
| 幸せな戯言 もしも、もしもの話だ。 ヘビチャが…。 「揚げ物しか作れなかったら」 話の切り出しは誰だったのか、いまやそれはどうでもいい問題だ。 問題はこの仮定がどういったことをひき起こすのかに限る。 しかし、この仮説がある特定のものを対象としていることには説明が必要であろう。 ヘビチャの持っている能力、コック。 何かを調理する能力らしいが、詳細は不明。 その能力のおかげか、ヘビチャの料理の腕は確かだ。 唯一の問題は、その料理がすべて。 「汁物しか作れないからな…」 そう、汁物しか作れない。 先日の晩御飯は当番がヘビチャ、そしてメニューはカレーライスであった。 当番制であるラビチャの屋敷の役割分担。 屋敷にスパイスの香ばしい匂いが立ち込めていた。 さて、食事時。寸胴の鍋になみなみと湛えられたカレー。 そこまでは、よかった。 屋敷に住まう大勢のカービィたちは、ヘビチャがヘビチャである由縁を知ることとなるのだ。 皿によそわれるべきだったライス。 それまでも、多量の水分を含んでいたとは夢にも思うまい。 おかゆ。 慟哭し、断末魔の悲鳴があがったとか、あがらないとか。 ともかく屋敷衆全員で掃討にあたったのだが、これがまた曲者。 香料が食欲をそそるのだが、水分がどんどんお腹にたまっていく。 メリハリのない食感に皆、複雑な表情を浮かべていた。 「というか、何で煮物しか作れないんデスカね?」 「えー、この前作った酢豚は違うよ」 「いや、あれも立派な煮物だよ」 とろみのついたあんが具材の3倍近くもあれば立派なものだ。 「んー、でも汁物の方が一杯食べた気になるでしょ?」 「そこまで私たちの食料事情は切迫していないのだが」 「それにね、さすがに味噌汁とポタージュに玉子スープをつけるのは厳しいと思うよ」 不思議そうな顔をするヘビチャにカビチャたちはため息をついた。 誰にでも不可侵の信念があるが、特にヘビチャのものは殊更なのだろう。 「ところで、もしヘビチャが揚げ物しか作れなかったらどうなるかな?」 「…胃がもたれそうだな」 「基本的にヘビチャって量考えないからね。まあ、どうせ自分で食べちゃうケド」 カビールは、自分よりも少しだけ体格のよいヘビチャを見てから言った。 そう、もしも、もしもの話だ。 「カビオが…虫も殺せぬ優しいやつだったら」 話を切り出したのは誰であったのか、もはやそれはどうでもいいこと。 彼らは一心に頭を捻ってみたが、どうにも思い浮かばない。 カビオの普段の印象が抜けきらないのだ。 冷酷非道で残虐、というわけではない。 むしろ虫や獣のような生物がもつ攻撃的性格を剥き出しにしている姿しか思いつかない。 「って、それは絶対無理デスネ。あの暴漢に優しいなんて言葉を使う日なんて一生こないデスって」 ケタケタと笑うカビール。カビチャはその姿を青ざめた表情をして見ていた。 ラビチャにいたっては合掌をする始末。 「…カビール、後ろ」 「はい…?」 「ホウ、どの暴漢がやさしくねぇって?」 カビールの顔がひきつる。その声色には条件反射として反応してしまうのだ。 「…い、イヤだなぁ。どうってことのないの話ですよ、ウフフフ」 笑顔で答えるカビールであったが、今にも泣き出しそうである。 一方のカビオは、満面の笑顔。 それは愉快であるという感情から来ているのではなく、能面のように加工されたものが張り付いたような。 お互い同じ意味の作り笑顔。それなのに、どうしてこうも仕上がりが相反するのか。 「まあいい、実はオレ、虫も殺せない優しいココロノモチヌシでな」 抑揚の無い言葉でにじりよるカビオ、後ずさりするカビール。 ひたすら「南無阿弥陀仏」と両手をあわせるラビチャ、何度も十字を切り「アーメン」と唱えるカビチャ。 「…殺しはしないさ」 優しげに語り掛けていたトーンが急転直下に落ちた。 「い、イヤダァアアアアアアアアアアアアー」 「半殺しで済ませてやる!マテやブルァアア!」 屋敷の庭を全身全霊で駆け回る2つの姿。 これほど鬼気迫る鬼ごっこを演じられるものはそういないだろう。 