第21話 〜感謝の気持ち 広がる緑〜

 

ファオロンに抱きかかえられてアルとリーナはシーナ上空を飛んでいた。

アル「……酷いな…。あんなに賑やかだったこの町が今日一日にしてこの有様だ……」

リーナ「…まるでサーラルドのよう…。こんな場所…二度と出したくないと思ってたのに……」

三人とも悲しげな表情を浮かべて、荒れ果てた町を眺めていた。

そんな中、ファオロンがいきなり声をあげた。

 

ファオロン「あっ、あれはウォン君じゃないかな〜?」

アル「ウォン…それはレンの事か?」

ファオロン「そうだよ〜、彼もほんの少し名字眺めだったからねぇ…。…そんなことはどうでもいいよ…彼、大怪我してるみたいだよ!!ウォン君の所へ行くよ!!」

急降下してファオロンが一人倒れているレンのもとへと飛んでいき、目の前で降り立った。

それと同時に抱きかかえていた二人を地に下ろした。

 

アル「…これは…レン?だが…姿が違う……まさか…」

ファオロン「進化したんだろうね…。姿形は変わっても服装で何とか分かったよ…。けど、これは酷い火傷だ…」

彼は体中に大火傷を負い、皮膚が焼け爛れていた。

着用している耐炎式のローブですら少し燃えて所々に穴が開いてしまっていた。

リーナ「とても痛そう…。レン、いま治してあげるからね」

癒しの力を使い、リーナはレンの火傷を光で包み込んだ。

火傷は少しずつ癒えていき、跡はまだ少し残っているもののだいぶ良くなったようだ。

レン「……う……ううっ…ん…」

ゆっくりとレンが身体を起こす。

 

レン「…ああ…アル、リーナ、それにファオロン…。……あのリザードンはどこへいった…」

アル「黒い奴の事か…?オレ達がここへ来る少し前に奴は空高く飛んでいった…。おそらくもうここにはいないだろう……」

レン「……そうか…。くっ……畜生!…畜生畜生畜生!!!」

握り拳で何度も地面を叩くレン。

彼の目からは涙が零れていた。

リーナ「……どうかしたの?何かあったの?」

レン「……あのリザードンは……親父にお袋…リンを殺した……」

リーナ「…!!…」

彼の口から出た衝撃の一言にリーナは思わず手を口にやってしまった。

 

ファオロン「……それは本当なのかい?」

レン「ああ…信じたくねぇけどな…。嘘だと思うならそこに遺体があるから見てみろよ…」

近くにある彼等の遺体を指してレンが言う。

アルとリーナは遺体の近くに行き、変わり果てたその姿を確認した。

リーナ「…夢だよね…。ロンさんにランさん…リンちゃんの姿を見ることになるなんて……」

二人は目を瞑って合掌をし、冥福を祈った。

 

レン「ちっ…!何でだ…!何でこの世にこんなもんがあんだよ!!こんなのただの殺し合いじゃねぇか…!!…何だよ!同じポケモン同士で何で殺しあわなきゃならないんだよ……くそっ!!」

アル「……とりあえず……ロンさん達を埋めてあげよう…。こんな野晒しじゃ浮かばれないだろうしな…」

リーナ「うん……レンとファオロンも手伝って…」

少し離れた場所にいた二人が遺体の側までやってきた。

 

レン「……信じられねぇよ……。これ、今にも目を覚ましそうな顔してんのによ……」

三人の顔は本当にただ眠っているだけのような顔をしていた。

だが、薄くなった肌の色…やはり死んでいる。

ファオロン「…ウォン君…君が今、すごく辛い思いをしているのは……僕にも痛いほどよく分かるよ。だけど、このままじゃお父さんもお母さんも妹さんも…可哀想だし…そんなくよくよしてちゃ皆も悲しいと思うよ…。だから、埋めてあげよ?」

レン「…ああ……」

 

近くの地面を四人は掘り返した。

長い時間とにかく地面を掘っていた。

手が泥だらけになろうとも、皮膚が傷つこうとも必死に地面を掘っていた。

暫くして漸く一人ずつ納まりそうな穴が三つできた。

四人は協力して遺体をそれぞれの穴に入れた。

 

レン「ふぅ……これで三人ともお別れか…。大好きだったぜ…親父、お袋、リン……一緒にいた時間が短かったけど…今までありがとな…」

そう言ってレンは掘り返した土を遺体に被せ始めた。

後から他の三人も…遺体に土を被せた。

掘り返した土はもう残っておらず、遺体は完全に土の中に埋められた。

レンはその場で木魔法・森羅万象を使って木を作り出し、三人の墓の目印を作った。

その後、四人は手を合わせて祈りを込めた。

 

レン「……ありがとな…アル、リーナ、ファオロン…こんなオレのために……親父達を埋めるの手伝ってくれて…」

アル「…いいんだ…。オレだって…今まで沢山の人を失ってきた…。遺体を埋めるのも何度もやって来たことだし…仲間のためならやってやらなきゃダメだと思ったからな」

リーナ「肉親が死んで悲しいのは皆、一緒だもん…。レンは今、きっととても辛い思いをしているんだと思う…だから、私達が手伝ってあげなきゃって思ったから…」

ファオロン「……ウォン君…君と会ってまだそれほど時間は経っていないけれど、君は仲間だよ。仲間には元気でいて欲しいからね…」

レン「……皆……くっ…うっ……」

流れる涙をレンが拭う。

何度拭っても涙は溢れてきたが、それでもレンは涙を拭った。

涙を拭いながらレンは三人に言った。

レン「……ありがとう……本当にありがとう…!アル……リーナ……ファオロン……」

と、その時だった。

急に森羅万象によって誕生した木が光を放ち始めた。

何事かと思い、その場の全員が木の方を向く。

 

木の光は次第に花のような形となり、地面にポトリと落ちた。

今度はその光が変形を始め、小さな小さな動物のように変わっていく。

動物のような形となった光はその輝きを弱めていき、光が消えた後には一匹のポケモンがいた。

 

アル「な、何だ?」

*「ハ〜イ!そこのゴウカザル君、君の感謝の気持ちしっかりと伝わったでしゅ…」

レン「お、お前は……何者だ!?」

*「ボクでしか?ボクはシェイミでしゅ!」

光から生まれたポケモンが大きな声で名乗る。

 

ファオロン「聞いたことがあるよ〜、シーナにはシェイミっていう幻のポケモンがいて、常にどこかの木に宿って感謝の気持ちを探しているって…」

シェイミ「あっ、フライゴンの君には分かるみたいでしね。そうでしゅ、ボクはずっと感謝の気持ちを探していたのでしゅ。このシーナはすごい発展を遂げて緑がなくなりました。そしていつのまにかこんな荒れ果てた土地に変わっていたでしゅ」

リーナ「そんな…幻のポケモンがどうしてこんなところに……」

シェイミ「この町は可哀想だと思ったのでしゅ…。何もかも壊されてまるはげな土地になってしまったでしゅ。ボクは何とかこの地に緑を取り戻したいのでしゅ…。けど、そんな願いは今叶おうとしていましゅ…」

背中の緑の毛をむくむくと震わせながらシェイミが言う。

レン「どうしてだ?」

シェイミ「ボクはこの地を緑でいっぱいにする力が使えるでしゅ。けれど、そのためには心から感謝を願う気持ちが必要なのでしゅ。だけど、今ゴウカザル君がその感謝の気持ちを見せてくれたでしゅ。だから、ボクは力が使えるでしゅ」

レン「オレの…感謝の気持ち…」

シェイミ「そうでしゅ…。ボクからも感謝するでしゅ、ボクの願いがかなえれそうでしゅ…。今、この力を使うときでしゅ。行きましゅよ〜!ボクの力、感謝の花畑〜!!」

シェイミの体が光だし、周りの空間が眩い光に包まれる。

思わず四人は目を閉じる。

 

 

光は止んだ。

アル達が目を開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。

今まで荒れ果てた土地一面が全て草や花で覆われているではないか。

アル「凄い……これがシェイミの力……」

シェイミ「どうでしゅか?これでまたここに豊かな緑が戻るでしゅ、感謝の気持ちをありがとうなのでしゅ。謝謝(シェイシェイ)。またどこかで会いましょうなのでしゅ」

そう言い残してシェイミは花畑に飛び込んでどこかへと消えてしまった……。

 

リーナ「…すごいポケモンに会ったね。とても可愛かった…また会えると良いな」

レン「会えるぜきっと…オレ達が感謝の気持ちを忘れない限りな」

アル「…たまには良いこと言うじゃないか…レン」

レン「あっ!?それはどういう意味だよ!」

皆がハハハハハと笑う。

それにつられてレンも大きく笑顔で笑った。

さっきまでの悲しみを吹き飛ばすように…。

 

 

キーンキーン…。

 

 

アクセサリーが音を放つ。

アル「…はい…アルですが…?」

イェン「支部長のイェンだ…。いやはや何でか分からないが、外は一面の花畑だな、昔のシーナの町のようだ…。さてと…君達、早く戻ってきてくれ!以上だ!」

ヒュン…と切断音がして連絡が切れた。

 

アル「支部長からだ…。急いで支部に戻ってきてくれとのことだ…。行こう、皆」

アル以外『お―――っ!!』

四人は支部に向かって走り出した。

彼等がいた墓となった場所の周りには特別に沢山の花に囲まれていた…。

 

★To be continued★

 

第22話 〜支え合って みんな生きている〜

 

突如現れたシェイミの力によって緑に溢れたシーナの町。

アル達はユナリッジ支部の支部長室に集まっていた。

 

イェン「ありがとう皆、君達のおかげでシーナの町から闇の狂戦士を追い払うことに成功した。…しかし、ここはこうして彼等の手によって破壊されてしまった。だが、壊れてしまったのならまた作り直せば良い。この町はそれをモットーに今まで発展してきた。君達にはこれから町の復興作業に取り掛かってもらう。いいな?」

その確認に全員が『はい!』と大きな返事をした。

イェン「では…早速だが役割分担をする。アルクロード、レン、君達は負傷者が寝泊りできる小屋や、この町の住民の民家を少しでもいいから作ってやってくれ。リーナ、ファオロンは癒しの力でこちらで預かってる負傷者達の傷を癒してくれ。サンはポリゴン達と協力して食料調達だ。宜しく頼む」

それぞれが分担された通りの仕事場へと向かった。

 

 

小屋を建てるために支部を出たアルとレン…。

何もかも無くなった後の町には、目の前を遮るものは無い。

ただ広い土地に花が咲き、地平線までずっと続いている。

寝転がったら気持ち良さそうな場所だ。

 

アル「さて…。どうやって家を建てるかだが…まずは木材が必要だな」

レン「それは心配ないぜ!まずは召喚術・如意棒召喚!」

魔法陣が展開されそこから紅い棒が出現した。レンはそれを手にとり構えた。

レン「次は木魔法・森羅万象!!ウオオッ!!」

如意棒を頭の上で振り回した後、レンは勢いよく地面に突き刺した。

すると、そこから木が広がるようにして生えてきた。

木はボコボコと生えていき、周り一帯が小さな森のようになっていた。

 

アル「…凄い…。進化して力を上げたな」

レン「うっし、んじゃ人手を増やすか!召喚術・猪八戒・沙悟浄召喚!!」

再び魔法陣がされそこからブーピッグとゴルダックが召喚された。

猪八戒『久しぶりに呼び出されたぞ!ってか、暫く見ないうちに変わりましたね〜レンの兄貴』

沙悟浄『ご無沙汰だな、レンの旦那。随分と逞しくなって…。昔のチビスケの旦那はどこへやら…って感じですな〜』

レン「ハハッ!照れるぜ!じゃあ、早速作業へと取り掛かってくれよ!今から説明すっからさ!」

現れた二人にレンが作業について説明をする。

彼が説明を終えると二人は『お安い御用だぜ!』と声を揃えて、持っている武器で木を伐りそれを使って家を建て始めた。

その様子を見てアルとレンの二人も作業に取り掛かった。

 

 

 

作業をしているうちに時は既に夕刻…。

空ではドンカラスがたくさんのヤミカラスを引き連れて紅い空を飛んでいく。

その空の下には家を造り終えて花畑に座って休んでいるアル達がいた。

 

レン「よっしゃ!今日はここまでだ!ご苦労だったな八戒、悟浄、また明日よろしく頼むぜ!」

レンが言うと、二人は合掌して小さくお辞儀をし、ボワンと煙を立てて消えた。

アル「…終わったな…。しかし…並大抵じゃこんなことはできないぞ、家を一日で二戸建てるのは……」

二人の前には木で作られたログハウス式の簡単な家が建っていた。形も整っており住みやすそうな家だ。

レン「そうだな〜、まっ、あの二人が並大抵じゃないからな!普通じゃできないことも簡単にやってのけちまうんだよ。……しかし…今日は本当にいろんなことが一気に起こりすぎた…」

アル「…ああ、闇の狂戦士の襲撃、シェイミの出現…確かにそうだな。こういう時は、何か大きな事の前触れだったりするものだ」

レン「嫌な前触れじゃなきゃいいけどな…。………はぁ……」

大きな溜め息をつくレン。表情もあまりよく無さそうだ。

心配してアルが『どうした?』と訊く。

 

レン「あぁ……家族のことをな…。親父にお袋にリン…三人ともいつも近くにいてくれたけど、いなくなっちまう時は、本当にすぐにいなくなっちまうんだな…。何で命ってこんなに脆くて儚いんだろうな……」

アル「お前も…オレやリーナみたいに…家族を亡くしてしまったんだよな…。お前の辛さ…分かるよ…。でも、オレはお前が羨ましい……」

レン「ん?どうしてだよ…?」

アル「すぐに立ち直ることが出来るところだよ…。オレなんか父さんと母さん、カリオ先生が死んでしまった時……ずっと辛くて悲しくて泣いてばかりいた。オレは小さい頃は本当に良く泣く奴で極端な受け止め方をよくしていた。誰かが死ぬとかという時は、心の底から悲しんだものだ…」

レン「……そっか。けどな、オレはお前が言うような奴じゃねぇよ…。今、オレは凄く悲しくて泣きたい…。けど、親父が言ってたんだ。『男なら人前で涙は見せるな』ってよ…。親父の事、好きだったからよ…だから、この言葉をずっと心に言い聞かせてきたんだ。けど、そんな親父も…死んじまったんだよなぁ……」

下を向いてレンがふぅーっと息を吹く。

 

レン「お袋も…優しくて綺麗で好きだったなぁ、お袋の匂い、とても良い匂いでまだ覚えてるぜ。リンも可愛い妹で好きだったな、よく『お兄様ちゃん大好き!』って甘えてきてさ…本当に可愛い奴だったよ…。ハハッ、思い出は思い出すとキリが無いぜ……」

アル「…幸せそうな……家族だったんだな」

レン「…ああ…何かよ、家族ってのがいなくなって…アルやリーナの気持ち…分かるようになったぜ…。家族を失うってこんなにも辛いんだな……。でも、そんな中でも強く生きてきた…そんなお前等をオレはすげぇって思うぜ…。ああっ、やべぇ…ちきしょう!涙がでてきやがった……」

涙がこぼれないよう必死で目を擦るレン。

アル「レン……。……オレもリーナも…お前が思うほど凄くない…。オレ達には自分を支えてくれる人がいただけだ…オレにはカリオ先生やギルガさんがいた…。だから、ここまで生きてこれたんだよ…」

レン「……支えてくれる人…か。オレもそういう人を見つけたい……ってか、もう見つけたぜ!!」

いきなり立ち上がってレンが大声で言う。

アル「……誰だそれは?」

レン「決まってんじゃねぇか!お前とリーナだよ!今までオレ達、光の守護者になってから一緒に頑張ってきたじゃねぇか!そういう友達みたいに身近な存在が自分を支えてくれてるんだって気付いた。今だってお前がオレを元気付けてくれた…、ありがとなアル」

アル「…そう言われて悪い気はしない…。オレも…そういう奴になれたんだな……。さあ、そろそろ支部へと戻ろうか、支部長やリーナ、ファオロン、それにサンだって待っているだろうからな」

レン「おうっ!」

二人は立ち上がって支部へと戻っていった。

 

★To be continued★

 

■作者から■

いつも一話一話が長めなので短めにしてみました。

…さて、自分の小説を見てて毎回思うのですが…どうも子供っぽいですね…。

最近、よく見るネット小説は皆、文章力があり何とも本当の小説のように感じられます。

それに比べて自分は…どうしても子供っぽい…。それはいけないことですか?それも一つの個性ではないですか?と言われそうなんですが…

どうも浮いた感があるので微妙なんです。この子供っぽさがまた良いのかもしれませんがね……。

 

第23話 〜癒しの力 ファオロンの笑顔〜

 

アルとレンが支部に帰ると、リーナとファオロンは医務室のような場所で負傷した町人を癒しの力で癒していた。

二人は前からリーナが癒しの力を使えることは知っていたが、ファオロンが使えることは知らなかった。

 

「癒しの力・緩やかな癒し」

 

と、彼は今までに聞いたことの無い名前の癒しの力を怪我人に使った。

これは傷をゆっくりと時間をかけて治していく力のようだ。

時間を追うごとに怪我人の傷は見る見るうちに回復し、傷痕は消えていった。

 

「ボクは一気に回復するような力は使えないけど、短時間で数多くのポケモンを癒せる力があるんだ〜。今ので一気に100人くらいに効果をかけたよ」

 

ニコニコ顔でファオロンが言った。

戦っていた時の残忍の顔とは、大違いの笑顔を彼は見せていた。

彼の優しく男ながらも可愛らしいその笑顔に、町人は心すらも癒されているように笑っていた。

 

近くではリーナも微力ながらも頑張っていた。

その様子は目でも分かった。

彼女の顔からは結構な量の汗が流れている。

どうやら指示を受けたあとから、一秒も休まず癒しの力を使っているようだ。

ファオロンが二人に彼女の頑張りの様子を教えた。

リーナは、癒しの力を使うのに集中してか二人が戻ってきたことに気付いていなかった。

 

