
|
その名はカビチャ
主にプププランドで生きてきたカービィの身辺に、異変が起きていた…。
草原を横切るピンクの丸い物体。 そのもの、カービィは歩いていた。 ずっと、歩いて、歩き続けていた。 探し物があったのだ。 だが、何も見つからなかった。 カービィは疲れ果てて草の上に寝転んだ。 青い空、白い雲、風を受けてささやく草花たち。 カービィは起き上がると、再び探し始めた。 ワドルディに会い、キャピィに会い、デデデ大王と戯れた。 しかし、コピー能力を持ったキャラは結局見つからなかった。 二度と…。
…そして。
すでに夕闇。 とあるカービィは逃げていた。
そのカービィを追う、黒い球体。
怪しげに一つ目が輝き、花びらのような体の部位を揺らめかせながら空中を滑空していく。 すでにカービィは走り疲れていた。 ずっとこの調子だ。 一緒に逃げていた他のカービィたちも倒されてしまった。
最後の一体。
必死だった。 仲間が消えていく姿が脳裏によみがえる。 体が少しずつ消えていく姿…。 痛いのだろうか? 苦しいのだろうか? 辛くないのだろうか? 確実だったのは、喪失感と悲しみが生まれること。
カービィはつまずき、転がるように転んだ。 背後では黒い球体は速度を緩める。 狙いを定める。 オレンジ色の花弁がその体から切り離され、そのカービィに向かって飛んでいく。 際どいところを転げ周りながら避けると、地面に鋭く突き刺さる音がいくつもした。 刺さった花弁を一瞥すると、大きく口を開けて吸い込む。 吸い込めない。 吸い込めていたらこんな目にはあわなかっただろう。 吸い込んだものを吐き出すカービィにとって、吸い込めないことは死活問題である。 再び体からオレンジの花弁を生やした黒い物体がカービィに急接近。 そのまま体当たり。 カービィの体は大きく撥ね飛ばされる。 何とか起き上がろうとするそのカービィに向かって再び花弁が飛ぶ。
切り刻まれる。 そして消える。
そのはずだった。
再びそのカービィは吹き飛ばされていた。 体に新たな傷をつけずに。 「…はぁ…こ、れは…?」 その手には、一振りの剣が握られていた。 先ほどの攻撃も、これで防御していたらしい。 何せもう駄目だと目を瞑っていたため、自分でも何をしたかわからなかった。 初めて覚える重量感、何故か懐かしくて心地よかった。 黒い球体が花弁を放とうと動きを止める。 体が前に出た。 踏み出す。 走る。 花弁は放たれると大きく弧を描きながら獲物へと向かっていく。 オレンジ色の凶器がカービィの頭上を通り過ぎていく。 放物線はより近いものへと軌道修正ができなかった。 接近する。 先ほどまで背中を見せていた相手に。 離れたかった相手に。 見開いた目に向かって、思い切り剣で斬りつけた。 「……ィ!」 悲鳴があがった。 声というよりも、ただ甲高いだけの音。 耳障りな音をあげながら、体から黒い煙のようなものを噴出させている。 やっと手応えがあった。 反撃できないと諦めていた相手への一撃。 慢心創痍であったカービィに力がみなぎった。 剣を両手に構える。 初めて使う道具。 それなのに、使い方がわかっていた。 体勢を整えた黒い球体の動きが止まる。 見開いた瞳をカービィはにらみつけた。 次も同じように返せる。
「…ッ!?」 瞳が見開き、黒い光が走った。 別の攻撃を期待していたカービィは完全に虚をつかれる形となる。 それでも体には当たらなかった。 そのかわりに、鋭い金属音。 手から剣が弾かれ、宙を舞った。 剣を追う様に体が動いてしまう。 剣は必須なのだ、剣が無ければ勝てないのだ。 「しま、っ!?」 視線をそらした一瞬に、黒い球体は眼前にまで接近していた。 剣が無ければ勝てないのだ。 剣が無くとも勝てないのだ。 今度こそ、覚悟するときであった。 「う、うわぁぁあああああああ!」 悲鳴。
