「さくらの街へ」

 

 

 

とある春休みの昼下がり、僕はクドと一緒に電車に乗ってとある港街まで向かっていた。

「わふ〜!リキ、リキ、そろそろ着くはずですっ。」

 窓に顔を向けて、クドは行く予定の街へと期待を膨らませていた。ガラスに映る顔から、ものすごくワクワク

しているのがわかる。そんなクドの表情を見て僕も、思わず顔を綻ばせた。

 どうして、僕たちはそこへ向かっているのか。それは数日前まで遡る。

 

 

 

 クドと校外に出る用事があったので、街に出て頼まれたものや、ストレルカたちのドッグフードを買ったりしていった。

 その買い物のついでに立ち寄った本屋で、気軽に行けるレストラン特集の文字が大きく書いてある雑誌が

目についたので、クドと一緒に読んでみると、様々な店があった。

 その中でとりわけ目を惹いたのが、『かもめ亭』というドイツ料理のレストランだった。オーナーシェフの人が

凄く若くて、僕とそんなに年が変わらないぐらいに見える。

 「リキ、ここのシェフさん若いですね。」

 クドも同じことを思っていたらしく、フムフムと感心していた。

 「それに、このお店の人たち、何だか暖かそうです。」

 確かに和気藹々としていて、良い感じのお店だった。それで、雑誌の地図を見てみると、美園市というところは

案外電車で行ける距離だった。

 「クド、週末に行ってみる?」

 「わ、本当ですか?じゃあ是非ともレッツゴーです!」

 という、案外あっさりとした流れで行くことになった。

 

 

 駅から降りて、二人で改札を抜けると気持ちいい風とともに、桜の花びらがひらひらと舞い落ちてきた。

 「わふ〜桜きれいですね。」

 クドが空に向かって手を伸ばすとひらひらと桜の花びらが、クドの手のひらに降りてきた。光が重なって

少し目映かったけど、クドが綺麗に舞ってるように見えた。

 桜を眺めながら歩くと、商店街なのかな、通りの入り口が見えた。

 『さくらシュトラッセ』と入り口のアーチにはそう書いてあって、この通りだけとりわけ桜が多く、

バロック風の建物とレンガの敷き詰められた通り とのコントラストが、個人的なドイツのイメージとぴったりだった。

 通りを入ってまもなく、雑誌の写真で見たお店が見えた。改めて見てみると、小さな洋食屋で、

僕たちでも気軽に入れそうだった。

 「リキ、入りましょう〜」

 クドの方も、テンション高くドア開けた。

  カランカラン

 小気味よくドアベルを鳴らしながらドアを開くと、親しみのある感じの店内があった。

華やかすぎず地味すぎず、良い意味で敷居の高くない店内だった。

 「いらっしゃいませ、さくらシュトラッセにようこそ!」

 黄色いカチューシャを留めた青髪の女の人が、やってきて案内をしてくれた。周りのウェイトレスの子たちの

ような制服とは違い、スーツのようなぴっしりとした服を着ていた。多分支配人みたいな立場の人なのかな。

 メニュー表を受け取ると、クドと一緒にどれにするか決めることにした。

 「んークドはどうする?」

 「わふぅ…どうしましょうか。おすすめを聞いてみますか?」

 「うん、そうだね。」

 金髪を青いリボンで一つ結びにしたクドと同じぐらいの背丈だろうか、それぐらいのウェイトレスの子が

通ったので、声を掛けた。

 「あ、すみません。」

 「ん…注文ですか?」

 感情の入りきっていない声で、その女の子はこちらを向いた。

 「えーっと、オススメのメニューを教えてもらえますか?」

 「オススメのメニューは、かもめ…」

 その女の子は僕たちに言おうとして、僕と隣にいるクドに視線を向けた瞬間

 「…フーッ!!」

 「わ、わふー!?」

 女の子はいきなり猫が威嚇するような声を上げて、クドに牽制(?)をし始めた。警戒をしているようで、

表情が一変した。

 「え、え?」

 僕はあたふたするしかなかった。そんな時、店に入った時に対応してくれたスーツの女の人が駆け寄ってきて、

 「こらっ、ルゥリィ!何やってんの!」

 すぐさま、彼女がルゥリィというらしい女の子の後ろ襟を掴んで、引き離した。捕まれている様子もどこか

猫っぽかった。ってそういう場合じゃなくて。

 「クド、大丈夫?」

 少しびっくりした表情のクドを気遣うと、クドは笑って返してくれた。

 「お、お客様。大変、本当に申し訳ございません!」

 スーツの女の人が、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。傍らのルゥリィという子はどこかいづらそうな、