「ど、どうしよう?」 「カビール、骨は拾ってやるぞー」 「えええっ!?」 もしも、そう、あくまでもしもの話だ。 「カビチャ、もし私が…」 月見の渡り廊下。静まりかえった屋敷の中で、伸ばした影が2つあった。 「カビチャ、もし私が死んだら、この屋敷のことを任せたい」 草を撫でる音。冷たく頬に触れる風。 「…嫌だ」 今度は誰も邪魔をしない。鳴いていた虫すらも黙ってしまう。 代わりに高らかな笑い声。ラビチャの代わりにカビチャが呆気にとられてしまう。 「は、はっはっは。まさか、そんな即答してくれるなんて」 落ち着いたのか、ラビチャは呆然とする友に言葉を続けた。 カビチャを良く知るものなら、こんな風にきっぱりと物を言うとは思わないだろう。 「そうだな、君にこんな広い屋敷を管理するのは面倒だろうからな。悪かった」 「そうじゃないよ」 ハッとして見たその顔は、何か怒っているようにも見えた。 「カビチャ?」 「…もしもの話でも、死んだことの話なんてしたくない」 僅かに怒気を含んでいるのか、静かな声に重いものが感じれた。 カビチャの親友であると称するラビチャ。 それが恥ずかしい。 心から打ち解けたり、気さくな冗談を言い合えるだけが友情の証ではないのだ。 ラビチャは知っていたはずだった。カビチャが死を敬遠していることを。 決して命を軽んじているわけではない。その重みを知るからこそ強く拒否するのだ。 「…僕は、嫌だよ。ラビチャがいなくなったことを考えるなんて」 カビチャは多くの者を見送ってきた。 それは名も知らぬ者であったり、よく知るものであったりした。 カビチャは強い。 それだけに、より長く生き、より多くの別れを経験してきた。 カビチャは弱い。 それだから、多くの者をその手で救えたと後悔することも多かった。 「すまない、カビチャ。くだらない話だ、忘れてくれ」 「いや、僕こそごめん。ラビチャにとってこの屋敷は大事なものだから、気になるのはしょうがないよね」 先ほどまでの硬い表情はどこへやら、柔らかな表情で困っている。 「いや、いいさ。私だってこの屋敷の全体を把握しきっているわけではないからな。他のやつらがどうとできるものではない」 「あれ、そうなの?」 「最近蔵から悲鳴や呻き声が聞こえてくるしい。先日も井戸から化け物が出てきたばかりだしな」 「…それって、呪われてない?」 「かもしれん。近々見回らなければいかんな」 「その時は僕も手伝うよ」 「ふふ、頼むよ」 歩をそろえながら、廊下を歩くカビチャとラビチャ。 同じ長さの影法師。 廊下が静かに軋む。 「カビチャ、君はやっぱり優しいな」 「…違うよ、僕は自分勝手なだけだよ。誰にも、いなくなって欲しくないだけなんだ」 その夕焼け色の瞳は暖かく、儚い。 カビチャは強く、脆い。 立派な陶器も、呆気なく砕け散る。 いつしか壊れてしまうのだろうか。 カビチャの強さというのは、そういったものであった。 ならば、支えていけばいい。 命が尽きるものと知っていても、いつまでも彼と共に歩みたいと願うラビチャ。 それは、カビチャも同じ想いだ。 己が愚かと知りながら、正さないなら尚の愚者。 欠けた部分を愛すのが、友の務めというべきなのか。 開いた傷口舐めあっても、馴れ初め去れば悲しく引きずる思い出たち。 安穏たる日々は、未来を脅かす日々となる。 それでも構いはしないだろう。 未来を蝕む毒であっても、友と居合わせればそれでいい。 不幸が口を開いていても、喜んで飲み干して見せよう。 その日々を、幸せと呼ぶ…。 後書き 自分でもよくわからんお話。 この話を作る2、3ヶ月前から「カビチャ、もし私が・・・」というフレーズが浮かんでは消えて浮かんでは消えて。 まさに悪夢。 なんとかこの台詞を込めたいだけがために生まれたような話。 だから最期の捨て台詞みたいなやつはスルーしてくださいね。 前々から「もしも〜」みたいな話はやりたかったんですよ。 だから、こういうアットホーム話ができて満足です。 ・・・どこがアットホームなんだ? ブラウザを閉じてお戻りください |