
年の瀬は賑やかだ。聖夜を家族で祝うのが習わしのこの国にあって、年が変わる瞬間は友人たちと盛り上がるのが恒例だ。貴族の邸宅などでは華やかなパーティーが催され、盛大に新年を迎える。
先ほどまでいたパーティー会場とは対照的に、しん、と静まり返った夜道を、マクシミリアン・フォン・エーレンシュタインは歩いていた。
こんな夜は彼が連隊長を務める王都の治安を守る薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)でさえも出動することはまずない。無論、治安部隊というのは年中無休なので、何人かは詰所に配置されているが、彼らはまあ、貧乏くじだ。いくつかのパーティーに招かれてはいたが、乗り気がしていなかった彼は、勤務を申し出たのだが、連隊長にそんなことはさせられないと部下たちに固く禁じられてしまった。母からは年末年始くらいは家に帰って来るようにと命じられていたので、実家のパーティーに顔を出し、何人かの令嬢たちと談笑してダンスを踊るという義務を終えてから辞してきた。
最初からそうしようと思っていたわけではなかったが、自然と彼の足は友人の家へと向かっていた。中央教会で法王の右腕として要職を得ている彼は、おそらく年始のミサのために多忙だっただろうが、この時間なら居宅としている自分の教会に帰っているだろう。
足跡の見えない教会の敷地内の雪を踏みしめて、彼はそのドアをノックした。中で人の動く気配がして、静かにドアが開く。
「…マックス、どうしたんです、こんな夜に?」
驚いたように、友人は黒い瞳を見開いた。
「今年一年の穢れを払うために、司祭様のありがたーいオコトバを頂戴しようかと」
片目をつぶって茶化して言うマックスに、友人は苦笑してドアの内側に招き入れた。マックスの冷えた体を温めるように、友人は暖炉の近くの席を勧め、グリューワインを注いだカップをくれた。
こんな日にでも、友人が統(おさ)めるこの教会は、いつもと変わらぬ静寂を保っていた。そして、深い闇のような黒い髪と、それと同じ色の瞳を持つこの友人も、夜の闇に溶けそうなほどに静謐だ。
暖炉の前のソファに座って温かなワインに口を付け、マックスは息を吐き出した。
「…シュワルツ、今年はどんな一年だった?」
年の最後に、ここへ来たのは、この友人の一年が気がかりだったからなのかもしれない。斜め向かいに座った友人は、少し困ったように微笑した。この美しい微笑の裏に、どれほどの想いを抱えているのか、マックスはまだ推し量ることができない。
「……そうですね、そう、悪くはなかったと思いますよ」
マックスへ渡したのと同じグリューワインが入ったカップをもてあそびながら、シュワルツは静かに呟いた。
中央教会の鐘の音が盛大に鳴り響き、一年の終わりと、新たな年の始まりを告げた。
「こうしてあなたと年の終わりを迎えてみると、新たな年が良い年になる気がします」
天使のように微笑む友人の穏やかさに偽りがないことを見てとると、マックスは満足そうにワインを飲み干した。
「Frohes neues Jahr!」
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