体験レポートBy: 林田力
2009-03-12 12:52

『相続の「落とし穴」親の家をどう分ける?』灰谷健司著

読者レビュー◇相続紛争は何故起こるか

 マネーのテーマで忘れてはいけない要素に、相続の問題である。人はひとりで生きているわけではない。どのような人にも両親は存在するはずである。それにもかかわらず、「相続紛争なんて金持ちの話で、うちには関係ない」と考える人は少なくない。

 それが誤解に過ぎないことを本書は明らかにする。著者の肩書は三菱UFJ信託銀行財務コンサルタントであるが、信託を勧めるというような商売っ気はない。なぜ相続で紛争が起こりやすいのか、紛争を回避するためにはどうすればいいか、を分かりやすく説明する書籍である。

 相続問題は多くの一般人に関係のある問題であり、「普通の家族の相続が危ない」との認識が本書の出発点である。実は「相続でもめている人は意外に多い」(48ページ)。記者(=林田)の祖母の相続も紛争になっている(参照「相続紛争で、何でもありの弁護士交渉」)。

 現在は相続持分の確認を求めた訴訟が東京地方裁判所に係属中である(平成20年(ワ)第23964号土地共有持分確認等請求事件)。第3回口頭弁論が2009年2月5日午前10時から東京地方裁判所民事第712号法廷で開かれる予定になっている。

 相続でもめている人が多いにもかかわらず、耳にすることが少ないのは「相続というのは究極のプライバシーなので、よほど親しい親せきや友人でも、なかなか立ち入った話をすることはできない」ためである(48ページ)。本書では現実に相続紛争が増加していることを家庭裁判所の相談・調停・審判の件数の統計データを引用して立証している。

 著者は相続がもめる理由として「民法改正と権利意識の向上」を挙げる(51ページ)。戦前の封建的な家制度の下では、長男が家督を継いで全財産を相続するために相続紛争が生じる余地は少なかった。戦後民主化の一環として民法が改正され、相続人の均分相続が定められた。さらに戦後の平等教育によって、男性も女性も長兄も末子も平等であるという意識が浸透したためとする。

 この著者の主張は一面の真実であるが、すべてを説明するものではない。相続人皆が民法の規定に従い、相続人に均分相続させるべきと考えているならば紛争は生じないためである。紛争は意見が対立するから起こる。相続人の一方は均分相続を期待するのに対し、他方は戦前的な長子単独相続が当然と主張するから紛争が生じる。その意味で「民法改正と権利意識の向上」は紛争の一因であるが、すべてはない。法の下の平等や改正民法の価値観を受け入れようとしない人々が根強く残存していることも、相続紛争を生じさせる要因である。

 また、本書では血縁の相続人同士よりも相続人の配偶者が口を出すことが紛争を激化させると指摘する(58ページ)。上述の訴訟でも長兄の発見した遺言書において、すべての茶道具を血のつながっていない長兄の配偶者に遺贈していることが紛争を複雑にしている。

 本書では相続紛争回避策として、「事前の話し合いが重要」とする(114ページ)。これは的を射た主張である。被相続人没後に相続人のひとりが遺言書を発見したとして提示しても、被相続人の意思で書かれたものか検証不可能である。そのため、紛争になることは目に見えている。上述の訴訟でも遺言書の有効性が争点の一つになっている。莫大(ばくだい)な遺産があるわけでも兄弟仲が険悪でないにもかかわらず、相続紛争が起こってしまう原因が理解できる1冊である。

『相続の「落とし穴」親の家をどう分ける?』灰谷健司著
角川SSコミュニケーションズ
2008年9月25日発行
798円(税込み)
173ページ

1