そのカービィとは別の声。 黒い球体にピンクの物体が激突する。 球体は弾き飛ばされ、ピンクの物体も回転を止めると姿を変える。 赤い帽子を被ったカービィ。 「…ぁあ、やっと止まれたぁ。ありがとね」 「え、いや。僕は何もしてないけど…」 背後で突き刺さる音。 宙を舞っていた剣が地面に戻ってきたようだ。 そのカービィは再び剣を手にする。 「…あれ、帽子は?」 「帽子、ってなに?」 「お〜い、カビ〜ル」 声のした主に向かって、カビールと呼ばれたカービィは手を振る。 その先には、ナベを被り、ハンマーを背負ったカービィがいた。 「帽子って、アレ?」 「いや、あれは趣味っていうか、何というか…」 「カビール、晩御飯は何にしようか?」 「あのさ、ヘビチャ。今はそれどころじゃないのデスケド」 カビールの指差す先には黒い球体が浮かんでいた。 「じゃあ、ちょっと待っててね。よ〜いしょのしょ、っと」 「あ、危ないってぇ!」 「え?」 カビールは剣を持ったカービィの手をひき、急いでヘビチャから離れた。 ヘビチャは担いでいたハンマーを構えると、自分を軸にして一回転し、
投げた。
凄まじい勢いで飛んでゆくハンマー。 「…」 小さくなっていく姿がキラン、という効果音とともに消えていく。 落下したハンマーが地響きをたてて地面にめり込んだ。 「で、晩御飯はどうしよっか?」 ヘビチャの笑みに、そのカービィは薄ら寒いものを覚えた。
「…おいしい!」 「でしょ?でもレシピは企業秘密だからね」 「企業ってどこデスカ?まず、あの短時間でどうやって材料集めたのやら…」 ヘビチャが被っていたナベにはたっぷりのスープが湛えられている。 どこに持ち歩いていたのか、どこで調達したのか不明な具がたくさん浮かんでいる。 木の器に盛られたスープをさきほどのカービィはおいしそうに飲み干した、 「ああ…生き返る」 「おかわりはいっぱいあるからね」 「ありがとう」 そのカービィから器を受け取ったヘビチャはスープを掬う。 「はい、どうぞ…えと」 器を手渡したヘビチャは困った表情を浮かべる。 受け取ったカービィも何事かもわからず困ってしまう。 「…ごめん」 「あ、いや、君の名前を言いたかっだけだよ」 「名前?僕はカービィだよ」 至極当然の答えであった。 確かに同類と出会うこともあったが、暗黙のうちに「おまえ」「きみ」と呼ぶことが決まっていた。 「まあ、仕方ないよ。まだ能力のことも知ったばかりだろうし」 そう言ってカビールはスープを飲み干す。 「まずボクらの自己紹介ね。ボクはカビール」 「ぼくがヘビチャ」 「ああ、はい、初めまして…」 名も無きカービィはお辞儀をする。 「あ、こちらこそ」 「そこで改まらなくとも…」 ノリをあわせるヘビチャにカビールは苦笑する。 「まず、コピー能力のことから話そうかな?」 「それよりも明日の朝ごはんはどうしようか?」 「…シェフにお任せします」 「ウィ!」 ヘビチャは差し出された器を受け取ると、ナベに向かっていった。 「えっと、キミは剣をもっているからソード能力が発現したんだね」 「え、能力・・・発現って?」 単語の意味がわからず、ただ聞き返すしかなかった。 「ん〜と、ちょっとボクも説明が苦手なんだけど。まず、コピー能力はわかる?」 名無しのカービィは首、あたりを横に振る。 「ボクらには昔コピー能力、っていう力があったんだけどいつごろか使えなくなっちゃったんだ。それで今までは吸い込みと吐き出すことだけで何とかしてきたでしょ?」 カビールの話に頷く。 「で、よくわかんないけど、いきなりそういった能力が使えるようになってきたんだ。ボクはホイール能力。ヘビチャはハンマーと…コック能力?がね」 「カビールは何かにぶつかるまで止まれないけどね、はいどうぞ」 「むぅ…」 ヘビチャからスープをうけとると、カビールはちょっとそっぽを向いた。 「キミはソード能力が使えるみたい…のはずだけど、帽子が無いんだよ」 「帽子…がどうかしたの?」 「能力が発現すると、それにあわせた道具も一緒についてくるはずなんだ。ソード能力は緑色の帽子を被るハズなんだけど」 「いいじゃん、スタイリッシュで」 「どのアタリ?ともかく、そうやって色んなことができるようになったカービィは自分で名乗るようになったんだ。結構一杯いるから判別しにくいし」 「愛が足りないからだよ、心が通じあってればわかるはずだよ」 「そ、そういうこと言う?この前だって、ボクを別なカービィと間違えたでしょ」 「うん」 「…開き治ってマスカ。