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林田力『東急不動産だまし売り裁判』新聞2007

 

東急不動産消費者契約法違反訴訟... 1

消費者契約法違反訴訟、東急不動産実質敗訴で和解... 2

東急不動産(東急リバブル)のマンション購入トラブル... 2

東急不動産の不動産トラブル、訴訟上の和解成立後も紛争... 6

東急不動産の不動産トラブル、和解金支払いでも紛争... 8

東急不動産の遅過ぎたお詫び... 10

東急リバブル・東急不動産マンション販売トラブルお詫び文掲載... 12

不動産トラブル... 14

東急リバブルによる重要事項説明の軽視... 14

建築紛争... 16

景観市民ネット市民集会で住民運動が交流... 16

 

 

東急不動産消費者契約法違反訴訟

2007121

東急リバブル東急不動産の騙し売り

東急リバブル株式会社及び東急不動産株式会社の新築マンション騙し売りの実態を報告する。東急不動産が販売し、東急リバブルが販売を代理した新築マンション(東京都江東区)での販売トラブルである。

東急不動産(販売代理:東急リバブル)は新築マンション「アルス」(東京都江東区)を販売する際、隣地がアルス竣工後すぐに建て替えられること及び作業所で騒音が発生することを認識していたにもかかわらず説明しなかった。

これに対し、引渡し後に隣地所有者から真相を知った購入者は消費者契約法第4条第2項に基づき、売買契約を取り消した。しかし東急不動産が売買代金返還に応じなかったため、売買代金返還を求めて東京地方裁判所に提訴した(2005218日、平成17年(ワ)第3018号)。

東京地裁平成18830日判決では購入者が勝訴し、東急不動産に売買代金全額2870万円の返還を命じた。その後、控訴審・東京高等裁判所において購入者がアルス住戸を明け渡し、東急不動産が和解金3000万円を支払うことを骨子とする和解が成立した(20061221日)。和解内容は一審判決に沿ったものであり、本件和解において原告が訴えを取り下げなかったことは一審判決の正当性を示すものである。

従来の不動産トラブルにおいては、雀の涙程度の損害賠償が支払いで終わりがちで、契約の解除や取消が認められる例は少なかった。本件一審判決及び和解は消費者契約法により、不動産売買契約が取り消された点で同種被害に苦しむだまし売り被害者にとって画期的な解決方法と言える。実際、浅沼良一・元二級建築士による耐震偽装マンションの購入者も消費者契約法に基づき、契約の取消しと売買代金返還を求め、2006年12月25日に札幌地裁に提訴した。本件東急リバブル東急不動産の騙し売り事例の解決法は不動産売買トラブルの解決の指針になると思われる。

 

消費者契約法違反訴訟、東急不動産実質敗訴で和解

東急不動産消費者契約法違反訴訟(平成18年(ネ)第4558号)が東京高等裁判所において東急不動産の実質敗訴で訴訟上の和解が成立した(20061221日)。和解成立日は20061221日である。

本裁判は、東急不動産が不利益事実(隣地作業所の建替え、騒音の発生)を告知せずに新築マンション「アルス」(東京都江東区)を騙し売りしたとして消費者契約法第4条第2項に基づき売買契約を取消したアルス購入者が売買代金の返還を求めて提訴したものである(平成17年(ワ)第3018号)。一審東京地方裁判所平成18830日判決は東急不動産の不利益事実不告知を認定し、東急不動産に売買代金全額及び遅延損害金の支払いを命じた。

これに対し、東急不動産は無反省にも東京高等裁判所へ控訴した200695日)。東急不動産は控訴趣意書を提出したが、その内容は一審判決が明確に否定した主張の焼き直しに過ぎなかった。因みに控訴趣意書は刑事事件の用語で、民事事件では控訴理由書という。東急不動産があえて控訴趣意書という文書名にした理由は不明である。

一方、原告側はアルスの構造設計者であるアトラス設計・渡辺朋幸が一級建築士資格を持たない無資格者であるとの新事実を入手し、附帯控訴も準備した。この中で和解が成立した。東京高裁では一度も口頭弁論が開かれることなく、和解が成立した。東急不動産は自社の正当性を主張するために控訴した筈であるが、その主張を一度も開陳することなく、和解に応じた。

和解内容は東急不動産が敗訴した一審判決に沿うものである。即ち一審判決は原告のアルス明け渡しと引き換えに東急不動産に売買代金全額2870万円及び遅延損害金の支払いを命じた。本件和解では東急不動産が和解金3000万円を原告に支払い、原告が20076月末日までにアルスを明け渡すことを骨子とする。

東急リバブル東急不動産が騙し売り(不利益事実不告知)を行ったとの原告の主張は従来と何ら変わるものではない。消費者契約法に基づく契約の取消しは形成権であり、意思表示によって法律効果を生じる。即ち原告が契約取消しの意思表示をした2004年時点で東急不動産との不動産売買契約は適法に取消された。原告が取消しの意思表示自体を撤回しない限り、一度生じた法律効果は変更されない。和解条項は取消し後の原状回復を定めたものと位置づけられる。本件和解において原告が訴えを取り下げなかったことは一審判決の正当性を示すものである。

 

東急不動産(東急リバブル)のマンション購入トラブル

東急不動産(販売代理:東急リバブル)から購入した新築マンションを巡るトラブルを紹介します。私は2003年6月に東急不動産株式会社(東京都渋谷区、植木正威社長)から東京都江東区の新築マンション「アルス」を購入しました。

