ラプソディ







儀式は成功だ。

彼の者は我々の呼びかけに答えた。

結果として幾名かの同胞が失われたが…問題ない。

永遠の生命のため、多少の犠牲はやむをえない。

さて、次はどうするか。

虹の欠片も一つ失ったが、まだ充分数手元にある。

再び呼び寄せて、次はコンタクトをとるとしよう。

会議が終わる。

暗室の中、黒いローブをまとったカービィたちが退室していく。





次の儀式の準備、彼らはダークマターを呼び寄せようとしていた。










月はきれいなのに、星は一つも見えない夜。

「駄目だったみたいだね」

潜んでいたのだろうか、ジュビィはカビンの背後から声をかけた。

黒いマントを羽織った純白のカービィは見えてはいないが肩を落としているだろう。

「ああ…彼も説得に応じてはくれなかったよ」

彼、先ほどまでカビンが自分らの仲間になるようにと声をかけたカービィは行ってしまった。

「一つ、聞いてもいいか?」

ジュビィと一緒に現れた真紅のカービィ、ドラヴィオに2体の視線が集まる。

「…あんな目の濁った奴…本気で仲間にしようとしてたのか?」

やや怒気を含めた語調。そう聞こえるのは彼とつきあいが短い証拠。

いかに落ち着いて非難されているか、カビンも重々承知の上だ。

「だから、こそだ。道を踏み外す前に手を打ちたかったのに…」

「この前の事件のことだって教えてあげたのに…まったくね、いやんなっちゃう」

「だから、どうして止めない?このままじゃ、あいつは…」

ダークマター教に入団する。

先ほどのカービィとの会話の内容は大半がそれだった。

コピー能力もそこそこに使いこなせ、名が挙がり始めたカービィだった。

だからこそだろうか、命への強い執着を示すのは。

弱いものが揺ぎ無いものへとすがりつくのはどこでも同じだ。

だからといって、強いものもそうならないとは限らない。

強くなったからこそわかることがある。強くなり、自信や、誇りや、期待を持つようになると。

失うのが怖くなる。

死は全てを等しく奪い去る。

「強さと延命への欲求…これは生あるものすべてが抱える悩みだね」

「だが、縋りつくのは強さじゃない」

「だからこそ僕らが尖兵となって道を指し示すんだ。カービィによる、カービィと世界の発展のために」

静かに空を仰ぐ。

宵闇は心地よいほど冴えきっている。だというのに月が孤独に輝いている。

「…俺もお前たちにあわなかったら…ああなっちまったのかな?」

ボソリと、らしからぬ口調でドラヴィオは呟く。

炎を極めし者、と高尚な肩書きを持つ彼もまたか弱き一個体。

誇り、自負し、驕り、自惚れたこともあった。

死は当然の如く、怖い。

その想いがいつか偶像にでも縋り付かない済まなくなってしまったのだろうか。

「…敵になるのかね」

「…思い留まること期待するよ。望みは薄いけど」

彼らはその場を立ち去った。彼らは決して孤独ではない、だからこそ孤独。





そしてしばらくして、ある一体のカービィが行方をくらませた…。










「…風邪かな?」

一角の剣士が鼻をすする。

蔵の中が涼しいせいか、それとも埃っぽいせいか。

ラビチャの屋敷の蔵。ユニコスは一本の剣の前に立っていた。

各地から集められた、というより集まってしまった収集品。

珍しいものを拾ってくるカービィたちの手によってここまで集められたと聞いている。

鍋が多いの何故だろう。

実際ガラクタばかりだ。家主の許可がなければ貴重なものは見られない。

ここ数日の間、その家主の許可を貰って他の蔵も見させてもらっていた。

確かに素晴らしい。故郷では決して見られないものだろう。

だが、探しているものは無かった。

こうして普段から開けられている蔵も見ているが、やはり無い。

長居しすぎただろうか。

すでに知り合いの騎士はここを発った。

果たすべき使命、忘れたわけではない。

ただ目に収めておけるうちは、見ておきたいのだ。

「…騒がしいな」

慌てて頬擦りしていた剣を元の場所に戻す。

いけない、こう美しい刃を見るとつい…。

先日も癖でやってしまっていった。しかもそれが刃の鋭い刀だったから頬を斬ったばかりなのに。

