成人ディスレクシアの独り言 本文へジャンプ
挫折の始まり〜小学校低学年


読めない・書けない自分へのとまどい

「人にできることは当然自分にもできる」と思っていた。
むしろ、「自分は周囲の子よりもできることが多い」と感じて学校に進んだ。

ところが、入学早々に納得できない現実と向き合うことになる。

教室でも人気者だった。
明るくはしゃいで、上級生からもかわいがられていた。
学校は好きだったと思う。

なのに・・・
全く文字が覚えられない。
最初は「オレも読めない」と言っていた友達も、1学期が終わるころにはほとんど読める、書けるようになっていった。
それなのに、いつまでたってもできない。

でもまだ周囲も自分も、「まあそのうちにできるようになるだろう」と思っていた。
文字が入らない以外は、だれよりも活発で元気な子。発表もするし質問にもはきはき答える子。誰も真剣に心配はしていなかった。

2学期になっても3学期になっても、相変わらず文字が覚えられない。
自分の名前はかろうじてさっと読めたが「文字を読んでいる」というよりは「この形が自分の名前」と覚えていた。
明らかに周囲が騒がしくなっていった。「怠けている」「本気でやりなさい」普段の姿からは想像もできないほど文字が入っていかない子どもに、周りの評価は厳しかった。
一生懸命やっているつもりだった。いや、やっていた。
それでも覚えられない。
学習はどんどん進んでいく。「読めることを前提に」「書けることを前提に」
必至で周りを見ながら、一時間一時間をごまかしていた。

当時は昭和40年代、今と違い、先生たちも子供に手を上げる事は当たり前だった。

少々落ち着きがなく、今でいう多動傾向があったかもしれないが、大人は怖かったので、授業中に席を離れたりした覚えはない。
それでも、口はたつし知恵は回るのに、いつまでたっても読み書きができない、その上ごまかすことばかりうまくなっていった子どもに、教師は容赦なくつらく当たった。

あれは2年生の頃。忘れられない強烈な記憶がある。
朝、授業前、自分には「規律・・礼・・着席!」の次があった。
「お〜い!お前は後ろで立ってろ!!」本当に毎日そう言われていた。

今は笑い話だが、子どもの自分は深い傷ついていた。50前の今も、当時の男性教諭の声が耳にこびりついている。あざけるような、拒否するような声。
くやしかったし、悲しかったが、どこかで「仕方がない」とあきらめている自分もいた。
だって自分は「怠けていて文字も覚えられない問題児」だと、思い込まされていたから。

名前がすらすらひらがなで書けるようになったのは、2年生も終わりの頃だと思う。もちろん、だれも褒めてくれない。だってそれは当たり前以前の話。友達はみんな漢字を使っていたころだ。

そのころになると、「自分は人より劣っているのだ」という意識がどうしようもなく強くなっていた。音読の順番が回ってくるのが、怖かった。必死で読んでいるのにたどたどしくなる。漢字は全く読めない。自分なりの読み方をして笑われることもしばしばだった。
先生が笑う。「またか」と言わんばかりの溜息をつく。だから友達も笑う。
「tora君、このままじゃ立派な大人になれないよ」
と、同級生に言われたことは、今も忘れられない。

「読めない」こと「書けない」こと、は、ありえないこと。
そんな怠けものには、ろくな未来はない。
毎日の授業の中で、繰り返しそんなメッセージを送られていた。

3年生になったばかりのころ、母と先生で決めたのだろうが、事前に何の説明も無く、特殊学級に連れて行かれた。「今日からお前の教室はここやから」そんなことを言われた覚えがある。

3年生の自分にそこがどんな場所かという意識があったとは思えないが、「友達のところに帰れなくなる」と恐怖を感じた事を覚えている。

10分とたたないうちに学校を抜け出した。「先生、トイレ!」と教室を出て、そのまま家に帰った。

その夜、母が学校と話し合っていた。覚えているのは、「この子は口が達者で大人をなめてるから」という一言。親にも理解されない。自分が悪いから、怠けものだから、文字が覚えられないのだ。勉強ができないのだ。自分が悪いから。自分がだめだから。深く、強く思いを刻んでいくことになる。

次の日から、普通学級に戻ったが、席は一番前ろの左はしに固定された。みんなが席替えするときも、自分の席だけは変わることがなかった。「お前はここにいてはいけない」「みんなのじゃまになる」その席は、いつも自分にそう言っていた。


きらきらと希望にあふれてスタートしたはずの学校生活。
それなのに待っていたのは、「文字も覚えられないダメな子」の烙印。
受け答えがしっかりできていた分だけ違和感が大きかったこともあり、「怠けもの」「うそつき」の評価もついて回った。

文字から解放される体育や図工は大好きだった。
楽しくて仕方がなかったが「自分の好きなことだけはやるのね」と言われてしまう。
オレは、どうすればよかったのか?

「立派な大人になれない」と同級生に言われたオレは、「ああそうなんだ。オレはダメな大人になるんだ」と思うしかなかった。