「職務発明」1999.12.13 top

企業から給与を受け企業の設備・資材を利用する従業者が発明した場合にその権利は誰に帰属するか、という問題は、そもそも何故知的財産に権利が認められるのかという知的財産法学の根源的な問題に密接に関わる。

他方、現実の特許出願の大半は法人による出願である。大学教授の研究成果を企業が譲り受けて出願するという場合もあるだろうが、法人による出願のほとんどは従業者が発明したものである。このように出願発明の大部分が従業者発明という現代の状況において発明従業者の利益をいかに保障するか、は喫緊の課題でもある。しかも従来は特許といえば製造業ばかりだったが、プログラム特許・金融特許・ビジネスモデル特許等、発明の裾野が広がる傾向にあり、より多くの分野の従業者に関係する問題になってきている[1]

加えて従業者発明の規定(特許法三五条)は実用新案法一一条三項、意匠法一五条三項で準用されており、この問題は発明・考案・意匠に共通する問題である。加えて職務育成品種の規定(種苗法八)も従業者発明法と類似しており、従業者発明は広い射程をもつ問題である。このように従業者発明の問題は哲学的及び経済的課題が混在する興味深いテーマである。

(一) 労働法的観点

従業者発明法は発明という精神的営為をなした従業者たる発明者と、彼に対し給与を支給し、研究に要する資材、機械設備を提供し補助員等の費用をも負担した使用者の利益を衡平の見地から調整するものとされる[2]

しかし法が企業の利益に無配慮であっても企業は労使間の力関係を背景に契約自由の原則を悪用して従業者に不当な不利益を押し付けるだろう。労働者は生きるために生産手段を私有する使用者に自分の労働力を売ることを強いられた存在である。そのような関係にある労働者と使用者の契約自由によって労働条件を決定するならば、労働者も他の全ての売り物と同じく一つの商品になってしまい、一様に競争のあらゆる変転、市場のあらゆる動揺にさらされてしまう[3]。その結果、労働者は自分の身を「投げ売り」せざるを得ない状況に陥ってしまう[4]

実際、全ての労働者に保障されており、「その実効を確保するために附課金及び刑事罰の制度が設けられている(最判昭六二..一〇民集四一―五―一二二九弘前電報電話局事件)」年休すら「職場の雰囲気」「上司がいい顔しない」等の理由で消化率が五十−五五%に過ぎず取得するとしても日単位の細切れ取得に過ぎない[5]。これは労基法の基準を上回る有給休暇が労働協約や就業規則で明定されている事業所においてもである[6]。そのような状況では発明者一人のみの権利主張は推して知るべしである。出願権譲渡を拒否した発明者が差別的処遇、配転、解雇を受けた例も実在する(東京地判平三.一一.二五判時一四三四-九八排煙脱硫装置事件、東京地判昭三四..一四労民集一〇--六四五塗料事件)。従って従業者発明法制は発明従業者の強行的な保護が目的であり、従業者側に比重を置いて解釈すべきである[7]

即ち労働者に人間の尊厳に値する生活を保証するために憲法二七条二項は勤労条件法定主義を定めている。ここで労働といわずに勤労としたのは事務系統の勤務も含めるためである[8]。この勤労条件とは法文に例示されている「賃金、就業時間、休息」に限られず労働関係から生じる権利義務の一切が対象となる[9]。つまり従業者発明法は憲法に基づき従業者発明に関する勤労条件を規定したものといえる。但し労働法は労働者の労働力を所定の時間使用者に引き渡し、これに対して使用者は所定の金銭その他の対償を支払うという関係を前提としており[10]、労働法的思想を貫徹させると却って発明は発明者に帰属するという特許法の原則よりも発明者の立場を弱くしてしまう虞がある。

(二) 経済的観点

特許発明の大半が従業者発明によってなされる現状では、従業者発明のインセンティブの喚起は技術立国にとって非常に重要な課題である。そのため従業者発明の問題は経済的・産業政策的観点も重視される。昨今の従業者発明に関する議論はほとんどこの観点からなされているといっても過言ではない。例えば職務発明奨励のために一定の要件を満たす職務発明の第一−三年分の特許料・審査請求料を半減する法改正がなされた[11]

日本の製造業の国際競争力の強さは、もの作り基盤に起因するところが大きいとされる[12]。だがそれらは主として欧米先進国の技術の模倣と改良に基づいていた。そのため欧米へのcatch upが完了すると[13]、日本の得意とする品質改善型技術進歩の余地が狭まり、近年の日本経済停滞の一因となった[14]。企業の競争力はコスト競争力と狭く捉えられ[15]、多くの企業が低価格や機能追加を武器に市場シェア確保を目指した結果、八〇年代後半には市場には過剰とも思われるくらい類似商品が溢れた[16]

しかし儲かる企業もあれば潰れる企業もでる健全な市場経済の下では他社と同じことしかしない企業は淘汰される。そのため他者が真似できない独自の製品・市場の開発がブレークスルーとして期待されている[17]。それは新発明である。技術力の先鋭化には時間とエネルギーを要するが、一旦、独自技術を開発し、ブラックボックス化した企業は長期間にわたりその果実を手にすることができる[18]。実際、週刊ダイヤモンドの調査では企業イメージを左右する要因として「技術力、商品企画力」「製品・サービスの優位性」が圧倒的に高い数値を示した[19]。親企業の海外移転に伴う受注量減少に対応するため、研究開発に軸足を移し脱下請に成功して急成長を遂げた企業もある[20]日本人は抽象的な思考が不得手だから脱工業化社会においてもモノ作りにこだわるべきとの見解もあるが[21]、資源の乏しい日本こそ知的財産は重要である[22]

画期的な発明の多くは独創的な個人の閃きから誕生する。企業が先導的研究開発によって先発者の独占的利益を追求したいならば[23]、個人の創意を重視し従業者が個性を発揮できる環境を作らなければならない。だが創造性の伸張は至るところで叫ばれているが[24]、個性はその人だけが有している特性であり他人にはないものだから、他人が教えられる性質のものではない。故に創造的人材の育成といっても教育や研修では達成できない。他方、他人の働きかけによって個性を伸ばすのは困難だが、駄目にするのは比較的容易である。個人があって組織があるのではなく、集団があって個人があるという日本的集団主義[25]による創造性の圧殺はその好例である。