ともかく、ざっと蔵の中を見渡す。

自分以外誰も居ない、よく整理された。

整理…うん、他の蔵と比べると雑かもしれない。

こういった場所はもっと利用されてしかるべきなのである。

ユニコスは、重い蔵の門に手を添えた。

外の喧騒、光が広がっていく…。










晴れ、ときどき雨。

天候というのは突然かわるものだ。

前触れらしい様子を見せても、いつその表情を変えるかなど誰も知りえない。

ましてや。

ダークマターが降り注ぐ日など予測しえるわけがなかった。





「ソォードビーム!」

カビチャの振るった剣から、半月状の光が放たれる。

その軌道にあった黒い物体は真っ二つ、そして爆発を起こす。

草原にポツンと居をかまえるラビチャの屋敷。

屋根の上には大量に黒い球体が浮かんでいた。

ダークマターが体に付けている花びら状の物体を放つ。

カビチャは剣を一振り、全て切り落とすと跳躍。

ハイジャンプ能力による恩恵だ。これで空中にいる相手にも素早く接近できる。

アッパー気味のスウィングで斬りつけ、攻撃後に硬直していた敵も撃破。

そのまま屋根に上り、上を仰いだ。

多すぎる。

複数のダークマターと戦った経験もあった。この屋敷にも味方は多くいる。

だが、やはり多い。

屋敷に住まっているカービィたち全てが戦いを得意としているわけではない。

「うわ、くんなくんなくんなー!」

カビールの声。庭の方で土煙を巻き上げながら駆け回っているピンクのタイヤ。

それを追うのは2体のダークマターだ。

戦える能力があったとして、空中に対してのアドバンテージを克服できるものは多くない。

空にも何体かのピンクの影。おそらくウィングやジェット能力の保有者だろう。

戦力差は明白。空で戦う同胞を数えるのはあまりにも簡単だ。

対するダークマターの数といったら、空を埋め尽くさんとばかり。

このまますべて降りしきったら、屋敷全体が埋もれてしまうだろう。

幸いにも、本格的に攻めてくる気配は無いようだ。屋敷に実際下りてくるのは大群の一握りだけ。

それでも、カビチャたちを困らせるには充分だ。

屋根伝いの戦闘を続行。高台はささやかだが助けになる。

同じく屋根の上にラビチャ。俊敏に屋根の上を走り回る。

ターゲットとなったと感じた方向に腕を振る。早すぎて見えない。

次の瞬間にはダークマターに突き刺さるクナイ。

攻撃は最大の防御。攻撃させなければ防御の必要性はない。

とはいえいつまでも先制がとれるわけではない。

ダークマターたちの動きが変る。すぐさま花びらのような体の部位を放つ、はずだった。

「ちっ!」

舌打ちしながら屋根から退避。頭上を黒い光線が掠めた。

勢いがついていたが地面に軽く着地、直ぐ傍にカビチャが飛び降りたのも見た。

頭上、雨雲のように大量に押し寄せる黒い粒。

それらすべてがダークマターなのか、さきほどよりも増えている。

「ラビチャ!大丈夫!?」

「ああ!だが、多すぎる!」

騒音に負けじと大声、それでも周りの戦闘音に比べたら。

ダークマターの一塊が近づいてくる。狙いを定めて一斉に。

それだけならまだしも、周囲からも黒い球体が浮かびながら近づいてくる。

孤軍奮闘、四面楚歌。

「…返品とかできないかな?」

「ハハ、それは無理だな」

まだ軽口ぐらいは聞けた。

「ボンヤリすんな手前ら!メガパワーショット!」

包囲網が完成しようか、という時に一番大きな集団が光の中に消えた。

「ライジング…ブレイクゥ!」

光をまといながらのアッパー。カビオの攻撃で固まっていたダークマターたちが散っていく。

さらに空中でダブルキック。蹴りから放たれたエネルギー体が避け損ねた敵を撃墜した。

「雑魚もこれだけいりゃ、楽しみがいもあるな…へへへ」

カビオらしいというか、戦力的には芳しくないにも関わらず、余裕。





それが





「カビオ!」





らしからぬ





「ん?」





事態を





「上!」





ひき起こすきっかけとなった。





「う…ぉお!?」

気づいた時にはもう遅い。

急降下してきたダークマターがカビオに激突していた。

