HOME

東急不動産(販売代理・東急リバブル)から不利益事実を隠して問題物件をだまし売りされた著者(=原告)が消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、裁判(東急不動産消費者契約法違反訴訟、東京地裁平成18年8月30日判決、平成17年(ワ)3018号)で売買代金を取り戻した闘いの記録。
裁判における当事者と裁判官の緊迫するやり取りを丹念に再現
個人が不誠実な大企業を相手に闘うドラマがある!
裁判と並行して明らかになった耐震強度偽装事件の余波や欠陥施工、管理会社・東急コミュニティーの杜撰な管理にも言及し、深刻化を増すマンション問題の現実を明らかにする。
東急不動産のために働いた地上げ屋(近隣対策屋)が暗躍し、住環境を破壊する高層マンション建築紛争と共通するマンション建設の闇に触れる。
●目次 まえがき 東急不動産を提訴  東急不動産の弁論欠席  弁論準備手続開始 東急不動産の証拠改竄を指摘  東急不動産の図面集捏造に反論  倉庫との虚偽説明を糾弾 アルス東陽町での進行協議  証人尋問  地上げ屋の証言  原告への陰湿な攻撃 東急不動産従業員の証言  偽りの和解協議  東急不動産の卑劣な提案  予定調和の協議決裂 東急不動産に勝訴  東急不動産の遅過ぎたお詫び  耐震強度偽装事件と欠陥施工  勝訴の影響 社会正義の実現のために
ISBN978-4-904350-13-3 C0032 46判 110頁 定価1100円+税

天下り

林田力「天下りと随意契約〜法律事務所の事例」JANJAN 2007年5月30日

官僚の天下りを受け入れる見返りに、企業・団体が天下り官僚の出身官庁から受注を獲得する利権の構図が批判されている。最近では農林水産省所管の独立行政法人「緑資源機構」の官製談合が問題になっている。その農林水産省と法律事務所についての天下りと随意契約の事例を報告する。

 法律を守ることを使命とする法律事務所でも天下りと受注の構図が見られることには驚かされる。高木賢・元食糧庁長官は農林水産省退職後、弁護士となり、井口寛二法律事務所(東京都千代田区神田駿河台)に入った。農林水産省が下記URLで公表している通りである。

 農林水産省「平成14年再就職状況の公表について」(2002年12月26日)

 高木氏は東大在学中に司法試験に合格しており、退職後、司法修習生となり、弁護士となった。高木氏のような食糧庁長官経験者は、農林水産省事務次官になるか、所管法人に天下りするかで、弁護士となるのは珍しい。緑資源機構等にみられるように天下り公務員が税金を食い潰すことに比べれば、一見、美談とさえ思えてしまう。

 しかし、その判断は早計であった。高木氏を受け入れた井口寛二法律事務所は農林水産省から総合食料局所管事務に係る法律顧問の契約を随意契約で締結していた。農林水産省が下記URLで公表している通りである。

 平成17年度 所管公益法人等以外の者との間で締結された随意契約の点検・見直しの状況(農林水産省)

 農林水産省は随意契約とした理由を「契約の性質又は目的が競争を許さないため(会計法第29条の3第4項)」とする。一方、点検結果は「見直しの余地あり」で、平成19年度から公募を実施するとした。即ち井口寛二法律事務所との随意契約には疑問があるため、公募に改めたことになる。

 井口寛二法律事務所は農林水産省OBの高木氏を受け入れ、農林水産省と法律顧問契約を随意契約で締結した。建設会社が天下りを受け入れ、公共事業を受注することと同じ構図である。天下りの弊害は数々の談合・汚職事件で明らかにされているが、実態は国民が想像する以上に広範囲に及んでいる可能性がある。

不動産問題

林田力「不動産仲介「両手取り」の悲劇」オーマイニュース2007年11月20日

購入時には細心の注意とキャンセルする勇気が必要

 仲介で不動産を購入しようとした時に、感じた不合理を報告する。

 数年前に東急不動産(販売代理:東急リバブル)から新築マンションを購入したが、隣地建て替えなどの不利益事実を隠していたことが購入後に判明したため、消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)に基づき、売買契約を取り消した(参照:2007年3月2日 「東急不動産の実質敗訴で和解」)。

 そして、このマンションの売買契約を取消したため(要するに、返品することになったため)、新たな住居を探す必要が生じた。選択肢の1つとして中古不動産の購入を検討した。本記事は、その際の経験をまとめたものである。

 インターネットのポータルサイトから、条件(立地、価格、面積、間取り、築年数など)にあった物件を探し出し、その物件情報をもって不動産業者(=A社)に内覧の手配を依頼した。しかし、A社が、売主側の仲介業者(=B社)に確認したところ、物件は既に成約済みと回答を受けた。

 その物件広告は、掲載されたばかりで、すぐに売れてしまったのが信じられなかった。加えて当該物件は条件に合っていて、諦めきれなかった。

 そこでダメモトで、直接B社に電話で問い合わせた。すると、驚いたことに売れておらず、案内も可能との回答であった。

 A社経由で問い合わせた場合と、B社に直接問い合わせ場合の矛盾は、不動産仲介の「両手取り」を考えると説明がつく。

 不動産仲介は、売主と買主の間に「仲介業者」が入って、取引を成立させる契約の形態である。売主や買主が独力で、取引相手を探し出すことは困難な場合に有益である。仲介業者が、物件の買い手、または売り手を探し出してくれるためである。

 他にも仲介業者は、契約条件の交渉や様々な手続きを行う。この報酬として、売主・買主は、不動産仲介会社に仲介手数料を支払う。逆に言えば、仲介業者にとっては仲介手数料が売り上げになる。

 不動産の売主は仲介業者に売却を依頼する。また、買主は仲介業者に条件にあった物件探しを依頼する。両者の条件が、マッチすれば取引が成立する。この場合、買主と売主は、それぞれ自分の仲介業者に仲介手数料を支払う。

 一方、売却を依頼された仲介業者が、自社の広告などで買い手を探し出す場合もある。この場合、取引を成立させると、仲介業者は売主・買主の双方から仲介手数料を受け取れる。

 1回の取引で2回分の手数料を得られることになるので、これは仲介業者にとってオイシイ取引となる。両方の手で、手数料を受け取ることから「両手取り」と呼ばれる。

 問題なのは、「両手取り」しか考えない業者が、存在することである。これがB社の矛盾した回答の原因と考えている。

 即ちA社経由の問い合わせの場合、A社が買主の仲介業者となるので、成約した場合、B社が得られるのは、売主からの仲介手数料のみである。

 一方、購入検討者が直接B社に問い合わせた場合は、成約すればB社は、買主・売主双方から仲介手数料を受け取れる。

 「両手取り」を目的とする場合、他社からの引き合いには「売れた」と嘘をついてでも断り、自社に客が付くのを待つのが合理的となる。

 このような仲介業者の最大の被害者は、当該仲介業者を信頼して売却を依頼した売主である。

 本来ならば、他の業者が見込み客をつれてくるにもかかわらず、B社のところで止まってしまう。もっと高く買ってくれる買い手がいるかもしれないのに、B社が連れてきた買い手にしか売れない。

 売主にとっては、誰が連れてきた買い手でも、高く買ってくれればいい筈である。この点で仲介業者と売主の利害は衝突する。仲介業者が自社の利益を優先させると、売主の信頼は裏切られてしまう。

 第2の被害者は、別の仲介業者経由で購入しようとした検討者である。今回は、直接B社に問い合わせたために真相が分かったが、そこまですることは少ない。買える筈の物件が、買えないことになる。また、B社仲介でしか買えないということは、買い手にとって仲介業者を選択する自由が害されたことになる。

 多くの仲介業者は、仲介手数料を法定の上限「取引金額×3%+6万円」とするが、数少ないながら仲介手数料を、上限から大幅に減額する不動産業者が現れている。インターネットで「仲介手数料半額」「仲介手数料無料」などで検索すると発見できる。

 A社もそのような業者の1つであった。業者を選ぶことで、仲介手数料の安く済ませようとした私の目論見は潰えてしまった。

 ただし、B社のような「両手取り」を追求する業者は、何が何でも自社が連れてきた客でまとめようとするため、買い手の要望も汲んでくれやすい面がある。

 仮に、他社が好条件を提示する買い手を連れてきても、売主には告げずに、自社の買い手と取引をまとめることになる。この点を上手く利用できれば、買い手にとって良い取引ができる可能性がある。この意味でも、最大の被害者は売主である。

