「ああぁぁぁ!もうっ!なんでこんな時間なのよ!」

ガッガッガッと私の私への駄目っぷりを叩きつけるかのように、目の前の板チョコに包丁を刻んでいく。

いくら怒鳴っても過ぎ去った時間は戻ってこない。英語で言うとナントカミルクナントカクライングだっけ?

「ってそんなこと考えてる場合じゃない!」

チラリと時計に目を見やる。時刻は既に21時。この時間が昨日だったらいいのになんて思えてしまう。あぁもう私のバカ、ばか、馬鹿!

日付はそう、2月14日、チョコレート会社の策略に街中のみなが踊らされる聖ヴァレンタインデーという日だ。因みにこの日だけでチョコレート会社は年間売り上げの3割ももっていっちゃうんだから、この日の商戦に懸ける想いはそうなんだろう。

そして、その想いに負けないぐらい色々熱くなっちゃってるのは、世の中の女子とか、女子とか、女子とか。ほらそこスイーツとか言わない。

で、なんで2月14日の21時に私はこんなに頑張ってるかって?

そりゃもう話せば長くなるし、今チョコを作ってる作業に支障をきたすからまとめて言うけど、友達の手伝いして夜を明かして、午前中バイトやって、終わってから昼寝をしたんだけど、昼寝のつもりが起きたのが21時前という私駄目な子!

作業は既にチョコを湯せんにかけて溶かす工程に入っている。別に機械作るわけじゃないよ。焦がさないように焦らず焦らず。なんでこうてんやわんやな時に限って頭が回っているんだろう。

既に材料は一昨日のうちに用意しといてよかった。それとおやつついでに買っておいたカステラもあってこれで楽ができそうだ。どうせ、あいつには毎年あげてるから今年ぐらい力を抜いても……。

「いやいや」

ぶんぶんと首を振って、妥協しそうな心をなんとか止めた。こんな時間にチョコ菓子を作ってる時点で怠慢なんだろうけど。

溶かしたチョコを、ラップで丸めたカステラにたっぷりとかける。あぁ、チョコファウンテン一度でもいいから食べたいなぁ…。

チョコまみれにした丸い物体(中はカステラ)を金属のプレートに載せて冷凍庫に入れる。冷蔵庫に入れてたら24時を過ぎちゃう。

なんだかんだで23時前になっていた。早く冷えてくれないと…!

冷やしているうちに、キッチンを片付けて包装紙の用意。冷えているかどうか気になってしょうがない。

20分経った。これなら大丈夫だろう。

ガラっと冷凍庫を開ける。

「よし、OK!」

時間を見れば23時半。なんとかぎりぎりね。

パッパッパと包装紙にチョコを入れて、紙袋に入れて、これで準備はOK。あとは

「もしもし、あぁ私、私。」

オレオレ詐欺に間違われそうな、新手の呼びかけでアイツに話しかける。

「今から公園の前ね。」

有無を言わさずに、電話を切る。うん、これで大丈夫。

チョコのが壊れないように、紙袋は揺らさないように。でも急ぎで。

23時50分。なんとかギリギリになったけど、公園の前で少しイライラしているアイツにチョコを渡す。

「義理なんだから、喜んで受け取ってよ。」

言うだけ言って去っていく。

「本命チョコだろう〜?ありがとうな。」

頬がとろけそうな位に嬉しくて、来年はちゃんと渡そうと心が躍った。