彼女が一人の怪我人の治療を終えると、彼女はやっとアルとレンが帰って来たことに気付いた。

リーナ「あっ、アル、レン、帰ってきてたんだね。おかえり」

二人に近づき少し疲れた様子で声を彼女が言う。

アル「ああ…ただいま。…大丈夫か?だいぶ疲れてるようだが…」

レン「オレもそう思う…。ファオロンから聞いたけど休んでないみてぇじゃねぇか。休んだ方がいいぜ」

リーナ「…だ、大丈夫だよ。ちょっとお菓子とか齧ったり水は摂ってるから……」

口ではそういうが、彼女はだいぶ無理をしているような顔をしていた。

呼吸もほんのり荒いように感じる。

アル「とりあえず…今日は早く寝た方がいい…。闇の狂戦士と戦った疲れもあるだろうしな」

ファオロン「ヴァン君の言うとおりだよ。無理して体壊しちゃまだ沢山残っている怪我人の治療ができないからね」

リーナ「うん…そうするね。心配してくれてありがとう…。私、もう少し頑張るから、三人は先に支部長に報告しておいて……。それじゃあね…」

 

三人は少し心配しながら医務室を出て行き、支部長室でイェンに今日の作業の報告をした。

今日の作業の進行状況、リーナの事…その他諸々全てを報告をした。

イェンから『報告ご苦労、明日も頑張ってくれ』と返事を貰った後、三人はポケモン食堂で夕食をとることにした。

アルは炒飯、レンは麻婆豆腐、ファオロンは水餃子を頼み、それぞれ料理を受け取った後、テーブルに着いて料理を食べ始めた。

 

アル「………リーナは…本当に大丈夫だろうか…?」

炒飯を食べる手を止めてアルが言う。

ファオロン「心配なの?」

アル「ああ…何だかだいぶ無理をしている…。そんな気がした……」

レン「オレもそんな感じしてたよ………ファオロンの話だと一度も休んでないって言うしな」

二人の表情が軽く沈む。

ファオロン「大丈夫だよ、きっと。サーレイちゃんにはヴァン君がちゃんと釘をさしておいたでしょ。きっともうそろそろ休んでる頃だよ〜」

アル「……だといいんだがな」

そう言って再びアルは炒飯を食べ始めた。

 

暫くして料理は片付き三人はポケモン食堂を出て、支部の廊下を歩いていた。

レン「そういや思ったけど…今日オレ達どこで寝ればいいんだ?今日作った家はもう保護されてるポケモンが使ってるだろ?」

ファオロン「ああ、じゃあそこを曲がったところに仮眠室があるから、そこを使えば良いよ。敷布団くらいしか無いけど休めると思うよ。きっとサーレイちゃんも来てるんじゃないかな?」

アル「分かった、有り難うファオロン。また明日」

ファオロンと別れ、アルとレンは仮眠室に向かった。

 

仮眠室…。

本当に仮眠する程度の部屋で、敷布団がいくつか敷かれていた。

畳の何ともいえない匂いがして、本部とのインテリアの違いを感じる。

レン「今日はここで寝ることになるな〜…じゃあ、アルおやすみ〜」

速攻で布団に入り、レンは速攻で寝息を立てて眠ってしまった。

アル「……オレも寝るか…。…リーナは…来てないか…。まだ怪我人の治療をしているのだろうか…?」

少し気になっていたが、流石に今日は戦いと家を建てる作業の所為でアルには疲労が溜まり、かなりの睡魔が襲ってきていた。

部屋の電気を消しゆっくりと布団の中に入って、アルは目を閉じるとすぐに深い眠りに就いてしまった……。

 

★To be continued★

 

第24話 〜繊細 癒しの力を持つもの〜

 

アル「朝……か……」

起き上がって目を擦るアル。

周りを見るとレンはまだ目を瞑って眠っていた。

寝ているのは彼だけ。リーナの姿はない。

アル「あいつ……まさか戻ってきてないのか?それとももう起きて出て行ったのか?」

そう呟いて周囲にある布団を見るが、使われたような跡はない。

アル達が部屋に入ってきたときとまるっきり同じ状態だ。

少し経ってレンが近くで伸びをしながら目を覚ました。

 

レン「おはよう…アル。うぁぁ…頭の炎がボォボォだぜ……。んあ…リーナは?」

アル「…それが…戻ってきてないようだ。布団にリーナが寝た後がない」

レン「マジか!?…心配だぜ…。でも、まっ、食堂いけば皆集まるしきっとそこにもリーナはいるだろ。腹減ったし行こうぜ」

二人は使った布団を綺麗に畳んだ後、仮眠室を出てポケモン食堂へと向かった。

 

 

――ポケモン食堂

元々光の守護者の数が少ないユナリッジ支部では寂しげな施設の一つだ。

だが、今日は保護された、手当てを受けた町人たちがいるせいか、少し賑やかに感じられた。

アル達はカウンターのガルーラにメニューを注文し、数秒のうちに作られた料理を受け取り、近くのテーブルに着いた。

朝食を食べていると暫くしてファオロンがやってきた。

 

ファオロン「おはよ〜二人とも〜。…あれ?サーレイちゃんは?」

アル「それが朝から見ていないんだ…。その様子じゃファオロンも見ていないようだな」

レン「う〜ん、あいつどこへ行ったんだ?……て、あれリーナじゃないか?」

声と同時に遠くを指差すレン。

彼の声に反応してアルとファオロンは彼の指の先の方を見た。

遠くからゆっくり、ゆっくりとリーナが歩いて近づいてくる。

彼女は一度彼等の横を通って、カウンターで注文をとり、できあがった朝食を受け取って彼等のいるテーブルに着いた。

 

リーナ「…おはよぅ……アル……レン………ファオロン……」

声も小さく元気のない挨拶をするリーナ。

目の下にクマが出来ており、顔色も蒼白だ。

アル「どうしたリーナ?顔が真っ青だぞ」

リーナ「うん……けど、大丈夫。朝ごはん食べたら…元気になるよ……いただきます…」

食器を使ってゆっくりとリーナが朝食を口に運ぶ。

その量は多くは無い。食欲がなさそうだ。

レン「おい、リーナ。本当に大丈夫か?調子悪いなら寝たほうがいいぜ」

ファオロン「うん、寝るのが一番だよ。無理して起きてたら体壊しちゃうしね」

リーナ「うん…………」

そう言って再びリーナが朝食を口に運ぼうとした。

その時だった!

 

 

ガシャンッ!

 

 

リーナは使っていた食器を落とし、急に倒れて椅子から転がり落ちてしまった。

慌てて立ち上がって三人が倒れた彼女に駆け寄る。

アル「大丈夫かリーナ!しっかりしろ!!」

アルが呼びかけるがリーナは目を閉じて、小さく唸り声をあげるだけで返事をしない。

横からファオロンが手を出して彼女の頭にあてる。

ファオロン「ひどい熱!急いで仮眠室に運ぼう!」

アル・レン「ああ!」

朝食をそのままにして、アルはリーナを抱きかかえて他の二人と共に仮眠室へと移動した。

 

 

――仮眠室。

急いでアルは布団を広げリーナを寝かせた。

彼女はだいぶ辛そうだ。呼吸が荒い。

レン「どうしてリーナが…こんなことに…」

ファオロン「恐らく過労だよ。サーレイちゃんは多分、昨日から食事も摂らず、一睡もしていないんだと思う。彼女の事だから全ての怪我人の治療を終えるまでずっと癒しの力を使い続けていたんだ」

アル「それで力を使い果たし、疲れが蓄積していき倒れたということか……。くっ……」

ファオロン「とりあえず今はこの状況をどうするかだよ…。この事を支部長に話して、これからどうすればいいか訊いてみる」

媒体アクセサリーでファオロンが今までの事を話す。

数分後、連絡を切断して彼が二人にイェンからの指示の説明をした。

 

ファオロン「どうしたらいいか訊いたよ。ヴァン君はサーレイちゃんの看病、ウォン君は昨日に引き続き家を建設、ボクは遠くの町まで行って薬を貰う…だって」

レン「マジかよ!?仲間が倒れてるってのに、オレだけ関係ねぇことを…。オレも何かリーナにためになることがしたい!」

ファオロン「…これは支部長からの指示だよ。言われたことはきちんとやらなきゃダメだよ」

レン「で、でもよ、そんなことしてられっかよ!」

ファオロン「ウォン君!!」

大きな声でファオロンが怒鳴る。

 

ファオロン「君の気持ちも分かるよ。けど、家を建てることも重要なこと…。今、この支部だけじゃ怪我人を保護しきれない。そのために家が必要。君がやらなきゃ多くの人が困るんだ。だから、ここは我慢して…お願い」

レン「……分かった。オレ…頑張る。アル、ファオロン、リーナを頼んだぞ」

二人が『うん』と力強く頷いた。彼等の意志を確認するとレンは家を建てるため仮眠室を出て行った。

ファオロンもアルに『サーレイちゃんと看てあげてね』とだけ言って、出て行ってしまった。

仮眠室にはアルと布団で寝ているリーナの二人だけになった。

アル「とりあえず…熱を冷まさせなければ……」

そう思いアルは部屋の中にあるタオルを水道の水で濡らし、ギュウッと絞った後、リーナのひたいの上に乗せた。

少し楽になったのか、苦しそうな彼女の表情が少し和らいだ。

 

アル「これで一先ずは安心だ…。次は…栄養が必要…お粥でも作るか…」

仮眠室の冷蔵庫の中にあるいくつかの材料を取り出し、アルはキッチンで料理を始めた。

慣れた手つきで料理を進めてゆく。下手な料理人が作るよりずっと上手だ。

数十分してアルの手作りのお粥が完成した。見た目も良く美味しそうだ。

冷めないうちにリーナの所へと持っていく。未だにリーナは目を閉じて辛そうにしている。

 

アル「リーナ、お粥を作ったんだが…起き上がって自分で食べれるか?」

無言でリーナは目を閉じたまま首を横に振る。起き上がれないほど重症のようだ。

仕方が無いのでアルがスプーンでお粥を掬ってリーナの口まで運ぶ。

ゆっくりと小さく口を開けてお粥を食べるリーナ。少し口をモゴモゴと動かした後、お粥を飲み込む。

再びアルがお粥をリーナの口に運び、リーナが少しずつ食べていく。

これを繰り返しているうちに、器の中にあったお粥は空っぽになってしまった。

 

お粥を食べ終えるとリーナは、寝息を立てて眠ってしまった。

昨日からずっと寝ていなかったのだから、無理も無い。

器と食器を片付けた後、アルはリーナの横でずっと彼女を看ていた。

そうしているうちにアルはうつらうつらと眠りそうになっていた。

昨日の疲れがまだ残っているのだ。

何とか起きていようとしたものの、瞼は重く体も何度も前後左右に傾いたりしてしまっていた。

眠気で意識が朦朧として体が片方に傾いた瞬間、アルはそのままリーナの横に倒れこんで眠ってしまった……。

 

★To be continued★

 

第25話 〜繊細 癒しの力を持つもの〜

 

「…て……きて……起きて!」

 

声にはっとし、アルは目を覚まし起き上がった。

横にはファオロンがおり、小さな紙袋を持っていた。

 

アル「ファオロン……オレは…どうしていたんだ…」

ファオロン「今、ボクがここに入ってきたとき、ヴァン君はもう眠っていたよ。疲れてたの?」

アル「……かもしれない。…ん?」

窓から見える風景にアルは目を疑った。

何ともう既に空は赤みがかり始めているではないか。

 

アル「ファオロン!今、何時だ?」

ファオロン「…もう四時半くらいかな?」

アル「バカな!…オレが寝たのは朝だった…。いくらなんでもそんな……だが、たしか前もこんなこと……」

彼の頭の中であることが浮かんでいた。

一年前、闇の世界から帰ってきた時の事だった。

彼は自室に戻りベッドの上に寝転がると強い睡魔に襲われて数秒もしないうちに夢の中に入っていったのだ。

眠ったのは夕方6時ぐらいだったが、起きたのは次の日の朝8時。寝ていたのは約13時間だ。

 

アル「(…ただの疲れだけでこんなに寝るはずが無い。この時と共通しているのは……狂戦士の血の力を使ったとき…。きっと…あの力を使うとオレの身体は……激しく眠りを求めるんだ)」

ファオロン「大丈夫かい?急に黙りこんでしまったけど」

考え事をしているアルを心配してファオロンが声をかける。

アル「あ…ああ。大丈夫だ、それよりお前が戻ってきたということは…リーナの薬を持ってきたということだな」

ファオロン「うん、これがその薬だよ。これをサーレイちゃんに飲ませてあげて」

白い紙袋からカプセルを取りだし、ファオロンがアルに手渡す。

薬を受け取りアルはコップに水を汲んできて、リーナを起こした。

 

アル「リーナ、ファオロンが薬を持ってきたぞ。呑んでくれ」

リーナ「……う…うう…ん……」

少し唸りながらリーナが目を覚まし、ゆっくりを身体を起こす。

まだ辛そう。身体を起こすのもやっとのようだ。

リーナ「…ありがとぅ…アル……ファオロン……」

アルから薬を受け取り、リーナは薬を呑んだ。

水で薬を呑み込み、一つ息を吐くとリーナは急に目を閉じて布団の上に倒れこんでしまった。

まだ少し水の入ったコップが、彼女の手から離れて飛ぶ。

アルは水が零れる前にそれをうまくキャッチした。

横からファオロンが眠ったリーナの上に布団を被せた。

アル「大丈夫か?いきなり意識を失ったように倒れてしまったぞ?」

ファオロン「これはこの薬の副作用だよ。大丈夫、すぐ目を覚ますよ。安心して」

眠っているリーナを見ながら、ファオロンが心配する彼に言う。

ふとファオロンは口を開いて、話を始めた。

 

ファオロン「サーレイちゃん、すごく責任感が強い子みたいだね。彼女さ、悔しかったり他人に迷惑とかかけちゃったりすると、すごく落ち込んだり自分を責めちゃう性格じゃなかった?」

アル「…確かにそんな感じだな。だけど、何でそんなことが分かるんだ?」

ファオロン「そりゃあ分かるよ。だって一緒に怪我人の治療してたんだもん。彼女、すごく健気に頑張ってたよ〜」

アル「たったそれだけの時間でか!?」

驚きの表情でアルがファオロンに向かって大きな声で言う。

あまりの大きな声に、リーナが目を覚ますとおもいファオロンは彼に向かって指を鼻にあててシーッ!と注意をする。

『あっ』と言葉を漏らして申し訳なさそうにアルが再びリーナの方を見つめる。

 

ファオロン「僕は、人のちょっとした行動とか見ただけで、その人がどういう性格だとか、その人が何を思ってるかとか隠し事とかすぐ分かっちゃうんだ」

アル「…そうなのか…凄いな」

ファオロン「……ねぇ、ヴァン君。癒しの力を持つものに共通してるものって何か知ってる?」

そう言われて考えるアル。

しかし、答えは何も浮かんでこなかった。

ファオロン「それはね…心が繊細だって事だよ」

アル「心が…繊細?」

ファオロン「そう。癒しの力を持つと皆、そうなってしまうんだよ。僕だって例外じゃない。だから、戦いの嫌いな僕は、ちょっとした戦いでもああやって見境がなくなって暴走してしまうんだ。それに心も傷つきやすい…僕も戦いを見てると心底心が痛むんだ」

アル「じゃあ、リーナも……」

『うん』とファオロンが頷く。

 

ファオロン「サーレイちゃんは、癒しの力を持っていないとしても、元々ああいう性格みたいだし、繊細な心を持っているから僕なんかより遥かに傷つきやすい」

アル「…ああ…。何だか…可哀想だな……」

ファオロン「だから、ヴァン君が彼女を大切に支えてあげなきゃダメだよ?サーレイちゃんは、今まで君にだいぶいろいろと支えられて、大きな好感をもってるみたいだから」

アル「そんなことまで分かるのか!?………ああ、オレにそれができるかどうか分からないが、やってみるよ」

ファオロン「うん、一応この事はウォン君にも話しておくよ。薬を貰ってきたらウォン君の手伝いするように言われてたし。じゃあ、また戻ってくるから、それまでサーレイちゃんを看てあげててね」

そう言ってファオロンは立ち上がり仮眠室から出て行った。

それと同時に、リーナが瞼を震わせて目を覚まそうとしていた……。

 

★To be continued★

 

第26話 〜責任 か弱き少女〜

 

薬で眠っていたリーナが目を覚ました。

天井を見ていた彼女は横を向いてアルを見る。

リーナ「………アル……」

聞き取れないような小さな声でリーナが言う。

アル「目が覚めたか。具合はどうだ?」

リーナ「………ファオロンが持ってきた薬のお陰で……少しは楽になったよ……」

アル「良かった…。だが、まだ安静だな」

リーナ「…うん。……あっ…アル……」

リーナが思い出したように口を開いた。

 

リーナ「アルが作ってくれたお粥……とても美味しかったよ…。私が小さい頃、風邪を引いたとき……お母さんが作ってくれたもののようだった…。…ありがとう……」

アル「美味しいかったか…。それはよかった、オレも作った甲斐がある」

リーナ「……アルって料理作るの上手なんだね…。それに比べて……私は全然ダメだね…」

アル「…そんなことはないと思う…。去年、お前が作ったオレンカレーは美味しかったぞ(実際は不味かったが…)」

リーナ「…嘘……つかなくてもいいよ。あのカレーね…レンにも食べさせたんだけど……あの後レン、お腹壊しちゃったの…。でね、私もあのカレー食べてみたら……すごく不味くて…」

その時のカレーの味を思い出したのか、少し顔を歪ませるリーナ。

リーナ「あの時…私はあんなにも不味いカレーを……アル達に食べさせてたんだね…。美味しいって言ってくれたのは…私を傷つけないための……嘘だったんだよね?私…それに気付かないで……アル達を苦しませてた。…ごめん……ごめんね…」

アルの方を向き、悲しげな表情でリーナが謝る。

 

アル「悪い…。正直…お前が作ったアレは美味しいとは言えなかった…」

リーナ「…やっぱり……不味いの我慢して…食べてたんだね…」

アル「……けど、リーナ。料理なら練習して上手になればいい。だから、自信を失くさず『誰かに自分の料理を食べさせたい』という気持ちを忘れるな」

リーナ「………うん……私…頑張る。…今度は美味しい料理をアル達に……食べさせてあげるね……」

アル「ああ。楽しみに待ってるよ」

会話が止まった。

数秒間の沈黙が続き、その中でリーナが一つの重い溜め息をついた。

 