  ◇

 最後に上記物件取引の顛末を報告する。条件が折り合い、申込みまではしたものの、測量したところ、公簿面積よりも1割程度狭いことが判明した。

 この点については、契約条件変更で合意に至ったものの、更なる問題が生じた。売主の責任で正しい面積での、地積更正登記を行うことになっていたが、なし崩し的にB社の説明が変わっていった。

 境界立会いの関係で、登記が引渡し後に遅れることになった。この結果、買主が名義上、地積更正登記を申請しなければならないと条件が変わってしまった。

 登記申請人を誰とするかについては、東急不動産とのトラブルで痛い目に遭っているため(参照:2007年7月9日「東急不動産、『和解成立』後も新たなトラブル」)、取引をキャンセルすることとした。

 売買契約締結前なのでペナルティーはないが、引越先探しは振り出しに戻った。当該物件は2007年8月頃に売りに出されたが、現時点でもポータルサイト上には広告が出ている。

コメントありがとうございます。

先ず今回の記事は実体験を書いたものです。仲介業者が「両手取り」を狙うこと、そのために同業者から物件を隠してしまうこととがあることは、不動産購入の書籍でも指摘されていることです。例えばレインズに登録しなかったり、登録を遅らせたりする例が指摘されています。その意味で本記事で指摘した内容は、業界事情に詳しい方にとっては新味に欠けるものであることは認めます。
この点において別記事で報告した東急リバブル東急不動産との紛争(消費者契約法に基づく契約取消しが認められた画期的な判決が出たことや訴訟上の和解成立後も紛争が再燃したこと)に比べるとニュースバリューとしては多少弱いことも否定しません。
逆に言えば本記事の価値は具体的な経験例であることにあると考えます。そのため、具体性に重きを置いて執筆しました。どうして家探しを検討することになったか、最後に物件を購入したのかについて書いたのも具体的事情を明確にするためです。東急リバブル東急不動産の社名も記したのも参照記事中に記載されており、隠す意味がないと判断しました。
キャンセルの理由は地籍更正登記の登記申請を買主側で行わなければならなくなったことで、「最初の説明と異なる」ことでも十分な理由になると考えますが、中には「登記申請人の名義を誰にするかという形式上の問題に過ぎないのではないか」という価値観の方もいるのではないかと考えました。そのため、東急不動産と登記申請人を誰にするかでトラブルになった経験を説明に加えました。

本記事の主題について

本記事の主題である「両手取り」は必ずしもB社のみではなく、不動産業界に蔓延している問題と考えております。実際、私が「両手取り」という言葉を知ったのも、東急リバブルの問題を調査することによってでした。「東急リバブルに不動産の売却を依頼したが、東急リバブル内で物件の情報を止められて売れなかった」という売主の怒りを聞いたからです。
その意味でB社だけを批判したくて記事を書いたわけではありません。B社に振り回されたことも事実ですが、それなりにB社従業員は礼儀正しく、それほど悪感情を抱かせるような対応ではありませんでした。実際、消費者契約法(不利益事実不告知)に基づき売買契約を取り消したマンションでの東急リバブル東急不動産の対応と今回のB社の対応を比較して、「B社は従業員教育がしっかりしている。そもそも東急リバブル東急不動産から購入したことが誤りであった」との実感を新たにしました。
そのため、ご指摘内容とは反対にB社への恨みが動機とは思われたくないという思いで本記事の構成を考えました。その意味で、満足させられなかったかもしれませんが、懸念していた批判が出なかった点については誤解されずに表現できたと判断しています。

林田力「マンション建設反対運動連携の第一歩」オーマイニュース2007年11月28日

建築紛争当事者の交流会・戦略会議

 市民や地方議員、都市計画や法律の専門家で構成される「耐震偽装から日本を立て直す会」という集まりがある。この会が主催した交流会・戦略会議、「市民による都市改革〜2007年的状況から2008年への展望」が、2007年11月24日、東京都千代田区の神保町区民館で開催された。

 この交流会は、各地で個別に行われているマンション建設反対運動を連帯させ、抜本的な都市改革につながる運動に発展させるためのシナリオを描くことを趣旨とする。マンション建築紛争が各地に広がる中で、個別に反対運動を行っているだけでは、限界があるという問題意識が出発点だ。

 ある日突然、地域の景観を破壊するマンション建設計画が持ち上がり、マンション建設反対運動が組織されるが、誰もが初めての経験であり、いわば素人集団である。

 それに対して業者は、経験面でも物的人的リソースも豊富である。加えて、近隣対策屋と呼ばれる住民折衝を専門に請け負う業者まで登場している。そして、何らかの妥協がなされるか、マンションが建設されてしまうと、多くの場合、反対運動は解消してしまう。その結果、反対運動で得たノウハウは、他の反対運動で活かされない……。このような状況に対する危機感が、この交流会の背景にある。

 事務局によると、電子メールでの案内しかできなかったとのことだが、この日は、遠く福岡から来た方も含め、マンション建築紛争に取り組む市民、地方議員、建築家らが多く集まった。話し合われたテーマは、大きく2つ。「構造偽装問題」と「中高層マンション問題」である。

 第1部の構造偽装問題では、上村千鶴子氏と日置雅晴弁護士が報告した。

 まず最初に、上村氏が構造偽装問題の現在の状況について報告した。

 姉歯秀次元建築士による構造計算書偽装物件のうち、水平保有耐力0.5以上の分譲マンションでは2007年10月30日現在、改修工事がなされているものは1件(グランドステージ東陽町)しかないと説明した。それ以外は計画策定中となっているが、取り残されてしまっている状態である。

 また近時の建築着工減少については、住宅の契約率も下落し、在庫が残っている状況から生産調整時期にあるとし、建築業界から悪玉視されているような建築基準法改正の悪影響によるとは限らないのではないかと指摘した。

 会場からは、福岡でサムシングの偽装問題にとりくむ幸田雅弘弁護士が「地方の非姉歯物件はもっと酷い状況」と指摘した。

 非・姉歯物件は、偽装の追及自体が停滞しているが、マンション名公表による資産価値低下を恐れる管理組合・購入者自身が、調査に消極的であることも一因となっている。マンション住民自身が、問題解決の足枷になっている状況である。

 これは次のテーマ「中高層マンション問題」で、「景観を破壊する高層マンションでも購入者がいるから企業が建てるのではないか」 という消費者に対する問題意識と共通する。

 続く、日置弁護士は、建築基準法改正の評価と課題について報告した。確認検査機関が、違法な建築確認を出したとしても処分の対象にならない点が問題として指摘された。

 第2部の中高層マンション問題では、幸田弁護士、稲垣道子氏、野口和雄氏、五十嵐敬喜・法政大教授が発表した。

 最初に福岡から来た幸田弁護士が、福岡市の状況について報告した。福岡でマンション紛争と戦う10数団体が連携し、「福岡・住環境を守る会」を発足した。訴訟では従来の日照権やプライバシー権に加え、風害や圧迫感についても被侵害利益として主張していきたいと説明した。

 稲垣氏は建築紛争を紹介し、建築紛争の構図について説明した。地域で守られるべき価値が、共有されているか否かが建築紛争の帰趨に大きな影響を与えると主張した。

 野口氏は、各自治体の対応について類型別に整理された。様々な制度があるものの、努力義務にとどまる限り、不動産業者は無視して建設を進めてしまう現実がある。不動産業者が従うような実効性のある規制が課題である。

 現状で最も実効的なものとして、真鶴町まちづくり条例(美の条例)を挙げた。ここでは基準に合致しない建物は公聴会、議会の議決を経て水道契約を拒否することで、事実上の着工拒否が可能になる。

 五十嵐教授からは、真鶴町まちづくり条例が優れているとの主張がなされた。水道供給の制限は思い切った規制であるが、議会の議決等の適正手続きを踏んでいる。真鶴町の条例は1993年に可決されたが、今でもこれが一番良いということは、日本の都市政策の停滞を物語っているとの辛辣な指摘もなされた。

 最後に「2008年への展望」と題して、今後のシナリオが検討されたが、残念ながら時間切れで議論が尽くされなかった。

  ◇

 住環境を破壊するマンション建設を、止めさせられる実効性ある法規制が必要という点で共通の認識が得られたと思われるが、それを実現するための具体的な方策については今後の課題となった。特に市民に何ができるか、何をすべきであるかという点は未解決である。