濛々と立ち込める砂煙。狙い済ましたかのような仮借ない体当り。

声をかけながら近寄ると、ゆっくりと立ち上がる姿が目に入る。

安堵する。相当の衝撃を受けたはずだ、足元に伝わった振動で予測できた。

カビオをよろめきながらも地面から手を離し、カビチャたちの方を見たのだった。

その、一つしかない瞳で。

「…え?」

把握するまで大分時間が掛かった。

何せ、カビオの青い瞳の変わりに、ダークマターのような一つ目が覗いていたからだ。

「…おい、カビオ。大丈夫か?」

確認の言葉。それは誰に向けての言葉か。

のらりくらりと動くカビオは、無言。

その目だけは異様な光を持っている。

「…カビチャ、下がれ」

近づこうとするカビチャの肩が引っ張られ、そのままジリジリと後退する。

攻撃がこない、攻めてくるダークマターの数が減っているのだろう。

それに比べたら、

「やめろ、カビオ!」

カビオが襲ってきた方がこの上なく都合が悪い。

さすがカビオというか、ダークマターを1ダースにした方がまだ楽だ。

拳が空を斬り、蹴りが空気を振るわせる。

手を出すわけにもいかず、カビチャは防戦一方。

「目を覚ませ!カビオ!」

ラビチャが割って入りカビオと取っ組む。力はやはり勝てず、押さえ込まれそうになってしまう。

押さえ込まれた。

だが、そこは長年の功。

後ろに倒れこむようにしたラビチャはカビオの手を引いて一緒に倒れこむようにする。

その時、被さる体をちょっと足に乗せて上へと押しあげて。

巴投げ。

カビオの体が宙に舞う。地面に激突、する前に体勢を捻って持ち直す。

カビチャたちは逃げ続けた。

戦えない。

戦うわけにはいけない。

元から相当の実力を持つカビオ。

時折喧嘩を吹っかけることがあるため危ないことこの上ない。

理性を失っているのかその拳はさらに容赦なく、狂気。

そして、この屋敷の住民の主戦力たちが抜け落ちたことによって状況はさらに悪化。

「ええい、また降ってきた!」

駆けながらラビチャは声を荒げる。

砂時計を返したかのように降り注ぐ黒い点。

残り猶予は幾ばくか、戦況は好ましくないことこの上ない。

あまり望まぬことだが、屋敷の中に身を隠しながらのゲリラ戦でやっとの抵抗をしている。

家主としては、これ以上家が壊されるのはいかんともしがたい。

空から陸へと目を移す。

飛び掛るカビオ。

すぐさまダブルキック、迎撃する機を逃したラビチャたちは散る。

地面を抉る爆発。低い跳躍から狙いを定めたのは、カビチャ。

鋭いフットワーク、息も尽かさない拳の弾幕。

斬りかかれば話も変るが、攻め入るカビオに防戦一方。

無抵抗といってもいい。

遮ろうにもこう接近していられるとクナイが投げ込めないラビチャ。

カビールは条件づけられた恐怖のため近寄れない。

「やめて、カビ…!」

剣を盾のようにして防いでいたカビチャ。必死に呼びかけるも届かない。

痛いほどの衝撃、拳が痛むことを躊躇しないカビオ。

手が痺れる。

苦痛に顔が歪む。

その一瞬すら、

「カビチャーァ!」

頬の下に何か動いた。

そう思ったときには遅かった。

宙を舞うピンクの体。

ドシャ、っと音を立てながら地面に激突する。

そのまま動かない。

「…え?」

悲鳴に絶叫、怒声に叱咤。

屋敷から瓦が落ちて砕け、柱がところどころで軋みだしている。





何も聞こえない。





「か、「カビチャーーーー!」」

止めとばかりに歩み寄ろうとするカビオとの間に割ってはいるピンクのタイヤ。

ぶつかる寸前で土煙をあげながらドリフト、砂と石ころが雨あられの如くその一つ目に降り注ぐ。

倒れたカビチャの元で回転を止めるホイール、カビールは体を揺り動かした。

起きて起きてと泣き叫ぶ。それに対して無反応。

遠い出来事。

声は届かず、聞き入れられず。

カビオは目を拭う。目が巨大化していたのが災いしたのか。

目に浮かべた涙は単純な肉体的な刺激のため。

生じる感覚というのは主観的なもの。

喜怒哀楽温冷痛快、誰かの感じたことがそっくりそのまま他者が感じることことはない。

カビオが泣いている。悲しくて泣いている、心を痛めて泣いている。

