カビオの過去







コピー能力を失ってから幾星霜。

彼らは無力となった。






彼は逃げ続けた。

不本意にも関わらず逃げ続けた。

戦いたかった。

負けたくなかった。

仲間の仇をとりたかった。

だが、無力。

カービィたちの攻撃は何一つ通じず、攻撃するチャンスも微塵に無い。

立ち向かえばそれ即ち敗北なり。

だから逃げる。

生き延びて機会を伺うか、敵の気まぐれにかけて立ち去るのを待つ。

どちらにしても、不甲斐ない。

バタリ、と。

一緒に逃げていた仲間が倒れた。

ただ同じ方向に逃げていただけだが、倒れた彼も確かにカービィだった。

立ち止まっている暇は無い。

すぐ後には敵が迫っている。

だから、

「くそっ…っやろぉーーーー!」

彼は倒れた同族を担いで走り出した。

触れる体温が段々冷たくなってくる。

担いだカービィがどんどん軽くなってくる。

息絶えたカービィは星に帰り、無に帰る。

彼は手を下ろした。

もう、彼しか居ない。

振り返れば空に昇っていく星が見えたかもしれないが、立ち止まることは無かった。

顔を怒りに引きつらせながら駆け続ける。

腸が煮えくり返り、吐き気がしてくる。

今すぐにでも振り返り、眼前の敵を叩きのめしてやりたい。

焚きつけたくなる憤怒を抑えながら、必死に逃げ道を探し続けた。

絶対に、許さない。

同族を蹴散らす敵を。

そして何よりも。

あまりにも無力な自分を。





カビオはどうしても許せなかった。










それからどれほど経っただろうか。

カービィの中に特殊な能力を持つものたちが現れた。

古に、先祖のコピー能力を使っていた記憶が呼び覚まされてきたとか。

細かいことはいざ知らず。だが、戦う力がついてきたことは事実。

カビオもその中にいた。

いつの間にか赤いハチマキを絞め、知らぬはずの戦いの記憶が呼び覚まされた。

力を得た時のことは今でも鮮明に思い出せる。

嬉しかった。

自分が戦えることがただ嬉しかった。

自分が弱くない証であり、ひたすらに嬉しかった。

戦った。

戦い続けた。

他のカービィたちが力の発現に戸惑う中、無我夢中で戦い続けた。

敵に臆せず、己に臆せず、率先して口火を切った。

何度も負けそうになり、何度も死にそうになった。

それでも歩みを止めはしない。





同じ能力があるからといって、全員が同じくらい強いとは限らない。

強く、そして名を広めるほどの実力者となると数も少なくなってくる。

ファイターのカビオ。

ニンジャのラビチャ。

ハンマーのヘビチャ。

ファイアのドラヴィオ。

そして、ソードのカビチャ。

名だけ聞いた者がいれば、実際にあった者もいる。

特にカビチャとの出会いは、忘れられたものでなかった。

出会ったのは戦場。

たったの2体で、無限にも思える敵の中に飛び込んだ。

どう切り抜けたかはお互い覚えていない。

ソード能力特有の緑の帽子すらなく、剣だけを抱えたカービィ。

気づいたら、ボロボロになりながらも無事だった。

能力の欠損だと聞かされるも、そんなことは気にしない。

カビチャが強い奴であることは肌で感じていた。

それも、何か違う意味で。

俊敏で機転が利くラビチャとも、力の強いヘビチャとも全く違う意味の強さだった。

自分より上というよりも、飛び越えた強さ。

気に食わなかった。

戦えばカビオの方が強いだろう。

いわばカビチャの方が弱い。

だというのに、カビチャが強いというのは周知の事実となっていった。

たまたま、活躍が目に留まっているだけだ。