 また、第1部で構造偽装問題を取り上げ、偽装物件購入者が置き去りにされていると指摘されたにもかかわらず、偽装物件購入者にとっての解決策が出なかった点も残念である。

 そもそも偽装物件購入者の視点に立っていないのかもしれないが、偽装物件の購入者をはじめとする欠陥住宅の被害者とも連携すれば、不動産業者の手口を知るという意味でノウハウの蓄積にもつながると思われる。

 課題は残ったものの、建築反対運動を一過性のもので終わらせてはならないという熱意が感じられる交流会であった。日本のまちづくりに期待が持てるようになった1日であった。

 私が本交流会に参加した経緯は、私自身が消費者契約法により売買契約を取り消したマンションの売買返還を求めて、東急不動産株式会社と長らく裁判を続けていたからだ。裁判の争点の1つが、マンション建設時に東急不動産のために働いていた近隣対策屋と近隣住民との折衝内容であった。

 近隣住民と近隣対策屋のトラブルは、マンション建設反対運動で問題となっており、私は近隣対策屋について情報を得るために、マンション建設反対運動を行っている方々と情報交換を行っていた。そのような中で参加を勧誘され、出席した次第である。

コメント

マンション住民によるマンション建設反対運動
近年、マンション建設反対運動が多発している原因は建築法規の規制緩和や耐震強度偽装事件に象徴的な制度破りの横行により、従来ではあり得なかったマンションが建設されていることが一因です。その意味で古くから建っているマンション住民が新しいマンションの建設反対運動を行うことは不思議でも何でもありません。既存のマンションと新しいマンションでは高さや容積率等が異なり、だからこそ地域にそぐわないとして反対運動が起きています。マンションといっても質的に異なり、「マンション住民がマンション建設に反対」と一般化するのは「人間が人間を批判する」ことを笑うのと同じようなものと考えます。

林田力「期待と失望が協議会結成の背景」オーマイニュース2007年12月5日

環境行政訴訟の東京6原告団体が集結

 東京で環境行政訴訟を行う6団体が集結して「東京環境行政訴訟原告団協議会」を結成した。結成に参加したのは、以下の団体である。

 ◇ 小田急高架と街づくりを見直す会
 ◇ まもれシモキタ!行政訴訟の会
 ◇ 梅ヶ丘駅前けやきを守る会
 ◇ 日赤・高層マンションから環境を守る会
 ◇ 羽沢ガーデンの保全を願う会
 ◇ 浜田山・三井グランド環境裁判原告団

 協議会結成の背景には、行政訴訟への期待と失望がある。

 違法な行政処分に対しては、行政訴訟によって、取消しを求めることができる。しかし、日本では原告適格で厳しく排除されたことなどが理由で、行政訴訟により救済される例は少なかった。

 行政事件訴訟法は、行政訴訟を提起できるのは、処分の取消しを求めることに「法律上の利益を有する者」に限定する。この「法律上の利益」が、狭く解釈されていたことが問題であった。

 即ち開発や公共事業で、健康や生活面で被る周辺住民の不利益を、反射的ないしは事実上のもので、法律上の利益には該当しないと解釈する傾向が強かった。このため、環境行政訴訟を起こしても、行政処分が違法であるか否か、調べることもせずに却下されてしまう(門前払い)。

 これに対し、2005年4月に行政事件訴訟法が改正され、法律上の利益について、

 「当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする」

とされた(第9条第2項)。

 そして、同年12月7日に、最高裁大法廷は小田急高架化訴訟において「騒音や振動で、健康や生活環境に著しい被害を直接受けるおそれがある者は原告適格がある」として、原告適格を広く認める画期的な判決を出した。

 これは東京都世田谷区の小田急線高架化事業に反対する沿線住民が、都の都市計画事業を国が認可したのは違法として、処分取り消しを求めた訴訟の判決である。

 小田急事件最高裁大法廷判決は、行政訴訟による救済を求める人々によって歓迎された。しかし、原告団協議会結成の契機となった浜田山・三井グランド環境裁判において失望を味わうことになる。

 三井グランド環境裁判は、小田急事件最高裁判決後の環境裁判であり、小田急判決に則って判断されることが期待された。ところが、三井グランド環境裁判の関連事件として、申し立てられた工事車両通行認定処分執行停止事件で裏切られることになった。

 この事件は、建設工事用の大型車両の通行により、原告住民らの生命、身体に危険が切迫しているため、通行認定処分の執行停止を申し立てたものである。

 この事件は関連事件として本体の裁判と同じ裁判官が担当したが、「周辺住民には処分を争う法律上の利益はなく、反射的利益があるに過ぎない」として、申し立てを却下するものであった。

 小田急最高裁判決以前の論理に、逆戻りしたことになる。しかも申し立て却下の決定申し立てから、4カ月も経過した後の、本体の訴訟の判決言い渡しの直前になされたものであった。これを原告側は「騙まし討ち」と受け止め、2007年9月29日に裁判官忌避の申し立てをした。

 この三井グランド環境裁判の経緯は、他の環境訴訟を行っている原告団体にも危機感を抱かせた。小田急訴訟最高裁判決で、救済の道が開けたと期待したのに、実際は旧来の論理で門前払いされかねないためである。団結して、対応していこうということで原告団協議会結成となった。

 「協議会発足記念集会」は、2007年11月29日に弁護士会館2階の講堂で開催された。集会では、最初に結成経過報告がなされ、続いて斎藤驍弁護団長の基調報告がなされた。来賓挨拶では、福川裕一千葉大学教授、石川幹子慶応義塾大学教授、交告尚史東京大学教授、稲垣道子氏が話した。

 福川教授は、日本の都市計画ではル・コルビジェ流の「Towers in Space」という思想が、未だに大手を振っているのが問題と指摘した。

 建物を高層化することでオープンスペースを増やすことで、都市の過密を下げる思想である。しかし、これは地域の社会関係を決定的に崩してしまうと批判され、欧米では公的な高層住宅を、低層住宅へ立て替える事業さえ行われている。日本では未だに「Towers in Space」の思想でいることが問題と主張した。

 石川教授からは「サラリーマン化してしまっているのが問題」と指摘された。サラリーマンでは、目先の利益を追うことしかできず、環境への考慮という発想が出てこないとする。

 これは私も、東急リバブル東急不動産の不動産トラブルで強く感じていたことである。

 交告教授は風邪で欠席した阿部泰隆・中央大学教授の代理で挨拶し、趣味の昆虫の話で会場を和ませた。

 稲垣道子氏からは、

 「手続きがおかしい。説明がおかしい。聞いても答えてくれない。人間性が踏みにじられている」

と指摘された。これも私が、東急リバブル東急不動産の不動産トラブルで強く感じていたことであり、東急不動産と裁判を続けた原動力は、東急不動産の不誠実な対応への怒りであった。

 最後に「官民一体となった違法行為を糾すため、共に手を携え、司法の扉をしっかりと開き、歩んでいきたい」とのアピール宣言を読み上げて、発足記念集会は終了した。

 協議会の発展を期待して3点ほど指摘したい。

 第1に前述の通り、行政訴訟の原告適格を巡る専門的な論点が、協議会結成の背景となっている。発足会でも専門家との協同を訴えており、専門家の助力が必要である。

 一方、専門的な論点であるが故に、一般人には分かりにくい面がある。内輪の集まりならば分かりきっているかもしれないし、配布資料を読み通せば理解できるが、支持を広げるためには分かりやすい論点説明があった方が良いように感じる。

 第2に原告団が裁判期日を「公判」と発言していたのは残念であった。公判は刑事訴訟の用語で、民事訴訟では口頭弁論である。

 行政訴訟も民事訴訟の一類型であり、口頭弁論が正しい。現実には刑事訴訟と民事訴訟の用語が混同されることはある。

 例えば、東急不動産消費者契約法違反訴訟において東急不動産は、民事訴訟であるのに控訴理由書ではなく、控訴趣意書を提出した。行政相手の訴訟ということで、「お上」意識が抜けられずに、刑事訴訟の用語を用いたならば発想を転換する必要がある。

 第3に「東京」環境行政訴訟原告団協議会と名乗っているが、構成団体の所在地は、渋谷区・杉並区・世田谷区に限定されている。

 これら城西3区でしか紛争が起きていないのか、協議会結成の原動力となった人脈が3区の地縁に限定されていたのかの、何れかであるが、恐らく後者であると推測する。

 この協議会発足を機に東京全体、さらには全国へと広がっていくことを期待する。

林田力「渋谷駅徒歩圏に縄文・弥生遺跡」JANJAN 2007年12月6日

東京都渋谷区鶯谷町にある「鶯谷遺跡」が12月1日に一般公開された。縄文時代と弥生時代の複合遺跡で、外国人向け高級マンションだった「エバーグリーンパークホームズ」跡地で今春、発見された。約4,600〜4,000年前の縄文中期と約1,800年前の弥生後期の集落と推定されている。現地説明会では竪穴住居跡や炉跡が示され、出土品の土器や耳飾りが展示された。

