
| 大運動会 「われわれー、せんしゅいちどーは…」 石造りの巨大な塔がそびえ立つバタービルディング。 真下から見上げると雲にまでも届きそうな建築物。幾世代も昔からあり続ける建物。 そのふもとには畑が広がり、簡素な家が集落を作り農村となっている。 青々とした大地が広がる一画に、整地された裸の地面があった。 グランドに整列する数百の選手たち。 メンバーの大半を占めるカービィは、一色に染められたハチマキをまいていた。 被り物を必要とするものたちはその上に巻いているためやや奇妙な印象を受けるが。 ファイター能力を持っているわけではなく、ある団員であることを区別するためだ。 橙、赤、黄、青、白…と。 中にはワドルディやキャピィといった種族の姿も見える。 多種多様な選手たちの前で、マイクを前に声を張り上げるカービィ。 オレンジ色のハチマキを巻き、赤いマントをはためかせる、カビチャである。 天候はいたって良好、風は頬を撫でる程度。 一度切られた言葉に続き、大きく息を呑む音。 嫌でも増幅してしまうマイクの響きが、これから始まる競技の緊張を高めてくれるような。 そして、口が開く。 「しゅ、シュポーツマンしっぷにのっとって!清々どうどうと…」 たどたどしい宣誓。膨らんだ風船から気が抜けるように、空気が和らいでしまう。 「…あーあ、やっぱり」 「…カビチャって、かみやすいのかな?」 「…う〜ん、アガリ性だと思いマスケド?」 ボソボソと、赤いハチマキを巻いたカビールとヘビチャが呟いた。 年一回におこなわれる運動会。 バタービルディングを拠点とする研究委員会が主導する行事の一つである。 実際のところ、開催時期はずれることもあり、参加選手も集まり次第という現状 割とアバウトであるが、毎年の選手名簿と記録は小まめに付けられている。 単純なお祭り騒ぎでもあるが、参加動機の一つとして賞品が上げられるだろう。 優勝した組全員に、マキシムトマトを食すチャンスが与えられる。 カービィらにとって万病の薬とさえも言われるマキシムトマト。 美味であることで知られ、乱獲により野生しているものは減ってきてしまった。 そのため厳しい管理体制が敷かれ、栽培されるようになっている。 現在では安定した量を収穫できるようになるも、生命に危機に直面するような緊急時でもなければ口にすることはできなくなった。 独占だと委員会は言われそうなものだが、そこは他のカービィたちも理解を示している。 またヘビチャのように料理を作り、自分らで舌を満足できるものが増えてきたこともあげられるのだ、が。 美味であり、珍味であることに代わりはない。 今、マキシムトマトを巡って、新たな戦いが始まろうとしている…。 「まあアレだ。大人が当時高かったバナナを食べたがる気持ちと同じだ」 「いや、あのラビチャ?誰に向かって話してるの?」 「これだから若い者は…」 最初の競技は玉入れ。地面に散らばっている布製の玉を制限時間内に多く入れた組が勝利するものだ。 隣で佇んでいるラビチャを訝しげに見つめるカビチャ。 それはトレードマークである紫色の帽子の上にオレンジ色のハチマキを巻いている姿が奇妙であるせいだけではない。 …いちについて。 グランドに響き渡る合図。それに合わせて各々が両手を挙げる。 規定に従い、そのまま待つ。 空が青くて、蒼い。 たなびく雲がゆっくりと動いていく。 静かだ。すべての音が青い天幕に吸い込まれて、どこかに持っていかれたみたいに。 呼吸を整える。 一瞬が数個の差をつくり、数個の差が勝敗を分ける。 …。 「…ドン!」 掛け声か、空砲の音か。 合図の音に世界が様変わりする。 彫像のように固まっていた各々がせわしなく動き出す。 探す、屈む、拾う、投げる。 ひたすら繰り返す。たったそれだけの動作のために全身全霊をかけるのだ。 「ラビチャ!」 「ハイ!」 その中で、橙色の組だけ別の動きを見せた。 探す、屈む、拾う、そして。 他の組が頭上に備え付けられたかごの中に向かって布の玉を投げる代わりに、ラビチャに向かって投げる。 次々と足元に集まる布の玉をラビチャは放り投げていく。 手から離れる橙色の玉。それは美しい放物線を描き、かごの中に吸い込まれていく。 狂うことのない動作、繰り返される淀みない過程。 ミスがない。 ラビチャの放る玉は一つとしてかごから外れることはない。 ひとえに、ラビチャの保有する能力スロウのよるところだ。 掴み、投げ飛ばすことに優れるこの能力が玉入れという競技に存分に生かされている。 かご自体がかなり高めに設置されていることもあり、他の組の命中率は高くない。 動作は遅いものの、正確さの高いワドルディ族でさえ肩の力が足りないせいでとどかない事態に陥っている。 橙組は投げ入れる数は少ないものの、確実に上位に食い込む勢いがあった。 「よし、いける!」 「いや…アレを見ろ!」 指された方向には、緑組。 山のように積まれた布の玉を抱えるカービィの姿があった。 「体が茶色い…まさか、スープレックス!?」 「まずい、あの数を入れられたら…」 最悪のシナリオが彼らをさらに急かした。 