雨、見切る







どんなに早く走っても。

雨が降ったら濡れてしまう。










土砂降りの雨。

その中で、一体のカービィが立っていた。

雨をしのぐものを何も持たぬまま、青い着物を着たカービィは表に立っていた。

濡れていなかった。






そのカービィは、降りしきる雨の中にいた。

思い雲を見上げて、ただボウと突っ立っている。

ただ、立っている。

幾時もの間、空を見上げていた。

雨が上がっても雲を見続けていた。

昼が夕へ、夕が夜へ。

そして朝が来た。

カービィは、空を見上げていた。

きっと今日も雨だろう。





雨が降っていた。

彼、いや彼女かもしれないが、空を見続けていたカービィは走っていた。

行く先も無く、着く先も無く。

彼の目の前で星に帰った同族を忘れることが出来なかった。

だから走った。

何故か走った。

やりきれなさを抱えながら、息が絶え絶えになっても。

それでも、体は雨に濡れていた。





突如としてコピー能力を持つキャラクター消失した時代。

その期間に生まれたカービィは第2世代と呼ばれている。

この世代を生き延びたものは数えるほどしかいない。

著名な存在であればカビチャやカビオ、ラビチャなどがいる。

幾世代もの間、限られた能力でポップスターを侵略する敵を退ける戦いを強いられた。

幾多のカービィが星に帰ることとなった。





また彼の目の前で同族が消えていった。

走った。

まだ眼前に敵がいたのに。

内なる声が戦意を奮い立たせる。

それでも心に反し、逃げ去った。

生と死を秤にかける冷静さを忘れることができなかったからだ。

その日も雨で、ずぶぬれになった。





いつしか、彼は山奥に身を潜めるようになった。

故郷を、ポップスターを守れという声が聞こえる。

彼らカービィはこの星を守る使命があることを生得的に知っていた。

半ば強迫観念にも近いこの使命感に逆らうのは苦しい。

それでも、彼は身を潜めていた。





空を仰ぐ。

晴れ。

曇り。

雨。

雨。

曇り。

また雨。





ずっと雨を見ていた。

降り注ぐ雫を、たまった水の波紋で眺める。

雨を見ていた。

許す限り。

誰も彼を許さないとは言わないのに。





長い年月がたった。

彼の片手には剣があった。

片刃の反り返った細身の剣。

それは刀と呼ばれる。

突如、その刀と鞘は彼の手元に現れた。

何故だろうか、とても懐かしい気がした。

過去のことはあまり覚えていなかった。

あまりにも、記憶は埋没して風化してしまったからだ。

必要なのは、戦う力を得たこと。

それだけが、星を守る使命を全うするに必要なのだ。





滝のような雨。

その中で、一体のカービィが空を見上げていた。

雨をしのぐ場所が何もないのに、青い着物を着たカービィは天を仰いでいた。

濡れていなかった






そのカービィは雨が降る中、刀を振り回していた。

何度振っても、雨粒を断ち切ることができなかった。





雨がやまぬ昼下がり。

その中で、一体のカービィが鞘を片手にしていた。

雨が降り注ぐというのに、彼の周囲だけ濡れていなかった。

彼も、濡れていなかった。





片目を失った。

星を守る戦いの中、彼は右目に大きな傷を受けた。

自然治癒能力が高いとはいえ、その眼が二度と開くことは無いだろう。

悲しくは無かった。





彼は雨粒を切れるようになった。

幾日も幾月も幾年も刀を振り続けた。

そして刃が雨を切るところまで見えるようになった。





ある日、彼の立てた掘っ立て小屋に別のカービィが訪ねてきた。

彼は名を持ち、新たな時代が来たことを告げた。

山奥で暮らしていた彼にとっては、何もかも新しいことであった。

山を降りて仲間と遭おうと誘われた。

断った。

彼は今の暮らしから離れるわけにはいかなかった。

日課としている雨を切る行為がもう少しなのだ。

何がもう少しなのかはわからなかったが。





霧雨の中、カービィが立っていた。