 遺跡は渋谷駅から南に500mほど歩いたところに位置する。このような場所で大規模な古代遺跡が発見されたことは奇跡的であり、貴重である。実際、現地説明会には370人も訪れており、関心の高さがうかがえた。しかし、土地所有者の住友不動産は発掘調査終了後に賃貸マンションを建設する予定だ。

 これに対し、一部の近隣住民が「渋谷区鶯谷周辺の環境を守る会」を結成し、遺跡の保存と環境維持を訴え、現地説明会の際には、見学者に環境保全のための署名を呼びかけた。また、現地説明会終了後には乗泉寺で独自の集会「鶯谷跡地とこの周辺の環境を守る集い」を開催した。集会では勅使河原彰・文化財保存全国協議会常任委員を招き、遺跡についての勉強会を行った。

 勅使河原氏は発掘調査制度の問題点を指摘した上で、最終的な見解は発掘調査結果を待つ必要があると前置きし、縄文時代と弥生時代の各々について鶯谷遺跡の貴重な点を説明した。

 発掘調査制度について同氏は、従来、教育委員会のような公の機関が行っていたが、「民間にできることは民間で」の流れの中で民間委託するようになった。しかし発掘調査は利益を生むものではなく、本質的に民間事業にはなじまない、と主張した。また、民間業者が行うようになってから、研究者に発掘情報が入りにくくなった、とも指摘した。氏自身、「渋谷区鶯谷周辺の環境を守る会」から連絡を受けて初めて鶯谷遺跡の存在を知った、という。

 縄文時代の遺跡は、入り口が柄のように細長い柄鏡形住居跡などであることから、縄文時代中期末に村が栄えたと、いう。この時期、武蔵野台地では集落が衰退する傾向にあった。このため、鶯谷遺跡は、縄文時代中期末に武蔵野台地で集落が衰退した謎を解く鍵になり得ると指摘した。

 弥生時代の遺跡については、環濠がまだ発見されていない点に注目した、とのことだ。稲作が始まった弥生時代は、土地や水をめぐって集落同士で戦争が行われ、環濠で囲まれている集落もあるが、鶯谷遺跡には環濠が存在しないか、それとも集落の規模が想像以上に巨大で、その外側に環濠があるのか解明できていない、と述べた。

 前者なら、環濠が存在しない理由が問題になるし、後者ならば集落の規模が問題になるとのことで、結論として鶯谷遺跡は研究対象としても、渋谷という間近に見られる場所に位置する希少性という意味でも保存する価値のある遺跡だ、と評価した。

 遺跡の発掘調査は12月いっぱい、とされる。集会では遺跡の保存を求める運動をしていくことが確認された。身近な遺跡を残すことができるか、開発企業、行政、そして市民の文化意識が問われている。

林田力「マンション建設反対運動は開発許可で争うべきだ」オーマイニュース2007年12月20日

景観市民ネット2007年市民集会に参加

 景観市民ネット(石原一子・代表)の「2007年市民集会」が2007年12月15日、渋谷区初台区民会で開催された。

 各地の市民運動の報告がなされた後、景観と住環境を守る方策として、都市計画法上の開発許可の違法性を主張することが提言された。

 景観市民ネットは正式名称「手をつなごう!国立発・景観市民運動全国ネット」からうかがえるように、「国立マンション訴訟」に携わったメンバーが中心となって設立した市民団体。

 景観や環境についての市民運動にかかわる有志が手をつなぎ、景観や環境破壊に真正面から立ち向かえる大きな力としていくことを目的とする。2005年に設立され、今回が3回目の集会である。

 市民集会は主催者挨拶で始まり、続いて景観市民ネットの活動報告と各地の活動報告を行い、最後は戸谷英世氏が開発許可について講演した。

 石原代表の主催者挨拶では、今年の印象として京都市がようやく建築物の高さや屋外広告物を規制する新景観政策を始めたことが挙げられた。

 「京都は太平洋戦争当時の交戦国アメリカでさえ、文化遺産の消失を惜しみ空爆を避けた。しかし日本人自らが戦後、どこにでもあるような街に変えてしまった。遅きに失した感があるが、これからは企業の論理ではなく、住民の目線に変わっていかなければならない」

と訴えた。

 続いて事務局の末吉正三氏から2007年の景観市民ネット活動報告がなされた。活動内容の中で、注目すべき動きとして政策提言が、目立っていることを挙げた。地方自治体で、景観法を活用した動きがあることも説明され、今後はウェブサイトでタイムリーな情報発信を行いたいと述べた。

 次に各地の活動報告として、全国7カ所から報告がなされた。

 トップバッターは、茨城県守谷市ひがし野地区で、山上氏が東急不動産らを建築主とする高層マンション「ブランズシティ守谷」の建築紛争を報告した。

 ブランズシティ守谷(30階建て)は低層1戸建てを中心とする、ひがし野の町並みを損なうと主張する。

 住民の声に耳を傾けるどころか、十分な説明を行わずに、工事を強行する東急不動産の非常識さを訴えた。

 「東急不動産は、工事協定を締結しようとせず、土日祝祭日も含め、午前7時30分から午後7時まで工事を続けている。土日は休む住民が多いが、工事の騒音や振動で休むこともままならない」

 これには、会場から驚きと同情の声が上がった。

 2番手は、東京、大田区北千束の小田氏が、マンション建設反対運動の課題を報告された。若年・中年男性の無関心が反対運動の障害の1つになったと説明した。

 3番手は、東京、目黒区青葉台の生越氏が、目黒区の高さ制限と地域街づくり条例を活用した動きを報告。さらに、

 「マンション建設反対運動は、反対の契機となったマンション建設だけで終わってしまう傾向にあり、それは非生産的であり、活動した人は、別の地域の反対運動にノウハウを伝えていかなければならない」

と主張した。

 4番手は、東京、板橋区常盤台の島田氏が、ときわ台景観ガイドラインについて報告した。これは東京都の「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」に基づくガイドラインで、成立までの経緯を説明した。

 5番手は、千葉県松戸市幸谷の関氏が、「関さんの森」の保全活動について報告した。

 「『関さんの森』は、関家に伝わる2ヘクタールもの屋敷林で、地域住民に開放されてきたが、都市計画道路3・3・7号線が通ると、敷地が分断されてしまう。生態系にも悪影響が懸念される。そのため、森を分断せず、敷地の外側を道路とする代替案を、松戸市に提案し、交渉中」

との報告があった。

 6番手は、広島県福山市鞆の浦で、中島氏が世界遺産登録と道路建設から守る活動について報告した。「鞆の浦」は、江戸時代からの本瓦屋根の町並みが残る港町である。江戸時代は朝鮮通信使の寄港地となり、使節の李邦彦が「日東第一形勝」(日本で1番美しい景色)と賞賛した地である。

 しかし鞆の浦を東西に結ぶ県道のバイパスとして、港の1部を埋め立て、橋を架ける埋め立て架橋事業が計画されている。これが実現した場合、鞆の浦の景観は価値を失うと主張した。

 7番手は、東京、港区六本木の佐藤氏が、再開発等促進区域変更問題の紛争を報告した。建築紛争は、他の地区の住民には、被害が及ばないため、無関心となる傾向がある。しかし、誰でも突然、巻き込まれる可能性があり、市民運動による啓蒙と横の連携が大切と主張した。

 最後に戸谷英世・特定非営利活動法人住宅生産性研究会理事長が「開発許可を問う」と題して講演を行った。

 「マンション建設は、建築基準法以前の土地利用の問題で、土地は私的に所有されるが、都市空間は社会的に利用されるものである。都市空間をどう作るか、という問題は都市計画法で規定する。

 具体的には一定規模の開発では、行政から開発許可を得なければならない。しかし開発許可の審査は、フリーパスが現状であり、開発許可を取得しないで開発する例さえある。

 開発許可について、ほとんどの行政は違反をしている。これが通ってきたのは、マンション建設反対運動側も、開発許可まで頭が回らなかったためである」

 「建築紛争に詳しい弁護士でも、都市計画法を知っているとは限らない。弁護士に任せてしまい、弁護士が知っている建築基準法のみを争点とした結果、敗訴してしまうことになる。国立マンション訴訟も、開発許可で争えば反対運動側が勝利できたのではないか」
と主張した。

