Dream whsper

 

 「……あ」

 

 それはとある日の昼下がり。
 奥州米沢城の一角を歩いていた少女―はふと、足を止めた。

 

 が歩いているのはこの城の城主の館。縁あってこの国に身を寄せ、米沢城で暮らす事になったがいつもの様に侍医の元へ行こうと部屋を出た矢先の事だ。

 は実はこの時代の人間では無い。もっと、ずっと先の未来から来た人物であり、偶然にも政宗に拾われた事でこの時代で暮らす事になったのだ。

 そんなは今、この時代で生きる為に色々と勉強をしている最中である。侍医の元へ通っているのもその一環。成り行きで戦にも参加する様になったは、 自分にも出来る事を探して簡単な医術を身につけることにしたのだ。
 そうしていつの間にか日課になった勉強をする為に、侍医の庵に行こうと庭に面した廊下を歩いていた時。ふと、は反対側の宮の様子が目には入った事がきっかけとなり、思わず足を止めたのだ。

 が立っている場所と丁度対極に位置する処に見慣れた姿があった。


 「政宗」

 

 無意識の内にはその名を口にする。
 が見つけた人物、それは間違いなくこの城の城主であり、奥州という広大な国を一手にまとめる若き武将伊達政宗だった。
 後ろ姿ではあるものの間違いない。何か考え事をしているのだろうか、柱に背を預けたまま政宗は動かない。
 自然との足は政宗のいる方向へと向いていた。

 

 戦国武将という揺ぎ無い肩書きを持つ政宗の感覚は人よりずっと優れている。
 恐らくの気配もすぐに察することだろう。そう思いながらもは出来るだけ足音を立てないよう、気を使いながらゆっくりと廊下を進んでいく。

 此処最近、政宗は戦の準備や国政などの仕事に追われていた。
 乱世の世であるこの時代、いつ何処で戦が起きるとも限らない。それ故何があっても即座に対応できるように常に軍備を整えておく必要があるらしい。だが、そこばかりに関心をおいていては国として成り立たない。戦の準備を整える一方でこの国に住む民の為国の情勢を知り、土地の整備や食料、財政等の状況把握に調整などという国を支える為に必要なあれこれの指示を出さなければいけない。国主という立場は国を支える為、民を守る為、やらなければいけない事が沢山あり大変なのだ。
 そうして今の政宗はまさにその国政に励んでいる最中だった。
 居候の身であるはさすがに国務にまでは関わる事が出来ない。それ故は出来るだけ邪魔をしないように気を使っていたし、政宗も政宗でずっと部屋に篭って出てこなかった。なのでは此処最近、まったく政宗と顔を合わせていなかったのだ。

 今も仕事の最中なのだろかと、思いつつもは歩を進める。

 (最近、ずっと会ってなかったから……。ちょっと話す位なら、邪魔にはならないよね)
 まるで自分に言い聞かせるようにしながらは先へと進む。
 そうしてついに柱に背を預け、下を向いている政宗のすぐ傍までやってきた。

 何かを読んでいる最中なのか、政宗の膝の上には巻物の様なものが乗っている。
 かなり距離を縮めたというのに、政宗はやはり何も言わなかった。多少妙だと思いつつも、は何も言われない事をいい事にさらに接近する。
 政宗の事だ。きっとの存在などとっくに知っているのだろう。その上で敢て何も居ないでいるに違いない。
 そう勝手に納得したは躊躇う事無く、政宗に声を掛けた。

 「何、 読んでいるの?」

 

 の声音が周囲に響く。
 同時にさぁっ、と柔らかな風が吹き抜けていった。

 

 ……が、しかし。珍しくも政宗は無言のまま動かない。「あれ?」とは思った。
 いつもなら此処で何かしらの反応が返って来るのだが、今日に限っては何も無い。時折セクハラまがいな事までやってくる政宗にしては随分と珍しい反応だ。
 一瞬、聞こえなかったのかとも思ったが政宗に限ってそのようなことは無いだろう。
 政宗の五感は獣並(あくまでの見解)なのだ。これだけ近くに居て声まで掛けたのに、気づかないということはないだろう。

 ふと、は政宗が先ほどからまったく動いていない事に気付いた。
 さわさわと穏やかに吹く風が政宗の髪を揺らしている。だが動きとして見えるのはそれだけで、政宗自身は身動ぎ一つしていない。

 

 「…… 政宗?」
 そっとは政宗の名を呼んだ。
 だが、やはりというべきか。政宗からは何の反応も返ってこない。一体どうしたのだろうと思ったは、意を決し政宗の隣に腰を降ろしてその顔を覗き込んだ。そうして―。

 「あっ……」

 と、思わず声をこぼしてしまい、は慌てて口を塞いだ。

 

 (ま、 政宗が……。政宗が寝てる!!)