東急不動産は康和地所株式会社(東京都千代田区、夏目康広社長)から転売された土地にマンション「アルス」を建設・販売しました。アルス建設地に隣接する土地の所有者は東急不動産に対し、康和地所の従業員を通じて、アルス竣工後に隣接地を建て替えること、作業所なので騒音があることを説明し、アルス購入検討者に上記事実を伝えることを求め、東急不動産は了解しました。

しかし東急不動産は販売時には私に上記事実を説明しませんでした。そのため、アルス竣工後に建て替える予定があり、日照・眺望・通風が妨げられるという重要な事実を知らずに問題物件を購入してしまいました。事実を知っていたら、購入しなかったことは言うまでもありません。

私が真相を知ったのは引渡後に隣地所有者から直接話を聞いたためです。東急不動産に問いただそうとしましたが、手紙を出しても半月以上経過してから質問に答えていない無意味な内容の回答が来るだけで、担当者が変わってからは電話をしても常に外出中で通じない状態でした。東急不動産(東急リバブル)は、国土交通省や東京都庁に申ししれをしなければ協議にも応じませんでした。

しかも東急不動産は「隣地所有者が資金調達できず、建て替え費用捻出が困難であると発言していた」と、まるで隣地所有者に資力がないため建て替えできないと虚偽の説明を行いました。最後には「裁判所でもどこでも好きなところに行ってください」と開き直りと取れる発言により、協議が決裂しました。

このため、私は消費者契約法第4条第2項に基づき、売買契約を取り消した上で売買代金2870万円の返還を求めて東京地方裁判所に提訴しました(平成17年(ワ)第3018号、売買代金返還請求事件)。裁判は虚偽の主張に苦しめられましたが、勝訴しました。

東京地方裁判所民事第7部(民事第7部、山崎勉裁判官)は消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)による不動産売買契約取消しを認定し、売買代金全額返還を命じる画期的な判決を言い渡しました(東京地裁平成18年8月30日判決)。消費者契約法に基づく契約取消しが認められた事例はあるが、ほとんどの消費者にとって一番大きな買い物である不動産売買契約の取消しが認められたのは本判決が最初です。判決は以下のように認定します。

「被告(注:東急不動産)は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築され、その結果、本件建物の洋室の採光が奪われ、その窓からの眺望・通風等も失われるといった住環境が悪化するという原告に不利益となる事実ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を故意に告げなかったものというべきである」。

東急不動産が控訴しましたが、控訴審の東京高裁において一審判決に沿った内容の和解が成立しました(2006年12月)。即ち東急不動産が2007年3月までに金3000万円を支払い、私が301号室を6月末に明け渡すことを骨子とします。

ところが和解条項の履行を巡って、またまた紛争が再燃しました。一旦、和解まで漕ぎつけたにも関わらず、紛争が再燃することは珍しいと言えます。

和解金の支払いは当事者間の協議で2007年3月28日11時に三井住友銀行深川支店において現金で行われることになりましたが、当日、東急不動産は3000万円の支払いを拒否しました。和解条項を履行する上で私と東急不動産の間に深刻な対立があったためです。論点は大きく三つあります。これらの論点は相互に関係しています。

第一にアルス所有権移転登記の登記原因です。東急不動産は登記原因を「和解」とし、登記原因の日付を3000万円支払日とし、上記内容を記載した登記原因証明情報を作成して共同申請をすることを要求しました。しかし、和解調書には「平成18年12月21日付「訴訟上の和解」を原因とする」と明記してあるため、和解調書記載のとおりとすることを主張しました。これに対し、東急不動産側は「東京法務局に確認したところ、訴訟上の和解では登記できないと言われた」と反論するが、直接、東京法務局に確認したところ、虚偽であることが判明しています。

第二にアルス301号室所有権移転登記手続きです。東急不動産は、東急不動産の用意した司法書士への委任状を提出することを要求しました。これにより、東急不動産と私の共同申請で移転登記することを主張しました。確かに論点第一で東急不動産が主張したように登記原因を和解とするためには、共同申請による必要があります。

しかし本件は確定判決と同一の効力を持つ和解調書に規定されているため、私が東急不動産から3000万円を受領した時点で登記をする旨の意思表示が擬制されます(民法第414条2項但し書き、民事執行法第174条)。これにより被控訴人(私)は「登記手続きする」という義務を果たしたことになり、登記申請手続きをすることは不要です。その結果、東急不動産は登記を単独申請できます(不動産登記法第63条)。

東急不動産が単独で登記申請できる以上、私が登記申請する必要はありません。従って東急不動産が用意した初めて会う司法書士に、印鑑証明を用意して、大切な実印を押した委任状を提出するような危ういことをする必要性は皆無です。

これに対し、東急不動産は「被控訴人が登記手続きをする」との和解条項は被控訴人に実際に登記申請を行う義務を定めたものであると反論します。東急不動産が用意した司法書士に委任状を提出しない以上、義務を果たしていないので3000万円を支払えないとします。