リーナ「……私……今回の任務来ない方が……良かったのかな……」

沈んだ声でリーナが言う。

アル「どうしてそんな風に思うんだ?」

リーナ「…私……誰の役にも立ってないし……迷惑をかけてしまった…」

アル「そんなことはない!お前がいなければ、闇の狂戦士の進撃を少しでも止めることができなかったし、短時間で怪我人全員の治療を終えることはできなかった。お前は十分役に立っているよ」

そう言われるが、リーナは首を横に振った。

 

リーナ「アルが言うほど……私は役に立てていない。闇の狂戦士との戦いの時だって、ただ盾で少し進撃を遅めただけだし……アル達に比べて彼らを倒していない。それに巨兵と戦ったときも……彼らに私の攻撃は……全く効いていなかったし…あれはほとんど…アルとファオロンが……倒したようなものだよ…」

アル「そんなに自分を責めるな。元々お前は戦いは得意でないし、気にすることはない」

リーナ「……けど、役立たずだったのは確か…。だから、私……怪我人を治療する任務を…夜も寝ないで頑張ったの……。少しでも役に立たなきゃって思って……。けど、それは裏目に出て私は……風邪をひいて…アル達に迷惑をかけちゃった……。私は…今回何も…誰の役にも立てなかった……。ただ皆の足を引っ張っただけ…。それなら…私なんかいないほうがよかった……」

リーナの表情が更に暗くなっていく…。

彼女は布団に顔を半分埋めて下を向いてしまっていた。

 

アル「……リーナ…。さっきも言ったが……お前は…戦いが得意でないし……体もそんなに強くない…」

リーナ「…………」

アル「だから、お前は無理しなくていい。自分が役に立てていないからって…そんなに頑張らなくてもいい。お前は自分ができることを精一杯やればいいんだ」

リーナ「で…でも……私……迷惑を……」

アル「いいんだ…。たとえお前がどんな迷惑をかけようと…オレはお前を責めたりはしない。お前には癒しの力がある。それで傷ついた者を癒す…それでいいじゃないか」

リーナ「…本当…?…」

涙目になりながらアルの方をみてリーナが言う。

アル「…ああ。それに…お前がいなければ…お前とオレとレン……三人が揃わない。オレは今までやってきたこのチームが好きだ。そのチームの中の一人でもいないのは嫌なんだ。だから、いないほうがよかったとか…そんな悲しいこと言うな。いないほうがいい者なんていない…。オレは…お前にいてほしい。どんなに役に立っていなくても、迷惑をかけたとしても……ただ、いてくれればそれで…いい…。それで…十分だ」

リーナ「……!!……」

彼の言葉にリーナの顔が赤くなった。

彼女の目からは涙が零れていた。

 

アル「…リ、リーナ?…オレは何か悲しませるような事を言ったか?」

首を横に振るリーナ。

リーナ「アル…アルの言葉……とても…優しくて…。私……嬉しくて……。何だか涙が…出てきちゃった……ひっく…うっ…」

涙を手で拭うリーナ。

しかし、彼女の目からはどんなに拭っても、涙が溢れて止まらなかった。

リーナ「…アルぅ……アルぅ……」

アル「…リーナ……」

リーナ「…うっ…っ……アル…。私……本当に…嬉かったよ…。こんな私に…『いてほしい』って…言ってくれて……。…あ…あり……ありがとう……アル…」

そっとリーナは、目を瞑りながら両手でアルの片手を掴んだ。

温かく柔らかなその手の上に、アルはもう片方の手を置いた。

リーナ「……本当に……本当にありがとう…。私……アルのそういう……優しい所……大好きだよ…」

そういうと泣き疲れたのか、薬のせいか、リーナは安らかな顔で眠ってしまった。

アルは自分の手を掴んでいるリーナの手をそっと離して、優しく床に置いた。

 

彼女が薬を呑む際に起き上がった時、頭の上に乗っていたタオルが布団の上に落ちている。

触ってみるとそれはリーナの熱で、温くなっていた。

アルはタオルを水道の水で冷やし、再び彼女の上に乗せた。

そうすると安らかに眠っているリーナの顔は、また一層安らかになったよう見えた……。

 

★To be continued★

 

第27話 〜別れ 本部帰還〜

 

あれから三日が経った…。

アルの看病の甲斐あって、リーナの風邪はすっかりよくなり、元気な姿を取り戻した。

ユナリッジ支部には遠くへ遠征に行っていた十人の光の守護者たちが戻ってきて、彼らは変わり果てたシーナの姿にただただ驚くばかりであった。

支部の支部長室にはアル、レン、リーナ、ファオロン、サン、そして帰って来た十人の光の守護者たちが集まっていた。

 

*「いや〜、驚いたな。あの繁華街のような姿のシーナはどこへいっちまったんです?支部長」

イェン「実は、君達がいない間にシーナは闇の狂戦士に襲われてね…」

今までに起こったことを、イェンが戻ってきた者たちに話す。

アル達の事、闇の狂戦士襲撃の事、シェイミの事…。全てを話した。

話を終えると次はアル達に向かって、イェンが話を始めた。

 

イェン「七日間、本当にご苦労だった。君達がいなければ、破壊されたシーナの町をここまで復興させることはできなかった」

部屋の窓からイェンがシーナの町並みを見下ろす。

そこには破壊前ほどの賑やかさは無けれども、豊かに過ごせる町へと変わったシーナの姿があった。

イェン「僕は本当に君達に感謝をしている。本部には子供でも君達のように強く逞しい光の守護者たちがいっぱいいるのだろうな。総長が羨ましいよ」

レン「いやいや〜、オレ達なんか全然凄くないッスよ〜!」

照れ隠しで頭を掻くレン。

アル「短い間でしたが本当にお世話になりました」

リーナ「ありがとうございました。また来るときがあったら宜しくお願いします」

二人がイェンに向かってお辞儀をした。

イェン「ああ。いつでもまたここに来てくれ。…最後に…君達に少し話がある。ファオロン」

『はい』と返事をし彼の横にいたファオロンは一歩前へと出た。

 

イェン「…実は昨日の夜、彼と話したんだが、どうやらファオロンは君達と一緒に本部へ行きたいらしい」

アル「…そうですか…。…って、本当か!?」

ファオロン「本当だよ。何か君達に凄く親近感が湧いてね、僕も本部に行って君達や君達の仲間と一緒に活動したいな〜なんて思ってね♪」

いつもの笑顔で可愛らしく首を傾げてファオロンが言う。

イェン「僕の方では了承済みだ。君達さえ良ければ彼を本部に移籍しても構わないのだけれど、どうだい?」

レン「いいッスよ!来いよファオロン!オレらと一緒に!!」

リーナ「仲間は多いほうがいいもの。アルも良いよね?」

アル「ああ。ファオロン、オレ達と一緒に行こう」

アルがファオロンに手を差し伸べた。

 

ファオロン「ありがとう、ヴァン君、ウォン君、サーレイちゃん」

前へと出て行きファオロンは彼の手を力強く握り、握手をした。

イェン「良いようだな。ファオロンを大切にしてやってくれよ。では、支部の前まで見送ろう」

支部長室にいるもの全員がユナリッジ支部の門の前へと、集合した。

アル達、支部の者、どちらも名残惜しそうな顔をしている。

 

アル「七日間…本当にありがとうございました。皆さん、お元気で」

ファオロンを含めた四人は軽く手を振り、彼らに背を向けて本部の道へと歩き出した。

後ろからはイェンが『さようなら〜』と手を振り、サンが『またこっちに来いよ〜!』と大声で。

十人の光の守護者たちは『ありがとな〜!』『いつでも歓迎するわ〜!』『ファオローン!向こうでも元気で〜!』『たまには手紙くれよ〜!』と、皆それぞれ違う言葉を彼らにかけていた。

彼らに見送られながらアル達は、本部へと帰っていった。

 

 

長い時間をかけて歩き、漸くアル達は本部に辿りついた。

アル「戻ってきたな。光の守護者(セイントガーディアンズ)本部」

レン「久しぶりだぜ〜。総長とか先輩、後輩、元気かな〜」

リーナ「さっ、早く中に入ろう。総長に一週間の報告をしなきゃ」

三人が本部へと入っていく中、ファオロンは初めて見る本部の姿に見とれていた。

 

ファオロン「たはぁ〜…すごいなぁ〜」

レン「お〜い、何やってんだファオローン!早く早く〜!」

彼の声にはっと我に帰ったファオロンは、急いで本部中へと入っていった。

そして光の守護者本部・総長室――

 

アル「ご無沙汰しておりました総長。ただいま帰還致しました」

ラグナ「久しぶりだな、お前達。暫く見ないうちにだいぶ逞しくなったように見える。レンも進化したようだな、中々かっこいいぞ」

『へっへへ!』と鼻の下を擦るレン。

ラグナ「それと君がファオロンだな。イェン君から話は聞いているぞ」

ファオロン「お初にお目にかかりますラグナ総長。ファオロン・チャンと申します。僕の我が侭によりこちらにお世話になります。どうぞ宜しくお願いします」

お辞儀をする彼にラグナが『こちらこそ』と礼を返した。

ラグナ「さて、ここ一週間の報告を聞こうか」

アル「はい…。少し長くなりますが……」

そう言ってアルがシーナであった出来事全てを話した。

 

 

数分後――

アル「と、簡単に話すとこんな感じです。以上で報告を終わります」

ラグナ「うむ。…しかし…闇の狂戦士か…。闇の王が消えた今ではもう彼らの襲撃はなくなると思っていたが…油断はできんな。私からもここの者全員にそれを報告しておこう。ミカエル様にも報告をせんとな…」

ファオロン「あの〜…」

横から小さな声でファオロンがラグナに呼びかける。

ファオロン「えっと、僕はどこのチームに入ればいいのでしょう?ここへ来る途中でのヴァ…アル君の話ではここでは三人一組でチームを組むみたいなので……」

ラグナ「それなら心配はない。君にはサブメンバーとして入ってもらう」

リーナ「サブメンバー…?私達にも初耳ですが…なんですかそれは?」

ラグナ「サブメンバーとはチームには在籍せずに、別のチームからのお呼びがかかった際に、そのチームに一時的に入る者だ。たとえば、リーナの具合が悪く任務に行けないとする。その時はファオロンが代わりに入るというわけだ。任務には一組が四人以上で行くことが認められていないからな。たまには彼を任務に誘ってやれ。さて私はこの後、ファオロンといろんな手続きを行う。すまないがお前達は部屋から出て行ってくれ」

ファオロン「またね〜ヴァン君達。僕の力が必要な時はいつでも呼んでね〜」

総長室を出たアル達三人…。

 

アル「さて、これからどうしようか?」

レン「あ〜…。オレの考えだけどよ。久しぶりの本部だし、お互いここで好きにやりたいことあるだろ?解散してそれぞれ自由行動しようぜ」

リーナ「うん、私はレンの考えに賛成だな。アルはどう?」

アル「…それもいいな。じゃあ、二人とも。またな。では、解散!」

アルの言葉で三人はそれぞれ違う方向に歩いていった……。

 

★To be continued★

 

■作者から■

長かったユナリッジ支部編もこれで終わりです。

いやぁ〜、たった一つの編で27話も使っているようでは、いくら話があっても足りませんな〜。

とりあえずここまでで一つの物語が終わりました。これからの展開にご期待ください。

それとサイトの方のFeature&Analysisの方はかなり更新されていますので、最近見ていなかったなぁ、という方は見てみると新たな発見があるかもしれませんよ。

では〜。

 

第28話 〜視線 赤く染まる少女〜

 

セイントガーディアンズ本部…。

その中にある一つの施設…ポケモン食堂。

そこへと向かう一匹のポケモン。

 

リーナ「お腹…減ったなぁ……」

キルリアのリーナだった。彼女の呟きは無理もない。

シーナから本部までの距離は想像を絶する。徒歩で約7、8時間。

車という便利なものがあればもっと少ない時間でいけるだろうが、生憎この世界にそんなものは存在しない。

少し廊下を歩いて、彼女はポケモン食堂についた。

現在午後三時ほど…。おやつやティータイムでここへ食べに来る者が多い時間帯。今日もそこそこの人数がいる。

リーナはカウンターにいるガルーラに注文をとった。

 

リーナ「えっと…シフォンケーキとミルクティーをください」

ガルーラ「あいよ!」

数秒のうちに注文されたものを作りあげ、ガルーラはそれをお盆に乗せて彼女に渡した。

ガルーラ「はい、できたよ!いや〜、万年割烹着(かっぽうぎ)のあたしがこんなん作っても似合わないね〜!ハッハッハ!!」

笑うガルーラの姿を見てリーナも少し『ハハハ…』と苦笑いをした。

お盆を受け取って彼女はテーブルに着いて、美味しそうなシフォンケーキを口にした。

 

リーナ「美味しい…。私もこれくらいお菓子とか作れたらいいのに……」

そんな風にケーキを食べていると、遠くから一匹のポケモンがやってきた。

長い桜色の触角と毛、美しい青と桃色の鱗…。ミロカロスのレイファ。アルやリーナの先輩にあたるポケモンだ。

彼女が近づいてくるのに気付き、リーナは声をかけた。

リーナ「レイファ先輩、お久しぶりです」

レイファ「あら、リーナちゃんじゃない。前、いいかしら?」

『いいですよ』と返事を返すリーナ。

ありがとうとでも言うように、レイファが頷いた後、テーブルに着いた。

 

レイファ「最近調子はどう?」

リーナ「あ…はい。元気にやっています。アルやレンとも仲良くやっています。先輩はどうですか?カイ先輩と付き合ってるみたいですけど……」

レイファ「私は楽しいわよ。カイとも上手くやれてるわ。やっぱり好きな人といる時間はとても楽しくて心が安らぐわ。お互いがお互いを好きなんだって思うと…更にね。フェザーも冷たかったけど、最近はよく接してくれるようになった…。その時、ちょっと顔が赤くなってたりするのが…フフッ…カワイイわね」

そう言った後、レイファはヒメリティーを口にふくんだ。

リーナ「本当に楽しそうですね…。いいなぁ…先輩」

レイファ「リーナちゃんも早く好きな人見つけて、青春を楽しみなよ?貴方くらいの歳が一番、好きなことが出来て楽しい時期なんだから。今、気になってる人とかいないの?」

リーナ「えっ…あっ…うん…っと……い…いません…よ…。」

『そう』と少し残念そうな表情でレイファが返事をする。

 

リーナはまたケーキを一口サイズに切って食べ、また一口サイズに切って食べようとした…その時だった。

何かに気付いたかのように彼女はケーキが刺さっているフォークを持っている手を止めた。

彼女の様子に気付きレイファは『どうしたの?』と声をかける。

しかし、リーナは何の反応もせず、ただぼーっとして遠くを見つめているようだった。

レイファが彼女の視線を追っていくと、その先にはボーマンダのカイザーと仲良くティータイムを楽しんでいるアルの姿があった。

暫くするとリーナの視線に気付いたのか、アルがこちらの方を見た。彼とリーナの視線が合う。

それにリーナは顔を赤らめて慌ててアルから目を逸らして俯いた。

彼女の様子を一部始終見ていたレイファは少し意地悪そうな顔をしながらリーナに言った。

 

レイファ「リーナちゃん!」

『は…はいっ!』と返事をしてパッと顔をあげて彼女のほうを向くリーナ。

レイファ「ねぇ…リーナちゃん。……もしかしてアル君のことが好きとか?」

彼女の言葉にリーナの顔が真っ赤に染まる。

リーナ「…え…そ……ち…違います!私は…別に……アルの事……」

除々に彼女の言葉は小さく、弱くなっていく。

レイファ「顔…真っ赤よ。やっぱりね……」

リーナ「…あうぅ……恥ずかしい……。どうしてわかったんですか…?」

恥ずかしさのあまり彼女はまた顔を俯かせた。

レイファ「だって…リーナちゃん、アル君をぼーっとみつめてるんだもの。分かるわよ。ねぇ?どうしてアル君が好きなの?」

リーナ「……アルは……最初あった時から…かっこいい男の子だな…って少し思ってました。だけど、性格は少し冷めた感じで…何か余計なこと言ったら怒られそうで…近寄りがたい雰囲気もありました。でも、彼と接している間に…とても優しい所があるって…分かったんです」

相変わらずリーナの顔は赤いが、アルと視線があったときよりは和らいでいた。

 

レイファ「そうなの…。で、ズバリどこに惚れちゃったの?」

リーナ「……アルは…どんな時でも私を…支えてくれたんです。優しい言葉で…沈んでたり折れそうな私の心を包み込んでくれたんです。しかも、その言葉には変な下心はない。“かんじょうポケモン”の私には分かります。本当に心の底から出る言葉を…私にくれるんです。私は幾度もアルに助けられてきました…」

リーナは今までにアルに助けられてきたこと全てを話した。

スペクター戦後…出てきた涙を拭くためにハンカチを渡してくれた事。

ベルセルク戦後…自信が傷だらけにも関わらず、動けない自分を背負って本部まで運んでくれたこと…。

辛い過去を引きずってる自分を、励ましてくれたこと。

どんなに小さく些細なことでも気にかけてくれたこと…。

 

リーナ「最後に…私が一番嬉しかった事…。私…この前の任務中の任務先で風邪を引いてしまったんです。私はその任務で役に立てなくて…役に立とうとして頑張ったことも裏目に出て風邪を引いてアル達に迷惑をかけてしまいました。けど…彼は私に言ってくれました。私にいてほしい…って。どんなに役に立っていなくても…迷惑だったとしても……」

その時の事を思い出したのか、リーナの目には涙が浮かんでいた。

リーナ「私……それが純粋に嬉しくて…泣いてしまいました。彼の言葉を聞いた時……胸がキュッと締め付けられたように感じたんです…。そしたらいつのまにかアルのほうに視線が行ったり、アルの事を意識するようになっちゃって…。最近じゃ、恥ずかしくて…アルの顔もちゃんと見て話せません…」