 

 思わず叫びそうになっただが、それを懸命に堪え心の中でそう呟く。
 そうして口を押さえたまま、はもう一度政宗の顔を覗き込んだ。

 片目に眼帯をしたまま、伏せられている左の目。小さく聞こえてくる寝息に合わせかすかに上下する胸。
 間違いなく政宗は眠っていた。

 

 「わぁ 〜、なんか新鮮……」

 思わず笑みをこぼしながらはそう口に出してしまった。

 いつもの政宗は、奥州筆頭という立場から常に威厳と自信に満ち溢れ堂々とした姿を見せている。自身の立場を自覚し、いつでもどんな時でもクールに振舞うその一方でとても気さくな一面をもつ政宗は、時折子供の様な仕草や様子を見せる時もある。だが、ここまで無防備な姿を曝したのは初めてだった。
 失礼かと思いながらもはまじまじと政宗の顔を見つめる。
 思えば、政宗の寝顔を見たのは初めてな気がした。
 目を閉じてほんの少し整った柳眉を下げた政宗の横顔はまるで別人のようだ。これがあのいつもクールな政宗だなんて、ちょっと信じられない気持ちになる。
 そうしてそんなあまりにも無防備な姿を見ているうち、ふとの中でちょっとした感情が芽生えた。
 は政宗がぐっすりと眠っている事を確認した上でそっと、政宗の頬を人差し指で突付いてみる。

 

 

 ぷに。

 

 

 意外にも柔らかな弾力が指先に感じられ、は小さく声を上げてしまった。
 ちょっとどころかかなり驚くべき事だ。

 

 「わ、ぁ……。 政宗って意外ともち肌……」

 ぷぷっと小さく噴出しながら、はもう一度政宗の頬を突付いてみる。
 その度に感じる弾力がとても柔らかく面白くて、はついつい調子に乗って何度も突付いてしまった。これはクセになりそうだ。
 と、その時。さすがに異変を感じたのか、政宗の体が身動ぎをする。それに気づいたは慌てて手を引っ込めた。
 起きてしまったかと思ったが、意外にも政宗は目を覚まさず、軽く首の位置を変えただけに終わる。無意識にはほっと息を吐いた。

 

 随分と政宗は深い眠りの中にいるようだ。
 政宗程感覚の優れた人物が此処までしても目を覚まさないなんて、よほどの事だと思える。一体、どうしたのだろうと思案しただが、それは本当に一瞬の事だった。すぐにその答えを見つける。

 

 「もしかして政宗、疲れているのかな?」

 ほとんど無意識の内にはそう呟いた。

 此処最近、ずっと政務に追われていた政宗。以前、彼の重臣の一人であり弟分でもある少年―伊達成実から聞いた話によると、なんでも政宗はそう言った後の世で言うところの『デスクワーク』の様な仕事をいつも溜め込んでしまうらしい。

 そうして短気集中とばかりに一気に片付けるというのがいつものやり方なのだが、誰がどう見 てもわかるとおり効率は悪い。
 唯でさえ膨大な量だというのに、そんなやり方をしているものだから時には何日も徹夜をすることがある。そうしてその度に、成実と同じ重臣の一人にして兄貴分でもある人物―片倉小十郎に怒られるのだ。
 怒られる位なら普段から溜め込まないようにすればいいのに、と思うだが、その原因の一つに自分の存在が関係している事はまったく知らない。

 政宗が仕事を溜め込む原因。それは超多忙な身であるにもかかわらず、と共に過ごす時間を作ろうと出来る限り仕事を後回しにしたり、一気に片付けているからだ。それこそが政宗が仕事を溜め込んでしまう事の一因……いや、一因というよりは完全にそれが元凶であろう。そんな個人的事情があったりするのだが、残念な事にがそんな事知るよしも無いので、はいつも政宗の自業自得だと呆れ、憐れむばかりだ。