よって企業は創造的人材を作り上げようという傲慢な態度ではなく、従業者の創造性の発揮を妨げないという消極的な姿勢で臨まなければならない。従業者の創造性を認めるということはその創造性の成果を彼に保障するということである。そのため従業者発明制度が脚光をあびてきた。このこと自体は非常に好ましいことである。しかしながら最近のプロパテント全般にも言えることだが、知的財産を金のなる木ととらえ、知的財産権を単なる金儲けの手段として捉える傾向がないだろうか。例えばYomiuri Weekly 2000.9.3には「特許、商標・・・カネのなる木育てろ 二一世紀はライツ・ビジネスの時代」との記事がある。日本の立法・司法・行政は知的財産権重視の方向で動いているが、そこにも官主導型という日本の陋習が見出せることは否めない[26]。従業者発明についても企業側の視点から論じられ、従業者の視点は置き忘れられているように思われる。

確かに企業が優れた発明を開発したいならば従業者に相応のインセンティブを与えなければならずその限りで従業者の利益も配慮されてはいるが、それは価値ある特許権による高収益獲得という目的のための手段として配慮されているに過ぎない。しかし人間は自律的存在として絶対の価値をもつべきものであり、人格は決して単に手段としてでなく常に目的自体として取り扱われなければならない[27]。この理は労働力を企業に所定の時間引き渡す労働者においてもあてはまる。

尤も法律は多かれ少なかれ政策の反映であり、それが国家権力という名の物理的強制力(暴力)を用いてまでも実現されなければならないものとされる以上、国民の手段視を完全に禁止すべきと断言することは難しい。しかし人間の自由と尊厳を尊重する論者が刑罰による威嚇の下での犯罪の抑止を説くことは矛盾ではないか[28]、という疑問は、ひとり刑事法学のみならず政策の用具として法律を考える者全てが吟味しなければならない問題である。

沿革

発明の権利が発明者に帰属するという結論は自明の理に思われるが、これも他の多くの権利と同様「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果(憲九七)」であり、全時代・全世界を通して保障されていたわけではなかった。

日本の特許法は明治四年専売略規則に始まり、明治一八年専売特許条例、明治二一年特許条例(勅令八四号)、明治三二年特許法(法三六号)、明治四二年法(法二三号)、大正一〇年法(法六九号)、昭和三五年法(法一二一号)という過程を辿った。

最初に従業者発明の規定が現れたのは明治四二年法三条である。そこでは職務上なした発明の特許を受ける権利は雇主に帰属させた。他方で職務上なしたものでない発明の権利に対しては予め譲渡を定めておくことは無効とした。理論的根拠として雇用契約においては労務の結果生じたものは使用者に帰属するためと説明された(民六二三)。又、職人の移動が激しすぎることが雇主に権利を帰属させる実質的根拠として説明された[29]

しかしこれに対して発明行為は通常の労務提供行為とは質的に異なると批判された。又、発明者の立場からも発明の奨励という産業政策的立場からも発明者の利益保護が主張された。大正デモクラシーの風潮も追い風となり、大正一〇年法(法九六号)一四条は被用者発明制度を新設し、勤務発明の定義、勤務発明以外の発明の予約承継契約の無効、使用者の取得する法定実施権、特許を受ける権利の承継に対する補償金請求権、裁判における補償金の算定等について規定した。

一四条は「被用者、法人ノ役員又ハ公務員ノ其ノ勤務ニ関シ為シタル発明ニ付テハ性質上使用者、法人又ハ職務ヲ執行セシムル者ノ業務範囲ニ属シ且役員又ハ公務員ノ任務ニ属スル場合ノモノヲ除クノ外予メ使用者、法人又ハ職務ヲ執行セシムル者ヲシテ特許ヲ受クルノ権利又ハ特許権ヲ承継セシムルコトヲ定メタル契約又ハ勤務規定ノ条項ハコレヲ無効トス

使用者、法人又ハ職務ヲ執行セシムル者ハ被用者、法人ノ役員又ハ公務員ノ其ノ勤務ニ関シ為シタル発明ニシテ性質上使用者、法人又ハ職務ヲ執行セシムル者ノ業務範囲ニ属シ且其ノ発明ヲ為スニ至リタル行為カ被用者、法人ノ役員又ハ公務員ノ任務ニ属スル場合ノモノニ付其ノ被用者、法人ノ役員若ハ公務員カ特許ヲ受ケタルトキ又ハ其ノ者ノ特許ヲ受クルノ権利ヲ承継シタル者カ特許ヲ受ケタルトキハ其ノ発明ニ付実施権ヲ有ス」とした。大正一〇年法は大正一〇年法はアメリカ特許法的な制度の多くをドイツ法的なものに改めたが[30]、それは従業者発明についてもあてはまる。

旧法から現行法への改正にあたって被用者発明制度の改正の要否が議論された。特許庁・工業所有権制度改正審議会答弁説明書(一九五七)二一によると「経済的に見ると今日の社会においては発明活動は企業にとって欠くことの出来ない経済活動となっており、従って各企業は研究を組織化し、技術の各分野を総合して計画的に発明活動をなしており、重要な発明はすべてそのような状況の下において初めて生まれてくるのである。いわば集団による発明の時代であって、一個人の天才のひらめきによる時代は昔のことである。このような現実からすると、この集団すなわち法人に発明についての権利を与えないのは」問題とする見解も主張された。

しかし「現実においては被用者たる発明者が十分にむくいられているとはいえないのであり、そのような現実を一歩前進して今少し被用者たる発明者を厚く遇した方が発明奨励の目的に適うというのであり、そう考えると法人発明を認めることは却ってその意味からみて逆行する」として、旧法の被用者発明の枠組は維持された。

従って現行制度の原型は大正一〇年法である[31]現行特許法の従業者発明の規定は旧法の被用者発明と表現上の相違にもかかわらず実質的には同じであり、この相違は旧法条につき生じた解釈の疑義を払拭しようとする配慮からなされたとされる。そのため技術の進歩に応じてめまぐるしく変わる知財法学においてこの分野は温故知新の妥当するそれほど数多くない分野でもある。尚、特許法35条の職務発明の規定は現行特許法の施行前に被用者、法人の役員又は公務員がした発明についても適用される(特許法施行法24)

(三) 比較

発明の帰属についての法制を大まかに分類すると、職務発明の特許を受ける権利を発明たる事実行為をした従業者に認めるもの(オーストリア、独、日)、使用者に認めるもの(蘭、仏、スイス)、従業者に発明者証Inventor’s certificatesの出願のみを認めるもの(かつてのソ連等社会主義国)に区分できる。

前者には発明者主義を徹底して出願人を発明者本人に限定し、出願前の特許を受ける権利の移転を認めないものもある(米国特許法一五三条、フィリピン、クウェート、ヨルダン、ナンビア、マルタ共和国、キューバ、ジャマイカ、バミューダ、パラグァイ、ベネズエラ)