私の再反論は以下の通りです。和解条項には私が申請人となって登記申請をしなければならないという明示的な記述はありません。存在しない以上、一般的な解釈に従い、登記意思を擬制したに過ぎないと解釈されます。和解調書で意思表示が擬制される以上、東急不動産が3000万円を払えば所有権移転登記をする旨の意思表示がなされ、「被控訴人が登記手続きをする」との義務を果たしたことになります。東急不動産が所有権移転登記を単独申請することに何の障害もありません。私から委任状や印鑑証明を取得しなくても和解調書を登記原因証明情報として提出しさえすれば良く、共同申請にするよりもストレートです。

第三にアルス所有権移転登記を単独申請する場合の手続きです。論点第二の私の主張の通り、東急不動産が3000万円支払えば私の登記する意思が擬制されるため、東急不動産は単独申請できます(不動産登記法第63条)。単独申請する場合、和解調書に執行文を付与する必要があり、執行文付与申請時に反対給付の3000万円支払いを証明する必要があります。

私は反対給付の証明は文書で行わなければならないため(民事執行法第174条第2項)、3000万円受領と引き換えに渡す受領書を執行文付与申請時に提出すればいいと主張しました。これに対し、東急不動産は、証明する文書は公文書に限られるとして法務局に供託するしかないと主張しました。

これに対し、以下のように反論しました。東急不動産は和解調書に執行文付与申請をしなければならないが、それが面倒ということは私に登記申請を押し付ける理由にはなりません。3000万円を支払ったことの証明は文書でなければならないが、公文書でなければならないという制限は存在しません(民事執行法第174条第2項)。購入者に3000万円を支払い、受領書を受け取り、それを証拠として執行文付与申請をすればよいことになります。

東急不動産が単独申請を嫌うのは、執行文を付与する手続きをしなければならないからに過ぎません。執行文付与には時間がかかり、金銭を先払いする結果になることを避けたいという身勝手な理由からです。

債務者の意思表示の擬制が反対給付との引換えに係る場合には、債権者は、反対給付またはその提供のあったことを証明する文書を提出して執行文の付与を受けた時に、債務者の意思表示が擬制されることになります(民事執行法第174条)。

書籍に以下のように記載されている通りです(近藤基他『書式 和解・民事調停の実務 全訂6版』民事法研究会、2006年、123頁以下)。

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意思表示の擬制の執行文 債務者の意思表示の擬制が反対給付との引換えに係る場合には、債権者は、反対給付またはその提供のあったことを証明する文書を提出して執行文の付与を受けたときに、債務者の意思表示が擬制されることになる(民執1741項・2項)。

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即ち先に反対給付を提供しなければならないことは意思表示の擬制の場合、法が予定していることです。登記を命じる内容で和解調書を作成した以上、執行文付与を受ける負担を予定していることを意味します。執行文が付与された時に、所有権移転登記の意思表示したものとみなされ、執行が完了するため、東急不動産が3000万円を支払うことは先履行を強いることにはなりません。

両者の溝は埋まらず、3000万円が支払われないまま、決裂しました。東急不動産の出方次第では、強制執行手続きなど司法の場で改めて争われることになると思います。本件東急不動産のマンションをめぐる紛争では、消費者契約法に基づく不動産売買契約の取り消しという実体法上の画期的な判決が出されましたが、安易な訴訟上の和解によってかえって紛争を深刻化させてしまった事例となる可能性が高いです。

 

東急不動産の不動産トラブル、訴訟上の和解成立後も紛争

5月27日

東急不動産株式会社(東京都渋谷区、植木正威社長)が販売した新築マンションを巡るトラブルに関し、訴訟上の和解が成立したにも関わらず、和解条項の履行で紛争が再燃している。一旦、和解まで漕ぎつけたにも関わらず、紛争が再燃することは珍しい。

元々の紛争はマンション購入者が売主の東急不動産株式会社に売買代金の返還を請求した裁判である。東急不動産は康和地所株式会社(東京都千代田区、夏目康広社長)から転売された土地(江東区東陽1丁目)にマンション「アルス」を建設・販売した。東急不動産は建設時に康和地所の従業員を通じて、アルス隣接地所有者がアルス竣工後に隣接地を建て替えること、作業所なので騒音があることを説明し、アルス購入検討者に上記事実を伝えることを求め、東急不動産は了解した。

しかし東急不動産(販売代理:東急リバブル)は販売時にはアルス購入検討者に説明しなかった。アルス引渡し後に真相を知った301号室購入者は消費者契約法第4条第2項に基づき、売買契約を取り消した上で売買代金2870万円の返還を求めて東京地方裁判所に提訴した。

東京地方裁判所民事第7部(民事第7部、山崎勉裁判官)は消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)による不動産売買契約取消しを認定し、売買代金全額返還を命じる画期的な判決を言い渡した(東京地裁平成18年8月30日判決、平成17年(ワ)第3018号、売買代金返還請求事件)。消費者契約法に基づく契約取消しが認められた事例はあるが、ほとんどの消費者にとって一番大きな買い物である不動産売買契約の取消しが認められたのは本判決が最初である。判決は以下のように認定する。

「被告(注:東急不動産)は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築され、その結果、本件建物の洋室の採光が奪われ、その窓からの眺望・通風等も失われるといった住環境が悪化するという原告に不利益となる事実ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を故意に告げなかったものというべきである」。

控訴審の東京高裁において一審判決に沿った内容の和解が成立した。即ち東急不動産が2007年3月までに金3000万円を支払い、アルス購入者が301号室を6月末に明け渡すことを骨子とする。