 「……っ て、こんな事している場合じゃない」

 ふと我に返ったはどうするべきか悩んだ。
 今日はとても温かく、日差しが心地よい。それ故ついうとうとしてしまうのもわかるのだが、それでももうすぐ日が翳り始める頃だ。あまり長く此処にいては風邪を引いてしまうかもしれないし、無理な体勢で寝ていたら体も痛くなる。いっそのこと布団に移したほうがいいのではないかと思ったが、さすがにの力で運ぶのは無理だ。
 しばしの思案の末、は少々名残惜しさを感じつつも政宗を起こす事にした。

 

 「政宗。政宗〜、ちょっと起きて〜」

 ゆさゆさとは政宗の体を揺り動かす。しかし、よほど深い眠りなのか政宗は一向に目覚める気配を見せない。
 いくらなんでも叩いて起こすという事は出来ないため、とにかくは政宗の体をさらに揺さぶろうとしたその時。が揺さぶった事により柱に寄りかかっていた体がずれてしまったのだろう。ずるっと政宗の体が大きく傾いた。

 

 「わっ!!」

 殆ど反射的には体でそんな政宗の動きを止めようとした。―と。

 

 

 ぽす

 

 

 「あれ?」

 は思わず呟いてしまった。
 一体何が起こったのか。それに気づくまで少々時間が掛かってしまう。

 

 「え〜っと……」
 事態をうまく把握できずに呆然としたままの状態では視線だけを動かす。そうして自分と政宗を含む現状の把握に努めた。
 柱に寄りかかっていた政宗の体。その体がずれて倒れそうになったのを咄嗟に体で止めた。その結果、それまでの二人位置が完全に変化してしまった。
 の胸辺りに丁度政宗の頭がある。眠る政宗の体はそれまで支えになっていた柱からは完全に離れ、今や完全にへと寄り掛かり、その身全てを委ねる形となっていた。
 どうしていいのかはまったくわからなかった。
 それ以前には体も思考も完全にフリーズしてしまい、身動きがまったく取れない状態になっている。ようやくが硬直状態から抜け出したのは、それからしばし後の事だった。

 

 「…… ん」
 かすかに政宗の声が響く。
 それが引き金となりは弾かれたように我に返る。

 「あ、ま、政宗……?」

 目を覚ましたのかと思っただが、どうやらまだ政宗は目を覚ましてはいないらしい。

 

 「政宗〜……?お〜い」

 そう、呼びかけてみるがやはり反応は無い。
 やはりまだ眠っているようだ。しかも、心なしか表情が先程よりも歪んでいるような気がする。自分の胸の辺りに頭がある為はっきりとは見えないが、なんとなくはそう感じた。

 

 (もしかして寝苦しいのかな?ずっと柱にもたれかかった体制だったし)

 真実の程はわからないが、はそう思った。
 此処から政宗の部屋までは少し距離がある。見張りの兵でも女中でも誰でもいい、誰か通りかかってくれるならば人を呼ぶなりして政宗を部屋に運ぶ事が出来るのだが、人払いをしているのか先ほどから誰も通らず、姿も見えない。

 

 「せめて横になれれば、少しは……」

 そう、何気なく呟いた時。ふとの中で閃きが走った。
 それを認めたは小さく息を吐くと、座ったまま自分の位置を移動させる。それまで座っていた位置から少しだけ後ろに下がってみると、思ったとおり政宗の頭の位置が少しだけ下がった。

 

 「……よし。このまま、こうやって……」

 こうなってはもうどうしようもない。政宗の体を支えながらはさらに後ろへ下がる。
 そうして位置を調整している内、上手い具合に政宗の頭をの胸から膝の上へと移動させる事が出来た。

 「これで少しは楽になる……よね」

 それまで柱に背を預けていた体制からの膝を枕とした横向きの体制になった政宗は、さらに眠りの中へと落ちていく。心なしか険しくなっていた表情も和らぎ、 再び先のように安心しきった無防備な寝顔が戻ったように見えた。

 

 は再びまじまじと自身の膝の上で眠る政宗を見る。

 本当に、よほど疲れていたのだろう。再び小さな寝息を立て始めた政宗に起きる気配がない。
 無意識の内には政宗の髪を撫でていた。
 量の多い、政宗の茶色の髪。少々クセがあるものの、柔らかなその感触はまるで猫の毛をなでているみたいな錯覚を覚える。
 思わずは笑みを浮かべてしまった。