ここには特許制度が大商人、企業、貴族に不労所得を保証する道具に成り下がるのを危惧し、特許は発明者のものではなければならないという強烈な理念が込められている[32]。尤も米国でも実際には発明者の名目で譲受人(企業)が出願手続を行うのが一般的である[33]。特許出願と同時が特許査定前に発明者の作成した譲渡証をUSPTOに提出することで特許出願の名義変更がなされる[34]

(四) フランス

フランスは1791年の特許法で特許権を基本的人権の一つとしての財産権として規定したという輝かしい歴史をもつ。そこでは「その表明及び発展が社会にとって有益であり得るあらゆる新しいアイディアはそれを考案した者に原初的に帰属すること、また工業の分野における発見をその発見者の財産と考えないことはその本質からして正に人権の侵害であること」と宣言された[35]。権利主義の特許制度がまだなかった時代(一七五四年)においても発明を冒認された発明者が自己を真の発明者と認めるよう科学アカデミーに訴え、アカデミーがその主張を認めた例があった。その頃から発明の無法な横取りを許さない発明家とそれを救済する審査機関が存在していたのである[36]

このような思想からは発明は当然発明者個人に帰属するものということになるが、産業革命により企業が多数の労働者を雇うようになって従業者発明の問題が認識されると、職務発明を雇主の支払った給料の産物と考えられるようになった。当時は資本主義の発展を最優先とする政策が採られており、他方で労働者の権利は完全に無視されていたためである。そのような中で一八四四年に特許法が改正され、従業員が職務として行った発明につき無条件に雇主に権利を認めた[37]

(五) ドイツ

従業者発明法は強行規定によって一定水準の労働条件の実現を図る点で労働法と共通し、特許法と労働法(それに契約法)の交錯する分野である[38]。そのため従業者発明を特許法ではなく労働特別法によって規制する法制もある(スウェーデン(一九四九)、デンマーク(一九五五)、ドイツ(一九五七))[39]

ドイツ従業者発明法Gesetz über Arbeitsnehmererfindungen, ArbErfGは雇用期間中なされた職務発明についての権利は本法所定の手続を満たした場合にのみ雇用者に譲渡できるとする。本法は労働法規であり公務員・軍人も適法対象とするが、法人役員を対象外とする[40]。この適用を受けない発明者を自由発明者という。法人の法定代表者、大学教授・講師・助手も自由発明者である[41]

しかしドイツ意匠法二条は「国内の産業施設に従事するデザイナー・画家・彫刻家が当該産業施設の所有者の指図又は負担により製作した意匠については契約に別段の定めがない限り、当該産業施設の所有者がその権利者とみなされる」と規定する[42]

(六) 中国

中華人民共和国の特許法は専利法といい、この一つの法律で発明、實用新型(実用新案)、外觀設計(意匠)の三つ権利を規定する。専利法は一九八四年三月一二日に第六回全国人民代表大会常務委員会第四次会議を通過し、一九八五年四一日に施行された。一九九二年九月四日第七回全国人民代表大会常務委員会第二七次会議において修正された。

従業者発明についてはこの専利法と専利法実施細則(一九八五..一九国務院承認、一九八五..一九専利局公布)に規定されており、その内容はドイツ法的とされる[43]。そこでは職務発明と非職務発明に分ける。職務発明創造とは発明者が所在する職場の任務を完成するため、又は主に所属する職場の物質条件を利用して完成した発明創造である(専利法六)

所属組織の任務を執行して完成された職務発明創造とは、自らの職務においてなした発明創造、所属組織から与えられた自らの職務以外の任務を遂行してなした発明創造、退職・転勤後一年以内になしたもので元の組織で担当していた職務又は割り当てられていた任務と関係のある発明創造をいう。物質的条件とは所属組織の資金、設備、部品、付属品、原材料、非公開の技術資料等をいう(実施細則一〇)

職務発明の権利は職場に帰属する。全人民制職場の取得した専利権は国に属し、その職場が保有する。集団所有制その他の所有制職場(含外国企業、合弁企業)の取得した特許権は各職場に属する[44]。非職務発明の専利権を申請する権利は発明者個人に帰属する。

職務発明者には特許権が付与された後、権利者は実施により得られた税引き利益の二%以下、実施料収入の一〇%以下の補償金を発明者に支給しなければならない。中国法の職務発明に関する規定は中国にある外国企業と合弁企業にも適用される[45]

(七) 諸国

韓国では特許法院が存在するが、特許権の帰属(発明者の特定・譲渡・相続の承継)に対する訴訟は特許裁判所を除外した一般裁判所の管轄である[46]

ベトナムでは雇用契約の履行としてなされた発明は契約上別段の定めがない限り、雇用主に帰属する[47]

(八) カナダ

カナダでは兵器・軍需品の発明について国防上の見地から一定の条件の下にその所有権が国に譲渡される場合がある[48]Canada Patent Act (1987) 20は「GOVERNMENT OWNED PATENTS」の章を構成し、以下のように述べる。

(1) Any officer, servant or employee of the Crown or of a corporation that is an agent or servant of the Crown, who, acting within the scope of his duties and employment, invents any invention in instruments or munitions of war shall, if so required by the Minister of National Defence, assign to that Minister on behalf of Her Majesty all the benefits of the invention and of any patent obtained or to be obtained for the invention.

(2) Any person other than a person described in subsection (1) who invents an invention described in that subsection may assign to the Minister of National Defence on behalf of Her Majesty all the benefits of the invention and of any patent obtained or to be obtained for the invention.

(3) An inventor described in subsection (2) is entitled to compensation for an assignment to the Minister of National Defence under this Act and in the event that the consideration to be paid for the assignment is not agreed on, it is the duty of the Commissioner to determine the amount of the consideration, which decision is subject to appeal to the Federal Court.

(4) Proceedings before the Federal Court under subsection (3) shall be held in camera on request made to the court by any party to the proceedings.

(5) An assignment to the Minister of National Defence under this Act effectually vests the benefits of the invention and patent in the Minister of National Defence on behalf of Her Majesty, and all covenants and agreements therein contained for keeping the invention secret and otherwise are valid and effectual, notwithstanding any want of valuable consideration, and may be enforced accordingly by the Minister of National Defence.

(6) Any person who has made an assignment to the Minister of National Defence under this section, in respect of any covenants and agreements contained in such assignment for keeping the invention secret and otherwise in respect of all matters relating to that invention, and any other person who has knowledge of such assignment and of such covenants and agreements, shall be, for the  purposes of the Official Secrets Act, deemed to be persons having in their possession or control information respecting those matters that has been entrusted to them in confidence by any person holding office under Her Majesty, and the communication of any of that information by the first mentioned persons to any person other than one to whom they are authorized to communicate with, by or on behalf of the Minister of National Defence, is an offence under section 4 of the Official Secrets Act.