ところが和解条項の履行を巡って東急不動産とアルス購入者の間にトラブルが再発した。和解金の支払いは当事者間の協議で2007年3月28日11時に三井住友銀行深川支店において現金で行われることになったが、当日、東急不動産は3000万円の支払いを拒否した。東急不動産は現金をアルス購入者側に提示することもなかったため、仮にアルス購入者が東急不動産の言いなりになって委任状を提出すれば支払ったのか、最初は支払う気がなかったのかについては確認できていない。

アルス購入者と東急不動産の主張は全面的に対立する。論点は大きく三つある。これらの論点は相互に関係している。

第一にアルス301号室所有権移転登記の登記原因である。東急不動産は登記原因を「和解」とし、登記原因の日付を3000万円支払日とし、上記内容を記載した登記原因証明情報を作成して共同申請をすることを求めた。しかし、和解調書には「平成18年12月21日付「訴訟上の和解」を原因とする」と明記してあるため、アルス購入者は和解調書記載のとおりとすることを主張した。これに対し、東急不動産側は「東京法務局に確認したところ、訴訟上の和解では登記できないと言われた」と反論するが、アルス購入者側は直接、東京法務局に確認したところ、虚偽であることが判明した。

第二にアルス301号室所有権移転登記手続きである。東急不動産は、東急不動産の用意した司法書士への委任状を提出することを要求した。これにより、東急不動産と被控訴人の共同申請で移転登記すると主張した。確かに論点第一で東急不動産が主張したように登記原因を和解とするためには、共同申請による必要がある。

しかし本件は確定判決と同一の効力を持つ和解調書に規定されているため、被控訴人が東急不動産から3000万円を受領した時点で登記をする旨の意思表示が擬制される(民法第414条2項但し書き、民事執行法第174条)。これにより被控訴人は「登記手続きする」という義務を果たしたことになり、登記申請手続きをすることは不要である。その結果、東急不動産は登記を単独申請できる(不動産登記法第63条)。

東急不動産が単独で登記申請できる以上、アルス購入者が登記義務者となって登記申請する必要はない。従って東急不動産が用意した初めて会う司法書士に、印鑑証明を用意して、大切な実印を押した委任状を提出するような危ういことをする必要性は皆無である。

これに対し、東急不動産は「被控訴人が登記手続きをする」との和解条項はアルス購入者に実際に登記申請を行う義務を定めたものであると反論する。東急不動産が用意した司法書士に委任状を提出しない以上、義務を果たしていないので3000万円を支払えないとする。

アルス購入者の再反論は以下の通りである。和解条項にはアルス購入者が申請人となって登記申請をしなければならないという明示的な記述はない。存在しない以上、一般的な解釈に従い、登記意思を擬制したに過ぎないと解釈される。和解調書で意思表示が擬制される以上、東急不動産が3000万円を払えば所有権移転登記をする旨の意思表示がなされ、「被控訴人が登記手続きをする」との義務を果たしたことになる。東急不動産が所有権移転登記を単独申請することに何の障害もない。アルス購入者から委任状や印鑑証明を取得しなくても和解調書を登記原因証明情報として提出しさえすれば良く、共同申請にするよりもストレートである。

第三にアルス東陽町301号室所有権移転登記を単独申請する場合の手続きである。論点第二の被控訴人主張の通り、東急不動産が3000万円支払えば被控訴人の登記する意思が擬制されるため、東急不動産は単独申請できる(不動産登記法第63条)。単独申請する場合、和解調書に執行文を付与する必要があり、執行文付与申請時に反対給付の3000万円支払いを証明する必要がある。

被控訴人は反対給付の証明は文書で行わなければならないため(民事執行法第174条第2項)、3000万円受領と引き換えに渡す受領書を執行文付与申請時に提出すればいいと主張した。これに対し、東急不動産は、証明する文書は公文書に限られるとして法務局に供託するしかないと主張した。

これに対し、アルス購入者は以下のように反論した。東急不動産は和解調書に執行文付与申請をしなければならないが、それが面倒ということはアルス購入者に登記申請を押し付ける理由にはならない。3000万円を支払ったことの証明は文書でなければならないが、公文書でなければならないという制限は存在しない(民事執行法第174条第2項)。購入者に3000万円を支払い、受領書を受け取り、それを証拠として執行文付与申請をすればよい。

両者の溝は埋まらず、3000万円が支払われないまま、決裂した。今後は強制執行手続きなど司法の場で改めて争われることになると思われる。本件東急不動産のマンションをめぐる紛争では、消費者契約法に基づく不動産売買契約の取り消しという実体法上の画期的な判決が出されていたが、手続法上も興味深い論点を提供することになるだろう。

 

東急不動産の不動産トラブル、和解金支払いでも紛争

3月29日

東急不動産株式会社(東京都渋谷区、植木正威社長)が販売した新築マンションを巡るトラブルに関し、訴訟上の和解が成立したにも関わらず、和解金支払いで紛争が再燃している。一旦、和解まで漕ぎつけたにも関わらず、紛争が再燃することは珍しい。

元々の紛争はマンション購入者が売主の東急不動産株式会社に売買代金の返還を請求した裁判である。東急不動産は康和地所株式会社(東京都千代田区、夏目康広社長)から転売された土地(江東区東陽1丁目)にマンション「アルス」を建設・販売した。東急不動産は建設時に康和地所の従業員を通じて、アルス隣接地所有者がアルス竣工後に隣接地を建て替えること、作業所なので騒音があることを説明し、アルス購入検討者に上記事実を伝えることを求め、東急不動産は了解した。

