『風』

 

 

 髪が靡く。風が吹く。若い葉が風に負け、空に放り出される。

 上着を着ていると汗をかき、半袖のTシャツ一枚になると風が今まで遮蔽していたものがなくなったことで、
うまい具合に汗を吹き流していく。僕に見せてくれる表情は鮮やかで、安寧と生気を常に、
時間と言う単位で計れないほどのシーンにおいて与えてくれる。

 あぁ、ミドリが眩しい。そしてまた今までの糧を薫らせてくれる。君に埋もれたらどんなに暖かく、
陽の匂いで包み込んでくれるのだろうか。

 さらりと靡く君の髪。さらりと鼻腔を擽る樹の匂い。

 でも僕が今いるのは森の中ではない。白い布地のカーテンが揺れる。部屋の中?
―――整然と並べられた机の上に行儀悪く座る僕と君―――いいや、教室の中。

 気がつけばこの時間になってもまだ陽は紅く焼けず、昼間のように照らしていた。その光を遮るように、
たくさんの枝と葉を大きな樹は携え、聳えていた。

 遠くに聞こえる部活動の喧騒が、葉が揺れる音で流される。

 君の白い手が僕の頬に触れる。熱を持った感触が右頬に。そして唇には違う感触を残す。

 はにかんだように互いに微笑む。誰かに見られてしまわないかという背徳感が頭をよぎらせたけれど、特に気にしなかった。

 また外から風が吹く。

 触れられたところだけ、熱く誘発される。

 あと何回、こんな時を感じていられるのだろうか。