(7) Where any agreement for an assignment to the Minister of National Defence under this Act has been made, the Minister of National Defence may submit an application for patent for the invention to the Commissioner, with the request that it be examined for patentability, and if the application is found allowable may, before the grant of any patent thereon, certify to the Commissioner that, in the public interest, the particulars of the invention and of the manner in which it is to be worked are to be kept secret.

(8) If the Minister of National Defence so certifies, the application and specification, with the drawing, if any, and any amendment of the application, and any copies of those documents and the drawing and the patent granted thereon shall be placed in a packet sealed by the Commissioner under authority of the Minister of National Defence.

(9) The packet described in subsection (8) shall, until the expiration of the term during which a patent for the invention may be in force, be kept sealed by the Commissioner, and shall not be opened except under the authority of an order of the Minister of National Defence.

(10) The packet described in subsection (8) shall be delivered at any time during the continuance of the patent to any person authorized by the Minister of National Defence to receive it, and shall, if returned to the Commissioner, be kept sealed by him.

(11) On the expiration of the term of the patent, the packet described in subsection (8) shall be delivered to the Minister of National Defence.

(12) No proceeding by petition or otherwise lies to have declared invalid or void a patent granted for an invention in relation to which a certificate has been given by the Minister of National Defence under subsection (7), except by permission of the Minister.

(13) No copy of any specification or other document or drawing in respect of an invention and patent, by this section required to be placed in a sealed packet, shall in any manner whatever be published or open to the inspection of the public, but, except as otherwise provided in this section, this Act shall apply in respect of the invention and patent.

(14) The Minister of National Defence may at any time waive the benefit of this section with respect to any particular invention, and the specification, documents and drawing relating thereto shall thereafter be kept and dealt with in the regular way.

(15) No claim shall be allowed in respect of any infringement of a patent that occurred in good faith during the time that the patent was kept secret under this section, and any person who, before the publication of the patent, had in good faith done any act that, but for this subsection would have given rise to a claim, is entitled, after the publication, to obtain a licence to manufacture, use and sell the patented invention on such terms as may, in the absence of agreement between the parties, be settled by the Commissioner or by the Federal Court on appeal from the Commissioner.

(16) The communication of any invention for any improvement in munitions of war to the Minister of National Defence, or to any person or persons authorized by the Minister of National Defence to investigate the invention or the merits thereof, shall not, nor shall anything done for the purposes of the investigation, be deemed use or publication of the invention so as to prejudice the grant or validity of any patent for the invention.

(17) The Governor in Council, if satisfied that an invention relating to any instrument or munition of war, described in any specified application for patent not assigned to the Minister of National Defence, is vital to the defence of Canada and that the publication of a patent therefor should be prevented in order to preserve the safety of the State, may order that the invention and application and all the documents relating thereto shall be treated for all purposes of this section as if the invention had been assigned or agreed to be assigned to the Minister of National Defence.

(18) The Governor in Council may make rules for the purpose of ensuring secrecy with respect to applications and patents to which this section applies and generally to give effect to the purpose and intent thereof.

(九) 国際条約

職務発明者の利益が無視される傾向があったため、ILO, The International Labour Code 1951, vol.II Appendices (Geneva) 243.は技師・熟練工等の尽力に対し適切な補償を保障することにより、それらの者の発明につき産業上最良の協調が得られるとして、従業者発明についての法的規制を勧告した。

それを受けてパリ条約ロンドン会議でこの問題が検討されたが、発明者従業員が補償を権利として取得する制度は否決され、発明者が特許証に発明者として記載される権利(発明者名誉権、発明者人格権)のみが認められた(パリ条約四-)[49]法人の名称が発明者欄に記載されたのでは名誉権の意義は没却されるから、パリ条約加盟国では発明者は自然人に限定されると解せる[50]。尤も事務局案では「如何なる契約といえども発明者よりその氏名を記載される権利を奪うことができないものとする」とされていたが、この部分は採択されなかった。そのためこの部分については国内法で自由に定められることになる[51]

他方、PCT 4(v)・同規則4.6は「発明者の氏名又は名称」と規定してあり、PCTは法人に発明を帰属させる法制も予定している(Record of the Washington Diplomatic Conference on the Patent Corporation Treaty (1970) 558.)[52]

この問題は国際工業所有権保護協会Association Internationale pour la Protection de la Propriété Industrielle / the International Association for the Protection of Industrial Property, AIIPIでも議論されている[53]AIIPIは工業所有権の保護を国際レベルと各国国内法レベルの両面で強化することを目的とする団体である[54]

発明の帰属

「産業上利用することができる発明をした者は」「その発明について特許を受けることができる。」(特二九())。即ち発明に対する権利は発明という行為によって発生し、その行為者に帰属する。これは発明者主義といわれる。発明者は技術課題を解決するために技術手段を具体化した者であり、単なる管理者・補助者・後援者・委託者はふくまない[55]

そもそも特定の発明が発明者個人のものとして排他的に帰属されなければならないという必然性はなく、産業政策的な目的から発明者に特許権を認めたに過ぎないとする見解もある[56]。しかし全て人は自己の創作した科学的・文学的又は美術的作品から生じる精神・物質的利益の保護を受ける権利を有しており(Universal Declaration of Human Rights of 1948§27(2))[57]、発明者の発明に対する権利は人権である。

発明が共同でなされた場合は特許を受ける権利は共同発明者全員に帰属する。各自の持分は共同発明者間の合意で定められるのが現実だが、特許を受ける権利は発明という事実に対して発生するものであり、権利の原始的帰属者を契約で左右することはできず、厳密には持分は各自の寄与度に応じて定められる。

法人の発明能力

現行特許法は自然人が発明者となることを予定しており、特許を受ける権利は常に原始的には発明者たる自然人に帰属する[58]。特許法三六条()は願書に「特許出願人の氏名又は名称」「発明者の氏名」を記載しなければならないとする。「出願人は名称でもよいが、発明者は氏名に限るとしていることは、出願人は法人でもよいが発明者は自然人に限るということを意味している」[59]

東京地判昭三〇..一六下民六--四七九浮袋口金キャップ事件は「我国の実用新案法においては、外国の立法例中に存在する如く出願主義」を採ってはいないと同時に、実用新案の登録を受けることができるものは考案という事実

(一) 著作権法等との対比

特定の自然人が特定の要件の下で創作した知的財産の創作者を法人その他使用者とすることも立法政策としてはありうる。著作権法一四条は「法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」と定める。半導体回路配置法五条も「法人その他使用者の業務に従事する者が職務上創作した回路配置については、その創作の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人その他使用者を当該回路配置の創作をした者とする。」とする。