レイファ「そっか…。アル君って本当に良い子ね。結構ここでも二枚目だって有名だし…リーナちゃんが好きになる気持ちも分かるわ」

リーナ「けど……私…この恋は叶わないな…って思ってます……」

少し諦めの表情でリーナが言う。

彼女の言葉にレイファが『どうして?』と訊いた。

 

リーナ「…アルって…女の子に興味なさそうな感じですし…仲間以上の存在とは思わないかもしれません。それに…私よく泣いてしまうから……もしかしたら『泣けばいいと思ってる』と思われてるかもしれないです……」

レイファ「…う〜ん、そうねぇ…。確かにそうかもしれないけど、リーナちゃんが積極的に話したり、優しくしてあげたりすると…気が傾くかもしれいないわ。男の子って…女の子のそういう気持ちに弱いからね。それに…泣いちゃうのは仕方ないと思うわ。誰だって泣きたいときはあるもの。そういう風に思うのはそういう目で見る周りの目がいけないの。リーナちゃんは何も悪くない、気にすることはないわ」

リーナ「…ありがとうございます…。私…晩生(おくて)だから…なかなか勇気がでないかもしれないけど…頑張ってみます」

レイファ「うん。その意気よ。じゃあ、私そろそろ行くわね。じゃあね、バイバイ」

椅子を立ってレイファは食器をカウンターに返した後、食堂を出て行った。

少しの時間が立った後、リーナも食器をガルーラに返した。

彼女はまたアルがいたテーブルのほうを見たが、そこにはもう彼の姿は無かった……。

 

★To be continued★

 

第29話 〜願望 思う心〜

 

アルはポケモン食堂で板チョコレートを齧っていた。

以前ガルーラから貰ったものより少し新しめ。

ここに来て新しいのを貰ったようだ。

 

アル「美味しいな…。やっぱり…オレはこれが好きだ…」

銀紙からはみ出ているチョコレートをアルはまた齧る。

チョコは既に規則正しい四角の形をしておらず、彼の歯形がついたガタガタの形となっていた。

口の中でアルがチョコを転がしていると、遠くに見えるカウンターの方から一匹のポケモンが近づいてきてテーブルにやってきた。

ボーマンダのカイザーだ。アルの先輩にあたるポケモンである。

 

アル「カイザー先輩、久しぶりです」

カイザー「何やら見覚えのある奴がいるな…と思ったらお前か。久しぶりだな」

アル「はい…。ここ一週間任務でユナリッジ支部の方に言ってたんで…」

カイザー「ハハハッ、そうかぁ。っと、ここを失礼するぞ」

アルの向かい側の席にカイザーが座る。

 

カイザー「ははっ!しっかしお前はまだ進化してないみたいだな。チビッコロだ」

アル「は…はぁ…。一応頑張ってますが…。しかし…この姿を早くなんとかしたいですね…」

カイザー「どうしてだ?オレは今のそのリオルの姿も悪くないと思うがな」

アル「…リオルは身長70cmです。もう15歳にもなるのに…この小さい体は嫌だな…と。女の子のリーナよりも低いですし、後輩とも同じ身長です…。ですから、見栄えがなくて…何か納得が行かなくて……」

少し気分落ち気味にアルが言う。

そんな彼を見てカイザーはフッと笑いコーヒーを飲んで言った。

 

カイザー「なるほどな。けど、別にいいんじゃないか?」

アル「…けど…何というか…オレのプライドが許さないんです…。よく考えてみたらルカリオに進化しても…通常より大きく成長できなければリーナがもしサーナイトになった時彼女を抜けない。……カイザー先輩は普通のボーマンダより…大きいですよね。どうしてですか?」

カイザー「分からん…そんなもんオレが知るわけないだろ?適当に進化したら大きくなっただけだ。……どうやらお前は背を高くしたいようだが…まぁ、その気持ちを強く持てばきっと普通より大きくなれると思うぜ」

自信ありげな表情でカイザーが言う。

彼の言葉に『どうしてですか?』とアルが訊いた。

 

カイザー「…ああ…。これはオレがタツベイの時の話だが…。オレはランディグーンという小さな村の出身だ。そこには翼の生えたドラゴン達がいっぱいいた。当然オレの父上と母上も翼が生えていた。オレは父上や村で飛び回ってるドラゴンを見て思ったよ。『いつか父上のような大きな翼を持って空を飛び回りたい』ってな。で、オレはそれをタツベイの頃からずっと思い続けた。そしたらその結果、この紅くて立派な翼が生えたんだ」

翼を見せ付けるかのようにカイザーは翼を大きく広げた。

カイザー「だからお前も進化するまで、その気持ちを捨てずにいれば…普通より3、40cm大きいルカリオになれるんじゃないか?様はオレが言いたいことは…思う気持ちが大切だってことだ。そうすればきっと報われる」

アル「……そうですね。何か先輩が言うと説得力があります。オレ…その気持ちを捨てません。ずっと思い続けます」

『頑張れよ』とカイザーが笑いながら彼を励ました。

会話が途切れて、アルはしろいハーブティーを一口飲んで一息ついた。

ハーブティーの入ったカップを下ろすと、アルは何かを感じたのか横のほうを見た。

その先にはこちらを見ているリーナの姿があった。

彼が見るや否や彼女は『あっ』と声を漏らしたように口を開けた後、すぐに顔の向きを変えて俯いていた。

 

カイザー「どうした?」

横からカイザーが訊いてきた。

アル「いや…何かリーナがオレを見ていたような気がしまして……」

カイザー「ほぅ…もしかしてあいつ…お前に気があるんじゃないのか?」

アル「は、はぁ?…まさか……」

カイザー「そうか?まぁ…どっちでもいいがな。じゃあ、オレはそろそろ行くぞ。これからも頑張れよ。応援してるぜ」

そう言ってカイザーは席を立ってポケモン食堂を出て行った。

アルも少し経った後、食堂を抜けて寮の自分の部屋に戻っていった。

 

アルの部屋は常に片付いている。

と、いうよりは散らかすものが無いといったほうが正確か。

この時間、部屋の窓からは紅く綺麗な夕日が差し込み、光と影が鮮やかに部屋を彩る。

少ししんみりするこの時間と空間。まるで黄昏の岬のよう…。

アルはベッドの上で寝転がって天井をみつめた。彼は考え事をするときは決まってこうする。

 

アル「…(思う…気持ち…。思い続ければ報われる…か。背が高くなるよう思い続けてみるか…)」

頭の中で彼は何度も『背が高くなるように』と念仏のように唱えた。

だんだんそれに疲れたのか、アルは大きく深呼吸をした。

アル「(…さっき感じたあの視線…。あれは確かにリーナのものだ…。波導で感じることができた。しかし…なぜだ…。まさか先輩の言うとおり…本当に…)」

そう思うとアルの頭の中にそれが広がった。

アル「(リーナが…オレに…か。…まさかな…こんなオレを…誰が好きになるというんだ…。こんな…オレを…)」

彼は目を瞑りながら心の中で呟いた。

数分後…彼はシナングからここまで歩いてきた疲れが出たのか、寝息を立てて眠ってしまった…。

 

★To be continued★

 

第30話 〜最初 最初の者達〜

 

翌日…総長室にはアルとレンが集まっていた。

依頼のためにラグナに呼び出されたのだ。

 

ラグナ「よく来てくれた」

レン「あれっ?リーナはどこです?」

ラグナ「彼女には少し別の事をさせている…。サブメンバーを入れてやりたいところだが生憎今は誰もいないのだ。しかし今回の任務は簡単だ。お前達二人だけで言ってもらおう」

ゴホン!と一つ咳払いをした後、ラグナが任務の説明をする。

 

ラグナ「今回お前達に言い渡す任務は魔石調達だ。新人たちに渡す魔石が切れてしまっていてな。マドルノまで行き魔石を貰ってきて欲しい。いいか?」

アル「それくらいなら…大丈夫ですね。いいですよ」

レン「オレ達にまかしてくださいっすよ!」

ラグナ「うむ…。では、頼んだぞ」

二人は『はい!』と大きな返事をして本部を発った。

 

マドルノまでは歩いて約一時間。

シナングに比べたら短い道のりである。

会話をしながら二人が村へと向かっているとあっというまに着いてしまった。

 

魔石の村マドルノ――

一年前…闇の狂戦士の襲撃により多くのものが殺されてしまった。

しかし、それを感じさせないほど、たった一年間でここはかなりの復興を遂げていた。

 

アル「…さて…魔石精製場に行くか。そこにいけば魔石を分けてもらえるだろう」

レン「だな!そういえばガトスさんいっかなぁ?元気だといいけどなぁ…」

二人は近くにある大きな魔石精製場へと入っていった。

中では何人かの錬金術師が瞑想をしながら魔石を作り出していた。

ちょうど一人の錬金術師の目の前で一つの魔石ができあがっていた。桃色…秘術魔石だ。

 

レン「うわっ…何か入っちゃいけないときに入っちまったみたいな…」

アル「……あまり喋るな…レン…」

ここは音を立ててはいけないような状況だった。

二人はその場に立ったまま動けなくなっていた…。その時だった。

部屋の奥から一匹のドダイトスが姿を現した。

 

ドダイトス「あれ?何か人の声がするなぁ…と思ったらあなた達でしたか?アルさんと…そちらのゴウカザルはもしかしてレンさんですかな?ハハハ、久しぶりですねぇ」

周りの空気をお構いなしにドダイトスが笑う。

レン「へっ?あんた誰ですか?つか、何でオレ等の名前を知ってるんすか?」

ドダイトス「嫌ですよぉ…忘れちゃったんですか?私ですよ、ガトスです」

アル「あ…あのガトスさんが…たった一年でドダイトスに…。だいぶ変わりましたね」

ガトス「ハハハッ、そうですかねぇ。…あっ、別にどんなに騒いでもここでは大丈夫ですよ。ここの彼らは瞑想に集中していて他の音は耳に入ってませんから。楽にしてください」

レン「あっ、じゃあ…よっこらせっと」

レンがその場に座って胡座をかく。

アルもそう言われてゆっくりと腰を下ろした。

 

ガトス「さて…と。総長さんから連絡が来てますよ。私達から魔石を貰いにきたようですね。ちゃんと用意してありますよ。よよっと」

体を振るわせてガトスが背中の盆栽のような木を揺らすと、大きめの袋がポトリと落ちた。

その袋を口に銜えて彼が二人の前へと前進してくる。

ガトス「はい。これが魔石です。それからせっかく来ていただいたのでお二人に授けましょう」

再び彼が体を震わせると木から魔石がいくつか落ちてきた。

それを優れた動体視力で二人が手で上手くキャッチをした。

 

ガトス「おっ、まるでドードリオのきのみどりばりのキャッチですね。秘術魔石、応用魔石それぞれ三つずつです」

アル「こんなに貰ってよろしいのでしょうか?」

ガトス「いいんですよ。魔石の原料が結構採掘されるようになりましたからねぇ。さぁ、早くその袋を持って本部へお戻りください。総長さんが待っているでしょう」

レン「おっ、そうだな。んじゃあ、オレたち行きます。ありがとうございました」

ガトス「またいつでもこちらにおいでなさってください。さようなら」

お辞儀をするガトスを背に二人はマドルノを後にした。

 

本部までの道中…。

ユナリッジという緑の多い地域を通っているだけあって道の脇には林がある。

ここではたまに盗人やゴロツキが町や村へ向かう者を襲うことでも有名だ。

全てユナリッジをよく知るレンの話だ。

 

アル「…意外と物騒なところもあるものだな…この地方は…」

レン「…ああ、オレも昔家から本部まで来るときは襲われそうになったぜ…。と、噂をすれば…」

何者かの気配を感じ取ったかのようにレンが立ち止まった。

レン「…今よ…殺気を感じたぜ…。…殺気を放ってるやつは今、隠れてやがる…」

アル「本当か?…ならば…。オレの波導で……」

目を瞑り手を前に出し耳のような垂れた黒い器官を震わせるアル。

アル「…林の中に何かがいる…。そこにいる奴…出て来い」

*「ちっ、バレちまったか…。いいぜ、オレ様の華麗なる姿…見せてやるよ!!」

声と共に一匹のポケモンが飛び出した。

長く赤い耳、鋭い爪、猫のような目…かぎづめポケモンのニューラだ。

しかし普通のニューラより耳と爪が長く、目も鋭い。

 

ニューラ「へっへっへ…。待ってたぜ、お前等がここを通るのを…。いつぞやの礼はきっちり返させて貰うぜ」

レン「お、お前はっ!!」

ニューラ「ハッハッハ…オレ様の登場に驚いているようだな」

レン「誰だっけ?」

ズゴーッ!!と、ニューラが勢い良くずっこける。

ニューラ「だ――っ!覚えてねぇのかよ!オレだよ!一年前お前とナエトルを襲った!!思いだせ!!」

アル「…まさか…シャドウ!?」

クックックックとニューラが口に手をあてて笑う。

 

ニューラ「あぁ…そうだよ。オレはシャドウ。全くあんときはお前等の魔石強奪に失敗してケルベロス様の煉獄火炎で焼かれて死んじまったよ…。けどな、闇の狂戦士の新たな技術によりオレは新たに生を受けた!!」

アル「(ケルベロスが…そんなことをしていたとはな……)」

シャドウ「新たに生まれ変わったオレはネオシャドウ!!こんどこそお前等の持つその魔石を闇の世界に持ち帰るぜ!!」

爪を振り回し大きくシャドウが乱舞する。

レン「めんどくせぇな…けど、やるっきゃねぇな。なぁ?アル」

アル「ああ…。オレはお前に構っているヒマはない。さっさと終わらせてもらうぞ」

シャドウ「ヒャッハッハッハ!いくぜぇぇっ!っらぁっ!!」

 

★To be continued★

 

■作者から■

ここで三人の魔石の数をおさらいしてみましょう。

アル:秘術魔石2個、応用魔石1個

レン:秘術魔石2個、応用魔石1個

リーナ:秘術魔石2個、応用魔石1個

という状態です。リーナは一応、もう手にしたという計算になっております。

 

第31話 〜逆襲 蘇った影〜

 

シャドウ「喰らいやがれ!!潜在秘術・潜影殺人!!」

自分の影の中に潜るネオシャドウ。

彼を見失い周りをキョロキョロと見渡す二人。

レン「ちっ、どこへ行きやがった!!」

シャドウ「おいおいどこみてやがる。オレはここだ!」

彼の声がしたと思うとレンの背後からネオシャドウが現れそれと同時に鋭い爪でレンを斬り付けた。

 

 

シュパアアァアッ!!

 

 

レン「ぐわあぁっ…。っつぅ…前よりパワーアップしてんな…」

シャドウ「ヘッヘッヘ、次にやられるのはどっちかな?」

再びネオシャドウが影に潜る。

彼の動きは完璧だ。二人の影からは彼が潜んでいることが分かる目印となるものが全く見当たらない。

いつ、どこから攻撃してくるのは予測不可能だ。しかしアルにとってはそれは関係ない。

彼は潜在秘術・波導剣を発動した。この剣があればどこから攻撃が来ようと剣が自動で攻撃を察知し防いでくれる。

だが…

 

 

ブォン!!

シュパパァァッ!!

 

 

アル「うがあっ…まずい…肩をやられた…」

アルの背後から現れたネオシャドウが彼の足を足払いで転ばせ、足の浮いた彼の右肩を切り裂いた。

傷口を辛そうに片手で抑える。指の隙間からは赤い血がドクドクと流れ出てきていた。

アル「くっ…あの状態では波導剣も意味なしか……」

シャドウ「ハハハハ!!弱ぇ、てんで弱ぇぜお前等。ここでお前等を倒せば、あの方たちの出る幕もねぇ。そしてオレは第出世だ!!」

『フハハハハハ!!』と哄笑するネオシャドウ。

 

レン「スキあり…!炎魔法・業火炎竜撃!!」

竜の形をした炎がネオシャドウ目掛けて飛んでゆく。

しかしその攻撃に即座に気付き彼は影へとまた姿を消した。

レン「ちっ…どうするよアル。こいつにゃ…ダメージを与えられそうにないぜ…」

アル「前戦ったときより段違いに強くなっている…。今まで奴とは違う……」

 

そうしてる間にもシャドウは背後から現れて攻撃をしかけてくる。

アルは足をやられ、レンは背中を切りつけられてしまった…。

さっきからの攻撃で二人の体からは血が大量に流れ出ている。

そのせいかアルの呼吸の乱れは激しく、レンも地面に手を付いてしまっている。

 

アル「…この状況の突破口…。奴はいつも…背後から狙ってくる…。背後…背後……そうか!レン!!」

離れたところにいるレンに大きな声でアルが言う。

レン「…ハァ…ハァ…どうした!?」

アル「奴の攻撃の弱点が分かった…。レン、オレと背中合わせになれ…」

分かったというように、レンは頷きアルのところへと一跳びで跳んだ。

アルに言われたとおり二人が背中合わせになる。

 

アル「これで…奴は前方からしか襲ってこれない…。奴の攻撃の瞬間に大きな一撃を叩き込むんだ」

シャドウに聞こえないほど小さな声でアルがレンに言った。

よぉ〜し、と肩を回してレンが構える。

周りには静寂とした空気が流れている。

その中でネオシャドウがアルの目の前から現れる音がした。

切りつけようと彼が腕を振り上げたその刹那。

真上からアルが波導剣を突き刺す!

 

 

ズシュッ!!

 

 

ギャアァァッ!!と声をあげて影から完全にネオシャドウが飛び出した。

剣を突き刺された顔のあたりを手で覆い、地の上をのたうちまわる。

アル「今だ…!”はどうだん”!!」

レン「おおりゃあぁぁ!!“オーバーヒート”!!」

 

 

パシュウゥゥン!!

ゴオォォォォォォッ!!

