眺望阻害マンション裁判の明暗
ローレルコート難波事件とアルス東陽町事件を比較して
超高層マンション「ローレルコート難波」(大阪市浪速区)購入者が分譲主を訴えた裁判の判決が2008年6月25日、大阪地方裁判所にて言い渡された。
近鉄不動産はローレルコート難波の分譲後、当該物件の近接地に高層マンション「ローレルタワー難波」を建設した。これによりローレルコート難波からの眺望
が損なわれたとして、ローレルコート難波購入者が慰謝料などを請求した訴訟である。判決は原告の請求を棄却した。
本件は道義的には近鉄不動産が非難されるべきことは明白である。近鉄不動産は生駒山を間近に望む眺望をローレルコート難波のセールスポイントとしていた。
ところが分譲から数年後、近接地に高層マンションを建設し、自らセールスポイントとした眺望を破壊する。一生に一度あるかないかの高い買い物をした購入者
が怒るのは当然である。しかし、原告敗訴というマンション購入者には厳しい判決になった。
本件と類似の訴訟ではマンション購入者が勝訴
した事案がある。東急不動産(販売代理:東急リバブル)が東京都江東区で分譲したマンション「アルス東陽町」では、隣接地の建築計画を説明せずに販売し、
日照や眺望が損なわれたために訴訟になった。この裁判において東京地裁は、東急不動産に売買代金の全額返還を命じる判決を出し、購入者の全面勝利となった
(参照「
東急不動産の遅過ぎたお詫び」)。
2つの事件を比較することで、不動産取引における消費者保護の特徴が見えてくる。本記事では2点ほど指摘する。以下では説明のためにローレルコート難波の事件を近鉄事件、アルス東陽町の事件を東急事件と略称する。
第1に不動産会社の悪意である。東急事件では、東急不動産はアルス東陽町の販売前の段階で隣地所有者から、隣地建物がアルス東陽町竣工(しゅんこう)後に
建て替えられることを聞いていた。つまり分譲時に隣地の建て替え予定を知っていた。にもかかわらず購入者に説明せずに販売した。故に消費者契約法の不利益
事実告知に該当する。
これに対し、近鉄事件において近鉄不動産が近接地を購入したのは、原告がローレルコート難波を購入した後である。
そのため、ローレルコート難波販売時に近鉄不動産が近接地に高層マンションを建設する計画を有していたとは断言できない。この点を立証しない限り、だまし
て契約したとの結論にはならない。つまり東急不動産の方が悪意の度合いが高いことになる。
第2に重要事項説明に対する対応である。両事件共に重要事項説明で、周辺環境に変化が生じうることを指摘している。東急事件では重要事項説明の場で、購入者(=林田)が「重要事項説明の周辺環境の記述は隣地建物を念頭に置いているのか」と質問した経緯がある。
この質問に対し、東急リバブルの宅建主任者は「特に隣地建物を指しているのではない。一般的な記述です」と回答した。隣地建て替えを知っていた東急側が、
重要事項説明の環境変化を「一般的な記述」と説明したことは虚偽の説明をしたことになる。これは裁判において有力な攻撃材料となった。
一方、近鉄事件では購入者は「近鉄不動産は重要事項説明を形式的に読み上げただけで、購入者は内容を理解していない」と主張した。しかし判決は、購入者が
重要事項説明について質問せず、異議をとなえなかったと認定して、重要事項説明を了解の上、売買契約を締結したと認定した。
確かに重要
事項説明は形がい化しており、悪質な不動産業者は責任逃れの口実として悪用されがちな実態は存在する。その意味で近鉄事件の購入者の主張は正当である。し
かし、裁判では外形を重んじる傾向があり、「説明されたが、理解していなかった」という主張は通りにくい。この点において、近鉄事件判決は消費者保護の限
界を示している。
両事件の判決が明暗を分けた理由をまとめるならば不動産会社の悪質性にある。近鉄事件ではマンション購入者側が控訴し
ており、控訴審においてあらためて争われることになる。不動産会社の悪質性を、より強くアピールすることが控訴審における購入者側の、ひとつの課題となる
だろう。