「ホームランとユッケ」

 

 自分は小学三年生から地域の少年野球チームに所属していた。打つのが何よりも大好きで、バッティング練習には快音をグラウンドに轟かせていた。ただ一方の守備はというと、飛んできたゴロをトンネルしたり、フライをバンザイしてコーチに怒られていた。

 小学六年生になると身長も170センチ近く伸び、力もついてホームランを打てるようになった。そのシーズンで10本ホームランを打った中、2本目か3本目のときだろうか。

 優勝した地区大会の閉会式で、優勝メダルに加えホームランボールとメダルをもらって嬉しくて仕方なかったが、優勝メダルと同じ色形をしたメダルだけでは飽きたらず、母親に何か別にホームラン賞をちょうだいとねだった。

 母はメダル二つもらっているのだからという理由で駄目だと言ったが、自分はだいぶしつこくねだっていたのだろう。母は仕方ないといった感じでついに折れて、

 「じゃあホームラン打ったら、焼肉屋行った時にユッケね。」

 と、好物であるユッケを約束にしてくれた。

 当時はもっと豪華な物が良いと言っていたが、最近焼肉屋に行ったときに注文表の値段を見て、店で頼むユッケがホームラン賞に妥当であったことを当時の自分に諭してやりたい。

 約束をしてからは、自分がホームランを打つとその次の週かまたその次の週に焼肉屋に連れてくれた。カルビやロースを食べて、その合間ごとに食べるユッケはとてもおいしくてもう一皿おかわりを頼みたかった。

 「よく噛んで食べなさいよ。」

 「もうちょっと量が欲しいよなぁ。」

 母親が言うのも頷くだけにして、ユッケの味に舌鼓を打っていた。

 そして小学生最後の夏休み。中学受験があり、塾での勉強のために自分はその大会で引退することとなっていた。

 三回戦まで勝ち進んだ夏休み最後の週。自分の第二打席、放った打球は外野手を大きく越し、二面使えるグラウンドだったため、片方の試合の場所へと転がっていき、その間にホームインした。

 ランニングホームランもむなしく、試合には負けてしまった。同時に、自分はもうこれで終わりなんだと寂しさを感じた。

 家に帰ってからも浮かないままだったが、塾の参考書とにらめっこしているうちに少しずつ寂しさを紛らわしていった。

 しかし、一つだけ忘れていたことがあった。

 「母さん、ユッケは?」

 「あんた忙しいでしょう。」

 と相手にしてもらえず、子供心に大人はやっぱり嘘つきだと思った。

 だがしかし、数日経った休みの日。塾から家に帰って来て夕食の席に着くと、 そこにはユッケがあった。

 「これ、どうしたの?」

 「作ってみたの。」

 テーブルには、お店で売っているものとは盛り付けが違っていたが、それは確かに自分の大好物だった。

 「食べたかったんでしょ?」

 調理器具の後片付けをして、テーブルに戻ってきた母親に促されて、自分は手作りのユッケを食べてみた。店のとは違うけれど、ごま油が効いていてとてもおいしかった。

 「約束をしてたからね。作るの大変だったんだからちゃんと味わって食べなさい。」

 そのユッケは、数週間前までグラウンドに立っていた夏休みを思い出させてくれた。その時の味は今でも忘れられない。