 従来は市民側が、法律を知らないために主張できることも主張せず、損をしていたということが多々あったのではないかと考えられる。市民が法律を武器とできるよう、法律を知らないことによって、業者に好き勝手させないようにするために、景観市民ネットのような市民運動が果たす役割は大きい。

林田力「デベロッパーの文書は住民の悪口だらけ」オーマイニュース2008年1月11日

マンション近隣対策の実態

 高層マンション建設に際しての近隣対策の実態を示す文書が公開されたので報告する。デベロッパーから管理会社に新築マンションの近隣住民について説明する文書だが、近隣住民の身辺(職業、血縁関係)を不気味なほど調べている上、住民に対する誹謗(ひぼう)中傷表現に満ちている。

住民への身辺調査と誹謗中傷

 デベロッパーが、近隣住民を攻略すべき障害としか見ていないことを示す貴重な文書である。問題の文書は株式会社大京・東京支店から2002年11月19日付で大京管理株式会社に送信されたファクス文書「『LS小平』近隣関係」、および添付地図である。大京は大手マンションデベロッパーであり、大京管理は系列の管理会社で、現在は株式会社大京アステージに社名変更されている。LS小平は大京が分譲したマンション「ライオンズステージ小平」(東京都小平市天神町、9階建て、2002年11月竣工(しゅんこう))を指す。

 文書では、まずマンション東側の6軒の住民にそれぞれ補償費70万円〜120万円を支払ったと記述している。マンション建設で被害を受ける住民に金銭を支払う例は多いが、具体的な金額が明かされている点で貴重である。
 続いて近隣住民のおのおのを説明し、注意点を述べているが、その内容に驚かされる。大別すると近隣住民に対する身辺調査と誹謗中傷表現の2点。

 第1に近隣住民の職業や血縁関係など、近隣対応に必要とは思えない範囲まで調査している。「○○の労働委員会所属」、「○○消防自動車運転手」などと、どこで入手したのか、勤務先以上の情報を得ている。情報の入手自体も問題だが、入手した情報を近隣関係への配慮のために活かそうとする姿勢が微塵(みじん)もないことにも驚かされる。

 ファクス文書には、「消防署勤務のため、昼寝て、夜間仕事の時もあり、工事中は、振動騒音等で、文句多かった」などと書かれている。夜勤のために昼間寝なければならない人にとって、建設工事の騒音や振動は耐えがたく、苦情が出るのは自然である。しかし、大京は苦情が出る背景まで調査していながら、文句が多いとしか受け取っていない。住民に対し、配慮しようという姿勢も迷惑をかけたという反省も皆無である。

 血縁調査についても詳しく調べている。「嫁の実母」、「兄弟ですが、あまり仲良くないと感じました」などである。このような情報が近隣対策にとって何の役に立つのか理解に苦しむ。

 私自身、東急不動産とのトラブルでは東急不動産の代理人弁護士に管理組合理事長をしていることや、私自身の年収、家族構成について暴露された上、ブローカーに勤務先にまで圧力をかけられ、東急不動産の物件には住んでいられないと思ったものである(記事「東急不動産の遅過ぎたお詫び」参照)。

ゴネる以外に方法がない

 次に気になるのは近隣住民への誹謗中傷表現である。前述の6軒の住民を「この連中」と呼んでいる。しかも「性格異常者」、「しつこい、うるさい、ばばあ」と罵倒(ばとう)表現のオンパレードである。苦情の多い住民のみならず、大京が相対的に良好な関係を保(たも)てた住民に対しても「暗〜い感じの人」とネガティブな表現をしている。

 ファクス文書では引っ越し・マンション関係の車両の路上駐車場所についても指示している。道路Aは路上駐車に対し、近隣住民から苦情が出たため、道路Bに駐車することを指示する。道路Bに駐車してもクレームはないとの予想のためである。

 ここで注目すべきは、大京にとって路上駐車場所の判断基準が苦情の有無という点である。このファクスが出された2002年時点は路上駐車についての運用が現在と異なるため、「路上駐車を推奨するとはけしからん」という類の主張をするつもりはない。問題なのは大京の「近隣住民に迷惑をかける場所では路上駐車をしない」ではなく、「苦情が出る場所での路上駐車を避ける」という発想である。

 マンション建築紛争では業者寄りの立場から住民の、いわゆる「ゴネ得」に対して厳しい視線が向けられることがある。

 しかし、本件の大京のように住民の迷惑をかけないように自発的に配慮するという姿勢がなく、苦情が出るか否かで対応するのでは、住民としてもゴネるよりほかに対策がなくなる。

 最後に本資料の出どころについて説明する。本資料は大京労働組合のウェブサイトに公開されたものである。大京労働組合では本資料の公開を公益通報と位置付け、近隣住民に対し、大京への抗議、および法的請求を推奨する。マンション建築紛争は全国各地で発生し、反対運動も組織化されてきているが、デベロッパー内部の実態は本件のような内部告発がなければ明らかになりにくい。大京労働組合の勇気ある内部告発に感謝したい。

分譲会社、販売会社、管理会社の無責任

マンションを巡る紛争で消費者や住民が苦しまされるのは関係企業の多さであり、各々が自社には責任がないと主張してたらい回しする無責任さです。分譲主、販売会社、施工会社、下請け、設計監理会社、管理会社等です。耐震強度偽装事件では設計監理会社と下請けの構造設計者との間の関係が問題になりました。
中でも分譲会社、販売会社、管理会社は多くの場合、同じ系列ですが、問題が発生すると表向きは別会社だから「ウチは関係ない」と主張し、泣き寝入りさせがちです。マンション住民と分譲主との間のトラブルでは管理会社は管理組合に雇われているにもかかわらず、親会社の分譲主の肩を持ちがちです。この結果、証拠資料(設計図書など)へのアクセスさえ困難です。
私自身、東急不動産とのトラブルでは東急コミュニティーの証拠隠しに苦しめられました。尚、色々と調査した過程で東急コミュニティーの杜撰な管理実態が明らかになり、独立系管理会社へのリプレースで正常化しました。
Cf.「マンション管理会社を変更して、経費削減に成功」
今回の大京労働組合の内部告発は悪の枢軸とも言うべき、分譲会社、販売会社、管理会社の鉄のトライアングルの一角を崩すものとして大変意義があるものと考えます。

内部告発文書の性格

今回の内部告発文書は大京から大京管理(現大京アステージ)に送付されたファックス文書です。社外に送信された文書であり、内輪話とは相違します。大京管理は管理会社の立場であり、管理会社は管理組合から委託されており、分譲主の大京とは何の取引関係もありません。
大京の従業員にとって大京管理は系列会社であり、社内の内輪話の延長という感覚かもしれませんが、その感覚がそもそも誤りです。その意味で友人に対する武勇伝を披露する感覚でブログやmixiの日記に犯罪行為を書いて第三者の目に留まり、炎上してしまう状況と類似します。
このファックスの内容の問題と思った人が大京管理内に存在したから、今回の内部告発が行われた訳で、大京労働組合の健全性を示すものとして高く評価します。

近隣対策の実態

本来、デベロッパーとは地域の実情をよく調査し、その上で開発を行うべきものと考えます。周辺状況にも気を配って顧客の不安に応えるべきです。デベロッパーには真剣に環境のことを考え、それを提案していかなければならない責任があります。そもそもデベロッパー側が「デベロッパーとは対立関係にある近隣住民」と捉えること自体が私から見れば誤りです。
ところが、この資料の大京には、その種の発想が皆無です。住民の事情には合わせようとするのではなく、大京の主張を理解する住民のみを「いい人」扱いしています。このような大京の姿勢を問題視しています。しかし、これが日本のデベロッパーの近隣対策の実態であることも事実です。
デベロッパーの近隣対策を経験した住民の多くは「業者側は約束を守らない。正直に説明しない。住民側の話を聞かない。業者の勝手な要求だけを押し付ける」と感じています。社会人としての常識の欠片もない対応をされたと憤っています。今回の大京の文書は「表面上の言葉や態度とは、裏腹な部分」ではなく、近隣対策担当者が住民に対して示した露骨な本音が文章化されたものと受け取っています。これまでは文書の形で公表される例がなかったということで、その意味で本文書の価値があります。