これは知的財産の創作行為をなしうるのはあくまでも自然人との前提に立ちながら、一定の要件を具備した知的財産についてだけ、法人を創作者と擬制したにすぎないものとされる[60]。その積極的根拠として知的財産権取引の便宜、消極的根拠として使用者等に権利を帰属しても従業者の受ける不利益は少ないことがあげられる。しかし企業の利益に偏りすぎるとして、法人著作の妥当性を疑問視する見解もある。

少なくとも特許権は著作権と異なり特許原簿や特許証を見ることによって権利者や存続期間を容易に確認できるため、使用者に権利を帰属させることにより取引に便宜を図る必要は少ない[61]。又、一般的に特許権は著作権よりも経済的価値が大きく従業者の利益に配慮する必要性が高い。それ故、特許法が著作権法のような法人発明を認めないことは妥当である。

(一) 法人理論

発明者は発明という行為の行為者であり、それは法人自身はなし得ないことである。しかし法人自身が行っているわけでもないが法人は売買や贈与を行うことができる。これは特定の自然人の行為を法人の行為と法的に評価するためである。同様に特定の自然人の発明を法人自身の発明と評価することもできるか問題とされる。この問題は法人本質論によって議論されていた。法人の本質については擬制説、否認説、実在説(有機体説・組織体説・社会的作用説)が対立する[62]

法人擬制説は法人を法律によって存在しているものとして擬制された人為的主体とし[63]、否認説も法人を擬制としその実体は個人・財産に過ぎないとする。そのため両説とも法人自体の行為というものを観念しない。英米にはCorporations have neither souls to be saved nor bodies to be kicked.という法諺があり[64]、法人格否認の法理をlifting the veilと呼ぶことからからもわかるように、法人を擬制的存在とし、法の思考においてのみ存するものとする[65]そのため売買や贈与等、法律行為は権利義務の帰属点となる必要上法人にも認めるが、事実行為能力は否定される。発明は事実行為だから法人には発明能力がない。これを戦前の学説は、法人には発明に必要な事実的思考力[66]、自然的意思がないからと説明した[67]

それに対して法人を社会的実在として捉える法人実在説は法人の発明能力を肯定する傾向にある[68]。しかし実在説が説得力をもつのは法人自体に責任を課すために法人の犯罪能力や不法行為能力を肯定する場合である。法人が法技術上の擬制に過ぎないとする擬制説としても、法人が人々の法益に重大な脅威と侵害を与える存在であること、それを防止するために法人に強力な法的規制を課す必要性は積極的に支持できるからである[69]

このように法人実在説の意義は法人の活動のもたらす負の面の責任を法人に負わせる点にあり、実在説に立ちつつ発明を自然人の知能的活動の産物として、法人の発明能力を否定することも十分成り立つ。法人学説の対立は法人の多様な側面の何れを強調するか、についての対立に帰着するとも言え[70]、近時の法人学説の多くは従来の学説史的寄与の上にたってそれらを総合したような理論を立てている[71]。それ故、法人活動の負の面については実在説的発想に立ちつつ、発明のようなメリットの帰属については擬制説的思考によることも矛盾ではない。フランスでは法人実在説が多数派だが、集団的活動の実質的支柱をなす人間への配慮が深く働いており、その意味で法人否認説と裏腹になっていたとされる[72]

「従業者発明の問題につき、従来のように法人理論を前提として議論をすることは誤りであるのみならず、従業者発明制度の理論的な解明を妨げる作用を果たしてきたとも言えよう」[73]。従業者発明は使用者に労務を提供する義務を持つ従業者によってなされた発明の権利を誰に帰属させるか、という問題であり、雇用関係により生じた利益の配分・調整の問題である。

しかしこのことは特許法学が法人本質論を顧慮する必要なしということではない。従業者発明とは別に、特定の自然人の発明を法人の発明と法的に評価できるか、の問題があり、これは法人理論の発明についての応用問題である。そして法人理論からは法人は発明者たりえないとするのが整合的である。

使用者・発明者

職務発明において使用者の果たす役割はきわめて大きい。発明者に職務発明をするに至った行為を職務として与えたのは使用者である。又、使用者は発明者の職務遂行に必要な設備、資財、費用を負担する。その上、従業者は企業において発明に必要な技能・経験を会得している。

又、研究開発がある時点で完結してしまうということはほとんどなく、常に改良や迂回のために追加・累積的なR & Dが行われる[74]。そのためある企業研究者の発明もその前任者達の研究の蓄積の上に成立している。

加えて企業は研究者が自らの創意工夫を発揮できるように環境を整えるだけでなく、優れた発明が生み出せるよう個々の研究者に積極的に働きかけることも多い。例えば知財部員が発明創出部門の中に入って重要開発テーマ毎の出願戦略を推進する企業もある[75]

経営トップの思想と姿勢が開発の成果の大小に最大の影響力を及ぼすとする見解もある[76]。富士通のモバイルスキャナRapidScan RS-10の開発のきっかけは「車の中でも使える、持ち運びのできる名刺読取機を開発できないか」というトップの一言だったという[77]

このように企業が研究開発の重要な担い手となっているため、過度的な独占的市場支配力を企業に保証することがR & Dにインセンティブを与える手段として不可欠とする見解もある[78]

(二) 発明の集団的側面

発明には集団で取り組むのに適した面がある。発明の中心的活動たる思索は大勢が集まったからといって優れた成果を生み出せるとは限らない。しかしキャノンでは製品デザインは複数のデザイナーによって一日中、外部の会議室で缶詰になってアイディアを考え、批評しあったり、面白いアイディアのモデル(実現想定模型)を作って比較したり、デザインコンペを行ったりして、アイディアの質を高めているという[79]

又、発明は精神的創作だが、その完成には理論的作業のみならず試験・実験・解析も必要である[80]。このような作業は組織的に行う方が効率的である。核融合技術、核燃料再処理技術、高圧送電、スペースシャトル、遺伝子操作等に関する発明は大規模で一流の研究設備と優秀なスタッフがいないと無理とまで言われる[81]。日本の新製品・研究開発も優秀なものづくり基盤(e.g.金型、鋳鍛造、鍍金)による機動的な試作機能に支えられてきたとされる[82]

加えてメガドル科学は発明に時間と費用を要求する。一特許によって市場の独占も可能とされる医薬品はその最たるもので、新薬開発には一〇−一七年という長い期間と一〇〇−一七〇億円という膨大な開発費が必要とされる[83]。そこにはアイディアの創案だけでなく安全性確認も義務付けられている[84]。そのため開発目的不達成による危険負担の能力がない者が取り組むのは困難である[85]