しかし東急不動産(販売代理:東急リバブル)は販売時にはアルス購入検討者に説明しなかった。アルス引渡し後に真相を知った301号室購入者は消費者契約法第4条第2項に基づき、売買契約を取り消した上で売買代金2870万円の返還を求めて東京地方裁判所に提訴した。

東京地方裁判所民事第7部(民事第7部、山崎勉裁判官)は消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)による不動産売買契約取消しを認定し、売買代金全額返還を命じる画期的な判決を言い渡した(東京地裁平成18年8月30日判決、平成17年(ワ)第3018号、売買代金返還請求事件)。消費者契約法に基づく契約取消しが認められた事例はあるが、ほとんどの消費者にとって一番大きな買い物である不動産売買契約の取消しが認められたのは本判決が始めてである。判決は以下のように認定する。

「被告(注:東急不動産)は、本件売買契約の締結について勧誘をするに際し、原告に対し、本件マンションの完成後すぐに北側隣地に3階建て建物が建築され、その結果、本件建物の洋室の採光が奪われ、その窓からの眺望・通風等も失われるといった住環境が悪化するという原告に不利益となる事実ないし不利益を生じさせるおそれがある事実を故意に告げなかったものというべきである」。

控訴審の東京高裁において一審判決に沿った内容の和解が成立した。即ち東急不動産が2007年3月までに和解金3000万円を支払い、アルス購入者が301号室を6月末に明け渡すことを骨子とする。

ところが和解条項の履行を巡って東急不動産とアルス購入者の間にトラブルが再発した。和解金の支払いは当事者間の協議で200732811時に三井住友銀行深川支店において現金で行われることになったが、当日、東急不動産は和解金を支払わなかった。

東急不動産が支払いを拒否した理由は東急不動産が用意した司法書士への所有権移転登記の委任状提出にアルス購入者が応じなかったことである。東急不動産が現金をアルス購入者側に提示することもなかったため、仮にアルス購入者が東急不動産の言いなりになって委任状を提出すれば支払ったのか、最初は支払う気がなかったのかについては確認できていない。

アルス購入者と東急不動産の主張は全面的に対立する。問題は和解条項の「被控訴人(アルス購入者)が3000万円と引き換えに所有権移転登記手続きをする」とある点である。

アルス購入者の主張は以下の通りである。登記を命じる条項は登記をする旨の意思表示を擬制したものである(意思表示の擬制、民法第414条2項但書)。即ち3000万円の受け取りという条件を満たした時点で登記をする旨の意思表示が擬制される(民事執行法第174条)。その結果、東急不動産は登記を単独申請できる(不動産登記法第63条)。

東急不動産が単独で登記申請できる以上、アルス購入者が登記義務者となって登記申請する必要はない。従って東急不動産が用意した初めて会う司法書士に、印鑑証明を用意して、大切な実印を押した委任状を提出するような危ういことをする必要はない。

これに対し、東急不動産は「被控訴人が登記手続きをする」との和解条項はアルス購入者に実際に登記申請を行う義務を定めたものであると主張する。東急不動産が用意した司法書士に委任状を提出しない以上、義務を果たしていないので和解金を支払えないとする。

加えて仮に単独申請を行うとなると和解調書に執行文を付与してもらう必要がある。執行文付与のためには3000万円を支払ったことの証明が必要であるが、それは公文書でなければできず、3000万円を供託するしかないと主張した。

アルス購入者の再反論は以下の通りである。和解条項にはアルス購入者が申請人となって登記申請をしなければならないという明示的な記述はない。存在しない以上、一般的な解釈に従い、登記意思を擬制したに過ぎないと解釈できる。和解調書で意思表示が擬制される以上、東急不動産が3000万円を払えば所有権移転登記をする旨の意思表示がなされ、「被控訴人が登記手続きをする」との義務を果たしたことになる。東急不動産が所有権移転登記を単独申請することに何の障害もない。アルス購入者から委任状や印鑑証明を取得しなくても和解調書を登記原因証明情報として提出しさえすれば良く、共同申請にするよりもストレートである。

東急不動産は和解調書に執行文付与申請をしなければならないが、それが面倒ということはアルス購入者に登記申請を押し付ける理由にはならない。3000万円を支払ったことの証明は文書でなければならないが、公文書でなければならないという制限は存在しない(民事執行法第174条第2項)。購入者に3000万円を支払い、受領書を受け取り、それを証拠として執行文付与申請をすればよい。

両者の溝は埋まらず、3000万円が支払われないまま、決裂した。今後は強制執行手続きなど司法の場で改めて争われることになると思われる。本件東急不動産のマンションをめぐる紛争では、消費者契約法に基づく不動産売買契約の取り消しという実体法上の画期的な判決が出されていたが、手続法上も興味深い論点を提供することになるだろう。

 

理解しやすいように上記では所有権移転登記に絞って整理して書いたが、両者の対立を解消できないほど複雑化させたのは、所有権移転登記の登記原因を何にするかでも対立を引きずっていたためである。ここではあくまで理解のために登記原因と登記申請の対立を分けて書いたが、この二つは密接に関係している問題である。