そう、思いたい。

「ラビチャ?」

カビオの前に立ちはだったのはラビチャ。

背を向けてその顔は見えない。睨まれているカビオは足を止めたまま。

「…カビール」

「ハイ…!?」

「カビチャを頼むぞ!」

両手にクナイを構えて土を蹴る。

ラビチャらしからぬ、矢の如き体当り。カビオと揉みあいながらカビールたちから離れていく。

依然、カビチャの目は伏したまま。殴られた時か、地面に落ちた時に意識が飛んだのだろう。

カビールは口をパクパクさせながら遠ざかっていく死闘を見ていた。

いや、たまたまカビールの見ている先で戦いが繰り広げられているだけだ。

ガタガタと体が震えだす。

先ほどの光景が忘れられない。

カビチャを頼む、そう言ったラビチャの顔。

嫌な話だが、カビオには何度も何度も痛い目を見せられている。

そのためその姿を、その気配を感じただけで恐怖で顔が引きつってしまう。

寒気すら覚えるというのに…。





そんなもの、さっきのラビチャに比べたら…。










座禅を組み、雑念と邪念を払う。

今まで向かい合うことを避けてきた。それが祟ったのだろう。





こうして、心の内が静まらない。





クナイ如きではカビオは怯まない。繰り出された拳を掴もうとしても手が早すぎる。

努めて気持ちを乱さないようにしてきた。

屋敷のことや身辺のこと頭を悩ませ、揺れることも幾度となくある。

それは非常に穏やかで、安楽椅子のように静かで。

今は違う。

吹き荒れる嵐、荒れ狂う大海、猛り狂う砂塵。

意識しても止められない。

止める気などさらさらない。





宙を舞うカビチャ。





ぐったりと倒れたカビチャ。





「ぐふっ!」

腹部に突き刺さるような拳。カビオの一撃が重い。

歯を食いしばるとその拳を取って、背負い、乱暴に投げる。

型を気にしている暇は無い。

叩きつけられるようにカビオの体が撥ねる。

束の間、素早く起き上がり埃を拳で拭うと再び戦闘形態。

味噌汁の砂でも噛んだような気分だった。タフすぎる。

できれば戦いたくなかった。

何度も喧嘩を売られたものの拒み続けた。

わかっていた、カビオの方が強い。

それだけではない。

カビチャが嫌な顔をする。

組み手をするだけでもどこか乗り気になれない。

もしかすると、ひょっとして、多分。

それが一番の理由だったのだろう。

戦わなかったのはカビチャのため、ならば。

「くぉの…カビオォ!」

戦うのもカビチャのため。

意気込んだのはいいものの、徐々に追いつめられていくのはラビチャの方だ。

次第に追い込まれて屋敷の隅っこ、塀際まで詰め寄られる。

拳が唸り、足が切り裂く。

眼前で空気が震える、背中にヒヤリとした壁の感覚。

塗りなおしてさほど時間のたっていない塀。

直すのは惜しい。

このまま拳で攻めてきて欲しいところ、壁にぶつかれば痛めるどころの話ではない。

右フック、左ジャブ、ジャブ…。

大きく左足で踏み込み、左腕を引く。

右回し蹴り。

その一撃を確認せずに、後ろに跳ぶ。

眼前に白い壁、塀を蹴飛ばす。

カビオの頭上、足を繰り出しニンジャキック。

交差した両腕に防がれる。

土をこする音、踏ん張ったまま体が引き下がっていく。

だというのに、この奇襲すら失敗。

再び地面に、そしてカビオの攻撃。

これは無理だ。体勢が整う間もない

ただの暴漢ではない。

いつも喧嘩腰で、誰かと戦いたがっていた。

相手が巨大で強大であっても決して臆さないファイター。

異種格闘というルールの無い争いの中で、幾度となく未知の攻撃を食らってきただろう。

強い、その腕力が、その恐怖の中に身を投じる心意気が。

お前が好きだ。

だが、どうしようもない





カビチャが傷つけられた時に、感じたこの、コノ、コノ―。





カビオの拳が胴に入る。

腹の内の空気が全部押し出されそうだ。

足が浮く。

いい、タイミングだ。

例え望まぬ意志であっても、望まぬ行為であっても。





―僕は自分勝手なだけだよ―





いつか話した言葉がよみがえる。





―僕はみんなと一緒にいたいだけ―