このため、古く中世西洋においては修道院が医薬や食品の発明母体となっていたし、日本の寺院も独特の精進料理を生み出してきた[86]。特に科学技術が高度化・複雑化した現代の発明は団体の指揮監督の下に組織・計画化され、団体内の物的人的施設・具体的経験を基礎になされるのを通常とする[87]

実際、一九九四年から一九九七年八月三一日までに出願されたガラスフリット・ペースト(コーディング材、接着・封着剤、導電・絶縁ペースト、粉末原料、充填材)の分野の発明では、大企業四九六件、中小企業二三件、個人九件、工業技術院二件、外国系四三件であった[88]。又、一九九八年に公開された国際出願で、出願件数の多い出願人ベスト一五は、十二位のカリフォルニア大学を除いて他は全て企業である[89]。科学技術庁第五七回注目発明では九九件の発明が選定されたが、発明者と出願人が同一人であるのは一件だけで、企業が出願人であるものがほとんどだった[90]。又、二〇〇〇年度全国発明表彰受賞発明一〇件も全て企業研究者のものだった[91]。尤も個人発明家の発明よりも企業研究者の発明が表彰される傾向は、官僚が企業の方にばかり顔を向け個人発明家の業績を正当に評価しない例としても受け取れる。

(三) 個人的側面

発明が企業による資材提供や給与の負担でなされるとしても、ルーチンワークと異なり発明は同一の研究材料や設備が与えられたとしても同一の発明がなされるわけではない。これは発明が余人をもって代え難い活動であり、発明者個人の精神活動の成果であることを示している。発明は特に能力を有するものがその能力を発揮し得たときにはじめてできるものだから、どのような条件下でなされたとしてもその権利は格別の想像力を働かせて発明をした者が持つべきである[92]

又、「発明は多くの人の協力あってこそ」と語る企業研究者は少なくないが[93]、これは国際的には通用しない日本人の「美徳」である謙遜の表れか、さもなければそう言わなければならないほど日本の組織は個人の突出を嫌うのかもしれない。

仮に投下資本の回収とインセンティブの確保を図ることが発明の奨励に有用としても、そのために発明者からその利益を奪ってそれを企業に与えるのは本末転倒である。社会全体のある目標goalを定める命題たる政策と、特定人の権利を定める命題たる権利は区別され、前者の必要から後者を否定することは許されない[94]それ故発明は発明者個人に帰属されるべきである。

加えて企業の資本投下に基づいて組織・計画的にR & Dが行われるとしても発明をするのは人である。R & Dには熟練技能者や機械工、電機技師、管理職員等も必要だが、専門科学者と技術者らが想像力豊かに能力を発揮しなければ価値ある創造はなされない[95]。むしろ発明とは従来の考えとは異なる非常識なことをやるわけだから、組織からの圧力を受けやすく、アングラでもやるという強い意思が発明の原動力になる場合も多い[96]。従って従業者発明の奨励という功利的観点に立ったとしても従業者本人に帰属させるのが望ましい。

従ってたとえ従業者が勤務時間中に職場で発明をなしたとしても、発明者は従業者であり発明は従業者の財産である。

(四) 雇用契約

雇用契約は当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し、相手方がこれに報酬を与えることを約する契約であり(民六二三)、供給する労務の種類については何ら限定されていない[97]。そのため発明を対象とする雇用契約も成立しうるとする見解もある。一般に契約は強行法規が存在せず目的が公序良俗に反することがなければ、私的自治・契約自由の原則に従い、第一に当事者間の合意によって決定される。合意の欠けている事項や不明瞭な事項は、第二に慣習があればそれにより(民九二)、第三に慣習がなければ任意法規により(民九一)、契約を解釈・補充して決定する[98]

そこで労働者が工場で製品を製造した場合、その製品の所有権は当然使用者に帰属するから、発明の場合のみ別扱いとするのは不自然であり、従業者の研究材料・設備や家庭生活の維持まで使用者が面倒をみているような場合、義務付けられた研究成果が使用者に帰属するのは当然とする[99]

しかし発明は雇用契約の目的とはなり難く、雇用契約における賃金に発明の完成と譲渡に対する対価を組み入れることは人間性に反する[100]。使用者が研究者を雇うのは発明をさせるためでそのために給与を払っているとの批判もある。しかし使用者は有能と考える研究者に発明を行う相当の蓋然性を考慮して給料を払っているかもしれないが、現実に大発明をしたときのことを標準にして給与を査定してはいない[101]

(五) 工場発明

発明は発明者に帰属させるのが原則としても、所謂工場(経営)発明の場合は使用者に帰属させるべきとの見解がある。これは発明が工場・研究所等での既存の設備・経験等を利用して、多数の協力者により徐々に成立したもので発明者を特定できない場合である。

発明者が特定されなければ誰も特許権を取得することができないことになる。この結論に対してはその妥当性を疑問視する見解もある[102]。そこでこのような場合には当該発明がその企業で開発されたことを考慮し、使用者を権利主体とすべきとする[103]。従来の日本企業の強みは系列や工場という価値基準や情報を共有しあった同質的な仲間内での製品作りで発揮されてきたため[104]、このような観念は受け入れやすいらしい。

しかし工場発明は原始的に使用者に帰属する点で職務発明以上に使用者に有利である。これは個々の発明者が特定できないくらい個々人の寄与が組織の中に埋没しているのだから当然とする見解もある。しかし発明者を確定できないのは企業の研究管理が悪いためでもあろう。とすると発明者の確定困難の故に発明者に何らの補償もせずにその発明の財産権のみならず発明者名誉権までも奪うのは使用者の発明管理の悪さの故に使用者に利益を与えるという不当な結論を招く[105]

実際、共同作業といっても、各々別個の自我を有する個々人から成り立っており、渾然一体と融合するということはありえない。集団主義者は集団を一つのまとまった有機体とみたがるが、集団が個々人の総和以上のものと主張することは1+1=2という小学生でもわかる論理を否定することである。工場発明の論者は発明が企業によって組織・計画化されてなされる点を強調するが、組織・計画的な作業とは各人にその分担を厳格に割り当て行われる作業であり、発明に対する各人の関与・寄与は把握できるはずである。

しかも発明が多数の研究者により完成したならば発明の権利はそれら多数の研究者の共有になる。研究員の移動、退職、死亡による相続等のために多数の共同発明者が共同して出願手続を行うことは困難であり、その場合特許を取得することはほとんどないだろうが、だからといって使用者に権利を帰属させるのは論理の飛躍である。共同発明者各人は特許を取得しないとしても何かを失うわけではないが、企業が権利主体となり特許を取得するならば、各共同発明者(その相続人)は当該発明を実施することができなくなり、不利益を被る。従業者と企業は運命共同体であり、企業の利益は従業者の利益、というような発想は資本が労働者を支配するために作り出した幻影に過ぎない。日本の通説、判例とも工場発明を否定する(東京地判昭三〇..一六下民六--四七九浮袋口金キャップ事件)