 

 

波導弾はオーバーヒートにより包まれ紅蓮の波導弾へと変わり、ネオシャドウの体を貫く。

シャドウ「うぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」

格闘と炎の混合技。

氷と悪タイプを合わせ持つ彼にとってはひとたまりもない。

攻撃をうけたネオシャドウは体から煙をシュゥゥと放ちながらゆっくりと立ち上がった。

レン「どうだ!オレたちのコンビネーション!!」

シャドウ「ヘッヘッヘ……。こんなもん喰らってもオレはまだまだいけるぜぇ…。うおぉぉぉぉっ!!」

ネオシャドウがアル達へと向かってゆく。その時だった。

彼の前に一匹のポケモンが現れた。ハッサムだ。

 

そのハッサムはネオシャドウの拳を片腕の挟み掴んだ。

シャドウ「なっ…あ、あんたは…!!」

驚きの表情を見せる彼をハッサムは地面に投げつけた。

その後、そのハッサムはアル達の方を向いて言った。

 

『久しぶりだねぇ…波導くん』

 

★To be continued★

 

第32話 〜赤羽 光を愛すもの〜

 

『久しぶりだねぇ…波導くん』

 

そう一言いうとハッサムはまたネオシャドウの方を見た。

地面に投げつけられた彼は『くっ…』と辛そうに起き上がる。

シャドウ「痛っ…。何であんたがこいつらをたすけ……」

次の言葉を言おうとしたネオシャドウの前に、目にも止まらぬ速さでブライルが現れ、腕の鋏で彼の首を挟み絞めた。

苦しそうにネオシャドウは必死に彼の鋏を離そうとする。

しかし、ガッチリと掴まれていて離すことはできない。

シャドウ「うげっ…げ…あっ…げはっ……」

ブライル「せっかく復讐したいというから命を与えたというのに…。お前にはガッカリだ…。じゃ、消・え・て!!」

 

 

グシャッ!!

 

 

ブライルはネオシャドウの首を握りつぶした。

大量の血が飛び散り周りの地面を赤く染める。

彼の頭と胴体は離れ、地面に転がり落ちて、闇となって消滅した。

ブライルは何事もなかったように頬をあげて笑顔を作り、アル達に近寄ってきた。

 

ブライル「あいつはオレが殺っといたから、もう大丈夫だぜ。波導くん』

アル「貴方は…ブライル。なぜここに?」

ブライル「ああ…。たまたま通りかかったら見覚えのある奴がいるな〜ってな。で、そいつが襲われてるじゃないか。だから、キミ等を助けてやったんだよ。オレに感謝しろよ〜?」

アルの前に顔を突き出してブライルが言った。

彼は煙草を一本着ているカッターシャツの胸ポケットから取り出し、レンの頭の炎で火をつけてふかした。

 

レン「うわっ、ずうずうしいなぁ。なぁアル、このハッサムと知り合いなのか?」

アル「ああ…。シーナで会ってな」

ブライル「おっ。キミが猿くんか〜。へぇ〜、モウカザルだと聞いてたけどゴウカザルに進化したか。たっくましぃ。ヨロシクな」

レン「…あっ、へい。宜しくっす…」

小さくレンがお辞儀をした。

ブライルもお辞儀を返した後、ちょん切らないよう煙草を丁寧に鋏とって口から煙を噴いた。

 

アル「じゃあ、オレ達はこれで…」

ブライル「おっと、待てよ。ここであったのも何かの縁だ。ちょっとオレに付き合わないか?」

レン「あっ…まぁ…いいっすけど。アルもいいよな?」

『ああ』と言ってアルが頷きながら返事を返した。

ブライル「良いみたいだな。んじゃあ、着いて来いよ。オレがいつも行く町に連れてくぜ」

ブライルを先頭にアル達は彼に着いていった。

 

 

数十分歩いて…彼のいっていた町に着いた。

ブライル「さっ、着いたぜ。ここがオレの言ってた町、ジルティアだ」

町というのは、村の多いユナリッジの中では珍しい場所であった。

ジルティアは煉瓦で立てられたような家や道が多く、この地方では浮いた造りとなっていた。

路地もありそこには何やら怪しげな商人や、ホームレスのような者がいた。

 

アル「変わった…町だな」

ブライル「まぁな。さてと…そろそろあいつらが来る頃かな?」

レン「あいつら?」

三人がその場で立ち止まっていると、何かが近づいてくるような低い音のする足音がし始めた。

その時だった。

 

『ブライル――――――!!』

 

子供の声が聞こえたかと思うと沢山の子供達が路地から出てきてブライルの周りに集まってきた。

皆、着ている服はボロボロで所々ツギハギが目立つ。

『ブライル――!待ってたんだよ〜」

ブライル「おお、悪い悪い。ほらっ」

ズボンのポケットからクッキーの入った袋を出して、子供たちに渡すブライル。

子供達は喜んで袋の紐を解いて中身を取り出して食べる。

『おいしい〜、ありがと〜ブライル〜』

ブライル「ハッハッハ、どういたしまして」

可愛いらしい子供達の笑顔を見ながらブライルがそっと微笑む。

未だ状況がよく掴めないアルが彼に訊いてみた。

 

アル「ブライル…。この子供達は…」

ブライル「こいつらは孤児。戦争で親を亡くした子供達さ。オレはここに来てはこいつらにお菓子をやったり世話をしたりしてるのさ」

レン「へぇ〜、優しいんだな〜。あんた」

ブライル「まっ、これはオレが好きでやってることだ。優しいとかは関係ないよ」

ブライルは煙草を取り出して口に銜え、火をつけながらそう言った。

 

ブライル「あぁ…やっぱりオレこの世界好きだ。明るいし、空気は美味いし、住民はいい奴ばっかだし。全く闇の奴等はここを滅ぼそうなんてくだらないこと考えたもんだ」

アル「どうしたんだ?いきなり…」

ブライル「いやぁ、な…。ちょっと感想をいってみた…。それだけだよ。んじゃ、オレはそろそろ行こうかね。こいつらにもクッキーやったことだし」

『え〜、もういっちゃうの――!』

『もっといっしょにいようよ――!』

ブーブーと子供達がブーイングを言う。

ブライル「我が侭言わないの。オレだってずっとここにいれるわけじゃないんだから。じゃあなガキども〜。また来るから待ってろよ。んじゃ、波導くん達、オレを見送ってくれ」

ブライルに着いて町中を歩いていくと、列車の駅に着いた。

列車はもうまもなく発車しそうでシュッシュッと音を立て始めていた。

 

ブライル「おっと乗り遅れちまう!」

列車の入り口に急いでホームに入っていき、列車に乗り込むブライル。

アル達も彼を見送るためにホームまで着いてきていた。

列車に乗ったブライルが出入り口の側でアル達に話しかける。

ブライル「ふいぃ…お前等と会えて中々楽しかったぜ。またどこかで会おうな」

アル「ああ…。オレもまた会える時を楽しみにしている」

レン「じゃあな、ブライル〜」

ブライル「ああ。じゃあな、波導くん、猿くん」

出入り口の扉が閉まる。

プシーッと音を立てて列車は発車した。

彼の乗った列車を二人はずっと見つめていた……。

 

★To be continued★

 

■作者から■

車がないのに何で列車があるんだと思った方がいるかもしれないんで説明しておきます。

一応この世界は車を作るだけの技能はあるのですが、テレポートができるポケモンがいたり、自分の足で速く長い距離を走れるポケモンが多く、需要が低いため作られていないのです。

列車は多くのポケモンを乗せれるし、速い速度で走るポケモンよりそうでない者が多いため移動手段として作られたのです。

線路はどこまでひいてあるかの説明はまた何れHPで……。

 

第33話 〜成長 少女は強く〜

 

マドルノで大量の魔石を貰い、蘇ったシャドウを戦い、謎の青年ハッサム、ブライルと出会ったアルとレン。

彼らはジルティアでブライルと別れて本部へと戻ってきていた。

アルは総長ラグナに零れそうなほどの魔石が入った袋を渡していた。

 

アル「確かにお渡ししました」

ラグナ「ご苦労だった。これで新人達にも即戦力になってもらえる。闇の狂戦士が復活しようとしている今、一人でも多く戦えるものが欲しいところだ。さて、報酬を渡そう」

後ろにある宝箱からルカリオが描かれた紙切れ二枚を取り出し、ラグナは二人に渡した。

ラグナ「二人に1000ポケだ。大事に使えよ。最近は平和ボケしている光の守護者たちが多くて困っている。お前達もそんな風にならないよう、これからも精進せよ」

『はい!』と二人が大きな返事をした。

 

総長室を後にして二人は解散した。

アルはまだとっていなかった昼食をとり、その後は図書館で読書を楽しんだ。

一つの長い小説を時間を忘れながら読んでいた彼が、本を読み終えた頃には既に夕方となっていた。

『もうこんな時間か…』と言って立ち上がり、本を棚にしまって彼は図書館を後にした。

廊下に一人歩くアル。自分の部屋に一度戻ろうとして、闘技場の入り口の前を通りかかった時だった。

闘技場から一匹のポケモンが出てきた。リーナだ。

アルは彼女に駆け寄って話しかけた。

声に反応し彼の方を向くリーナ。

 

リーナ「…あっ…アル…」

少し疲れ気味の声で話すリーナ。

コートが肩から落ちてしまっているのを見ると一度戦ったか何かをした後のようだ。

アル「どうしたんだ?総長からは別の事をしていたと聞いていたが…」

リーナ「修行をしていたんだよ。私って戦い苦手でしょ?だから少しでも強くなろうって思って…。だから、もう何も食べないで朝からずっと頑張ってたん……」

会話の途中でリーナはいきなりクラリとなって倒れこんだ。

下を向いて床に手をついてしまい、息を少し荒い。

 

アル「大丈夫か?…これを食べろ!」

チョッキのポケットからチョコレートを取り出し、アルはパキッと2段くらいを割り、リーナの口元にやった。

チョコを見てリーナは一口それに噛み付いて齧る。

リーナ「……ふぅ…少し楽になったよ。ありがとう。それ、とても甘くて美味しいお菓子だね」

自分の食べかけのチョコをアルから受け取り、更にリーナは食べ続けた。

アル「オレの大好物だ。滋養効果があるから体力も回復するはずだ」

リーナ「そうなんだ…。って、あれ?アルは甘いのが苦手じゃなかったっけ?もしかしてまた嘘を?」

彼女の言葉にはっとするアル。

自分がした発言をすっかり忘れていたため、矛盾が生じて嘘がバレてしまった。

 

アル「すまない…。あれも…嘘だったんだ」

リーナ「そっか…。嘘はほどほどにしなきゃダメだよ?嘘は泥棒の始まりっていうからね」

アル「ああ…。さて…お前とここで出会ったわけだが…どうする?」

口の中に少し残っていたチョコを完全に飲み込み、コートを着なおした後、リーナが答える。

リーナ「えっと、そうだね。とりあえずポケモン食堂へ行こう。もう夕方だし、それにこの後アルに少し付き合って欲しいの。いいかな?」

『分かった』とアルは返事をし、二人は食堂で夕食をとった。

美味しい料理を食べて二人は満足げだ。リーナにとっては今日初めての食事だったため、彼女はとても美味しそうに料理を食べていた。

夕食を食べ終えアルはリーナと二人で本部内を歩いていた。

 

アル「そういえば何だ?オレに何か付き合って欲しいことがあるみたいなことを言っていたが…」

リーナ「あっ…えっとね…私がどれだけ強くなったかを試してほしいの。ワザはいっぱい使ったけど、まだ実践はしていなから…」

アル「分かった。ならば、早速闘技場に行こう」

 

闘技場――

ここには誰一人として修行しているものはいなかった。

時間帯が時間帯なためである。今は夜のため多くのものが夕食をとっているせいだろう。

だが、それは二人にとっては好都合だった。邪魔となるものはいない。広いスペースを自由に使うことができる。

二人はそれぞれ位置について向き合った。

リーナ「それじゃあ…お手柔らかにお願いね」

アル「ああ…。行くぞ!」

二人の手合わせが始まった。

 

アル「“はどうだん”!!」

リーナ「“サイコキネシス”!!」

アルの方が少し早くワザを使い、波導弾が発射された。

だが、その直後にリーナもサイコキネシスを使い、迫ってくる波導弾を止めた。

サイコキネシスで波導弾を操り、アルにぶつけるリーナ。

格闘とエスパーという対をなすタイプのタブル攻撃を喰らいアルは後ろへ吹き飛ぶ。

アル「う…ぐっ…。やるな…」

リーナ「まだだよ!“マジカルリーフ”!!」

七色の光を帯びた魔法の葉っぱが変則的に動きながらアルの体を切り刻む。

 

シュパパパパン!!

 

アル「…は…速い…!」

リーナ「これで決める!“サイコキネシス”!!」

強力な念波がアルを襲う。

今までのリーナのワザの力とは思えないほど力が上がっている。

相性のせいもあるかもしれないが、アルの辛そうな表情からそれが窺える。

ほどほどで念波を送るのをやめるリーナ。

ワザから解放されるとアルはその場に倒れてしまった。

リーナ「…!…アル!!」

急いで倒れた彼に駆け寄るリーナ。

 

リーナ「大丈夫!?…アル!アル!!」

彼女は彼の体を起き上がらせて揺する。

『うぅっ…』と瞼を震わせて彼はゆっくりと目を開けた。

リーナ「良かった…。ごめんね…私…少し本気を出しすぎちゃって……」

アル「いや…いいさ。それより…強くなったなリーナ。今までとは見違えるほどだ…」

リーナ「…そうかな…。でも、アルにそういってもらえて…嬉しいな…」

少し頬を赤く染めてリーナが言った。

リーナ「それじゃ…えっと…回復してあげるね」

 

リーナはアルの傷を癒しの力で癒した。

みるみるうちに彼の受けたダメージの痛みは消えてゆく。

アル「…よしっ…これで楽になった。さて、オレの役目はもう終わりだな」

リーナ「うん…。ありがとう。今日は私に付き合ってくれて……」

アル「こちらこそ感謝するよ。おかげでオレがまだまだということに気付かされた。総長もいってたが精進しなければな…。じゃあ、オレは行く…。じゃあな…」

リーナ「ああっ…待って!!」

アルが闘技場を出ようとした時、大きな声で彼女が呼び止めた。

振り向いて『どうした?』と彼が返す。

 

リーナ「…あ…えっと…やっぱりいい…。ごめん…呼び止めちゃって……」

アル「いや。それならばいいさ。じゃあな…」

アルは出入り口の扉をあけて闘技場を出て行った。

闘技場にリーナが一人残された。

 

(…もう少しアルと…一緒にいたかったな…。…せっかく二人きりだったから…話とかしたかったな…。けど、任務や修行に付き合ってもらって疲れてるのにそれを頼むのは……少し可哀想だよね…)

 

心の中でリーナは一人呟いた。

 

★To be continued★

 

■作者から■

ここでアルチームの所持金をおさらいしましょう。

現在1000ポケです。あれ?もっと無かったっけ?と思うでしょうが、アル、レン、リーナがシーナで銭湯に入るのに使い、それで一文無しとなったので1000ポケなのです。

というわけで、現在1000ポケだということを頭に入れてもらいたいです。

 

第34話 〜想 少女の心〜

 

リーナは修行で掻いた汗をポケモンの湯で洗い流した。

疲れた彼女にとってこれは至福のひとときだ。

湯から上がり、彼女は自分の部屋へと戻った。

 

外はすっかり暗くなっていたが、月明かりのお陰で部屋はほんのりと明るい。

リーナはコートを脱いでハンガーにかけ、その後ベッドの上で寝転がった。

横になりながら目を閉じて、彼女は考え事を始めた。

 

(私…初めて男の子の事を…好きになった…。アル……私の初恋…。どうしてかな……今までそんな風に思っていなかったのに)

 

リーナは彼の事を頭に浮かべた。

彼の顔、姿、一緒にいた時のこと、自分にやさしく接してくれた事。

思い出せばキリがない。

 

急に息が詰まりそうに苦しくなってきて彼女は左胸をギュッと掴んだ。

心臓に少し冷たい衝撃が走る。

 

(……アルを想うと…何でこんなに…胸が苦しくなるのかな…。いないと…どうしてこんなに切なくなるのかな…。これが恋…なの?誰かを好きになるって…こういうことなの?)