「(・・・私も君と一緒に生きたい)」





―誰にもいなくなって欲しくない―





「(・・・私も誰かがいなくなるのは嫌だ)」

だが。





私はカビチャがいなくなることは、絶対に耐えられない。

だからカビオ。

例え友だとしても、カビチャを苦しませるなら、悲しませるなら、傷つけるのなら。




誰しも抱く、心の天秤。

いくつもある中で、とんでもない不良品がある。

片方が固定されたかのように動かない。

そこに乗っているのは、信念であったり、誇りであったり、カビチャであったり…。





カビオの体を掴む。

その変わり果てた巨大な瞳を睨みつけた。





カビチャは嫌がるだろう。だけど、

「(・・・私も身勝手だからな)」





「木っ端微塵の…!」










「う…く…?」

何か大きな音。ボンヤリとしていた視界が定まってくる。

「あ、カビチャー。よかったよかったよー」

カビールの心配そうな声を聞きながら起き上がろうとするが、

「あ、あれ?」

体に力が入らない。穴だらけのバケツに水を注いだように、込めた力が抜けていく。

「大丈夫?」

「う、うん」

それでもやっとこさ立ち上がる。足元が揺れる。

空は黒く覆われたまま。意識が飛んでいたのはそれほど長くはないようだ。

「…カビオは?」

「あ、あっち…」

恐る恐る指し示したカビールの手の先を見やる。

屋敷の一角。





塀が吹き飛んでいた。





ボム能力者が気が触れさせて暴れ回ったのだろうか。

こんな惨状ラビチャは怒り出すに違いない。

「ラビチャ!」

見慣れた紫色の帽子。

爆心地から少し離れたところに、うつ伏せになった家主。

その先には、一つ目のカービィ。

爆発に巻き込まれたのだろうが、平然と歩を進めている。

剣が持ち上がらない。

まったくもって無傷というわけでもないのに、カビオの足取りはしっかりとして。

空は昼間だというのに真っ黒。

「カビール…」

赤い帽子をかぶったカービィがこちらを向く。

「なん、何デスカ?」

「…逃げて」

「な、そんなの、できるわけないじゃないデスカ!」

「聞いて、バタービルディングでも、ウィスピーの森でもどこでもいいから、応援を連れてきて…」

「カビチャ…」

カビチャの提案は尤も、に思える。

現状では打破する手段が全く無い。

全員この場から逃げ切れる保証も無い。

「嫌デス」

だからカビールの答えも尤もだ。

どこへ行くにも時間が足りない。

カービィというのは一箇所に留まる習性は余り無い生き物である。

こうして居つくことがあっても、みんなみんなが戦いに長けているわけでもない。

だから、連れてきたとしても。

「行って…」

少なくとも、カビールだけでも生き残れる。

もうカビチャには手を差し伸べる相手は遠すぎるし、手を差し伸べる力も残っていない。

「…ゴメンね」

「あ、謝んないでくださいヨ!それじゃ、もう本当に、本当に…!」

もう駄目かな。

そんな言葉が頭をよぎった。





「ソォードレイン!」





高らかに響く掛け声。

空から銀色の雨が降り注ぐ。

「な、何デスカ…って危なっ!」

ザクッ、とすぐ傍に突き刺さったのはまさしく剣。

黒い空から降り注ぐ雨は雲を散り散りにさせていく。

「無事か!?カビチャ、カビール!」

空色のマントを翻して現れたのは、つい先日の来客者。

「ユニコス、無事だったんだね…」

虚ろな表情をしていたカビチャの顔が綻ぶ。

この状況、ダークマターに蹂躙された屋敷。

今まで恍惚としていた自分に恥じる。

「後は任せてくれ」

「待って、カビオが…」

一つ目の肩当をつけたカービィ。多少姿は違えどユニコスはよく覚えていた。

颯爽と自分に殴りかかってきた相手。

「憑かれた、か…」

空から幾体かのダークマターが迫ってくる。

構わず、ユニコスは駆け出していた。

剣士を取り囲むように浮遊する黒き一つ目。

「ダンシングソォード!」

ユニコスの声とともに、周囲の空気が震えだす。

虚空から現れた無数の剣。

踊るように回転しながら次々に黒い体を切り裂いていく。

空を舞いながら、いくつもの剣がカビオへと降り注ぐ。

