたのだ。
そしてリースが右手をかかげるとリースの頭上で巨大なミサイル並みの氷柱が出来上がってゆく。

 「ちっ・・・兄には劣るがコレばかりはひとたまりも無いぞ」
 「ごめんなさい、勝たせてもらいます!」

リースがかかげていた右手を下ろすと同時に人間並みの大きさがある氷柱がカムイ目掛けて飛んでゆく。
カムイは両手を前に構えて詠唱を始める。
短い詠唱も手袋に刻まれた小さい魔法陣2つで十分な威力の魔法を放てるのだ。
カムイの両手が真っ赤に輝き、巨大な炎の弾を作り出す。

 「お前の氷、俺が溶かしてやる・・・!」
 「そんな簡単に溶かせませんよ!」

巨大な氷柱と紅蓮の火球がぶつかり合い耳を覆いたくなるような轟音とともに互いを消し去ってゆく。
そしてカムイとリースの戦いに決着の時が迫るのだった。
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