ひがんでいるだけと気づいたのはしばらくした後のことだった。





カビチャとカビオの決定的な違いがあるとしたら、戦いの臨み方にある。

カビオが相手の戦力を分析し、時には逃げることも辞さない。

敗北は恥でしかないが、つまらない意地で命を落とすのもバカらしい。

かといって負けることは無かったが。

カビチャは戦うことすら避ける。臆病ともいえるほどに。

同族同士の組み手や試合すら敬遠しがちなのだ。

なのに戦う。

相手がいかに強大でも、勝ち目が無くとも。

仲間のために、友のために、死の瀬戸際に立たされたとしても背中を見せはしない。

そして必ず勝利する。

何でそんなに強いのか。

それを知りたくてカビチャと同行することが多くなった。

「一緒に?うん、いいよ。一緒に行こう」

嫌そうな顔を一つもせず、ニコニコとして自分を見ていた顔を正直ぶん殴ってやりたかった。

こんなやつが本当に強いのか。

疑念を抱きながら、丸っこい背中を追い続けた。

確かに強い。

能力の欠損にも関わらず、カビチャはソード能力の使い手として高い水準にある。

それなのに、ずば抜けた点というのは無い。

ラビチャは豊富な知識を生かし、ヘビチャは恐ろしいまでの強運を持ち、ドラヴィオは炎を自在に操れると聞く。

カビチャは剣を振るっている。単にそれだけだった。

同行してからと戦う回数が減った。

できるだけ逃げ、避け、欲求不満な日々が続く。

当り散らすようにカビチャと色々なことを話し合った。

カビオは自分の戦歴を話した。

事細かに一つ一つの戦いの様子を話した。

カビチャは友と遊んだり、食べたり、話したことを話した。

どんな天気で、どんな者たちと一緒で、どんな会話をしたか話した。

時々戦った日のことも話してくれたが、カビオにとっては物足りなかった。





戦う日が次第に多くなってきた。敵の数が増えたからだろう。

それでも量は普段より減り、質は格段に濃密となった。

どう見ても勝てそうに無い相手にカビチャは戦いを挑むのだ。

それも同族のカービィたちを庇うため、守るため、平気で身を投げ出す。

カビオが一緒でなければ数百回は死んでいる。

その度、こういうのだ。

助けてくれてありがとう、と。

無性に腹が立った。

自分だけでは手に余り、カビオの手を煩わせたこと。

いや、違う。

カビオがカビチャを助けたが、同じくらいカビチャもカビオを助けた。

何を謙遜することがある。

もっと誇れ、もっと勇め。カビチャにはそれだけの力がある。

宝の持ち腐れ。

それだけ強いのに、どうして自分から貧乏くじを引こうとするのか。

放っておけない奴。ラビチャが仕切りに心配するのも判った気がする。

だから、ありがとうと言われたらこう言い返すのだ。

危なっかしいから見てられなかっただけだ、と。

気づいたら、カビチャと共に戦うことが楽しくなっていた。





大量のダークマター。降り注ぐ災厄はこれで何度目か。

わけのわからない風景の歪みが生じ、カビチャたち大勢がその先に飛び込んだ。

その歪みに入り込もうとする無数の敵たち。

立ちはだかるようにカビオを含めた大勢のカービィたちが立ちはだかる。

胸が高鳴る。

この先に一体どんな強敵がいるのか。

そいつをいかに倒そうか。

派手に立ち回りながら敵を蹴散らす。

徐々に数も減り始め、そろそろ自分も敵の本拠地に攻め込んでやろうとした時であった。

敵が一斉に逃げ出す。

振り返ると、姿を消したカビチャたちが戻ってきていた。

歓声。

合流したカービィたちが飛び跳ね歓喜の声をあげる。

来た、見た?勝った!