 

胸の苦しみが少しずつ大きくなって、何故だか出てくる涙。

リーナはベッドのシーツでそっと涙を拭った。

 

(アル…一緒にいたいよ…。今度…二人きりで…任務にいきたいな…。アルとレンだけで任務に行った時もあった…。きっと私にもその時があるよね……)

 

想ったことが現実になるよう願って、リーナは眠った。

それと同じ頃…。

 

 

――暗黒宮殿――

 

ブライル「ただいいまッス…」

*「どこへ行っていたのです?貴方は…」

ブライル「ちょっと光の世界へ遊びに行ってたんすよ…。そこのチビッ子は本当に可愛い奴らで、もうここのクソガキとは大違いッスね」

+「それはアタシの事?」

横からアリエスが会話に入ってきた。

 

ブライル「あぁ?違うよ。オレがお前の事悪く言うわけ無いだろう?あっ、アリエス。電気で煙草に着火頼む」

彼は煙草を一本取り出してアリエスに向けた。

彼女は“でんきショック”による火花で煙草に火をつけた。

『ありがとよ』と礼を言って、ブライルは煙草を口に咥えた。

アリエス「ゲホッ、ゲホッ…ってかさ〜、ブラっち。煙たいよそれ。何でそんなもんいつも咥えてるのさ」

ブライル「まぁ…良い気分になるからだな。オレは常に何か咥えてないと落ち着かないのさ」

吸ってる煙草をプハーッとやるブライル。

 

アリエス「アァ…やっぱり煙たいよ…。ってかさ、何でブラっちいっつもそんな私立学校の制服みたいな格好してんの。良い年して…。ダサイよ」

ブライル「五月蝿えなぁ。オレは少年の心を忘れないようにしてるだけだ。少年の心ってのはいっつも持ってなきゃいけねぇのさ。お前にもいずれ分かる日がくるよ、っと」

アリエス「…ふ〜ん、アタシにはよくわっかんないな〜」

*「フフフ…ウフフフ…」

二人の光景を見て、女が口に手を当てて堪えるようにして笑う。

 

ブライル「どうしたんすか?」

*「いや…貴方達は今まで見てきた闇の狂戦士の中でも個性が溢れてて、賑やかと思いまして」

ブライル「それは単なる五月蝿いだけじゃないッスか?ジェミニとか特にそうだ」

*「悪く言えばそうですが…これはとても良いことです。破壊と殺戮しか考えていない野蛮なものよりはマシですわ」

ブライル「う〜ん、そんなもんすかねぇ…」

*「そうですよ…。…しかし、今日は月が綺麗ですね」

天窓から差し込む月の光を見て女が言う。

普段闇の世界の月は赤いが、今日は満月が白く光っていた。

 

ブライル「そうっすねぇ…。月見でもやります?」

アリエス「ヤダぁ…ブラっち。まだ四月だよ。普通九月にやるもんだよ」

ブライル「五月蝿い!闇の世界に四月もクソもあるか!」

ブライルが彼女の頭をポカリと殴った。

 

アリエス「うわ〜ん!ブラっちが打った〜!」

*「ブラ…。女の子を泣かせるのはよくないですわ。だから、女の人にモテないのでは?フフフ…」

ブライル「余計なお世話です…。ああ〜、悪かったよアリエス泣くな泣くな…」

優しく彼女の頭を撫でるブライル。

アリエス「…えへへ…ありがとう。そういうブラっち大好き」

満面の笑みを彼にぶつけるアリエス。

彼女の笑顔を見てブライルは機嫌を取り戻してくれて良かったと少し安心するのだった。

 

*「さて、ブラ…。月見の件ですが、私は貴方の意見には賛成ですわ。タウロスとジェミニも誘いましょう」

ブライル「うっす…。じゃあ、オレが準備しますよ。タウロスに団子と茶でも用意してもらうとするかな…」

アリエス「わ〜い、わ〜い、月見だ〜!」

部屋をはしゃぎ回るアリエス。

そのはしゃぎで彼女は部屋を抜け出していった。

ブライル「…アリエス…まだまだあいつぁ子供だな」

*「えぇ…そうですわね。あの歳で闇の狂戦士になる運命とは…少し可哀想ですわね。貴方もそう思いませんか?ブラ」

『そうッスね…』と少し沈んだ声でブライルが返事をした。

 

 

ブライル「そうそう、前から思ってたんすがオレをブラって呼ぶのやめてもらえないっすかね?女性の下着みたいじゃないっすか」

*「あら、これは失礼。私としたことがはしたない。オホホホホ」

 

★To be continued★

第35話 ――盗聴 謎の通信――

 

アルはいつものように、寮の自分の部屋で目を覚ました。

時刻は午前五時半。いつもより早く目が覚めてしまった。

彼は欠伸と大きな伸びをして、空を見てみた。

明るかった。外ではムックルがピーチュル鳴いている。

日の出が早い。もう六月だからだ。朝は涼しいが昼間は少し暑い。

アルは二度寝しようとしたが、目が冴えてしまい寝付けない。

仕方がないので、洗面所で顔を洗い、歯を磨き、いつもの服装に着替えて、彼は食堂へと朝食をとりに行った。

 

 

――ポケモン食堂――

カウンターにいるガルーラはまだ朝が早いせいか、割烹着姿で鼻ちょうちんを作りながら眠っていた。

おそらく誰かが来るのを待っているうちに眠ってしまったのだろうと、アルは思った。

アル「ガルーラさん、起きてください」

そう言いながらカウンターの奥へと手を伸ばしてアルは彼女の体を揺する。

眠っていたガルーラは『なんだい?』と目をこすりながら目を開けた。

それと同時に鼻ちょうちんもパンッ!と音を立てて割れた。

 

ガルーラ「いやぁ…ごめんね。居眠りしちまったよ。早いねぇ…アル君。朝飯かい?」

アル「はい、早速朝食をお願いします」

『あいよっ!』とガルーラは、いつもの返事をした後、いつもの腕を高速で動かして朝食を作り上げた。

トレイの上にはバタートースト、オムレツ、サラダが盛られた皿とモーモーミルクが一瓶。

朝食を受け取り、アルはガルーラと自分以外誰もいない食堂で一人朝食を食べた。

 

 

朝食を食べ終わって食器をカウンターへと戻すと、彼は再び自分の部屋へと戻っていった。

――アルの部屋――

部屋に戻ってきても何もすることがない。時計を見てもまた六時。

とりあえずベッドの上で寝転がることにした。

仰向けになって天井を見上げていると、キーンキーンと連絡アクセサリーの音が部屋中に鳴り響いた。

誰からだと思い、アルはアクセサリーを口元にやって『もしもし、アルクロードです』と一言。

しかし、相手からの返事はない。

変だと思いもう一度彼は、『もしもし』と言ってみるがやはり返事は返ってこず、変わりに何やらブツブツ呟くような声と、耳鳴りが。

その声を聞いていると何故か眠気が襲ってきた。

必死に抵抗するが睡魔は容赦なくアルに襲い掛かり、彼はついに睡魔に負けてしまい眠ってしまった。

 

 

 

あれから数時間後……

『アルクロード・ヴァンセンス。至急総長室まで。アルクロード・ヴァンセンス、至急総長室まで』

ラグナの声のアナウンスが部屋の中に聞こえてくる。

そのアナウンスでアルは目を覚ました。

アナウンスで言われたとおり彼は、総長室へと向かった。

 

――総長室――

アル「お呼びですか?総長」

ラグナ「よく来てくれた。本来だったらアクセサリーで呼び出すのだが、なぜかいつまでたっても話中だったからな」

話中?と思い、アルはアクセサリーを調べてみた。

コーコーと空気の音がしていて、まだ通信が続いている。

アル「…そうだ。通信を入れたままで急に眠くなって寝てしまったんだった…。すみません…」

ラグナ「まあいい。今からお前に任務を言い渡す。その前にアクセサリーの通信を切っておけ」

『あっ』と、声を漏らした後、アルはアクセサリの通信を切った。

 

アル「で、総長。どんな任務でしょうか?」

ラグナ「うむ。今回の任務はクレヘヴンの南にあるサン・ライセット港に行き、鉱山島から輸入した魔石の原料を引き取りにいってくれ。港までの道はそれほど遠くはないから、お前一人で十分だな」

アル「はい、それではいってきます」

振り返ってアルが総長室から出ようとした…。

その時だった。

 

*「あ……あの……」

部屋の入り口から小さな声が聞こえ、扉が開いて一匹のポケモンが静かに入ってきた。

綺麗な黄緑の髪の毛、赤い触角、コートとミニスカートを着用しているそのポケモンは、リーナだった。

アル「リーナ、どうしたんだ?」

リーナ「…あっ…ちょっとね…。…えっと……総長……」

聞き取れないような小さな声で彼女はラグナに話しかけた。

リーナ「さっきから総長室の前で、任務の話を聞いていました。それで……その……私も………アルの任務に着いていって…よろしいでしょうか?」

ラグナ「盗み聞きとは関心せんな」

『す、すみません……』と、小さな声で彼女は謝った。

 

リーナ「でも……私…アルの任務に着いていきたいんです……」

ラグナ「どうしてだ?この任務は彼一人で十分なのだぞ。どうして着いていこうとする?」

リーナ「え……えっと…それは……その……」

理由を聞かれるとリーナは下を俯いて、黙りこくってしまった。

困ったような彼女の様子を見て、アルはフォローするように隣でラグナに言葉を返した。

 

アル「総長、オレは別にリーナが着いてくるのは構わないですよ。それに彼女はオレと同じチーム。着いてくることは別におかしいことではありませんよ」

ラグナ「う〜む、そう言われてみればそうだな、分かった。リーナ、アルクロードとの同行を許可しよう」

リーナ「あ…ありがとうございます!それでは早速、私達二人、任務に向かいます。行こう、アル!」

アル「ああ。それでは行って参ります」

二人はラグナに対して敬礼をした後、総長室を抜け本部の玄関前へと出た。

 

――玄関前――

アル「それじゃあ、行くぞリーナ」

リーナ「あっ、待って!アル」

彼女に呼び止められて進もうとする足を止めたアル。

振り返るとリーナは少し俯いており、何かを言いたげな顔をしていた。

リーナ「あの…アル…ごめんなさい。…朝…アルのアクセサリーに通信を入れて、“さいみんじゅつ”を使って眠らせたのは…私なの…」

彼女の話を聞いてアルは驚いた。

まさか今朝のおかしな通信を入れたのはリーナの仕業だと思っていなかったからだ。

 

アル「どうして…そんなことをしたんだ?」

リーナ「それは…アルのアクセサリーの通信を入れておけば…アルと総長が任務請け負いのやり取りが聞こえるかなって思って…。私、アルと任務に行きたかったから…。それで二人のやりとりをアクセサリーから聞き取った後、テレポートで総長室の前に来て、任務の内容の盗み聞きしてたんだ…。…ごめんね……勝手にアルの事、眠らせたりしてしまって……」

アル「…いや、いいさ。あの時はちょうど何もすることがなくて困っていたからな。眠ることができてちょうどよかった。逆にお礼を言うよ、ありがとうリーナ」

リーナ「……アル……ありがとう……」

彼の優しさにリーナは頬を赤く染め、小さな声で返した。

 

アル「それじゃあ、今度こそ出発だ。行こうリーナ」

リーナ「うん。一緒にいこうね、アル」

二人は南に向かって歩きだし、サン・ライセット港を目指した。

 

★To be continued★

 

第36話 ――動 小さな闇――

 

――暗黒宮殿パンデモニウム――

 

宮殿の大広間には、ブライルと女がいつものように会話を楽しんでいた。

何かとジョークをかます彼と、それに微笑む彼女。

闇といえど純粋なポケモンらしさが窺える。

 

ブライル「で、オレはガキどもにいってやったんですよ。オレは闇の住人だ!って。そしたら、皆すげぇ!っていうんですよ。いやぁ、子供はおもしろい」

女「貴方は本当に光が好きなようですね。貴方のそういう所、嫌いじゃないですわ」

二人が仲良さげに会話をしていると、大広間に一匹のポケモンが入ってきた。

黒いリザードン、ヒュドラだ。

 

ヒュドラ「よぉ、帰ってきたぜ。いやぁ、光の世界から帰ってくる途中、地獄の火山で火浴びしてたら時間を忘れてしまって、帰ってくるのが遅くなったぜ」

女「…よくあの高温に使ってて火傷しませんでしたわね。さすが貴方というべきでしょうか?で、光の世界襲撃はどうでしたか?」

ヒュドラ「あんなもん温いぜ。っと、報告だな。え〜、まあシーナっていったけか?そこを壊滅させてきた。しつこいゴウカザルもいたが、そいつも焼き消してきた」

ブライル「ゴウカザル…?もしやそいつはこんな格好をしていなかったかな?黒蛇」

腕の鋏の中から一枚の写真を取り出し、彼に見せるブライル。

その写真には茶色いローブと金のアクセサリーを身につけたヒコザルが写っている。

 

ヒュドラ「おお、こいつをちょうどゴウカザルにした感じだったな。知ってるのか?」

ブライル「一年前、闇の王を倒した三匹のうちの一匹だよ。オレは猿くんって読んでる」

その言葉を聞き、ヒュドラはバッと彼の持っている写真を奪い取って見つめた。

ヒュドラ「ほぉ〜、こんな奴に闇の王はやられたのか。闇の王も随分と落ちたものだな」

女「口を慎みなさいヒュドラ。闇の王を侮辱することは闇に生きるものとしてあってはならないことです」

ヒュドラ「おっと、失言だったかな?だけど、闇の王なんてオレとオレの同僚全員で相手すれば楽勝なんじゃねぇの?」

女「貴方はまだあの方の本当の恐ろしさを知りません。おそらく彼らにやられたのは、闇を蓄える量とその期間が少なかったからです。本当の闇を開放したあの方に敵うものはいません!」

よほど闇の王を侮辱されたことが頭にきたのか、すごい剣幕で女は怒鳴った。

 

ヒュドラ「それはマジか…。悪い…誤るよ…。でも、あの方が戦いが起こして犠牲者がたくさんが出てからオレ等の仕事も増えたんだよな〜」

女「それは仕方の無いことです、我慢を覚えなさい。ヒュドラ、貴方に手伝ってもらうことはもうありません。今までどおり、普段の職に戻りなさい」

ヒュドラ「ほいよっ!まあ、世界が闇のモンになろうと光のモンになろうと、オレは関係ねーけどな。んじゃまあ、頑張ってくだせーな」

そう言うと、彼は黒い炎となってどこかへと消えてしまった。

 

ブライル「…なぁ…黒蛇は何者なんすか?闇の狂戦士じゃあないみたいっすけど?」

女「あの子は、ただの破壊と殺戮が好きなだけですよ。だから、今回はそれができる仕事を与えたのです。が、無益な殺生を行うので別の仕事をさせていますが…」

ブライル「それって……」

*「ブラっち!それとお嬢!」

ブライルの言葉を阻むほどの元気な声で、モココのアリエスが大広間に入ってきた。

 

女「どうしました?アリエス」

アリエス「お嬢…。あたし、今からブラっちが持ってた写真の子達に会ってくるよ」

女「なぜいきなりそんなことを?」

アリエス「だって〜、かっこいいし〜、可愛いんだもん!」

 

自分の体の綿毛からリオルとキルリアの写真を取り出し、それを見つめて彼女はうっとりしている。

その様子をみて、驚いたブライルが慌てて自分の鋏の中を見た。

何かを探しているようだが見つからなかったようで、カッターやズボンのポケットをひっくり返しはじめた

が、探し物は見つからず彼の視線はアリエスへと向けられた。

 

ブライル「おいアリエス!お前、勝手にオレから、その写真パクったな!?」

アリエス「細かいことは気にしない!そんなこと気にしてると、またニキビできるよ」

ブライル「余計なお世話だ!…ったく、ホントお前は…」

ムシャクシャした気持ちを晴らすためか、ブライルはカッターの胸ポケットから煙草と取り出し、ブツクサ言いながら吸い始めた。

 

アリエス「で、良いかな、お嬢?良かったら殺ってくるし、そうすれば私達の役目は70%なくなっちゃうけど…」

女「構いませんわ。ただ油断だけはせぬように…。貴方はこれからの闇の世界を担う未来ある子供。死なない程度に頑張って帰ってきなさい」

アリエス「お嬢あたしを甘く見すぎ〜。それにあたしもう子供じゃないし!まあいいや!じゃ、行って来るね〜♪」

バイバイというように手を振ると、彼女は自分の綿毛に入り込むようにして消えた。

 

ブライル「大丈夫っすかねぇ、アリエス」

女「大丈夫ですよ。あの子は子供だけれども光の実力者すら苦しませるほどの強さを持っていますから」

ブライル「…それもそうっすね」

そう言うと彼は煙草の煙を口からプハーッと吐いた後、吸っていた煙草を床に捨て、足でグシャグシャにした。

 

女「…ブラ…。あなた煙草の吸殻はちゃんと灰皿に捨ててもらえませんか?この大広間をいつも掃除するのは私なのですけれど?」

ブライル「おっと、すみません。てか、あんたもその呼び方はやめてくださいね」

 

★To be continued★

 

第37話 ――海岸 独りと一緒――

 

港まではたいして時間はかからなかった。

アルとリーナの二人は、サン・ライセット港へとやってきた。

多くの漁船や貨物船が停泊しており、船乗りの格好をしたゴーリキーやヤルキモノなど体の逞しいポケモン達が働いていた。

空でもキャモメがニャーニャー鳴いていて、雰囲気を出している。

 

アル「着いたな、ライセット港」

リーナ「ちょっと船乗りさんたちが怖そうだね…。大丈夫かな…」

アル「大丈夫だ。総長からこちらには連絡がいってるみたいだから、親切に接してくれるはずだ。さあ、依頼主を探そう。すぐ近くにいるはずだ」

二人は港の船着場のあたりまで、進んでいった。

そこに行くと停泊している船を乗り降りしながら、荷物を降ろしている一匹のオーダイルがいた。

二人の姿が目に入ったのか、そのオーダイルはこちらへ来て話しかけてきた。

 

オーダイル「あぁん?なんだお前達は?ここはガキが来るとこじゃないぜぇい?仕事の邪魔になる前に早くおうちに帰んなぁ!」

強面の大きな顔を二人に近づけて、オーダイルが言う。

そのあまりの怖さにリーナはアルの後ろに隠れ、彼のチョッキの端を掴んでいた。

アルも少し怖気づいたが勇気を出して、言葉を返した。

アル「あ…オレ達は光の守護者たちです。輸入した魔石の原料を引き取りに来ました」

オーダイル「あぁん?そうなのかい。いやぁ、こりゃぁすまんかった!許してくれぃ!」

手を合わせてオーダイルは深々と頭を下げた。

 

アル「いや…。分かってもらえたのならいいです。それで…魔石の原料は…」

オーダイル「おう!この小さな箱さ。持ってってくれ!」

ちょうど船から降ろそうとして持っていた木箱を、彼はアルに手渡した。

見た目よりちょっぴり重たく渡された時、少しよろめいてしまった。

何とか体勢を取り戻しアルは『ありがとうございます』と言って、頭を下げた。

 

オーダイル「また用があったらここに立ち寄ってくれや。名乗るのが遅れたがオレの名は、バルバロ・ジュダ。この貨物船の船長だ。よろしくなボウズ。後ろの嬢ちゃんもだ」

バルバロと名乗ったオーダイルが手を出してきたので、アルも手を出して『よろしくお願いします』と言って握手をした。

彼の力は見た目どおり強く、しかもブンブンと振りながら握手をするものだからアルは少し腕と手が痛かった。

後から怖がってアルの陰に隠れていたリーナも出てきて、小さな声で挨拶すると握手をした。

バルバロ「じゃ、それを早く持って帰ってやんな。総長さんによろしく。まだ時間があるっているなら…近くのライセット海岸に言ってみな。いつも空が澄み切ってて綺麗だぜ」

アル「じゃあ、言ってみますよ。いいな?リーナ」

コクリと言葉なくリーナが頷いた。

 