 

 「なんか、政宗可愛い……」

 素直には思った事を口にする。
 いつもの様に自信に満ち溢れた姿とは違う、時折見せる子供の様な姿とも違う、政宗の新たな一面。案外こんな顔をしている姿こそが本当の政宗なのかもしれない。なんとなく、はそう思った。

 

 (そうだよね。政宗だって、人間だもん……。そんな姿絶対に見せないけど……、本当はいっぱい無理をしているんだ)

 静かには政宗の頭を撫で続ける。小さく政宗が身動ぎをしたが、起きる気配は無かった。
 の膝の上で小さな寝息を立てて眠る政宗。それは奥州筆頭でも、伊達家当主でもないただの伊達政宗という青年の姿。決して誰にも見せないようにしていたのであろうその姿は、とてもあの奥州筆頭とは思えぬ姿でもあった。

 だからこそ、は余計に思う。
 今がこのような戦乱の世ではなく、もっとずっと平和な世界であったなら、政宗はいつもこんな顔をしていられたのだろうか……、と。

 

 だが、そこでは考えるのをやめた。そんなこと、考えても仕方の無いことだからだ。

 世の流れは誰にも止められない。人はあるがままにその『時』を受け入れるしかない。
  だから、政宗はこんなにも頑張っているのだ。

 辛くても、苦しくても、その先に未来があると信じているから……。


 「―まったく。こんなになるまで頑張っちゃって……。本当、見栄っ張りで格好つけたがりなんだから」

 そう小さく呟くとはそっと、眠る政宗の頬に触れた。

 

 奥州筆頭である政宗。国の為、民の為、戦い続けている武将。

 若くして奥州を制した彼は、その栄光と引き換えに沢山のものを犠牲にしてきた。きっとこんな風に穏や かに眠れる日は少なかったのではないだろうかとは思う。
 常に命を狙われる危険もあれば、命を奪った罪悪感が重く圧し掛かる時もある。一癖も二癖もある奥州の猛者たちを一手に束ねる為には強くなければいけなかったし、人の上に立つものである以上、誰にも弱みを見せる事は出来ない。
 政宗はずっと常に気を張って生きてきたのだ。……きっと、ずっと、と出会う以前から。

 そんな政宗がこうして穏やかな表情を見せてくれるのはとても嬉しいとは素直に思う。

 偶然にしろ、このように政宗の気が抜けた瞬間に立ち会えたのが自分でよかった。
 少なくとも自分の前でなら気を張る必要は無い。はこの城の居候であり、共に戦場に赴くが決して政宗の従者でも家臣でもない。元々身分があるわけでもな いから気を張る必要性もまったく無い存在なのだ。
 だから、せめて自分の前だけではこうして穏やかなままでいて欲しいとは思う。

 他の人達の前では出来なくても、せめて自分の前だけでは。

 

 「お疲れ様。政宗……」

 

 はごく自然にそう呟くと、再び眠る政宗の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 しばらくした後。
 伊達政宗はゆっくりとその独眼を開いた。

 

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。まったく気づかなかった。
  未だまどろむ意識の中、政宗は無意識に自分の状態を把握しようとする。

 と、政宗は其処で初めて異変とも言うべき事態に気が付いた。

 

 「……?」

 さすがの政宗もこれには驚いた。
 随分と寝心地がいいと思ったら……。政宗はほんの少し首を動かし、自分のほぼ真上に居る人物を見上げる。其処にはよく見知った少女―が居た。
 すぐに自分がに膝枕をされているという事に気付いたものの、どうしてこのような状態になっているのかがさっぱりわからない。
 どの位こうしていたのかはわからないが、は政宗を膝に乗せたまま小さな寝息を立てて眠っていた。

 

 「…… ?」

 静かに、政宗は声を掛けてみる。しかし今度はの方が眠りこけてしまったようでまったく起きる気配は無い。
 そんなを見た政宗は、思わず笑みを浮かべてしまった。

 

 「……The person who says you…….……ったく。お前って奴は本当に……」

 政宗は小さな声でそう呟くと、静かにの下から這い出した。

 