和解条項は第2項で「平成18年12月21日付「訴訟上の和解」を原因とする」と明記していた。これに対し、東急不動産がアルス購入者側に提案してきた書類では登記原因を「和解としていた。当然、アルス購入者は抗議したが、東急不動産側は「法務局に確認したところ、訴訟上の和解を登記原因とすることはできない」と主張した。

 

東急不動産の遅過ぎたお詫び

101

東急不動産「和解成立」後トラブル顛末

 

東急不動産株式会社(東京都渋谷区、植木正威社長)は自社ウェブサイト(http://www.tokyu-land.co.jp/)に以下の「お詫び」を掲載した。「弊社が平成15年に江東区内で販売致しましたマンションにおきまして、北側隣地の建築計画に関する説明不足の為にご購入者にご迷惑をおかけした件がございました。本件を踏まえまして社内体制を整え、再発防止及びお客様へのより一層のサービス提供を行なってまいる所存でございます。」(2007101日に確認)

これは東急不動産(販売代理:東急リバブル)が江東区東陽で販売したマンション「アルス」301号室を指す。販売時に不利益事実(アルス東陽町竣工後に隣地を建て替えること、作業所になるので騒音が発生すること)を説明しなかった。東京地裁平成18830日判決は東急不動産の消費者契約法第4条第2項違反(不利益事実不告知)を認定し、売買代金全額2870万円の返還を命じた(平成17年(ワ)第3018号)。東京高裁において一審判決に沿った内容の訴訟上の和解が成立した(記事「東急不動産の実質敗訴で和解」参照※1)。

しかし訴訟上の和解成立後も紛争が再燃した(記事「東急不動産、「和解成立」後も新たなトラブル」参照※2)。アルス301号室の所有権移転登記の方法を巡って対立した。アルス301号室の売買契約が消費者契約法に基づき取り消されたため、その所有権を被害者(記者本人)から東急不動産に戻さなければならない。被害者側は登記原因を和解調書記載の通り「訴訟上の和解」として、和解調書に基づき東急不動産が単独申請することを主張した。

これに対し、東急不動産は和解調書を使わず、東急不動産が用意した司法書士を使って被害者と東急不動産で共同申請することを要求した。具体的には東急不動産が用意した司法書士に被害者が実印を押した委任状を提出することを要求した。被害者が拒否すると、東急不動産は和解調書で定められた金銭の支払いを拒否した(2007328日)。その後、東急不動産は42日に東京法務局に3000万円を供託した(平成19年度金第252号)。

被害者側は2007513日、東急不動産に内容証明郵便を送付し、和解調書に基づく金銭支払いを請求し、合わせてブローカーが勤務先に圧力をかけさせることの停止を要求した。これに対し、東急不動産は「回答書」(2007518日付)で全面的に拒否したが、その理由が問題であった。東急不動産は「被害者の代理人弁護士が供託金の受け取りについて法務局と相談し、それを受けて東急不動産代理人弁護士と折衝中」であることを拒否の理由とした。被害者の弁護士が東急不動産の要求に従って供託金を受け取る方向で折衝していると主張する。

これは完全な虚偽であった。被害者には裁判時には弁護士を訴訟代理人としていたが、東急不動産が回答書を送付した当時、委任関係にはなく、東急不動産の弁護士と折衝した事実もない。被害者が直接弁護士に確認すれば直ぐに露見する虚偽を回答した東急不動産の真意は不明である。話し合いによる任意的解決を潰すことが目的であったならば、その狙いは奏効したと言える。してもいない折衝をしていると言われれば弁護士が怒るのは当然であり、弁護士間で話し合いして解決するという可能性を完全に絶つことができる。

任意的解決の可能性が消滅したため、被害者は監督官庁である東京都都市整備局に申し出た。東京都の行政指導によって、東急不動産は態度を翻した。所有権移転登記は登記原因を和解調書に定められた「訴訟上の和解」とし、東急不動産が和解調書に基づき単独申請した。東急不動産は供託金を自ら取り戻した上で、三井住友銀行深川支店において被害者側に現金で金銭を支払った(628日)。

問題マンションの販売だけでなく、和解調書の履行においても東急不動産の誤りが示されたことになる。冒頭で紹介したホームページの「お詫び」についても、この文脈で捉えたいが、解できないのは2007101日という掲載時期である。被害者が騙し売りを認識して東急リバブルに照会したのが20048月であり、大きく遅れた「お詫び」である。多くの企業不祥事では遅すぎる対応が不祥事そのものと同じくらいの非難を浴びているが、東急不動産のマンション販売トラブルにも同じことが言える。

しかもタイミングも不明である。契約解除の意思表示を通知したのが200411月、消費者契約法に基づき売買契約を取り消したのが200412月、東急不動産を提訴したのが20052月、東急不動産敗訴判決が出たのは20068月、訴訟上の和解が成立したのは200612月、東急不動産が売買代金返還金を支払ったのが20076月と節目の時期は色々あるが、それらとは全く無関係な時期である。和解調書の履行が全て完了した訳でもない(所有権移転登記を巡るトラブルで中断したために、アルス301号室の明け渡しが遅れている)。被害者にとってはありがたみ味が全くない「お詫び」である。

東急不動産から被害者に対して直接「お詫び」が示されたことは一度もなく、また、ホームページへの「お詫び」掲載について事前にも事後にも説明や連絡がなされたこともなかった。的外れな時期に東急不動産が「お詫び」を掲載した真意は不明だが、少なくとも被害者と向き合うためにした訳ではないことは確かである。