反対運動の条件

「マンションが建つ、となったら、必ずのように「反対」の看板がかかります」という御認識には同意できません。逆に数では反対運動が起こらない例の方が多いという印象を抱いています。反対運動はコミュニティで景観について共通認識を持っている地域やデベロッパー側の住民に対する姿勢が横暴な場合、その両方の場合に起こりやすいと認識しています。
例えば別記事「マンション建設反対運動は開発許可で争うべきだ」で紹介したブランズシティ守谷のケースでは、低層一戸建てを中心とする地域に30階建ての高層マンションを建設する計画であること、事業主の東急不動産らは住民との工事協定も締結せずに休日なしで工事を強行していることが反対運動を盛り上げています。
上記の条件を満たさない場合、反対運動が起きたとしても失敗に終わりがちです。守谷では他にもマンションがありますが、全てが全て反対運動が起きているわけではありません。
「マンションを建てたい業者。建てさせたくない近隣住民」と対立関係を強調しておりますが、ライオンズステージ小平では少なくともファックス作成時においては、マンション建設反対は問題になっていません。苦情内容は騒音などの工事公害です。住民はマンション建設自体に反対している訳ではないと推測できます。業者と反対住民の対立については一般論を指摘されたものと理解していますが、本記事を読み誤られるかの可能性を考え、念のために申し述べておきます。

内部告発文書の意義

繰り返しになりますが、今回の大京の文書は「表面上の言葉や態度とは、裏腹な部分」ではなく、近隣対策担当者が住民に対して示した露骨な本音が文章化されたものと受け取っています。近隣対策担当者は住民に面と向かっては礼儀正しく接しながら、影で悪口だらけのファックスを送ったとは思っていません。様々な建築不動産紛争を見てきた経験から、近隣住民と面と向かっての態度も高圧的で無礼でなかったのではないかと推測しています。そのような態度で接しているから、今回の近隣対策文書も書かれたと思います。
建築不動産紛争において不動産業者による被害者感情を逆撫でする対応というのは、幾らでも例をあげることができますが、本件は文書という形になっている点が価値があります。人間の本音が表面上の建前と裏腹なところにあることは多いと思います。しかし、多くの不動産紛争を見てきて感じるのは紛争における不動産業者の態度が建前で糊塗したものではなく、売ったら売りっぱなしという本音そのものであり、そのことに問題意識を感じております。しかし、多くの場合、被害者からの伝聞が主要なソースであり、客観性に欠けるきらいがあったことも事実です。
ところが本件では業界側から内部告発文書として出されており、その点で貴重です。即ち建前とは裏腹の本音が剥き出しになったというよりも、本音が文章化されている点を貴重と考えています。今回の文書をマル秘扱いではなくファックスという形で他社に送信したところにも、大京従業員に建前と裏腹な隠すべき本音を書いたものという意識が薄かったためと判断します。

マンション建設への反応

反対運動には大きなエネルギーが必要です。我慢できないほど住環境が悪化したり、デベロッパーの態度が横暴で腹を立てたりしない限り、わざわざ反対運動をしようとはしないのが普通です。商店街も町内会も基本的に人口増加を歓迎します。

記事一般

林田力「だまし売り被害者にも宗教勧誘の甘い声」オーマイニュース2008年1月21日

旧友による折伏経験――布教が悪いとは言わないが

 中学時代の同級生から、創価学会への勧誘を受けた。

 私は数年前から東急不動産株式会社とトラブルを抱えていた。東急不動産(販売代理:東急リバブル)から新築マンションを購入したが、隣地建て替えなどの不利益事実を隠していたことが購入後に判明したため、消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)に基づき、売買契約を取り消した。

 しかし、東急不動産は売買代金の返還に応じなかったため、裁判を起こし、東京高裁において訴訟上の和解が成立したあとも、和解条項の履行を巡り、トラブルが続いた。その過程は「東急不動産の遅過ぎたお詫び」に詳述している。

 裁判も裁判後のトラブルも、私にとっては初めての経験であり、多くの人に相談した。冒頭の同級生もその1人であったが、彼の場合は結局のところ、創価学会への勧誘が目的ではないかと思わせるものであった。何がそう感じさせたか、ここで私の経験を紹介したい。

親身の相談、そして勧誘のステップ

 彼が親身になって私の話を聞いてくれたことは事実である。

 埼玉県に住んでいたが、ときには東京の私の家まで来て、裁判で争われている日照・眺望が皆無になった状況を実際に確認してくれた。

 それまで彼とは中学卒業後に会ったことはなく、選挙の度に公明党への投票依頼が電話でなされる程度の関係であった。投票の依頼も単に電話をかけて終わりという程度で、政策や候補者の話はせず、あいさつ程度のものに過ぎなかった。しかし、東急不動産とのトラブルの相談後は、メールや電話で頻繁に連絡を取り、たまに会う関係になった。

 旧交を温める中で、彼からは創価学会の話を聞かされることが多くなった。彼は両親が創価学会員で、子どもの頃は家の宗教という感覚でしかなかったという。

 しかし家庭の経済的な事情で大学院への進学は難しいと言われていた彼が、必死に題目を挙げて祈ったところ、奨学金を勝ち取り、信仰に目覚めたという。それから創価学会の活動家になり、地域の学生部長などの役職にも就き、学会会館の自主警備を担当する学会内部の人材グループ「牙城会」にも所属したという。

 彼による宗教勧誘の内容は以下の通りである。

 第1に、入信そのものの勧誘である。これに対しては早い段階で「東急不動産とのトラブルを抱えている状況では他のことを検討する余裕はない」と断った。

 第2に、創価学会の会館で開催される本部幹部会の同時中継への出席の勧誘である。当時の私の家から歩いていける距離に創価学会・江東文化会館があり、そこへ誘われた。同時中継というのは本部幹部会の映像を流すものである。中継というものの、リアルタイムではなく、録画したビデオを流すものである。池田大作・名誉会長の講演で大半の時間が占められている。

 第3に、題目(南無妙法蓮華経)を唱えることを勧められた。題目で東急不動産への勝訴祈願をするとよいという。彼自身は毎日、題目をあげているそうだが、題目をあげる直前に「今日も祈ります」という内容のメールを送信してくるようになった。毎日来るので、「毎日同じメールを送ってくるね」と返したところ、送信してこなくなった。

 第4に、聖教新聞の購読依頼である。私が断ると、彼が費用を負担すると主張し、贈呈という形でしばらく購読することになった。聖教新聞では前月20日ごろに翌月の配達を申し込む仕組みになっており、連絡を取っていない時期でも、大体、毎月20日前には彼から「来月も新聞を配達していいか」という確認の連絡が来た。こちらの状況を考えずに新聞購読の確認だけはしてくるため、最後には購読を断った。

 東急不動産との裁判は多くの人々や団体の助けを借りて進めてきたが、その中には創価学会と対立する組織もあった。むしろ対立する団体から有益な支援を受けたことも事実である。新聞の購読拒否には、その辺りのバランス感覚が働いた面もある。

 購読を断って以来、勧誘はなくなった。それどころか、彼からの連絡自体が来なくなった。これが、私が彼の目的が勧誘にあったと判断する理由である。

興味を抱く理由がある場合も

 創価学会については、執拗な勧誘や拒否した場合が問題視されることが多いが、今のところ私に関しては問題ない。私の経験から執拗な勧誘で困っている人に対して助言できるとすれば、「断る時はキッパリと断ること」ということだが、それくらいは恐らく誰でも試みられていることと思うので、役に立てそうにはない。

 私が新聞購読など一部でも彼の依頼に応じたのは、東急不動産との裁判の中で、創価学会に関心を持つべき事情があったためである。

 東急不動産が問題のマンション建設時に近隣対策をさせていたブローカーが、少なくとも表向きは東急不動産とは別の立場で、私の訴訟代理人弁護士に接触してきた。ブローカー側も弁護士を連れてきたのだが、その弁護士が、創価学会の元信者が損害賠償を求めて池田名誉会長を訴えた事件の原告(元信者)側訴訟代理人の1人だったのだ。

 この裁判は、判決文によると、損害賠償の根拠となる事実が存在しないとして池田名誉会長が勝訴した。元信者は池田名誉会長を陥れる目的で存在しない事件をでっち上げて訴えたことになる。裁判では、原告側が提出した証拠が捏(ねつ)造であると被告側によって反論された。事実ならば訴えを起こした元信者も、その訴訟代理人も、とんでもない人間となる。

 元信者の方は、創価学会に対する恨みが動機になっていると説明できる。しかし、それに弁護士も加担するというのは、社会正義を追求する弁護士に対する信頼を失墜させるものに感じられた。その弁護士がブローカー側の弁護士として接触してきたため、私は緊張した。虚偽の証拠を捏造するような弁護士と対決する可能性が浮上したためである。

