※ねつ造の二次創作です。公式とは関係ありません
「王子と従者の笑顔泥棒大作戦」
作:芳乃
●第一話●
じりじりと焼けつくような炎天下。
砂漠暮らしの住人達は日頃から暑さに慣れているものの、今日の暑さは特別だった。
からっとした空気が基本のこの国だが、毎年この時期になると、湿気が発生してひどく不快指数の高くなる日々が続く時がある。今年もその時期がやってきた。
生温い風が木々を揺らす。空は息を呑むほど青く晴れ渡っているのに、まとわりつく空気はじっとりしている。
奇妙な天候といえよう。いつ起こるか予想できず、しかし毎年きっちり起こるこの現象を、神様の気紛れ、と人々はそう呼んでいた。
ウィルは唯一外出を許可された中庭の、背の高い植物を日傘代わりにして項垂れていた。いかにも手持無沙汰な様子で細い足をぶらつかせ、時折空を見上げては小さく溜め息を吐く。天候のせいか、いつになく物憂げな表情をしている。
そんな彼の様子を、死角となった位置から密かに見守る三人の視線があった。
「かなり暑そうだな。暑いのにどうして中庭に出ているんだろう?」
不思議そうに呟いたのは、この国の第二王子であるハキムである。きりっとした目元、凛々しい顔立ち、鍛え上げられた肢体。健康的な褐色の肌が彼の野性的な性格を見事に表している。
「そうだねえ。あの白くて美しい肌が日焼けしてしまったら勿体ない」
同感とばかりに頷いたのは、ハキムの兄であり第一王子であるアシュラフだ。
緩い曲線を描いたスミレ色の髪を指に絡めて弄びながら、解せない、と言わんばかりに首を傾げる。
彼は砂漠の住民には珍しく白い肌をしていた。外見もハキムとは対照的で、中性的な色気がある。ハキムが「動」ならばアシュラフは「静」だ。
「暑さを厭わないほど、部屋に閉じ込もっているのが苦痛なのではないでしょうか」
控えめに答えたのは王子二人の忠実な従者であるカリムだ。こちらはハキムと同じく褐色の肌をしているが、性格は控えめで冷静沈着。
端正な顔をしている彼は感情を表に出さず厳しい事で他の従者達から恐れられる一方、王子達から絶対の信頼を得ている事から王宮では一目置かれてる存在であった。
「まぁ確かに籠の中の鳥状態では退屈だろうねえ。とはいっても奴隷に王宮内を自由に歩き回せては周りに示しがつかないし。難しいところだよ」
「それにしてもウィルを見て下さいよ、あんなに浮かない顔をして……。俺はあいつの笑った顔が好きです。ツンツンしているくせに、笑うと意外に可愛らしい」
「それを言うなら僕だって好きさ」
「……私もです」
三人は視線を合わせた。それぞれ顔を見比べた数秒後、不敵な笑みを浮かべたのはハキムとアシュラフだ。
「何か思い付きましたか、兄上?」
「そういうハキムも、どうやら僕と同じ事を思い付いたようだね」
「あの……お二人でまた何か仕出かすつもりじゃ……?」
「別に悪さをしようってわけじゃないぞ。ただ、ちょっとしたゲームを、と思ってな」
心配そうに声を掛けたカリムに、ハキムが邪気無く微笑んだ。
「ゲームですか?」
「ああ。俺と兄上、どちらが先にウィルの笑顔を見られるか勝負――でしょう、兄上?」
「そう。流石ハキムだね。フフフ。こういう時の僕たちって恐ろしいぐらい気が合うね」
「……そのゲームに私も参加します」
「えっ? おまえもかい?」
突然の参加表明にアシュラフが片眉を上げる。
カリムは頷いた。
「はい。お二人が調子に乗って妙な事にでもなったら困りますから。アシュラフ様とハキム様が揃うと何をするやら想像つかない……とてもじゃありませんが放っておけません」
「カリム……おまえね、さりげなく酷い事を言っているよ」
「ふっ、そんな事言って、実はおまえもウィルの笑顔が好きなんじゃないか?」
ハキムが肘でカリムの脇腹を突く。カリムは珍しく狼狽して頬を赤くしたが、すぐに感情を無表情の仮面の裏に隠した。
「ご戯れは大概になさって下さい。私の役目はお二人を見守る事です。他に意味はありません。ただ自分の務めを全うするだけのこと」
「見守るというより見張られてるような感じなんだけど」
「良いじゃないですか、兄上。競い合うなら人数が多い方が良い。誰が一番ウィルの笑顔を――いや、ウィルを喜ばせられるか勝負です。勝った者には何か褒美があれば張り合いが出ますが」
「ウィルを独占できる権利なんかどう?」
「なるほど。奴隷との熱い一夜を賭けるというのも趣向が変わっていて逆におもしろいかもしれませんね」
「勝者としての優越感に浸りながらウィルを抱く。なかなか良いと思わない?」
「……私に同意を求められても困りますが」
戸惑って俯くカリムを、意地の悪い笑みで口許を飾ったアシュラフが興味深そうに眺める。
「可愛いねえ、カリムは」
「――では、今夜は作戦を練る事にして明日から勝負開始といきますか。あぁ、一応言っておきますがフェアにいきましょうね。互いの作戦の邪魔はしないこと」
「もちろん。こういう勝負はルールという縛りがある方が盛り上がるからね」
「兄上、お願いしますよ、ズルは無しですからね」
「おやおや、そんなふうにわざわざ釘をさすなんて、自信の無さの表れかな?」
牽制じみた二人のやり取りに、カリムは小さく溜め息を吐いてウィルの方に視線を向けた。
自分を褒美にされた賭けのゴングが打ち鳴らされたとは露知らず、ウィルはひとつ欠伸を漏らした。
ー続くー
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