 なんとなくではあるが、どういう経緯でこうなったのかは大体予測が付く。

 願っても無いの膝枕から離れるのは少々……否、かなり名残惜しいが仕方が無い。腹筋だけを使って上体を起こした政宗は、すぐにに向き直るとその体に手を伸ばした。
 ほんの少しだけ、自分に向かってその手を引く。たったそれだけでの体は簡単に政宗の方へと倒れてきた。
 政宗は優しくその体を抱きとめてやる。

 先とは逆に、今度はが政宗の胸で寝息を立てる形になった。

 

 「HAPPYそうな顔しやがって……。これじゃ逆になにも出来ねぇじゃねぇか」

 誰に言うでもなく政宗はそう呟くと、静かにの小さな頭に手を伸ばし、その髪を梳く様に撫で始めた。
 つい先ほど、が同じように政宗の髪に触れていたことを政宗は知らない。

 

 「……」
 ごく自然に、政宗は自分の腕の中に眠る少女の名を呼んだ。

 政宗の腕の中、その胸に全てを預け眠りに付く一人の少女。その顔には何とも言えない、笑みが浮かんでいた。
 気持ち良さそうに笑みを浮かべて眠る。その顔を見ただけでこちらも穏やかな気持ちにさせられてしまう。
 政宗は静かにの体に両腕を回すとぎゅっと、その小さな体を抱きしめた。

 


 こうして触れて、改めて思う。
 なんと小さくて細い体なのだろう。
 ほんの少し力を入れただけで壊れてしまいそうな気さえする幼い、幼い、小さな少女。
 だが、この少女が今の自分を支えているということを、政宗ははっきりと自覚していた。


 いつもコロコロと変わる表情。
 立場も肩書きも一切を気にせず、ありのままの自分を見て接してくれる姿。
 本当はとても泣き虫なくせに負けず嫌いだから、いつも全てを抱え込もうとする心。
 そして迷いながら、戸惑いながらも自分の傍に居てくれるというその想い。
 政宗はその全てが愛しいと素直に思う。

 

 そんな政宗の想いをは知らない。けれど、知らなくてもいいのだと政宗は思っている。

 今はまだこの想いを伝える時ではない。今の政宗にはやらなければいけないことがあるからだ。
 民の為、この国の為、一刻も早く天下を手にし、平和な世を作るという大業が。

 

 だから今はこのままで良い。
 少なくとものこんな幸せそうな顔を見る事が出来たのだ。それだけで政宗には十分だ。


 けれど。
 それでも。

 とめどなく溢れるこの想いを止める事は出来ない。

 ……だから。

 

 

 「―好きだぜ……。

 

 そっと、静かに。ただ一人にだけ聞こえるように、政宗は告げた。

 例え相手には伝わらなくても。今はまだ届かないとわかっていても。
 それでもこの想いを密やかに伝える。

 いつか、この想いを本当に伝える時が来たら。その時にこの想いを受け止めてもらえるようにと、願いを込めて。

 

 

 「好きだ。好きだ、。……愛してる」

 

 

 政宗はそう、眠りの底に沈む少女に語りかける。
 そうして政宗は自分の胸にもたれかかっているの顔を上に向かせると、そっとその小さな唇に自分のそれを重ねた。

 

 

  END


あとがき

サイト2周年記念アンケート結果の『政宗夢、トリップ主人公、戦国時代、甘々』ということで書いてみました。
が、これがものすごく難しかったです……。
先に言っておきます。すいません、
甘々ってなんですか?
書いている間中、本気でそう思いました……。
政宗相手のトリップものということだったので、話のコンセプトはすぐに出来上がったものの(またしても連載の番外編的なIFものになってしまいましたが) 内容が……。
これ、本当に甘いですか?って聞きたくなるようなものになってしまいました。甘々難しい。
当初とはまったく違うカンジの話しになってしまったし、最終的には甘さも内容もボンヤリっていうよくわからないカンジになってしまいましたが、まぁ、これで許してください。精進しますデス、はい。(色々期待されていた方、もしも裏切っていたらごめんなさい)
なんだかもう、良くも悪くも色々と勉強させられました。
とにもかくにも当サイトは開設2周年を迎えました。アンケートに答えてくださった方々、そして読んでくださった方々、ほんとうにありがとうございます。
これからも管理人、頑張って色々書いていこうと思いますので、これからもよろしくお願いします。

2009 3/10