今日も生き残り、明日へ生をつなぐことができた。

そんな浮かれた雰囲気をまどろっこしく思いながらカビオは舌打ちをする。

またいいところを持っていかれた。

だが次がある。

今回の大勝利の功労者であろうカビチャを見る。

さぞ喜んでいるだろうか、いつものように照れ笑いしているだけだろうか。

俯いたままのカビチャの表情は。





この世の終わりと直面でもしたかのように沈んでいた。










そしてその晩の星送り。

星に帰った戦士達に思いを馳せ、思い出を深く心に刻みなおす日。

二度と会えぬ友を心の中に留める夜。

彼らはきっと星に帰った。

誰が言ったか、誰が始めたか。

真っ青な夜空に散りばめられた星が、すべて彼らの命だと思えば寂しくない。

残念ながら、そんな感傷的な気分にならないためカビオは参加しなかった。

元々こういった辛気臭い空気は好きではないのだ。

そして、カビチャもいなかった。

最も同族が去ることを嘆くカビチャ。

彼が星送りにいないことは天地がひっくり返っても起きないはずだ。

だのに、彼はその場にいない。

ラビチャの屋敷で行われた星送り。

庭には数十、数百のカービィたちがひしめいている。

みんなで空を見て、想っている。

カビチャは、一室で布団に顔をうずめていた。

体を震わせて、嗚咽を零しながら拳を固めて。

ラビチャから聞いた話であるが、同行していた一体のカービィが犠牲になったらしい。

あれだけ大事になったにも関わらず、犠牲が少なく済んだと言ってもいいはずなのに。

カビチャは、それを良しとすることができなかった。

出さなくてもよかった犠牲だったと悔やんでいたが、よくよく状況を聞けばいたしかたないこと。

もうお馴染みとなった赤いマントを被った背中からは、ずっとすすり泣く声がする。

その様子を気づかれないように、いやどっちにしたって気づかないだろうが、カビオは見つめた。

率先して戦いの渦中に飛び込む背中。

窮地に立たされても光を見失わない夕焼け色の瞳。

それが薄暗い夜闇の中で霞んでいる。

…ふざけるな。

余りの情けない姿に感情が高ぶる。

何を寝ぼけたことを言っているのか。

数の比較などしたくはないが、多くのカービィたちの未来を救ったのにそれだけの犠牲を憂えるのか。

戦えば犠牲が出るのは当然のこと。

戦績を見れば好ましい結果にも関わらず、胸を痛める。

十分な結果を残しながら、それですらまだ物足りないと泣き叫んでいる。

バカだ、本当のバカだ。





そこに自分がいれば、そんな犠牲はでなかったはずなのに。






過去にもしも、などと考えてもしょうがないことだった。

それでも、余りのやるせなさに考えずにはいられなかった。

もし自分があんなところで手間取らずに、カビチャたちと一緒に行っていたら。

あの時カビオがしんがりを努めたのは正解でもないが間違いでもない。

そこを忘れるほどカビオも愚かではない。

だからこそ、こう思う。





自分がもっと強ければ。

立ち塞がる敵を一瞬で蹴散らすほど強ければ。

いかなる敵をもなぎ倒し、打ち砕く力があれば。

力さえ、力さえあれば。





自分が弱いということを改めて実感した。

無力だ。

コピー能力が無かった頃、ひたすら逃げ惑っていた自分と何ら変わっていない。

勝利に酔いしれ、満足していた自分は他のカービィたちと違わない。

強くならなければいけない。

もっと強くなければ、惨めすぎる。このままでは、










カビチャと共に戦う資格など…無い。










「ブルァアアアア!」

床板を砕かんばかりの踏み込みから、鋭い回し蹴りが繰り出される。

風を切るように音をたてた蹴り。

組み手の相手であるカービィは防御していたにも関わらず体が宙に投げ出されてしまった。

「シャア!次こいやっ!」

「おーい、カビオ。手加減してやってくれ」

ラビチャの屋敷にある道場。

若手のカービィに指南を施すこともあるカビオだが、このように。

「おい、大丈夫か?…意識が無い!」

「担架、担架―!」

やりすぎの感がいなめない。

最近は気概も実力も低い者ばかりで若干不満である。

カビオたちの世代は敵の襲撃が多い時代であったため、認識に大きな隔たりがあるのもしょうがない。

平和を脅かすものたちがあまり来なくなり、安寧な日々にハングリー精神を持ち続けている方が珍しいのだ。

「カビオ、強くなる前に死傷者がでちゃうよ」

「るっせえ。これでも手加減に手加減してさらに手加減してんだぞ」

「嘘おっしゃい。目が本気でしたヨ」

「…ならば、オレの本気を見せてやる。行くぞオルァアアア!」

「って、何でこっちに来るノォーーーーーーーーーー!」

「あ、アハハハ…」

全力疾走で道場内を駆け回るカビオとカビール。

それを乾いた笑いで眺めるカビチャとラビチャ。





自分はどれだけ強くなったのだろうか。

不安になることも多い。

敵の襲来も減り、戦闘の量も質も低下した。

時折同じカービィと力比べで野試合をするも、カビオは負けたことが無い。

ラビチャやヘビチャなどには時折黒星を残すが、あくまで組み手のうち。本気ではない。

だから待つことにした。

自分の知る戦いの術を教え、強いカービィたちが育つことを待つ。

彼らがいつか自分と肩を並べるほどに強くなった時、切磋琢磨しあい更なる高みを目指す。

その時がいつ来るかわからない。

ずっと、果てしないほど先にも感じる。





だから鍛え続ける、彼らに容易に負けぬために。





だから教え続ける、彼らが早く強くなるために。





だから戦い続ける、彼らの未来を守るために。





すべては己が強くなるため。

果て無き高みに手を伸ばし続ける。

決して退かず、臆さず、怯まぬ戦士、カビオ。

彼が唯一認めた、挫けず、諦めず、途惑わぬ戦士、カビチャ。










カビチャと同じ戦場に立ち続けること、それがカビオの切なる願いだから。



















後書き





喧嘩好きのキャラというのは立ち位置が難しいです。

単純な喧嘩好きにすると場合によっちゃ小物にしか見えませんからね。

まあつまるところ、カビオもカビチャが大好きなんですよ。






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