『月光!マネー学』田村正之著
消費者のための資産運用

本書は「心静かにお金を増やすための91のルール」とサブタイトルにあるとおり、資産形成のための実用書である。しかし、一般の財テク指南書とは大きく趣が異なる。本書はマネーゲームによる爆発的な資産増加を志向してはいない。ギラギラすることなく、月の光のように静かにゆっくりと資産を増やしていくことを目指している。
本書の特徴は徹頭徹尾、消費者の視点で書かれていることである。例えば投資信託など大手金融機関が積極的に勧める金融商品については手数料の高さを問題視する。「トホホな商品にさよならを」という章を特別に設けて、消費者ではなく販売する金融機関にメリットがあるとしか考えられない金融商品の仕組みを明らかにする。
さらに「ある投信裁判」と題するコラムでは、大手証券会社による投信の悪質な販売によって約6000万円の損害が発生したと個人投資家が提訴した裁判を取り上げている。脳梗塞(こうそく)の障害が残るA氏は証券会社の勧めに従って投資信託を大量に売買した。その結果、A氏には6000万円の損失が発生した一方で、証券会社は1315万円の販売手数料を得たという。
A氏に投資信託を勧めた女性営業職員の証人尋問を傍聴した著者は以下の感想を記している。「休憩時間になると、女性は仲間たちと普通に笑顔を浮かべて談笑していました。その普通の様子がどこか不思議に感じられました」(174ページ)。
記者(=林田)は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされたため、裁判で売買代金を取り戻した経験がある(参照「東急不動産の遅過ぎたお詫び」)。
裁判では東急不動産の従業員の証人尋問も行われたが、著者が書いているのと同じく、だまし売りによって他人の人生をメチャクチャにしたという自覚すらないふまじめな態度であった。それ故に著者の違和感は共感できるし、資産運用を勧める書籍で言及したことを高く評価する。
また、本書では税金の控除や病院から差額ベッド代を請求されても支払い義務が生じない条件など、不要な出費を抑制するための情報を掲載している。資産運用といえば稼ぐことを想起しがちであるが、ガツガツしても日本経済の景気回復とか株価回復という詰まらない目的に乗せられてしまうだけである。1円の節約は 1円の稼ぎに等しい。月光のような落ち着いた資産運用が消費者には必要である。
一般の財テク指南書は「公的年金は期待できない」と危機感を煽(あお)ることで資産運用を勧める傾向にあるが、本書では「なんとかして少しでも多くもらえるようにならないか」との視点で書かれている(238ページ)。ユニークなのは厚生年金についての記述である。
厚生年金保険料は4月から6月までの給与などを平均した額に基づき算出される。そのため、たまたま4月から6月に残業が多かった場合は保険料が高くなる。この事実自体は社会保険制度に関心のある層ならば周知の内容であるが、「4月から6月にだけ残業すると保険料が高くなるので損」という形で説明されることが多い。
これに対して本書は正反対の結論を出す。「保険料は会社と本人の折半ですから、会社には高い保険料を払うことにメリットはないのですが、本人にとっては会社が負担してくれる分が増すので、最終的にはその分お得です」(251ページ)。目からウロコが落ちる主張であった。新鮮な驚きと深い納得が得られる一冊である。
『月光!マネー学』
田村正之
日本経済新聞出版社
2008年5月20日発行
264ページ