 

記者本人の経験です。和解調書の履行が全て完了してから記事にするつもりでしたが、東急不動産のウェブサイトで「お詫び」が掲載されていたため、急遽、記事にしました。

 

東急リバブル・東急不動産マンション販売トラブルお詫び文掲載

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東急リバブル株式会社(袖山靖雄社長)及び東急不動産株式会社(植木正威社長)が自社ウェブサイト上に「お詫び」を掲載した。掲載内容は以下の通りである。

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弊社が平成15年に江東区内で販売代理した新築マンションにつきまして、北側隣地の建築計画に関する説明不足の為にご購入者にご迷惑をおかけした件がございました。

本件を踏まえまして、不動産取引における紛争の未然防止を再徹底し、お客様へのより一層の質の高いサービスを提供していけるよう、努力して行く所存でございます。

http://www.livable.co.jp/

 

お詫び

弊社が平成15年に江東区内で販売致しましたマンションにおきまして、北側隣地の建築計画に関する説明不足の為にご購入者にご迷惑をおかけした件がございました。本件を踏まえまして社内体制を整え、再発防止及びお客様へのより一層のサービス提供を行なってまいる所存でございます。

http://www.tokyu-land.co.jp/

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東急不動産(販売代理:東急リバブル)が新築マンション「アルス」について、隣地がアルス竣工後すぐに建て替えられること及び作業所で騒音が発生することを隠して販売するという騙し売りをしたため、消費者契約法第4条第2項(不利益事実不告知)に基づき、売買契約が取り消された問題である。購入者が売買契約を取り消したにもかかわらず、東急側が売買代金の返還を拒否したため訴訟となり、東京地裁平成18830日判決は東急不動産に売買代金全額2870万円の返還を命じた(平成17年(ワ)第3018号)。この訴訟については記事「不動産トラブルと消費者契約法」参照のこと。

http://www.news.janjan.jp/living/0701/0701218525/1.php

不動産の購入は一生に一度あるかないかの買い物といわれる。その一生に一度あるかないかの買い物において不利益事実を故意に説明せず、問題物件を購入してしまった被害者の損害に対し、「ご迷惑をおかけした」とは軽過ぎる文言である。

騙し売りが発覚したのは20048月であったが、東急リバブル・東急不動産間でのたらい回し、担当者の頻繁な交代、果てはアルス建設に全く関係のない無責任な人物を担当者に名乗らせるなど、東急リバブル・東急不動産は不誠実な対応を繰り返し、話し合いによる任意的解決を不可能にする結果となった。

20052月の提訴後も東急不動産は三名いる訴訟代理人のうちの一人の個人的な都合により当日になって原告本人尋問を延期させるなど、時間稼ぎに終始した。東京高裁で訴訟上の和解が成立したが、東急不動産が和解調書の金銭支払い義務を履行したのは和解調書で定められた20073月から3ヶ月遅れた同年628日であった。マンション販売時の不利益事実不告知のみならず、その後の不誠実な対応が「迷惑」を増大させたことについて東急リバブル・東急不動産は何らの反省も見られない。

しかも東急リバブル・東急不動産とも被害者の損害回復については言及せず、紛争の未然防止・再発防止ともっともらしく謳いあげているが、具体的な内容が記載されていないため、論評には値しない。社会にとって必要なものは、消費者を馬鹿にした東急リバブル東急不動産の不誠実極まりない体質の永続的変化であって、単なる発表ではない。

注目すべきはウェブサイトにおける上記文章の掲載位置である。東急リバブル・東急不動産とも会社からの発表内容を掲載するニュースリリース欄を設けているが、両者とも上記文章を別枠に表示させている。ニュースリリースならば過去の記事もバックナンバーの形で公開されたままになるが、上記文章は削除されたら、どこにも残らないものと思われる。ほとぼりが冷めたら跡形もなく削除してしまうことが予想される。また、東急不動産のウェブサイトではニュースリリースをRSS配信しているが、別枠ならばRSS配信の対象にならない。騙し売りトラブルを反省材料として記録にとどめようという姿勢とは対極である。お詫び文章の出し方一つを見ても、企業の姿勢を判断できる。

 

不動産トラブル

 

東急リバブルによる重要事項説明の軽視

2007年4月1日

宅地建物取引業法は、宅地及び建物の取引の公正を確保することで、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする法律である(第一条)。不動産購入者を守るための法律であるが、この法律があるにも関わらず、不動産売買で「業者に騙された」という例は多い。その一因として必ずしも不動産業者が宅地建物取引業法の趣旨を遵守して取引をしている訳ではない点が挙げられる。これから紹介する不動産取引事例は大手業者が扱った取引であるが、宅地建物取引業法の趣旨からは疑問符が付くものである。

東急不動産株式会社(東京都渋谷区、植木正威社長)の新築マンション「アルス東陽町」301号室の売買である。東急不動産の子会社の東急リバブル株式会社(東京都渋谷区、袖山靖雄社長)が販売を代理した。

この売買では、2003年6月26日に重要事項説明を受け、同じ日に売買契約を締結している。2003年6月26日に重要事項説明を受けたことは同日付の受領書に「重要事項の説明を受けました」と記載されていることから分かる。同じ日に売買契約を締結したことは同じ受領書に「同法第37条に基づく売買契約時の交付図書の受領も兼ねます」と記載されていることから分かる。