アル「それでは、オレたちはこれにて失礼します。さようなら」

バルバロ「おう!ボウズ、後ろの嬢ちゃんと二人きりのデートを楽しめ!!」

アル・リーナ「はあっ!?(えぇっ!?)」

彼の発言に、アルとリーナは固まった。

遠くではバルバロが空気を読まずに『ウワハハハハ』と大笑いをしている。

リーナは、何だか気まずくなり、彼から逃げるようにしてライセット海岸に走っていった。

走る彼女をアルは木箱を抱えて急いで追いかけた。

 

 

――ライセット海岸――

港を離れ二人は海岸へとやってきた。

白い砂浜が綺麗で、中に小さな貝や小石が混ざっており、それが太陽の光に反射して更に砂浜の綺麗さを引き立てている。

青い空、白い雲、そして青い海…などと言えるような月ではまだないが、空と海は澄み切った蒼だった。

海水浴に来てるようなものはおらず、親子や青年が砂浜を歩いている程度だ。

ここに来ても特にすることがあるわけではないのだが、とりあえずアルは隣に木箱を置いて座った。

後からリーナも…彼の隣にゆっくりと座った。

 

アル「……………」

リーナ「……………」

 

さっきから二人とも無言の状態が続いている。

聞こえてくるのは波の音くらいだ。

アルの方は特にさきほどのことは何とも思っていないようで、平然と空を見上げたり海を眺めたりしていたがリーナはそうではなかった。

バルバロの言葉を気にしているのか、頬を赤く染めながらずっと顔を俯かせている。さっきのこともあってアルとは顔を合わせられないのだ。

数分間このような状態が続いたが、アルが唐突に口を開いた。

 

アル「リーナ、いきなりで悪いが、訊いていいか?」

リーナ「えっ?…え、あ、う…うん…いいよ。何かな?」

アル「お前はどうしてわざわざオレに着いてきたんだ?本部にいれば自由に休んだり、買い物ができたはずだろう?」

リーナ「……それ、どうしても言わなきゃダメかな?」

あまり言いたくないな…と、訴えかけるように横目をチラチラとアルに向けてリーナが言う。

アル「いや、言いたくないなら無理に言わなくてもいいが……気になってたからな」

リーナ「う〜ん…本当は凄く恥ずかしいけど……いいよ」

そう言うとリーナは再び顔を俯かせた。

 

 

リーナ「えっとね……どうして私がアルに着いて行ったかというと…。私…アルと……一緒にいたかったから…」

そう言ったと同時に、彼女の顔は頬だけでなく全体まで赤く染まった。

リーナ「私…アルと二人きりになりたかったの。…アルと……色々話したりして、楽しい気分になりたかった。私…アルと一緒にいる時が一番好きだから…」

アル「リーナ……」

リーナ「それにアルは…五月、任務がない時、ずっと一人だったでしょう?気づいてなかったかもしれないけど、私、遠くからずっとアルのこと見てたんだよ。私は知ってる…アルが寂しそうにしてたのを…」

彼女の言葉でアルは先月の事を思い出してみた。

 

五月はそれほど任務があったわけではなく、あってもそれは一人の時がほとんどで、仲間と会う機会が少なかった。

レンはいつもどおり後輩とデート、ファオロンは長期休暇でユナリッジ支部へ…。

彼は暇だったため知り合いや仲間と何かしたいと思っていたが、彼が知っている者は皆、何か用事があり、彼には友と呼べる存在もいなかった。

そのため非常に刺激と心に弾みが無かったのが記憶に残っている。

 

リーナ「本当なら…私がアルと一緒にいてあげればよかった…。けど、私…引っ込み思案なところあるから…なかなかその勇気がなくて……ごめん…」

アル「確かに…オレはあの時は、寂しかった…。独りというのは…つまらくて、悲しくて、儚くて…そして寂しい。今回の任務も…独りだと思ったときは、ため息が出そうになった」

言葉重たそうにアルが話はじめた。

アル「でも…お前がオレと一緒に任務に行きたいと言ってくれた時、オレは嬉しかった。そして今、お前はオレのそばにいる。ならそれでいい。謝る必要はない」

リーナ「アルは私が着いてきたことを迷惑に思ってないの?」

アル「とんでもない。オレは孤独が嫌いだ。だから、お前が一緒にいてくれることが…オレと一緒にいたいと言ってくれることが本当に嬉しいんだ。…もし…またオレが独りになるようなことがあれば…一緒にいてほしい。オレも…お前といるときが好きだから」

そう言った後、彼は『自分はなんて恥ずかしいことを言っているんだ』と後々後悔したような顔をしながら、恥ずかしそうに彼女とは反対の方向に顔を向けた。

だが、そんな彼の言葉に対してリーナは、一筋の涙を流した。

 

リーナ「本当に…いいの?私なんかが一緒に…いて…」

アル「………ああ。オレといるときが好きだといってくれるお前だから、そう言えるんだ」

リーナ「アル………ありがとう。私…独りのアルを見つけたら…すぐにそばまで近寄っていく。アルに…寂しい思いはさせないよ」

 

その言葉を誓うようにリーナは胸に拳をあてて目を閉じた。

アルは彼女と目を合わせないまま、彼女の言葉を何度も脳内再生した。

彼も何か感じるものがあったのか、リーナ同様目を閉じて胸に拳を当てた。

そして心の中で一言呟いた。

 

 

ありがとう……リーナ……

 

 

★To be continued★

 

第38話 ――羊 欺き――

 

リーナ「ねぇ、アル。見て見て」

会話がきれた中、リーナが海の方を指差す。

彼女に言われてアルは海のほう見た。

さっきとなんら変わらないだだっ広い海が広がっている。

 

リーナ「海…きれいだね」

アル「ああ?…あ…ああ。そうだな」

リーナ「いいね、クレヘヴンは。私の住んでたサーラルドは海が遠いからなかなか見れなくて…。だから、こういうの見るととても新鮮な気持ちになるんだ」

 

ザザ―ッという波が地面を打つ海だと感じさせる心地よい音。

なんともいえないこの雰囲気が出るのが海だ。

潮風が吹いてきて、リーナは髪を靡かせながらとても気持ちよさそうにしている。

 

リーナ「いいね、海…。もうすこし暑くなってきたらここに来て泳ぎたいなぁ」

アル「そうだな。夏休み…レンやファオロンも誘って、皆でここに来よう」

リーナ「うん…(…皆…。そっか…アルと二人きりじゃないんだ……)」

沈んだような表情を見せるリーナ。

彼女の様子が気になりアルは『大丈夫か?』と声をかけたが、リーナは『うん、大丈夫だよ』とパッと明るい表情に変わって返事をした。

 

しばらく二人は座りながら会話を楽しんでいた。

時間はあっというまに過ぎていき、青い空はほんのり色褪せてきていた。

 

アル「そろそろ帰ったほうがいいかもしれないな。総長も待っていることだろうし」

リーナ「そうだね。すっかり忘れてたけど、私達は任務の途中だったしね」

アル「よしっ、それじゃあ帰るk……な…っ!…」

慌てて周りを見回すアル。

何かを探しているようだが、見つからないようだ。

アル「ない!ないぞっ!魔石の原料が詰まった木箱が!!」

『ええっ!?』と思わず声をあげてリーナも木箱を探すのを手伝うが、やはり見当たらない。

リーナ「きっと盗まれたんだよ…。ほらっ!」

リーナが指差した場所には木箱が置いてあった場所には砂に綺麗な正四角形の跡が残っている。

そしてそこから小さな足跡らしきが続いている。

アル「確かに誰かが持っていったことになる。急いでこの足跡を追おう!」

『うん!』とリーナが返事をした後、足跡の続く先へ先へと二人は走りだした。

 

海岸を出た後、その足跡は続いていた。

六月という梅雨時で雨が多いため、地面がぬかるんでおり幸い足跡が残ったのだ。

その足跡の先を更に進んでいくと、広い野原に出た。

牧場のようなその野原にいる一匹のポケモン。

白い綿毛と桃色の地肌もつわたげポケモンのモココだ。

木箱を抱えており、疲れている様子で野原に腰を下ろしていた。

 

モココ「ふぅ…やっと人気のないところにこれたよ。わざと足跡残してきたけど…これであの二人もやってくるかなぁ」

そんな独り言を呟くモココの前にアルたちが走ってやってきた。

アル「おい、モココ。その木箱を返してもらおう」

彼の少し怒り気味の声を聞くと、そのモココは待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべた。

モココ「あっ、その…ごめんなさい…。私…お腹が空いてて…この中には食べ物が入ってるかな…と思って…」

目を潤ませた顔してアルを見つめ、指を咥えて甘えるような声で彼女は言った。

アル「いや…分かってくれればいい。これ…食べるか?」

 

そういってチョッキのポケットからモモンの実と取り出し、モココに差し出すアル。

何でも入ってる彼のチョッキのポケットはまるで四次元倉庫のようだ。

『ありがとう』と言って、モココがその木の実を手に取った瞬間…

彼女の表情が一変した!

 

 

バリバリバリッ!!

 

 

アル「ぐあああぁぁっ!!」

激しい電撃がアルを包み込みんだ。

ブスブスと音を立てる黒い煙と、バチバチと音を立てる電気を発しながらアルは地面に膝をついた。

遠くではモココがさっきまでとは違う顔で彼の様子を見ていた。

 

アル「…ぐっ…貴様……」

モココ「アハハハ!簡単にひっかかってくれちゃった♪」

リーナ「だ、大丈夫!?アル」

アルに駆け寄りリーナが癒しの力を使う。

回復をされながらアルはモココに対して低く辛そうな声で訊いた。

 

アル「モココ…貴様…何者だ…?」

モココ「あたし?あたしはねぇ…フフ〜ン。アリエス、それがあたしのな・ま・え♪ぴっちぴちの13歳♪かっこいいお兄さん♪可愛いお姉さん♪私とあ・そ・ぼ?」

リーナ「な、なんなの?この女の子?何だかすごく…怖い…」

アル「ああ…。このモココからは並ならぬ殺気が漂っている」

姿は一見普通でそこらへんにいるモココにしか見えない。

服装もボーダー模様が多いことを除いて普通の女の子の格好だ。

 

アリエス「ねぇねぇ?遊ぶの?遊ばないの?」

アル「どうせ断れないのだろう?だったら、遊ぶしかないじゃないか」

ちょうど回復が終わり、アルとリーナは立ち上がって彼女に向けて鋭い目つきを放った。

アリエス「ありがと♪遊びの内容はもちろん分かってるよね?…殺り合い♪」

リーナ「…まさか貴方は……」

アリエス「そう、あたしは闇の狂戦士。異名は牡羊座のアリエス。♂じゃないじゃんとかいわないでね♪じゃ、遊ぼっか。お兄さん、お姉さん」

三人が同時に戦闘の構えを取った。

 

アル「行くぞアリエス!“はどうだん”!!」

リーナ「“サイコキネシス”!!」

 

パシュウウゥゥン!!

 

波導の塊と強力な念波がアリエスを襲う。

アリエス「うっ…くうっ…。ああ、やっぱやるね。さすが闇の王を倒しただけあるね」

同時に二つの攻撃を食らったのにも関わらず、アリエスはそれほど傷を受けた様子がない。

余裕げにペチャクチャ喋っている。

アル「あまり…効いていない?」

アリエス「あたしの綿毛はね、どんな攻撃の威力も軽減するよ。さてと…次はあたしの番だね。“10まんボルト”!!」

 

 

ビリリリリリッ!!

ビシャアァァァァァァン!

 

 

激しい電気がアルとリーナの周りを猛り狂う。

名前は10まんボルトだが、“かみなり”を凌ぐほどの威力だ。

アル「…何だ…これは…。雷の…間違いじゃないか?」

リーナ「秘儀術でもないのに…。こんな威力のある10まんボルト…見たこと無い…」

10まんボルトの威力に驚く二人の体は電気によって煤だらけとなっていた。

アリエス「わざの三種の神器ってしってるかな?かえんほうしゃ、10まんボルト、れいとうビーム。高威力でしかも命中精度は100%に近い。その使いやすさに多くのポケモンに愛用されているわざだよ。そしてあたしが使ったのはその一つ。やっぱり期待通りの結果を見せてくれたね」

わざの説明をするほど余裕をアリエスは見せている。

アル「くっ…年下だと思って甘く見ていた。だが、オレ達も年下にやられるほど落ちぶれてはいない!波導剣!!」

 

波導剣を片手に電光石火と併用しながらアルは走り、アリエスに急接近した。

そして剣を一振り。彼の接近の速さに驚いたせいで、彼女は避けるのが遅れてしまい剣が頭の綿毛を掠めた。

体から斬り離された少量の綿毛が綿毛蒲公英(たんぽぽ)のように舞う。

 

アリエス「あぶなかったぁ。ちょっと余裕見せすぎたかなぁ」

リーナ「安心している暇はないよ。暗黒呪縛退散結界!!」

アリエスの足元に魔方陣が展開され、眩い光を放つ。

やはり闇の力が嫌う空間の中にいるためか、苦しそうにしながら彼女は結界の外へと飛び出した。

アル「その潜在時術にそんな使い方があったとはな…。お前は守るだけじゃなくなったな。頼もしいぞ」

リーナ「フフフ、嬉しい、ありがとう」

少し照れ気味にリーナが笑った。

 

リーナ「さあ、どう?私たちの実力は?」

アリエス「うっ…闇の力がちょっと逃げたかも…。ヤバイね…逃げろ!」

近くにあった箱を持って、アリエスはその場から離れるように走った。

アル「待て!!」

 

 

ドカアァァァァァァァァン!!

 

 

すぐ近くで雷が落ちたような轟音があたりに鳴り響いた。

まさにすぐそこで雷が落ちたように巨大な爆雷が起きたのだ。

地面はその激しい衝撃で大きく揺れている。

周りにいたリーナはその轟音と爆雷を見て、腰を抜かしていた。

リーナ「…あ…あ…アル……」

爆雷によって発生した煙。

その中から現れたのはアルだった。

体は黒こげている。シュウゥゥと黒い煙を出しながらアルはドサッと音を立ててその場に倒れた。

 

アリエス「アハハハ!あたしが君達二人にちょっとやられた程度で逃げるわけないよん」

逃げたはずのアリエスが倒れているアルの前までやってきて、彼の姿を眺めながら言った。

リーナ「いったい…何が起きたの?…貴方は…何をしたの?」

アリエス「お兄さんは私の“地雷”にひっかかったんだよ。さっき綿毛が飛んでたでしょ?あれはね知らないうちに地に降り立って地面に埋まって地雷となるんだよ。あれはあたしの電気が染み込んだ特製の綿毛でね。その地雷を踏むとすんごい雷が起こるの。まさにその名のとおり“地雷”だね♪お姉さんも下手に動かないほうがいいよ♪」

 

アリエスの話を聞いて、リーナは周りの地面を見た。

目には見えないが、あたり一帯はたくさんの地雷が埋まっている地雷原だ。

アルに近づいて治療をしてあげたいリーナだったが、下手に動いて地雷を踏んでしまったら…と、思うと彼女は動けなかった。

 

アリエス「さぁさ、どうする?お兄さん♪お姉さん♪アハハハ」

無邪気かつ残酷な顔で笑う彼女の顔からはもはやモココとしての可愛さは消えていた…。

 

★To be continued★

 

第39話 ――群 千客万来―

 

このままどうすればいいか分からず、未だに腰を抜かしたままだった。

遠くではアリエスが自分の尻尾と同じ色をした飴をペロペロと舐めている。

依然として余裕げだ。

 

アリエス「美味し〜い。お姉さんも舐める?美味しいよ?」

と、彼女は頭の綿毛から一本の棒のついた飴玉を取り出した。

リーナ「い、いい…」

『ふ〜ん』といいながら、再び彼女は飴をペロペロと舐め始めた。

アリエス「で、どうする?お姉さん♪このままじゃあたしには勝てないよ?」

リーナ「…大丈夫…。落ち着いて…」

 

目を閉じて心を落ち着かせる…。

こういうときに出てくるのが心の目というものだ。

リーナの心の目で見える風景には暗闇の中に小さな光が幾つも…。おそらく仕掛けられた地雷だ。

その中に一つ大きな光…。気絶しながらも発せられているアルの波導だ。

更に心の目を凝らすと幸い彼の周りには地雷が無いことが分かった。

それに安心しリーナはカッと目を開くと、“テレポート”を使い、アルのそばまで瞬間移動した。

移動が終わるや否や彼女はすぐに彼に対して癒しの力を使った。

姿は相変わらず煤だらけだが傷は回復し、パチッと目を開いてアルは立ち上がった。

 

アル「ううっ…オレは…」

リーナ「アリエスの地雷を踏んで、地雷の雷を受けて気絶してたんだよ」

アル「そうか…。ありがとう、助かった。では、次はオレの番だ」

 

リーナと同じようにアルは目を閉じた。

頭の黒い器官が小刻みに震える。

アル「……そこだ!フアアッ!!ハアアッ!!」

“はどうだん”を地面に打ちまくるアル。

塊が地面にぶつかる度に大きな爆発が起こる。

しかし、それは波導弾のせいではない。わざにより地面に仕掛けられた地雷が破壊されたためだ。

 

アル「これで安心だ。さぁ、勝負はこれからだ!」

アリエス「あ〜ぁ…。せっかくの地雷が…。ふふん、やっぱりやるね」

アル「余裕をかましている暇はないぞ。波導流星群!!」

空高く飛び上がり一瞬にして作られた波導を纏いしアルの分身と、彼自身がアリエス目掛けて流星の如く突進した。

 

 

ズドォォッ!ズドオォォッ!

ズガアァァァァン!!