 そこで、その弁護士について詳しく知るために彼から話を聞いた。しかし彼の話は実のあるものではなかった。立て板に水のように「火のないところに煙を立てた狂言裁判」と創価学会の出版物に書かれているようなキャッチフレーズを返してくる。その実、裁判の内容はあまり知らない。調べた私の方が詳しいほどであった。

 学会に対しては、マインドコントロールや洗脳という非難がある。その当否をここで論じるつもりはないが、そのような非難を打ち消すような発言をする人の態度とは思えなかった。

改宗は簡単な問題ではない

 最後に、私の経験をまとめたい。

 学会員にもいろいろな人がおり、一般化するつもりはないが、私の元同級生は人材グループの牙城会員であり、地区の役職にも就いている活動家であり、特殊な一学会員の事例という以上の価値はあると考える。

 創価学会員が、悩んでいる人、困っている人に親身に相談に乗る姿勢を持っていることは評価したい。実際、私のように不動産という一生に一度あるかないかの買い物で問題物件を騙し売りされ、権利回復のために大企業と戦っていく身には彼のように話を聞いてくれる存在はありがたかった。

 たとえ布教が目的であっても、行動自体は褒められるべきものである。それで問題が解決するならば素晴らしいことであり、まさに信仰の力と言えるだろう。宗教上の聖人とされる人々も、創価学会における功徳経験のようなものが信仰のきっかけとなった例は少なくない。

 吟味すべきは、創価学会員のアプローチで悩みや困ったことが解決するのか、という点である。彼は何かあるとすぐに「祈る」と言うが、祈りでは解決できない問題も多い。現実逃避にしかならないこともある。その結果、元々の問題は解決せず、変わったことは創価学会に入信しただけということになりかねない。信仰という別のことに熱中することで、嫌なことを一時的に忘れられるかもしれないが、それで心が救われることはない。

 そもそも相談に乗るのは勧誘のきっかけのためだけあり、相談そのものには関心がないのではないかという疑いさえある。

 私の場合、東急不動産との裁判がうまく進んでいる時は、彼は頻繁に連絡してきた。しかし、そうでない時は話が続かなくなり、連絡も途絶えがちになった(それでも聖教新聞の更新の連絡だけはきた)。

 このため、うまくいっている人は激励するが、本当に困っている人には冷たいのではないか、という印象がした。「人助けをしている自分」という自己満足のための活動ならば相手を不幸にするだけであり、善行とも言えない。

 布教すること自体は、宗教団体として当然の活動と私は考えている。積極的に布教をしなければ組織を維持できない点をカルトのメルクマールとする見解もあるが、布教をしなくても組織を維持できている伝統宗教の方が既得権に乗っかっており、本来の宗教のあり方と離れているとの考えも成り立つ。

 その一方で、創価学会員になること、即ち宗教を変えることを簡単なことのように説明する態度は問題と考える。

 宗教というのは人の価値観の大きな部分を占める大事なものである。その宗教を変えるのだから、熟慮を重ねなければできないことである。これは自分自身に置き換えて見れば分かるはずである。自分が別の宗教の人から勧誘された場合のことを考えればいい。軽々しく宗旨替えすることはないだろう。

 この点についての認識がなければ、対応がソフトになったとしても折伏=迷惑行為と受け止める声は消えないだろう。

本記事には以下の市民記者推薦文が寄せられた。「この記事には本当のことが書いてあります。しかし、この記事に書かれた宗教の方々は良いことをしたという考えでしか無く、またこの記者にたいして分からず屋とでも思っていることでしょう。日本に多くあふれる新興宗教の改善につながればと大変思います。」

「空気が読めない(KY)」考

流行語を超えて定着する言葉の強さ

流行語「空気が読めない(KY)」について考えてみたい。

 「空気が読めない(KY)」は2007年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた言葉の1つである。「9月に辞任した安倍首相に関して頻用され、一般に広まった」と説明される。

 相次ぐ閣僚の失言、不祥事をかばい続けた安倍晋三首相(当時)への、国民の怒りを形容する言葉として使われた。その後を継いだ福田康夫首相も年金記録の名寄せが、2008年3月までに終わらないことに対し、「公約違反というほど大げさなものなのかどうか」と発言し、KYの烙印を押された。

 KYは、2007年に突発的に発生した事件、事象を示す一過性の流行語を超えて、特定の状態を説明する言葉として、日本語の語彙の中に定着しつつある。一方で普及すれば反動もあり、KYに対して批判的な見解も現れた。

 単に多数意見に反対する人が、KYとラベリングされてしまうのではないか、「空気を読め」が反対意見を封じるために使われるのではないか、という懸念である。個性を抑圧する集団主義的性質を持つといわれる日本社会において、KYを流行らせることは、マイナスの影響を及ぼすのではないか、との考えである。

 古川基記者の以下の「ざ・ショートニュース」も、そのような視点に立っているものと考える。

「空気を読む」という言葉が流行っているが、赤福騒動などは、結構な数の従業員が実態を把握していたのではないか? 問題が拡大したのは、多くの従業員が「空気を読んだ」結果ではないだろうか?

 「空気が読めない」については、どこの空気を読むかがポイントになる。赤福という会社の空気しか読まなければ、上記文章の通り、偽装に異を唱えないことになってしまう。しかし、社会の空気は赤福の空気と異なっており、それに気付かなかったことが赤福の失墜を招いた。社会の価値観とは異なる自社の独善的な論理を押し通す人は、一般の人から見れば「社会の空気を読めない人」になる。社会の空気を読める従業員が大勢いれば、自浄作用が働いたのではないか。

 冒頭の安倍、福田首相に対するKY批判も、閣僚の失言や不祥事、公約違反を重要なものではないとする感覚が、社会の空気には合致していない点を指している。ここで安倍、福田首相に対して、単に間違っていると批判できれば難しくはない。

 ところが、彼らの属する永田町の論理では「失言や不祥事、公約違反なんて大したことではない」と思っている。彼らの世界では、それが正しいのも事実であり、そのように本気で思っている人に対して、「間違っている」と批判しても意味がない。だからと言って、国民の価値観として、それを受け入れる訳にはいかない。「永田町の世界では、そうかもしれないが、それは国民には通用しない」ということを主張しなければならない。そこで「空気が読めない」という批判になる。

 即ちKYは「もっと広い世界の価値観を知れ」という意味になる。この点で「空気を読む」は、特殊日本的な集団主義を強化するための道具ではない。反対に、全体を破壊してでも、自分の所属する集団の利益を優先する傾向にある近視眼的な特殊日本的集団主義の対極に位置する。それがKYの健全な使われ方であり、そのような形で使用されている限り、日本社会にプラスの影響を与え続けるだろう。

 KYな政治家を首相にしたのは、日本国民にとって大きな不幸だが、KYが日本語の語彙となったことは、特殊日本的な集団主義を克服する上で歓迎すべきことである。

林田力「恫喝訴訟の対策」オーマイニュース2008年2月6日

攻撃は最大の防御

 恫喝訴訟(SLAPP: Strategic Lawsuit Against Public Participation)の対策を検討したい。

 恫喝訴訟とは、資金力のある大企業や団体が、自らに都合の悪い批判意見や反対運動を封殺するために起こす訴訟で、高額の賠償金を請求されることが多い。

 最近では、オリコン株式会社がジャーナリストの烏賀陽弘道氏に対し、事実誤認に基づく名誉毀損行為があったとして、5000万円もの損害賠償ならびに謝罪を求めた訴訟で、烏賀陽氏側から恫喝訴訟と批判されている。

 恫喝訴訟は、訴えられる側にとって大きな脅威である。提訴者の目的は、相手を疲弊させ、言論活動を萎縮させることである。そのため、恫喝訴訟を起こされて、最終的に勝訴(請求棄却)したとしても、裁判に労力を奪われたことにより、元々の言論による批判や反対運動が疎かになったとしたならば、恫喝訴訟の提訴者の目論見は、成功したことになる。

 従って恫喝訴訟での請求が棄却されて、全面勝訴したとしても素直に喜べない。恫喝訴訟の存在自体が不当であり、応訴に費やされる時間と労力は、本来不必要なものでものである。勝訴に至るまでの時間と労力に思いを馳せれば、暗澹たる気持ちになったとしても無理はない。