宅地建物取引業法は契約締結前に宅地建物取引主任者に重要事項説明を義務付けている(第35条)。重要事項説明は物件と取引の内容を確認し、間違えのない契約をするためのものである。重要事項説明を受けた消費者は、その内容を隅々まで理解した上で契約を締結するか否かを判断することが期待されている。

ところが東急リバブルの受領書の書式では重要事項説明を受けたことの受領書と売買契約時の交付図書の受領書が兼ねられている。ここからは東急リバブルが重要事項説明直後に契約締結を行っている運用をしていることがうかがえる。

実際、東急リバブルが迷惑隣人について説明せずに中古住宅を仲介したとして説明義務違反が認定された事件においても、契約締結直前に重要事項説明を行っている(大阪高判平成16年12月2日金融・商事判例1223号21頁)。

契約締結直前に重要事項説明を行う東急リバブルの方式は消費者にとっては熟慮する時間なしで契約を迫られるため、好ましいとは言えない。それを自覚してかアルス301号室の売買契約では契約書の日付が2003年6月30日になっている。301号室購入者は「契約締結は6月26日に行われたが、東急リバブル販売担当者の指示で契約書に日付を6月30日と書いた」と記憶している。受領書の日付が6月26日であることが、それを裏付ける。

アルス301号室の売買では下記記事で紹介した通り、190万円の値引きも行われた。

林田力「新築マンション値引き事例」JANJAN 2007325

http://www.janjan.jp/area/0703/0703252410/1.php

ここでは重要事項説明前の6月22日に東急リバブルが値引きを条件として301号室の購入を確約させている。共通してうかがえるのは東急リバブルが消費者の購入判断に資する情報を提供する手段としての重要事項説明を軽視する姿勢である。宅地建物取引業法で規制されているから行っているに過ぎず、積極的に宅地建物取引業法の目的とする購入者の利益保護を図ろうとするものではない。

実際、アルス301号室は購入後に不利益事実(隣地が建て替えられて日照・眺望が妨げられること、作業所で騒音があること)を説明されなかったとして紛争になった。本来は、このような紛争が起こらないようにするために宅地建物取引業法があるべきだが、残念ながら法の目的通りにはなっていないのが現実である。

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東急リバブルによる重要事項説明の軽視

宅地建物取引業法は、宅地及び建物の取引の公正を確保することで、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする法律である(第一条)。不動産購入者を守るための法律であるが、この法律があるにも関わらず、不動産売買で「業者に騙された」という例は多い。その一因として必ずしも不動産業者が宅地建物取引業法の趣旨を遵守して取引をしている訳ではない点が挙げられる。これから紹介する不動産取引事例は大手業者が扱った取引であるが、宅地建物取引業法の趣旨からは疑問符が付くものである。

東急不動産株式会社(東京都渋谷区、植木正威社長)の新築マンション「アルス東陽町」301号室の売買である。東急不動産の子会社の東急リバブル株式会社(東京都渋谷区、袖山靖雄社長)が販売を代理した。

この売買では、2003年6月26日に重要事項説明を受け、同じ日に売買契約を締結している。2003年6月26日に重要事項説明を受けたことは同日付の受領書に「重要事項の説明を受けました」と記載されていることから分かる。同じ日に売買契約を締結したことは同じ受領書に「同法第37条に基づく売買契約時の交付図書の受領も兼ねます」と記載されていることから分かる。

宅地建物取引業法は契約締結前に宅地建物取引主任者に重要事項説明を義務付けている(第35条)。重要事項説明は物件と取引の内容を確認し、間違えのない契約をするためのものである。重要事項説明を受けた消費者は、その内容を隅々まで理解した上で契約を締結するか否かを判断することが期待されている。

ところが東急リバブルの受領書の書式では重要事項説明を受けたことの受領書と売買契約時の交付図書の受領書が兼ねられている。ここからは東急リバブルが重要事項説明直後に契約締結を行っている運用をしていることがうかがえる。

実際、東急リバブルが迷惑隣人について説明せずに中古住宅を仲介したとして説明義務違反が認定された事件においても、契約締結直前に重要事項説明を行っている(大阪高判平成16年12月2日金融・商事判例1223号21頁)。

契約締結直前に重要事項説明を行う東急リバブルの方式は消費者にとっては熟慮する時間なしで契約を迫られるため、好ましいとは言えない。それを自覚してかアルス301号室の売買契約では契約書の日付が2003年6月30日になっている。301号室購入者は「契約締結は6月26日に行われたが、東急リバブル販売担当者の指示で契約書に日付を6月30日と書いた」と記憶している。受領書の日付が6月26日であることが、それを裏付ける。

東急リバブルの姿勢は消費者の購入判断に資する情報を提供する手段としての重要事項説明を軽視している。宅地建物取引業法で規制されているから行っているに過ぎず、積極的に宅地建物取引業法の目的とする購入者の利益保護を図ろうとするものではない。

実際、アルス301号室は購入後に不利益事実(隣地が建て替えられて日照・眺望が妨げられること、作業所で騒音があること)を説明されなかったとして紛争になった(注)。本来は、このような紛争が起こらないようにするために宅地建物取引業法があるべきだが、残念ながら法の目的通りにはなっていないのが現実である。

注:この紛争については記事「東急不動産の実質敗訴で和解」参照