地面に突き刺さる無数の刃。包囲は次第に狭まり、カビオの動きを封じてしまう。

身じろぎする余裕も無く、唯一の退路である上も無数の刃が浮遊して待ちうけている。

ここからどうするか。

カビチャには皆目見当がつかない。

どうやったらカビオを元に戻せるか。

はてまて、もう戻らないのか…。

ユニコスが宙に手を伸ばす。何も無い空気が徐々に光を帯び始め、形となった。

剣。

無より有らわれた刃。その刀身は光を帯びるが如く、白く透き通っている。

「ユニコス…?」

呼ばれただけで飛び跳ねる。どうやらまた剣に見入っていたようだ。

仕切りなおし。手にした剣を持ってカビオに近づいていく。

「…あの、ちょっと、どうするつもりデスカ?」

剣を持って近づいていく。

「…待って」

剣を持って歩み寄っていく。

「待って」

剣を支えにしてカビチャは追いかけようとする。

でも、遠くて、届かない。

カビオが手を引く。

その僅かにできた空間に剣が突き刺さる。スマッシュパンチは撃たせない。

剣の檻。閉じ込められた一つ目の野獣。

目前で滴を振り払うかのようにユニコスは剣を振った。

刃を伝う光が濡れたように軌跡を追って行く。

「…聖をもってして、」

「待って…!」

「…悪の性を滅し、」

「止めて…!」

「…歪めた邪心を正となせ!」






「ダメェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」










あたりに突き刺さっていた剣。

剣の墓標の中、カビチャには青いマントしか見えてはいない。

だが、見えた。





ユニコスの背に、隠れていたカビオの体から、





刃が飛び出していた…。










「カビ、オ?」

カビチャに肩を貸して歩み寄るカビール。

生えるように並んでいた剣の丘はいつのまにか消え去っている。

「カビオ…?」

仰向きに横たえられたカビオ。

目を閉じたまま。

口を聞かぬまま。

「どう、して…」

揺り動かしても起きる様子は無い。

「お、ちょっと、冗談がすぎまセンカ?」

オドオドと、カビールは喉だけで笑う。

嫌なやつだとはずっと思っていた。

いつも自分をいじめて、いつも自分に襲い掛かってきて。

とても嫌なやつ。

でも、こんなことになって欲しいとは思ったことがなかった。

「カビオ、起きてよ…」

カビオは起きない。

揺すっても揺すっても、中身がないみたいに軽くて。

目を覚まさない。

眠ったように、その表情は穏やかで。

まるで、死んでしまったかのようで…。





「大丈夫、彼は生きている…」





声の主はユニコス。脱力しきったように、手をついて顔をあげる。

生きている、にわかには信じがたい。

「…あれ?」

カービィは死すとき、徐々に体が消えていき、細かな光が空に昇っていく。

なのにカビオは目を瞑ったまま。

それに、さっきカビオの体を剣で貫いたのはこの剣士。

なのに、どこにもそんな傷は無い。

「え、え、え…エー?」

カビオとユニコスの顔を交互に見るカビール。軽くパニック。

「ユニコス…」

「…すまないねカビチャ。私も慌てて説明不足だった」

カビチャは首を横に振る。そして、茜色の瞳を向けながら言った。

「…ありがとう。…本と、に、ありがとうぅ…」

空は、青く、遮るものは何も無い。





多大の損害をこうむったラビチャの屋敷。

朽ち果てたように荒れ果てた園内。

修理に何年かかるだろうか。

それは大したこと無い。

多くの住民がこの屋敷から去っていった。

この遥か、高い空の向こうへ…。
















後書き





調子が戻ってきたのか、ただダラダラ書いてしまっただけなのか。

私としては後者に一票、ダメジャン。

容量も内容も重いです。ああ、でもこういう話大好き。

どうしてカビオが助かったか、ユニコスの能力とか、それらに対してはノーコメント。

・・・正直言うと、何も考えてなかったり。






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