 

 

激しい衝撃で砂煙が舞う。

軽やかなその体でアルはアリエスとの間合いを取るため、後ろへと低く長いジャンプをした。

晴れていく砂煙の中からアリエスがゆっくりと姿を現す。

 

アリエス「フフフン、それは攻撃?あんまり効かないよ♪」

アル「なっ!…バカな!こいつは…いったい…」

アリエス「アハハハ、驚いてるみたいだねぇ。あたしは闇の狂戦士だけど、シャドウって言ったっけ?あんなのとは格が違うよ♪」

彼女の言葉どおり、アリエスには波導流星群が効かなかったらしく体に傷はほとんど見当たらない。

状況は全く変わっていないと言っていいほどだ。

リーナ「なら、今度は私が…!暗黒呪縛退散結界!はぁぁぁぁ!!」

 

再びアリエスの足元に魔方陣が展開された。

リーナが声を張り上げ気を高めているせいか、先ほどよりもその面積は広い。

闇に対して大きな効果を発揮するこの結界にいるアリエスはひとたまりもない。

体から闇であろう黒い煙が噴出している。

 

アリエス「があぁぁぁっ!!ううっ…くうぅらあぁぁぁぁ!!」

苦痛と痛みを紛らわすような大声をあげて、アリエスは結界の外へと飛び出した。

彼女の体からは大量の汗が流れており、呼吸も荒く苦しそうだ。

首元を押さえながら呼吸を続けていると、いきなりアリエスは二人をキッと睨みつけた。

 

アリエス「はぁ…はぁ…。やってくれるねぇ…お姉さん…。あたし…お姉さんがここまで苦しまされるとは思ってなかったよん…」

リーナ「どう…?私の…結界…」

さすがに力を使いすぎたのか、リーナも疲れているようで途切れ途切れの声で返した。

アル「本当に…強くなったな、リーナ」

リーナ「フフフ。私、いつまでもアル達の足を引っ張るのは嫌だったから…。必死に修行したんだよ」

アリエス「アハハハ…ハハ…。お二人さん…あたしがちょっとやられたくらいで…余裕見せてイチャイチャ?遊びはまだ…終わってないよぉ?」

 

不敵そうな笑みを浮かべると、アリエスは電気をためるようにうなり声を上げた。

彼女の体の周りを電気が音を立てて走り、電気をたまり具合を表すかのように尻尾の先が眩く光っている。

動かないアリエスを攻めようとアルとリーナは攻撃をしかけようとしたが、その電気は凄まじく、あたりに強力な電磁波を発生させ二人の動きを鈍らせた。

と、その時だった。

アリエスの尻尾が目が視力を失うほどの強力な光を放った。

思わず二人は目を瞑った。

 

 

…目を閉じていても世界が真っ白になるほどの光。

暫くすると普通のように目を閉じて見える暗闇の世界に戻った。

光が収まったか、と思いアルとリーナは目を開いてみた。

彼らが見た光景はさっきとは全く違っていた。

なんと自分達が数え切れないほどのメリープ達に囲まれていたからだ。

 

アリエス「フフン。どう?全部数えなくても眠れそうなくらいの数でしょう?これはあたしの光に呼び寄せられてきた手下だよ。闇の世界であたしの合図をずっと待ってたんだよ」

リーナ「嘘…。ここから闇の世界まで光を届けるなんて…」

アリエス「あたしはモココだけとデンリュウ並の光を放つことができるんだよ♪デンリュウの光は宇宙からでも見えるっていうくらいだからね。闇の世界なんて近い近い♪」

 

二人を囲んだメリープとアリエスが彼らに視線を突きつける。

鋭い目で今にも命を奪いそうなほど殺気立っていた。

もはやメリープのつぶらで可愛い瞳の面影はどこにも見当たらない。

 

アリエス「お兄さん、お姉さん、あたし達、闇の狂戦士はね、キミ達が思ってるほど仲間の結束力は強いんだよ♪今からその結束力の強さを見せてあげる♪メリープたち!」

メリープ「メエェェェッ!やってやるぞ!!」

アリエスの声で、メリープたちが一斉に電気を溜め始めた。

五月蝿いほどの電気の音が、この空間の音を支配する。

 

アル「何かが来そうだ…。こいつらを止めるぞ!“はどうだん”!!」

リーナ「うん!“サイコキネシス”!!」

二人のワザが周りのメリープを吹き飛ばす。

だが、それでも彼らは電気を溜め続けている。

ワザを受けたことに気づいていないようだ。

アル「オレたちの攻撃が効いていない!?」

アリエス「フフフフフ♪お兄さん、お姉さん♪これ食らって死んじゃえ!行くよ皆!潜在秘術・千客万雷!!」

 

電気をためた幾千ものメリープ達とアリエスが、一斉にその電気を開放した。

激しい電気が暴走し、あたりを走り回る。

暫くするとその電気は全て高く上へと昇っていき、そして凄まじい雷の雨を生んだ。

その名の通り一万の数の電気が駆け巡り、一万の数の稲妻が落ちまくり、その全てがアルとリーナに直撃した。

 

 

ピシャアァァァァァッ!!

バリバリバリッ!!

ピシャアァァァァァン!!

 

 

アル「ぐあっぎあぁぁぁぁっ!!」

リーナ「キャアァァァアアアッ!!」

 

 

雷は止まることを知らず容赦なくアルとリーナに襲い掛かる。

反撃の隙も休む暇も与えない。

体中にあまりの電圧が流れすぎたせいで、二人はその場に倒れ気絶してしまった。

だが、その間にも電気は彼ら目掛けて落ち続けた…。

 

 

アリエス「フフフ、お前達!遊びは終わりだよ。もう帰っていいよ」

『はい―ッス!』と大勢のメリープ達が返事をし、彼らは闇の世界の方角へと消えていった。

彼らが帰っていくのを見届けると、アリエスは倒れているアルとリーナの所に歩み寄った。

アリエス「案外大したこと無かったね、お二人さん♪」

倒れている二人に冷たく言い放つアリエス。

彼らの姿を見て、何か考え事をするかのように彼女は手を顎にあてた。

 

アリエス「どうしようかな〜。殺すのも惜しいし…お兄さんはあたしのモノにして、お姉さんはアクっちにでも渡そっかなぁ♪そしたらあんなことや、こんなことをぉ♪」

我を忘れてアリエスが妄想を膨らます。

その妄想に思わず顔がニヤけている彼女の横に、何の前触れも無く闇が出現し、そこからハッサムが飛び出した。

紺色のスーツと青いネクタイ、長いスラッとした縦縞の入った黒いズボン、ブライルだ。

 

ブライル「なにやってんだ、アリエス?。遅いと思って来てみたんだが…」

アリエス「ブラっちかぁ。遅いのは当ったり前でしょぉ。闇の世界からここまで片道どれだけかかってると思ってるの?まるっと半日だよ。それも計算しないで来るなんて…」

ブライル「あ〜悪い。…で、波導くんと可愛い子ちゃんは倒したと…。ほぉ〜、やるじゃねーの」

いつものように煙草を吹かしながら、ブライルが言う。

 

ブライル「んじゃ、こいつら殺ったみたいだし…帰るか」

アリエス「ねぇ…ブラっち。相談なんだけどさ、この二人お持ち帰りしちゃダメかなぁ?まだ生きてるんだ」

ブライル「あぁ?それはあの人が黙っちゃいねーよ。ただ殺すのもなぁ…適当にほっぽっときゃいいだろ?生きてる体持ってってバレたら何されるかわかんねーからよ」

アリエス「…そっか。やっぱりそうだよね…。あたし…この二人なんだか殺すことできなくなっちゃったから…お嬢には負けたっていうよ。お嬢は優しいから許してくれると思うし…。帰ろ」

少し惜しげな目で倒れている二人を見た後、アリエスはブライルが出現した闇の中へと入っていった。

ブライル「今回は、お二人さんに俺らの強さを感じてもらえたかな?もう少し俺らのこと知ってもらってからあの三人には死んでもらうか…」

 

一人呟いた後、彼も闇へと飛び込んで消えた。

闇の二人が飛び込んだ闇はシュンっと音を立てて消え、広い野原には倒れたアルとリーナだけが誰にも気づかれずに倒れたままであった…。

 

★To be continued★

 

■作者から■

久しぶりの更新です。

僕はここがなくなろうとも自サイトで小説を続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。

今更なんですが、ブライルはひょうひょうとしている性格です。

『ねー』とか急に使い出して野蛮系キャラになったかと勘違いされないために予防線を張っときました。

もっと僕の文章力が高ければ、こんなことを書く必要はないのですけどね…。

 

第40話 ――寝言 楽しい夜――

 

暖かい…。

…涼しい…。

……柔らかい…。

…………眩しい…。

 

ここは…どこだ……。

 

目を開くと眩しい光。

アルは気づくと白いシーツのベッドの上で寝ていた。

部屋は氷室のようにいくつかの氷が塊が棚に置かれていて、部屋全体が涼しげだ。

起き上がると何かが体の上からパサッと音を立てて落ちた。

バスタオルのようだ。

辺りを見回すと、ベッドの足元に木箱。そして隣にもう一つベッドがあり、そこにはリーナが寝ていた。

彼と同様にお腹にバスタオルがかけられていた。

冷えてお腹を壊すといけないために誰かがかけたのであろう。

その誰かとは誰か?

それが気になって、アルはベッドを抜け出し扉を開けて部屋を出た。

 

 

部屋を出ると、そこではオーダイルが椅子に座って、新聞を読みながら麦茶を啜っていた。

アル「あの…。すみません!」

オーダイル「ブフォッ!何だぁ?いきなり話しかけるな!麦茶ふいちまったじゃねぇか!!」

吹いた麦茶で濡れてしまった新聞を見て、『あ〜あ〜』と残念そうに、そのオーダイルは新聞を折りたたんだ。

オーダイル「よっ!目が覚めたかぁボウズ!」

アル「貴方はバルバロ…さん?どうして…オレ達はここに?」

バルバロ「オレが貨物船の整理してたら遠くでバリバリバリーッ!って音がして、何かと思って音がしたほうへ行ってみるとお前らが倒れてるじゃねぇか!そんで大変だと思って、お前らをオレの家まで運んだ、というわけだ」

 

ガチャッ…。

 

扉の開く音がし、そこからリーナが出てきた。

ちょうど扉の前にアルは立っていたので、いきなり出てきた彼女に彼は驚いた。

リーナ「あっ、アル…。……えっ!?」

バルバロの姿を見ると、リーナは慌ててアルの後ろに隠れた。

バルバロ「おいおい何だよ嬢ちゃん!オレを見るなり隠れちまって…。なぁ、ボウズ?オレ、お嬢ちゃんに嫌われてんのかな?」

『さぁ…』とアルは素っ気ない返事を返した。

 

それからバルバロはリーナに、今までの事を話した。

事情が分かると彼女は、そっとアルの後ろから出てきて小さく『ありがとうございます…』とお礼を言った。

バルバロ「というわけで、お前達!今日はもう遅いからオレん家に泊まってけ!だ〜いじょうぶ、オレが総長さんにちゃんと連絡入れとくからな!!ワハハハハ!」

一人で勝手に決めてしまうバルバロ。

アルとリーナの気などお構いなしのようだ。

一人笑うバルバロを尻目に、二人はひそひそと話し始めた。

 

アル「(どうする?何か勝手に泊まってくみたいなことになってしまったが…)」

リーナ「(私…ちょっと苦手なタイプだけど…あの人…そんなに悪い人じゃないと思うんだ…。だから、ここは御好意に甘えよう。それに私、暗い夜道を通って本部まで帰るの…怖いの。だから…ね)」

バルバロ「おぉぅい、何二人でこそこそ話してんだぁ?」

二人の間を割っていきなりバルバロが、頭を入れてきた。

アル「い、いえ…何でもありません。それでは…今晩はどうぞよろしくお願いします」

バルバロ「おぉう!飯も風呂も一切合切オレが面倒見る!楽しい夜を一緒に過ごそうぜぇい!グワハハハ!!」

 

その後は、彼の言葉どおり楽しい夜が続いた。

バルバロの料理は大変美味で、アルとリーナは驚いていた。

港町だけあって、魚系のポケモンの刺身などの料理が多かった。

コイキングの御造り、ドククラゲの酢の物、キングラー…。

どれも見た目も味も最高のものであった。

 

風呂も2.3mもあるオーダイルの彼が使っているためか浴槽が大きく、ポケモンの湯を少し小さくした程度だった。

一番風呂はリーナだったが、彼女が長時間入っていたため、アルが入ったのはだいぶ後になった。

だが、彼はヤミカラスの行水で入っていたのは、ほんの数分間だけであった。

そんな彼にとっては、リーナの長時間風呂に入っている意味がよく分からなかった。

 

タオルを首にかけながら、アルが風呂からあがってくると応接間で一人、ソファに座りながら手鏡を持って櫛で髪を梳いているリーナの姿があった。

彼が風呂からあがってきたことに気づいたのか、彼女はアルの方を見たが慌ててすぐに目を逸らしてしまった。

リーナの反応に頭にハテナを浮かべながら、アルは彼女の隣に座った。

気のせいかアルには、それと同時にリーナの頬が赤く染まったように見えた。

だが、それは風呂上りのせいで体が熱っているのだろうと、彼は解釈した。

 

アル「……ふぅ…。リーナ、バルバロさんは?」

リーナ「あっ…えっとね、私達が今日寝る部屋の整頓をしているよ」

バルバロ「よっしゃぁ!終わったぜぇい!」

二人の寝室となる部屋から大声をあげながらバルバロが出てきた。

バルバロ「お前らぁ、就寝準備ができたぜ。明日早く本部に帰れるよう、今日は早く寝ろよぉお?」

アル「分かりました。寝よう、リーナ」

『うん』と返事をして二人が、寝室の扉を開けた。

と、その時、バルバロが後ろから話しかけてきた。

 

バルバロ「悪いなぁ…。男女二人同じ部屋になっちまって…。オレは一人暮らしだから、部屋が少なくてよぉ」

リーナ「いえ…。いいです。アルは…男の子だけど……変なことするような人じゃないですから…」

バルバロ「そうか。なら良かったぜ、じゃあな!オレが見てないからって、二人で部屋ん中で変なことすんじゃねぇぞぉ!ウワハハハハ!!」

日中の時のように、また彼のとんでもない発言が飛び、リーナはその場から逃げるように寝室の中へと入っていった。

そしてまだバルバロは笑ったままだ。

アルは彼の様子に呆れてリーナの後を追うように寝室に入った。

 

 

寝室は綺麗に片付けられていて、ベッドのシーツも掛け布団も枕も全て一新されていた。

ナイトテーブルも置いてあり、どこかホテルのような雰囲気を醸し出している。

さっきあった氷の塊は片付けられており、代わりにぬいぐるみやらフィギュアなどの小物が置かれていた。

 

先に部屋に入っていたリーナはコートを脱いでベッドに入っており、上半身だけ出して寝転がりながら棚の上に置いてあったのであろうぬいぐるみをいじっていた。

そのぬいぐるみを見ながら彼女は微笑んだりしていて、可愛らしい。

彼女のちょっとした幼さが窺えて、少し微笑ましい光景だ。(ちなみにぬいぐるみはリオルドール)

 

リーナ「あっ、アル」

部屋に入ってきたことに気づき、リーナは彼の名前を呼んだ。

アル「どうしたんだ?そのぬいぐるみは」

自分のベッドに横になって、腕で頭を支えるような恰好でアルが訊いた。

リーナ「この部屋にあったの。アルがお風呂に入ってる時に、バルバロさんと少し話してたんだけど、あの人UFOキャッチャーの達人なんだって。人って見かけによらないね」

アル「そうだな。人というのは、見かけだけじゃ全てが分からないものだ。第一印象だけで誰かを判断するのは良くないことだと思わされる」

リーナ「で、このぬいぐるみ、持ってって良いって言われたんだ。だから私、この二つを貰おうと思うの。アルにそっくりだよね?」

それぞれを両手を持って、アルに見せるようにリーナは彼に向かって腕を伸ばした。

 

アル「あぁ…そうだな…」

リーナには悪気は無かったのだろうが、彼女の行動はアルを沈ませた。

自分とそっくりの姿のぬいぐるみを見て、自分だけがチーム内で進化していないという事実に気づかされ、劣等感を感じたのだ。

リーナ「フフッ」

静かに笑うリーナ。

アル「どうした?」

沈んでいるのを覚られないよう、普通の声でアルが訊いた。

リーナ「これがあれば、いつもアルが傍にいるような気がするなぁ…って思って。そう思うと…何だか嬉しくて…」

 

話を終えるとリーナは、またぬいぐるみを見て笑った。

アルはその様子をずっと見ていた。

ふと、彼の視線に気づいたのか、リーナがぬいぐるみを持つ手を下ろしてアルの方を向いた。

だが、すぐに恥ずかしくなり横目で見ながら、彼に呼びかけた。

 

リーナ「アル?」

アル「………ん?…ああ。何だ?」

我に返ったように、アルは返事をした。

彼が返事したのは、リーナが呼んでから結構間が開いた後だった。

リーナ「どうしたの?ボーッとしちゃってたけど…」

アル「ああ?…ああ…。眠くなってきて意識が飛んでたのかもしれない。…オレは先に寝るよ。おやすみリーナ」

リーナ「ん。おやすみ」

掛け布団を被り、アルはリーナに背を向けた状態で眠った。

 

 

アルが眠ってから一時間が経っていた。

彼はまったく寝つけてはいなかった。

他人の家で寝ている所為か、体が休んでいても脳が緊張しているのだ。

アル「…ダメだ…全然眠れない…」

暗い部屋の中でアルが一度体を起こして周りを見る。

電気がついていないため、この空間の状況が把握しづらいが、隣のベッドでリーナが完全に夢心地で寝ていることは分かった。

さっき持っていたぬいぐるみを大事そうに抱えて眠っている。

彼女の様子に思わずアルは微笑んでしまった。

 

そのまま彼は、ずっとリーナの事を見つめていた。

いい夢でも見ているのだろうか。

彼女はとても幸せそうな顔をして眠っていた。

 

リーナ「アル…。…ずっと…私の傍にいて…。私…アルとずっと一緒にいたい…。寂しい時は…私の所に来て。…私も…嬉しいから…」

いきなりリーナが寝言を言い出したので、アルは驚いた。

だが、彼女はまたスースーと寝息を立て始めた。

それからもアルはリーナを見ていた。

彼女を見ていると、彼は何故だか妙な気持ちになった。

 

自分ではその気持ちは分からなかった。

だが、今まで感じたことのない気持ちだった。

さっきの彼女の寝言の言葉。ただの寝言なのに、嬉しかった。

アルはそんな風に思っていた。

 

アル「そろそろ眠くなってきたな…」

 

大きな欠伸を一つした後、アルはまた布団の中に潜って眠り始めた。

心に妙な気持ちを抱えたまま…。

 

★To be continued★