また困ったような表情を浮かべていた。

 「い、いえ、少しビックリしましたけど、大丈夫ですよ?」

 申し訳なさそうな表情の女の人とは対照的に、クドはいつものように明るい表情で応えた。

 「本当申し訳御座いません…。ほらっ、ルゥリィも!」

 「にゃっ!?」

 また女の人は頭を下げると、一緒にルゥリィという子の頭を無理矢理下げさせた。そんな光景を周りの

お客さんはどんな反応を示しているのか気になって、チラッと見渡すと

 「あれ、今日はかりんちゃんじゃなくて、ルゥリィちゃんがかぁ。珍しいね。」

 といった声がちらほらと聞こえてきたり。……どうやらこの店ではよくあることらしい。

 それを察したクドも、さっきより柔らかい笑みを浮かべ、僕に視線を目配せした。

 「このお店、結構賑やかなお店なんですね。」

 クドがそういうと、嫌味にあまり聞こえない。クドのその言葉に女の人は驚き、また照れたような苦笑いを

浮かべて「はい…」と答えた。どうやら、結構ここの店員さん達は僕たちと(特に恭介とか真人)同じように、

個性的な人が多いらしい。……あ、そういえば。

 「そういえば、このお店のオススメの料理って何ですか?」

 「あ、それはですね…メニュー表を貸して頂けますか?」

 メニュー表を渡すと、手際よくメニューを指した。多分結構聞かれてるんだろう。

 「こちらの“かもめハンバーグ”となります。本当にオススメですので、もしよろしければどうぞ。」

 ひとまず僕とクドは、そのかもめハンバーグを頼んでみることにした。

 

 そして、優佳さん(料理を待っている間に、今度はかりんという子がお皿を割ってしまって、その時の

やりとりで名前がわかった。)が料理を持ってきた。

 「お待たせしました、かもめハンバーグです。こちらの、アップルソースをかけてお召し上がり下さい。」

 早速アップルソースをかけて食べてみることにした。

 「じゃあ、頂きます」

 ナイフでハンバーグを切って、口に運んでみる。

 「おいしい…」

 「わふ〜おいしいです♪お肉が柔らかくて、ソースもいいです!」

 クドがテンション高く言うとおり、本当においしかった。優佳さんがオススメと言っていた通り、最高だった。

 そうやって、二人で食べていると、かりんと呼ばれていた店員さんがやってきた。

 「お水お入れしますかー?」

 とても元気な声で明るい子なんだなというのが分かる。多分三枝さんあたりと合うだろうな…

 そして、水を注ぎ終わって、かりんさんとクドの視線が合ったと思ったら

 「おぉーわんちゃん!」

 「わ、わふ!?」

 どうやら、クドはだいぶ気に入られたらしい。

 「わんこわんこ〜♪」

 「わふぅ〜」

 クドも撫でられて、戸惑いつつも少し照れているようだ。……というかこんなノリでいいのだろうか。

 …その後、かりんさんが優佳さんに叱られていたのは、言うまでもない。

 でもまぁ、ルゥリィさんと、かりんさんと少しお話ししてみると、クドが犬っぽいかららしい。ルゥリィさんは

どこか猫っぽい所があって、どうやら血が騒ぐらしい。

 「それにしても、クドとかりんさんはだいぶ仲良くなってるね。」

 「えへへ、そうですね。べりーふれんどりーですっ♪」

 「きゃっほぅ♪仲良し、仲良しー」

 最初は色々ハプニングがあって少し不安だったけど、こうやって馴染んでいるところを見るとこの店に来て

良かったなぁと思った。…それにしても、クドとかりんさんが話しているのを見ると、クドと三枝さんが話しているような感じに見えるな。

 時たま、かりんさんがクドの頭を撫でたり抱きついたりしていて、流石にしゃもじとかは飛んでこないけど、

フロアで動いている優佳さんの視線が恐かったりする。

 

 「わふー楽しかったです♪」

 食事を終えて、帰りの電車。僕とクドは席に座って、かもめ亭の料理とお店の雰囲気をずっと話していた。

料理もおいしかったし、店員さんも独特だったけど凄く良い人たちで飽きなく、食事を楽しむことができた。

みんなで一緒に食べていたような感覚だった。

 また、かもめ亭に行きたいね。とクドとそんな会話を交わしたのだった。

 

 

 一方営業が終了してからのかもめ亭。

 「かりん、ルゥリィ。今日のお客さんへの態度はなんだったの…?」

 言葉で言い表せられないような笑みを浮かべ、優佳はかりんとルゥリィに問いつめていた。一方の二人は、

しゅんとなっていて、言い訳をするのに精一杯だった。

 「だって優佳さん、あの子、わんちゃんみたいで可愛くて…。」

 「犬は敵…」

 「だからって、そういうことをして良いの!?」

 「まぁまぁゆー姉、二人とも反省しているみたいだし。怒るとシワに……」

 「はーるーみー?」

 「ひいいぃぃ!?そ、そんなことございませんよ?」

 優佳がその怒りの表情を向けると春美は引っ込んだ。

 どうやら、かもめ亭の方はまだハプニングは収まらないようだった。