[1] 正本恭子「ビジネスモデル特許」読売新聞夕刊二〇〇〇..一二、石田尚久「金融特許の取得大手行が積極化」読売新聞二〇〇〇..二四、伝川幹「ビジネス手法も発明に」読売新聞二〇〇〇..二八

[2] 中山信弘・発明者権の研究(東大出版会一九八七)一八〇

[3] Marx, K. & Engels, F. =大内兵衛他訳・共産党宣言(岩波一九七一)四八

[4] 桑原靖夫「労使関係における平等」企業と労働(有斐閣一九七九)五八、金子征史=西谷敏・基本法コンメンタール労働基準法四版(日本評論社一九九九)(西谷)

[5] 大久保泰甫「日本近代法の父ボワソナード」日本法学六十−四(一九九五)二三九

[6] 窪田隼人「年次有給休暇請求権」ジュリ三〇〇(一九六四)三六二

[7] 篠田四郎「会社の使用人のした発明と職務発明」判評四四七(一九九六)六二

[8] 尾高朝雄・法学概論新版(有斐閣一九六二)二四五

[9] 浦田賢治・憲法改定版(法学書院一九九〇)一三九(久保田穣)

[10] 有泉亨・労働法概説(有斐閣一九六七)(有泉)

[11] 特許庁「産業技術力強化法における特許料・審査請求料の経過措置について」知財管理五〇−六(二〇〇〇)九〇七

[12] 森野進「ロボットエイジに挑むソニーの研究開発戦略」発明九七−二(二〇〇〇)二七

[13] 人事院管理局研修審議室・アメリカ・ヨーロッパの大学院留学体験記(大蔵省印刷局一九八五)一〇八(中尾武彦)

[14] 大山道弘「品質改善型技術進歩と国際貿易」三田学会雑誌九一-(一九九八)三二

[15] 寺田高久「寺内町『貝塚』親方奮闘記」『地域産業政策大賞』論文集(中小企業都市連絡協議会二〇〇〇)五四

[16] グロービス・ベンチャー経営革命(日経BP社一九九五)一〇七

[17] 斉藤俊六「求められる中小企業の意識改革」発明九七−二(二〇〇〇)六八

[18] 斉藤俊六「メーン市場の確定が中小企業の生きる道」発明九五−二(一九九八)一五

[19] 千野信浩「企業イメージ調査ランキング」週刊ダイヤモンド(二〇〇〇..)一〇〇

[20] 北嶋守「人を魅了する中小製造業及び地域の要件」『地域産業政策大賞』論文集(中小企業都市連絡協議会二〇〇〇)三五

[21] 川内陽志生「二一世紀と日本企業の役割」日本経済新聞一九九九..一七、薬師寺泰蔵「コピー技術に前衛的思考を」読売新聞二〇〇〇..八、寺島実郎「米国追わずモノづくりを」朝日新聞二〇〇〇..

[22] 小野昌延・無体財産権法入門(有斐閣一九八五)三、射場俊郎「著作権制度の一世紀を振り返り、新たな歩みへ」コピライト四六一(一九九九)八〇(三浦朱門)

[23] 李只香「企業における研究組織の発展類型の研究」三田商学研究三八−四(一九九五)一四五

[24] 丸山工作他「日本人は創造性に欠けるか」読売新聞一九九九.一〇.一九(丸山)

[25] 大野力「高学歴化と昇進志向の変容」企業と労働(有斐閣一九七九)二〇〇

[26] 竹田稔「民訴法及び特許法の改正と今後の特許権侵害訴訟」知財研・21世紀における知的財産の展望(雄松堂二〇〇〇)二八七

[27] Kant, I.=篠田英雄訳・道徳形而上学原論(岩波一九六〇)八三

[28] Skinner, B.F., Beyond Freedom and Dignity (New York: Alfred A. Knopf, 1971) 60.野村和彦「防犯環境設計論(CPTED)の形成過程」法学政治学論究四三(一九九九)四八九

[29] 特許庁・工業所有権制度百年史上(発明協会一九八四)一四

[30] 松本重敏・特許発明の保護範囲新版(有斐閣二〇〇〇)七六

[31] 竹田和彦「企業戦略からみた知的財産管理」知財管理五〇−一(二〇〇〇)一一

[32] Henry幸田「二一世紀のプロ・パテントI」発明九七−二(二〇〇〇)五〇

[33] 浅村皓=Wegner, H.C.・アメリカ特許制度の解説増補(発明協会一九九〇)七一

[34] 飯田幸郷「企業トップの知的戦略四」発明九七−六(二〇〇〇)八九

[35] 田村理・フランス革命と財産権(創文社一九九七)一五六、本間忠良「フェティシズムとユーフォリア」知財研・21世紀における知的財産の展望(雄松堂二〇〇〇)三七五

[36] 丸山亮「ボーマルシェの発明」発明九五−九(一九九八)四一

[37] Prager, A History of Intellectual Property from 1545 to 1787, 26 J. of the Patent Office Society 11 (1944) 735.

[38] 豊崎光衛「無体財産法の道しるべ」法教二期八号(一九七五)二六二

[39] Neumeyer, Employees’ Rights in Their Inventions, 44 J. of the Patent Office Society 698 (1962).

[40] 松尾和子「判批」判タ二三四(一九六九)八九、中山信弘「従業者発明における発明者の地位三」法協九一−一〇(一九七四)一五〇一

[41] Tetzner, V.=布井要太郎訳・西ドイツ特許制度の解説(発明協会一九八四)六三

[42] 布井要太郎「判批」知財管理四九−一〇(一九九九)一四六七

[43] 岡本清秀「企業の多国籍化に伴う知的財産戦略と留意点」知財管理五〇−一(二〇〇〇)七四

[44] 中国法学会澳門東亜大学研究院=佐々木静子訳・中国ビジネス法体系下(学生社一九八九)八八五(郭壽康)

[45] 中国法学会澳門東亜大学研究院=佐々木静子訳・中国ビジネス法体系下(学生社一九八九)八九九(郭壽康)