吸った空気も濡れている思うほどの湿気の中、彼は傘をささずに立っていた。

彼は濡れていなかった。






雨が降った日は、必ず表に出て刀を振り回した。

その行為を見て訪れてきたカービィは首をかしげた。

彼の疑問に対してこう答えるしかなかった。

雨を切り落とせそうな気がする、と。





雨が降らない日は、畑を耕し、拾って育ててきた珍しい樹を整えていた。

客分の仲間はその趣味に感銘を受け、弟子入りしたいと言って聞かなかった。

弟子の意味はわからなかったが、彼の行為をわかろうとする仲間が出来たことが嬉しかった。

その弟子は、ラビチャと名乗った。





まばらな雨。

その中で、一体のカービィが立っていた。

晴天の霹靂であったため、雨具は何一つ持っていなかった。

それでも、体は濡れていなかった






雨の降らない日が続いた。

おかげで弟子と一緒に庭を広くしたり、茶葉を楽しむ時間が増えた。

毎日語らい、植木や庭園を一緒に整えていった。

次第に往来が増え、住むカービィが増えたことにより増築もおこなった。

いつしか、何も無かった平原に屋敷が立っていた。





彼は別れを告げた。

多くの弟子ができ、活躍し、名を残し、星に帰った。

また独りになるくらいなならば、自分から独りになろう。

どこかでそう思っていた。

屋敷は一番弟子に任せた。

彼ならば大事にここを保ってくれるだろう。

行き先は風に任せるつもりで、彼は旅立った。

屋敷を任された弟子は、いつかまた会うことを約束した。

守る自身は無かったが、ふと守りたくなった。

だから再開することを約束し、慣れ親しんだ屋敷の外に出た。

その際、名前を与えてもらった。

自分と親友の分、そしてワビワビを知る者として。

彼は、自らをサビチャと名乗ることを教えられた。





雨の中。

一体のカービィが立っていた。

青い着物のカービィは刀を振っていた。

眼に映る雨をすべて断ち切り、しぶきすら刀を振る風で払った。

彼は濡れていなかった。






山奥の庵の前。

朝方から降り続いた雨は、夕刻ごろには止んでいた。

あたり一面の土は色濃くなり、丈の低い草は葉に雫を乗せていた。

サビチャの周りだけ、乾ききっていた。





彼は、雨を凌ぐ術を持っていた。

そしてそれが役立たぬことも知っていた。

彼独りが不可避の気候から逃れきれるからといって、それが何事に通用するわけではない。

もしこの星そのものが消えるという事態になれば、この見切りは何の役にもたたない。

どれだけ物が見えようと、手が届かねば何もできないのだ。





サビチャの時代は当に終わっていた。

第2世代よりも前、第1世代から生きながらえた彼はすでに遺物だと認識していた。

これからは新しい世代のカービィたちが生きる世界。

彼ができることは、田畑を耕し、植木を整え、星を見、雨を切ること。

世界を救う使命は、もう自分のものではない。

だからもし、自分に出番が回る日が来るのであれば。

いつものように、鍛錬をおこない、知識を分け与える準備のため日記を書き連ねることだけだった。





「拙者、いまだ未熟なり」





低い声でつぶやくと、サビチャは自らの寝床に戻っていった。

明日晴れたならば畑の雑草を抜こう。

明日また雨ならば、すべての雨粒を断ち切ろう。

今はただ、止みたての雨を落とした雲が、重い。










どんなに早く走っても。

雨が降ったら濡れてしまう。

雨を避けて通れぬのなら。

雨をも凌ぐ術を持て。

















後書き





構想自体はずっと前にあったサビチャの話。

「光すら見切る」というのがキャッチコピー。内容とは関係無いですが。

子供のころにやったことのある雨を避けるというのを実現できたらすごいな、ということ思い出しながら。

何でも見切れます。バドミントンのスマッシュが止まって見えます。

通勤電車に乗っている客員の顔が全部わかります。窓から見える範囲で。







ブラウザを閉じてお戻りください