『月 雪 橋』


「うぅ……寒い!」
 コートを着込んでいるとはいえブルブルと体が震え、鳥肌が立つほど寒い。関東の冬は空気が乾燥して風が強いせいか、肌に刺さるような冷たさを感じる。
この寒空の中、スカート姿の女子高生には感服する。スカートの下にジャージやスウェットを履いている女子高生もたまにいるけれどあれは野暮ってやつだ。
今日の東京の最高気温は6度で最低気温は氷点下1度らしい。登校する途中、ザクザクと霜柱を踏んで楽しむ同じ学校の生徒の姿があった。ローファーが汚くなるだろうに。

 
三年前、ちょうどこの時期に留学でヨーロッパに行ったあの人とのこと。あの日はちょうど雪が降り、フライトが遅れたため搭乗チェックインまで時間の猶予があったのは覚えている。
幼い頃から仲のよかった人。二歳年上だけど、姉のようではなく同い年のように僕は接していた。彼女も同様に遊んでくれたのが幼馴染みだからこそだよなぁと、同じ部活の先輩と接していてわかる。
「別に、今生の別れってわけじゃないんだから、寂しそうな顔しないでよ」
当時自分も中学一年生だったこともあってまだまだ子供っぽさが残ってたのだと思う。割り切るのが難しかったのだろう、かといって今もそんなクールな性格をしているわけではない。
見送りは、成田空港まで高速バスを使って一緒に向かい、遅延したフライト時刻ぎりぎりまで一緒に話していた。チェックインカウンターまで見送った後、展望デッキへ行き旅立つ飛行機を見上げた。その日は満月だった。雲で覆われたには月だけ顔を出していた。
雪が舞い降りていて少し寒かったけれど、雪の中を突っ切って飛んでいくそれはまるで月まで行くファンタジーか何かかと子供心に思った。
飛び立った後はぽっかりと心のどこかに穴が空いたような感覚にもなった。それが三年前の話。


お互い筆不精、メール不精ということもあって、去年に一回だけメールが送られてきたけれど相変わらずのようだった。そして先週、一年ぶりにメールがきたと思ったら、今日の夕方の便で成田に到着するらしい。
この日の夕方の予報は雪が降るらしい。見送りをした時を思い出したけれど、また到着が遅れるのではと心配になってくる。ただそんな心配とは関係なく日中は学校の授業を受けなくてはならなかった。
授業の内容はあまり頭に入らなかった。そして逸る気持ちのおかげなのか、授業中にいつの間にか寝てしまっていることがたまにあるのだけど、眠気がなかったのに成田空港行きの高速バスの中で気づいた。
首都高を抜けて千葉県に突入した頃、空から雪がパラパラと降り始めてきた。
成田空港に着くまでは軽く降る程度だったのだけど、着いてからは降ってくる雪の大きさが増していた。そして薄っすらと雪が地面に積もり始めていた。
これはもしや……と思ったけど、到着ロビーのフライト情報を見ると軒並みどの便も‘delay’と表示されていて、思わずため息をついてしまった。ただ口元が緩んでいる自分がいる。
到着予定が18時だったので、それまで空港内をぶらぶらしていた。正直、心ここにあらずといった感じだった。
ぶらぶらし飽きて、到着ロビーで待つこと二十分。あの人が乗っていたであろう飛行機の搭乗客がパラパラとスーツケースを引きながらやってくる。その一団の中に、いた。
手を振って名前を呼ぶと、向こうも気づいたようで手を振り返してくれた。三年間で大人びたけれど、見間違うことはない。
「久しぶり」
「三年ぶりだね。制服姿なのは、学校から直接空港に来たの?」
声も変わらなかった。僕は頷いた。
重そうなスーツケースを僕が代わりに持ち、バス乗り場まで歩いていった。フライトが長すぎて疲れたっていうこととか時差ボケで明日以降が大変そうだとか。
高速バスのチケットを購入して外に出ると雪が風で舞っていて冷気で体がブルっと震えた。
「さっむー!東京寒すぎよ!雪降っているのは知ってたけど向こうと湿度が違うから、こんなに寒いとは思わなかったよ」
ガクガクと体を震わせている。リアクションも相変わらずで思わず微笑んでしまう。そんな僕の顔を見て怪訝そうな表情をしてきたので
「なんでもないよ、変わらないところは変わらないんだなぁって」
僕がそう言うと納得するように「あぁ」と相槌を打っていた。
「三年前と同じだね」
雪のことだろうかと言おうとしたら、首を振っていた。
「ううん、雪だけじゃなくて、ほら」
彼女が指し示す方角には雲間から覗く満月があった。
「ホントだ」
舞い降りてくる雪が月で照らされる。そしてその光を跳ね返していて自ら光っているようで綺麗だった。
「架け橋だね」
ポツリと、彼女がつぶやいた。なんのことだろうと、答えに詰まっているとそのまま言葉を続けた。
「雪と月が、再会の架け橋かなって。三年前のあの日と、今日との架け橋」
そう言った時の表情はとても綺麗でドキっとしてしまった。
地元行きの高速バスがやってくる。
三年間の積もる話は、これから徐々にしていけばいい。