[46] 権泰福「工業所有権制度の最近の動向三」発明九五−九(一九九八)四六

[47] 朝比奈宗太「ベトナムにおける特許制度の現状」パテ五〇−六(一九九七)五〇

[48] 松居祥二・カナダ特許制度の解説改訂版(発明協会一九九〇)一〇二

[49] 中山信弘「従業者発明における発明者の地位一」法協九一−五(一九七四)七八八

[50] 中山信弘・特許方式問題へのアプローチ(通商産業調査会一九八二)一九九

[51] 後藤晴男・パリ条約講話増補版(発明協会一九八六)一七九

[52] 後藤晴男「法人による発明」特許判例百選二版(一九八五)二九

[53] 角田仁之助「職務発明制度ならびにその問題点について」特管二一−六(一九七一)五三七

[54] 大楽光江「世界の著作権関係団体二」コピライト四六九(二〇〇〇)一九

[55] 岡本清秀「企業の多国籍化に伴う知的財産戦略と留意点」知財管理五〇−一(二〇〇〇)七六

[56] 石井康之「技術開発の歴史における発明とその事業化五」発明九五−六(一九九八)九七

[57] 高木八尺他・人権宣言集(岩波一九五七)四〇八

[58] 特許庁・工業所有権法逐条解説改訂一一版(発明協会一九九三)一一六

[59] 中山信弘・工業所有権法上(弘文堂一九九三)六七

[60] 半田正夫・著作権法概説七版(一粒社一九九四)六九

[61] 中山信弘・ソフトウェアの法的保護新版(有斐閣一九八八)五五

[62] 我妻榮・新版民法案内U(一粒社一九六七)八四

[63] Olivier, J., Legal Fictions in Practice and Legal Science (1975) 162.

[64] The Oxford Dictionary of English Proverbs, 3rd ed., revised Wilson, F.P. (Oxford UP 1970) 145.

[65] 森泉章・法人法入門(有斐閣一九八六)五八

[66] 杉本定治郎「特許法大意三」国家学会雑誌二〇−六(一九〇六)一一

[67] 清瀬一郎・特許法原理(厳松堂一九二九)一〇七

[68] 松本静史・改正特許法要論(厳松堂一九一一)五二、藤江政太郎・改正特許法要論(厳松堂一九二二)一〇

[69] 沼野輝彦「両罰規定の解釈」日本法学五五−一(一九八九)八八。但し法人のみに責任を負わせるならば逆に法人機関・従業員のモラルハザードを引き起こすため、実行者個人が責任を負うのが第一だが、それには行為の二面性という複雑な説明をする実在説よりも擬制説の方が説明しやすい(遠藤浩=川井健・ワークブック民法三版(有斐閣一九九五)二〇(森泉章))

[70] 四宮和夫・民法総則四版補正版(弘文堂一九九六)七六

[71] 浜上則雄「法人の本質」ジュリ三〇〇(一九六四)一二〇

[72] 山口俊夫・概説フランス法(東大出版会一九七八)三八九

[73] 中山信弘・工業所有権法上(弘文堂一九九三)九五

[74] 岡田羊祐「技術取引と独禁法」知財研・21世紀における知的財産の展望(雄松堂二〇〇〇)一三〇

[75] 横浜ゴム株式会社「わが社の特許活動」知財管理五〇−六(二〇〇〇)八四〇

[76] 鈴木弘「開発のエネルギー源、社長」発明九五−九(一九九八)八〇

[77] 安部文隆=井藤隆志「モバイルスキャナ『RapidScan RS-10』」発明九五−九(一九九八)八五

[78] 岡田洋祐「研究開発と特許制度」知的財産研究所・知的財産の潮流(信山社一九九五)一〇五

[79] 塩谷康「私の発明手法」発明九七−六(二〇〇〇)七〇

[80] 鈴木弘「空間への大飛躍」発明九五−二(一九九八)六四

[81] 加藤誠軌・研究室のDo It Yourself (内田老鶴圃一九九五)五五

[82] 林隆男他「21世紀に伝承する技能・ものづくり」『地域産業政策大賞』論文集(中小企業都市連絡協議会二〇〇〇)

[83] 野口實・よくわかる医薬品業界五版(日本実業出版社一九九六)六四、特許庁医薬特許研究会「医薬品製造業と薬パテントサイクル」発明九五−六(一九九八)八一、塩野義製薬株式会社「わが社の特許活動」知財管理五〇−二(二〇〇〇)二六二

[84] 本間崇「ある特許弁護士の三〇年」本間崇還暦記念 知的財産権の現代的課題(信山社一九九五)三九〇

[85] 紋谷暢男「技術・経済の変化と特許制度」発明七四−一一(一九七七)

[86] 丸山亮「寺院・修道院と発明」発明九四−一〇(一九九七)四六

[87] 紋谷暢男・注釈特許法(有斐閣一九八六)九五(紋谷)

[88] 特許庁「特許出願からみた注目すべき技術分野二」発明九五−九(一九九八)七四

[89] 下道晶久「PCT出願人ベスト15」発明九六−一〇(一九九九)二八

[90] 科学技術庁「「第五七回注目発明」の選定について」発明九五−六(一九九八)一一〇

[91] 「全国発明表彰受賞者決まる」朝日新聞夕刊二〇〇〇..一五

[92] 兼子一他「発明の成立に伴う法律問題五」ジュリ三一五(一九六五)九九(吉藤幸朔)

[93] 久保勝「私の発明手法」発明九七−六(二〇〇〇)七三、武田了「私の発明手法」発明九七−七(二〇〇〇)八一

[94] Dworkin, R., Hard Cases, 88 Harv. L. Rev. 1058 (1957); Wellington, H.H., Common Law Rules and Constitutional Double Standards: Some Notes on Adjudication, 83 Yale L. J. 221 (1973).香城敏麿「憲法解釈と裁量」ジュリ六三八(一九七七)二〇六

[95] Mark, H. & Levine, A. =拓殖俊一訳・研究開発のマネージメント(三田出版会一九八九)一六九

[96] 吉沢克仁「私の発明手法」発明九五−九(一九九八)九三

[97] 小池隆一・債権各論(慶應通信一九四九)九四

[98] 三宅正男「企業内の労使慣行は当事者間の権利義務にどのような影響を与えるか」法教二期六号(一九七四)一〇三

[99] 深瀬義郎「判批」ジュリ二〇八(一九六〇)一三四

[100] 瀧野文三・発明権の法的形成(中大出版会一九七七)一二四

[101] 兼子一他「発明の成立に伴う法律問題六」ジュリ三一六(一九六五)七〇(豊崎光衛)

[102] 末吉亙「企業活動の成果たる知的財産権の原始的帰属について」本間崇先生還暦 知的財産権の現代的課題(信山社一九九五)一一九

[103] 紋谷暢男・無体財産権法概論七版(有斐閣一九九七)七六

[104] 阿部忠彦「蓄積された強みを見直そう」朝日新聞夕刊二〇〇〇..

[105] 中山信弘「従業者発明における発明者の地位四」法協九一−一一(一九七四)一六四二