ん、どしたの?」 どうも話が信じられなかった。 能力の話、姿の話。 いや、たくさんのカービィがいるという話だ。 孤独。 めぐり合ったカービィはすぐに力尽きてしまった。 前も、今さっきも。 たった数回の巡りあい。 それが判別できないほど沢山いる。 手をつないだり、 肩を並べたり、 踊ったり。 それができる仲間が沢山いる。 「…ヘビチャ、笑イダケとか入れた」 「入れたよ」 「ウソぉ!?」 「うそだよ」 「…は、はぁ」 名の無いカービィに笑みが零れていた。 満面の笑み。 「たくさん、いるの?」 「カービィが?そりゃもう大勢、集まるときはもう数え切れないくらい」 孤独に歩んできたモノクロの記憶。 微かすぎた温もりが、長い移ろいの中を占領している。 戦い続けた時間の中で、一瞬すぎた出来事。 ともに出会い、 ともに戦い、 いつも見送ってきた。 自分以外のピンクの姿。 失う悲しみを覚えることはわかっていても、その姿を認めてしまえば喜びを隠せなかった。 もう、辛い思いをしなくて済む。 「たくさんいるからね、一応名前決めておかないとわからなくなっちゃうんだ」 「…でも、どうしよう」 「決まった!」 ヘビチャが突然立ち上がり叫ぶ。 「び、びっくりした…まさか、また勝手に名前つけるの?」 「うん。よろしくね、カービィちゃん♪」 カビールが無駄にすっ転んだ。 「…あ、安易スギ」 「だって、もうカービィくん、カービィさんは決まっちゃてるし」 「もう改名してると思うけど…いい、カービィちゃん?」 遠慮がちに尋ねているが、すでに決定事項になってしまっているようだ。 だが、そう呼ばれたカービィは気にしていなかった。 剣をもったカービィが黒い球体に向かって駆け出す。 相手は2体。 臆すことはなかった。 その背後では、傷つき倒れているカービィが6体ほどいる。 「む、無茶だ…」 緑色の帽子を被ったカービィが、帽子をも被っていない同じ能力のカービィを見守る。 いや、すでに見守る体力しか残っていなかった。 「…てやぁ!」
カービィと、黒い球体2つがすれ違う。
次には、4つになった黒い球体が爆発を起こした。 「…フゥ…大丈夫?」 「…ああ、ありがとう。おかげで助かったよ」 緑色の帽子を被ったカービィは差し伸べられた手につかまって立ち上がる。 「しかし、すごいね…僕らが束になっても敵わなかったヤツラを一瞬で…」 「いや、君たちがダメージを与えていたから何とかできたわけだから…僕の力じゃないよ」 あくまで謙虚な態度を崩さないカービィに緑色の帽子を被ったカービィは敬意の念を覚えた。 「君の実力だよ。是非とも君の名前を教えてくれないかな?」 「え、僕の名前は…」 そのカービィは戸惑った。 名前がないわけではない。 だが、言いづらかった。 今更となって自分から名乗ることが気恥ずかしかった。 今まで相手を固有名詞で呼んできたことがなかったため、自分がそうされることに若干の抵抗を覚えるのだ。 相手のカービィは目を輝かせながら待っている。 言わないわけにもいかまい。
友達がくれた大事なものなのだから。
「ぼ、僕は…カ、」 「カ?」 視線に耐え切れず、目線をそらす。
「カー、ビィ…ちゃん」
最後まで聞いてくれただろうか? 聞き取れなかったら次はもう一度、さらに大きな声で言わねばならない。 その想いとは裏腹に、聞いて欲しくもなかった。
「カビ…、そうか、カビチャっていうのか!」 「はい?」 先日名前をつけられたばかりのカービィは素っ頓狂な声をあげる。 「よし、カビチャ、カビチャ!」 他の5体のカービィに取り囲まれた。 どうなる? どうする? 「カビチャ、カビチャ、ケチャケチャケチャ!」 「け、何なの、うわぁ!」 周囲を取り囲んだカービィたちは、カビチャと呼ばれたカービィを抱えあげる。 「わっしょい、わっしょい!」 「カビチャはすごい、カビチャはえらい!」 先ほどまで虫の息であったカービィたちであったが、それが嘘であったように騒ぎ始める。 わけのわからないハイテンション。 そしていつしか自分も楽しくなっていることに気づいた。 違和感を覚えつつも、嫌悪感は抱かなかった。
|