「ゲートガール」

 

 

 ある日の昼下がり。ぱらぱらと、広場でゲートボールを楽しむ老人の中に混じって、一人だけ赤髪で

目立つ少女がいた。

 「ヴィータちゃんや、久しぶりじゃのう。」

 「あぁ、最近用事が多くて…。」

 老人たちに囲まれ、頬を右手の人差し指で撫でるようにかきながら、ヴィータは答えた。久々に羽を伸ばす

時間ができて、撫でた頬も少しニッコリと緩んでいる。

 「初めて八神さん家のはやてちゃんと来たときを思い出すのう…」

 「さ、佐藤のじいちゃん…あの時は仕方ないだろ。」

 初めてヴィータが、ゲートボールをやっている老人たちと会ったのは、たまたまはやてとシャマルと一緒に

買い物に出かけていた時だった。

 

 「ヴィータちゃん、人がいないからってグラーフアイゼンを出さないの。」

 「いやぁ…だって、久々にメンテナンスしてもらったから、アイゼンの調子を見たくて。」

 「ヴィータはアイゼンのこと好きやもんな。」

 「うん。」

 そう言いながら、路地を歩いているとコツンという音が聞こえていたが、ヴィータはそれに気づくことなく、

はやてとシャマルより先に歩いていると

 (ヴィータちゃん早くアイゼンをしまって!)

 (え?)

 と、シャマルが言ったのも遅く

 「おぉ、そこお嬢ちゃんや。」

 「あ」

 と、変型させたアイゼンを持っている状態を歳は70ぐらいのおじいさんに見られてしまった。

 (やべ…どうしよ、シャマル…)

 (うーん…うまく誤魔化さないと)

 ヴィータは困った表情でシャマルのほうと、おじいさんをキョロキョロと左右に見比べていると

 「お嬢ちゃん、それは…」

 「いや、えっと、こ、これは…」

 「いいゲートボール用のスティックじゃな。」

 ズルゥと、その場の三人がずっこけると、さらに「嬢ちゃんたちは何かにつまづいたのかの」と見当違いの

ことを言って立ち上がろうとしたところでさらにずっこけそうになったが、ちゃんと立ち上がると、特にヴィータは

ホッとした表情になり、スカートのホコリを掃った。

 「いや、違うけど…ゲートボールって何?」

 「ほう…知らないのか。ほれ、こっちに来なさい。」

 ちょっと強引気味な感じだったのでヴィータが少し戸惑っていると、はやてとシャマルは

 「ヴィータ、ちょうどいい機会だし行ってみたらどうや?」

 「えぇ、買い物は二人でやっておくから。」

 ちょっとしてやられたみたいな感じもしたが、ゲートボールへの興味もあったのでヴィータはおじいさんの

あとについていくことにした。

 「ほなヴィータ、買い物終わったらこっち寄るから、待っててな。」

 「わかった、はやて。」

 そしてヴィータがおじいさんと一緒に広場に入るなり、広場にいるおじいさんおばあさんたちの視線を一気に浴びた。

 「ほお…この子は佐藤のじいさんの孫かね?」

 「いいや、違うわい。たまたま通りすがりで、ゲートボールを知らぬと言うから、教えてあげようと思ってな。」

 そう、おじいさん二人がゆっくりと話している間に、おばあさんがヴィータの近くに行き、

 「お名前はなんていうんだい?」

 「ヴィータ。」

 「びたというのか、珍しい名前じゃの。」

 「い、いや、ヴィータだって。」

 「ヴィータ…?」

 「う、うん…」

 年寄りの人たちと話す機会が今まで少なかったヴィータにとっては、こういうやりとりでも少し緊張した

様子だった。

 そして、それからいざゲートボールをはじめてみると…

 「ヴィータちゃんや、ゴルフじゃないんだからそんなに振り上げなくていいよ」

 「う、うん。」

 という風に振り上げたり、

 「シュワル…ってそうじゃなくて、どりゃあ!」

 ヒューン…

 と思い切り打って、遠くへ飛ばしたりしておじいちゃんたちも苦笑を浮かべるしかなかった。

 でも、おじいちゃんおばあちゃんの優しい指導もあってか、徐々に徐々に上手になっていき、楽しめる

ようになっていった。

 そしてはやてとシャマルが戻る頃にはみんなとも打ち解けて、笑顔だった。

 

 という風な記憶がヴィータには残っていたが、やはりヴィータを誘った佐藤のおじいさんにはヴィータが

ボールをかっ飛ばした記憶が強く、その時の苦労話をふとしたときに吐露していた。

 「でもまぁ、久しぶりに来たんじゃし、わしと勝負するかの?」

 「あぁ、いいよ。今度こそじいちゃんに勝つぜ!」

 と意気揚々に勝負をするヴィータであったが、その佐藤のおじいさんはその広場でも一番の腕前で、

ヴィータは毎回のように撃沈させられているのであった。

 そして、言うまでもなく今回も、久々に遊びに来たヴィータに容赦なく実力の差を見せつけてヴィータの

悔しがる表情を見て、にんまりと皺だらけの顔を綻ばせ「かっかっかっ」と笑いながら、実際には何歳も上の

ヴィータに「わしに勝つには十年早いのう」と言いながらイチゴ飴をあげて去っていった。