 そこで、恫喝訴訟を起こされた場合の対抗策を検討したい。大きく3点ある。

第1に反訴である。

 前述の通り、被告として勝訴するだけでは、相手の不当な請求を否定するだけで、何の得るものもない。そのため、提訴を不法行為として、相手に損害賠償を請求する。いわば守るだけではなく、攻めに転じることになる。前述のオリコン訴訟では、烏賀陽氏はオリコンに対し、訴訟権の濫用と名誉棄損を理由に1100万円の損害賠償請求を求める反訴を提起した。

第2に批判活動の活発化である。

 提訴者の目的は裁判での勝訴よりも、都合の悪い言論の封殺にある以上、提訴されても批判を止めない、反対に活発化させることで、逆効果であることを思い知らせるのである。インターネットの炎上で使われる言葉を借りるならば、恫喝訴訟の提訴を「燃料投下」と位置付ける訳である。

 批判記事が、多くの企業から訴えられた経験を持つジャーナリストの山岡俊介氏は以下のように語っている。

 「ひるんだらダメです。その後はとにかく『記事を書け!』というのが僕の鉄則です。そうすると企業は嫌がります。」(山中登志子「“強い者批判”のジャーナリスト山岡俊介氏 『あの企業はとんでもないと思って書いている』」)

 批判活動を活発化させる場合、論点を広げることも有益である。何かの問題を批判していたために恫喝訴訟を起こされたが、同じ企業の別の不正についても批判の矛先を向けていく。

 ある点の批判に対し、名誉毀損なり営業妨害で恫喝訴訟を起こされ、仮に当該批判を潰せたとしても、別の問題について批判されるならばイタチごっこであり、恫喝訴訟の目的は達成できない。

 山岡氏は、上記インタビューで「僕は、裁判では負ける可能性があるかなと思っても、ほかのスキャンダルを探すことでやってきました。」とも語っている。

 これは特に、不正の被害者個人が告発する場合に有益である。被害者個人が告発する場合、当然のことながら自分が受けた不正について熱心に告発する。しかし、それにとどまると被害者1人の問題で、終わってしまうことが多い。その結果、恫喝訴訟を起こされても1人で苦しむことになる。

 自分が受けた被害で、苦しむ被害者にとって容易ではないが、企業活動全体について目を光らせ、当該企業の不正について継続的に告発していく。企業の問題体質を明らかにし、告発の公共性を高めていく。これが恫喝訴訟の予防にもなり、提訴された場合の対抗策にもなる。

 批判活動の活発化という点では、援軍の存在は心強い。第三者が、批判の声をあげてくれることである。自社にとって都合の悪い批判を、封殺するために恫喝訴訟を行ったのに、逆に注目が集まるならば提訴者にとって割に合わない。

 この点で、泰平建設株式会社(北九州市)によるノボリ等撤去の仮処分命令申立てに対する反応は興味深い。泰平建設は、マンション「サンライフ足立公園」(北九州市小倉北区)の建築主だが、サンライフ足立公園は、近隣住民(足立第一公団跡地マンション建設反対の会)から、反対運動を起こされている。泰平建設は、福岡地方裁判所小倉支部にノボリ、看板の撤去を求める仮処分命令を申し立てた。

 これに対し、マンション建設反対運動に取り組む人々から抗議の声があがっている。

 「鰭ヶ崎の住環境を守る会(千葉県流山市)」
 「流山市議会議員 民主・市民クラブ代表 藤井俊行
 「守谷の空を守る会(茨城県守谷市)」
 「グランシティ八千代緑が丘マンション計画の変更を求める会(千葉県八千代市)」

 興味深いのは、泰平建設とも北九州市とも直接関係しない人々が、抗議している点である。泰平建設の申し立てが、足立第一公団跡地マンション建設反対の会のみならず、マンション建設反対運動そのものに対する恫喝として映ったためと考えられる。九州を拠点に営業する泰平建設にとっては、悪いイメージが遠く関東にまで伝わったことになる。

 第3に弁護士に対する注目である。

 恫喝訴訟を実際に遂行するのは、企業に雇われた弁護士である。そこで弁護士に注目する。

 山岡俊介氏は、恫喝訴訟は、企業が自主的に行っている訳ではないと語る。「側近、顧問弁護士などから、『ほっとくのか!』と言われているんですよ。弁護士も訴えると金になりますから」(山中登志子「オリコンうがや訴訟6 アムウェイ、武富士、2ちゃん…裁判件数26の山岡氏「ひるむな、記事を書け!」」)

 弁護士は恫喝訴訟を遂行するだけでなく、恫喝訴訟を行う意思決定にも大きな役割を果たしていることになる。依頼人を説得して、不法な目的の提訴を思いとどまらせるのが弁護士の使命の筈だが、弁護士報酬のために逆に勧める側になっている。

 弁護士報酬には裁判の結果に関わりなく、事件の着手時に支払う着手金がある。高額の損害賠償請求訴訟のように、訴額が大きければ着手金だけでも十分な金額になる。敗訴することになっても、恫喝訴訟を勧めることが企業側の弁護士の利益になる。

 そこで企業側の弁護士自身についても調査し、問題があれば批判する。恫喝訴訟で利益を得る以上、弁護士だけが批判を免れる謂れはないとの発想である。現実に企業イメージの一層の悪化をもたらすことが多いのに、恫喝訴訟をする企業が多い。

 これは企業側が、顧問弁護士の言葉を鵜呑みにして、自ら合理的な損得勘定ができていないのではないかと思わせる。そこで恫喝訴訟への対抗策は、企業側の弁護士にも目を向ける必要が生じる。

 この点で興味深いのは、出版社「株式会社鹿砦社」の報道姿勢である。

 芸能プロダクションの株式会社バーニングプロダクションとその代表取締役社長周防郁雄氏は雑誌『紙の爆弾』(2007年3月号掲載記事)が、名誉を毀損するとして、発行元の鹿砦社とジャーナリストの本多圭氏に対し、3300万円の損害賠償を請求する裁判を起こした。

 これに対し、鹿砦社側は、恫喝訴訟として反発する。提訴を契機に、バーニングプロダクションと周防郁雄氏への批判を強めたのみならず、バーニング側の代理人を務める弁護士の所属法律事務所についても矛先を向けたのだ。(デジタル紙の爆弾「芸能界の「番犬」ことヤメ検・矢田次男弁護士」)。

 以上、恫喝訴訟の対抗策を検討したが、まとめるならば「攻撃は最大の防御」となる。萎縮したならば敵の思う壺であり、積極的に批判していくことが、正しい対応策であると考える。本記事が、恫喝訴訟で苦しむ人たちに、多少なりとも参考に資するところがあれば幸甚である。

コメント

勧誘電話には気をつけます。

私の場合、不動産投資の勧誘電話が多いです。とてもしつこくて辟易しています。数年前、新築マンションを購入したのですが、不都合な事実を隠して販売した問題物件であることが分かり、引渡し後に契約を取り消ししました。大手不動産会社なのですが、信じ難いほど不誠実な対応で、裁判で争いました。最終的には主張が通りましたが、嫌がらせも多く、その不動産会社から電話勧誘会社へ私の個人情報が流出したと推測しています。裁判中も住み替えやリフォーム用品のダイレクトメールを送ってくるくらいフザケタ会社でしたから。

腹が立ちますね

私も東急リバブル東急不動産に痛い目に遭わされました。不動産の場合は解約や返品は容易ではなく、そもそも買う機会が一生に一度あるかないかのため、「二度と買わない」という基本的な消費者の対抗策もとりにくいため大変です。

黒澤弘昭「内部告発者は本当に守られるのか」

価値ある記事とエールを送ります。
先ず時代が変わっていることを認識する必要があります。
かつては労働基準法を杓子定規に守っている会社がなかったと言える時代もありましたが、今は労働基準法違反について非常に厳しくなっています。その意味で編集部が本記事を採用したのはタイムリーです。
他の採用者と異なり、会長の訓示集を読み所感文を書くだけの仕事しか与えられなかったならば、露骨な報復人事と認められます。営業職として採用された人が工務部に配転される例がどれくらいあるのか。ほとんどなければ報復人事の蓋然性が高いと判断できると思います。
用語や表現上の批判については、もっと良い記事を書く糧にして、記者氏が、このテーマで記事を書き続けられることを希望します。
また、フジテックと言えばエレベータの耐震強度不足が問題となりました。法律を無視する反社会的な企業が顧客に良いものを提供できるとは思えません。業務面の問題も絡めて記事を書いていけば、社会性が広がり、「個人的な問題を記事にするな」的な批判を抑えられると思います。

Copyright (C) 2007 Hayashida Riki. All rights reserved.