掴み、投げる能力スープレックス。スロウとは似て非なる力。 スロウが相手を投げるだけの能力に対し、スープレックスは自重を加える場合が多い。 茶色いカービィが両手一杯に緑色の玉を抱え、飛ぶ。 約束された勝利への道、導かれるように空中で一回転する姿は鮮やか。 抱えた期待全てを乗せて、かごへと落下していった…。 一位は青組に許したものの、橙組は二位にこぎつけることができた。 他の組ではウイングやジェットといった能力者もおり、空中から狙うという作戦もとられたいた。 が、味方に撃墜されるという不幸な事態が発生。策を労して成功したのはカビチャたちだけであったようだ。 緑組はというと、備品破損による失格。 全体重を乗せた岩石落しを食らったかごは、物の見事に折れてしまっていた。 パァン! 蒼天に鳴り響く空砲。 白線に並んだ選手たちが一斉に駆け出す。 土煙を舞い上げて、目指すは一つ、ゴールテープ。 いたってスタンダートな競技、短距離走である。 「短距離って言っても、結構あるように見えるけど…」 「よし!カビチャ、次だぜ」 両腕をぐるぐる回し、入念にアップをしている青いハチマキをしたカビオ。 沸々と闘志を燃やす姿に違和感があった。 「あれ、カビオ。肩当は…?」 そう、いつもつけている肩当が無いのだ。 「ああ、あれか?脱いだ。空気抵抗を減らさねぇとな」 言い終わるとオイッチニィ、と伸脚をしだす。 平穏無事をあまり好まないカビオ。 戦いを至上の歓びと称しているが、それはこういった場でも発散されているのだろう。 一つ前の集団が全員ゴールする。 一着は赤組の選手だったようだ。 「いちにーついてー!」 白線ギリギリに脚をおいて、カビチャは構えた。 一方カビオは白線ギリギリに手をついている、クラウチングスタートっぽい構え。 「よーい!」 息を呑む。本部のあるテントから流れる陽気な音楽が消えた。 短く小さく呼吸をする。張り詰めた緊張という名の線、切れてしまえば後は。 「ドン!」 駆け抜けるだけ。 空砲と共にカビチャは飛び出す。 カビオは既に一歩先。反応が早い。 遅れて他の選手たちが飛び出るが、そんなものは目に入らない。 すでに意識はゴールの先。追いかけるように、引っ張られるように手足を動かす。 回転する手足。地面を蹴る音も、歓声も、全てが吐く息の中に消えていく。 カビオの背中が離れだす。また速くなる。 横目に影がちらつきだした。余所見というか、意外と余裕があるものだ。 そんな感想を抱きながら、半分ほど。 まだ速く、もっと速く。 手足の回転を上げる。これ以上ないくらいに速く、早く、ハヤク―――。 速くなる。速くなった。少しずつ追いついていく。緩慢に近づくゴールが迫ってくる。 そして、ゴールテープが切られた…。 カビオ一位、カビチャ二位。 その他、ルールによりホイールのような能力が使えずにビリになったカビールがいたそうな。 総合的に白組が一番点数を伸ばし、他の組は僅差をつけながらそれを追う形となる。 ちなみに緑組は最も点数が低い。最初の競技で大きく差をつけられたのが痛手だったようだ。 日も高く昇る。午前の競技も一通り終わり、お待ちかねの時間が訪れた。 ランチタイムである。 昼食は各組ごとの代表たちが作ることになっている。 「…で、ヘビチャ。それは何デスカ?」 「シチュー」 ぐつぐつ、といくつか並んだ寸胴ナベから湯気が立ち上っていた。 日は高く昇っている。炎天下、とまではいかないが、それなりの気温。 「シチューはいいデスケド、他には?」 「へ?」 時が止まった。 動くのは雲だけ、聞こえるのは煮込む音だけ。 赤組の面々の表情は凍りついたまま。 世界は微動だにしない。 この炎天下の中、鍋から瘴気のような湯気が溢れている。 赤組の面々から生気が抜ける。 それでも結局、他の組と食べ物を分け合うことが習慣となっていたため一命を取り留めることはできたようだ。 綱の両端に分かれた組が、綱を引き合いより多くを自分らの陣内に引く。 それが綱引き。 カビチャ率いる橙組は、決勝戦への切符を手に入れるため赤組と対峙していた。 「フッフッフッフ、勝負とおかずはまた別のお話デスカラね」 「カビール、キャラ変ってるって」 軽い挨拶を交わし、配置につく。 両手を挙げる。そのまま待機し、合図を待つ。 合図を待つ。 …パァン! 一斉に屈んで綱を握る。綱の荒さ、土のザリッとした感覚。 持ち上げて、引く。 掛け声が合わさる。力を合わせる。 綱が悲鳴をあげる。それでも誰も容赦はしない。 引き寄せられる。足を踏ん張ってこらえる。 なのに、いくら引こうとも一向に赤組は動かない。 「重い…ストーンか!」 赤組の最後部、なべを被った石像が綱を握っていた。 ストーン化したヘビチャ。 この競技では能力を使うことは禁止されていない。 試合は拮抗していた。能力によって赤組は確かにアドバンテージがある。 それに対し、橙組は息のあった力強い引きで対抗する。 辛くも勝利を収めたのは、橙組であった。 「ふぅ、次は黄組と青組…カビオか」 「うむ、しかし、あれはな…」 綱の中心を境に対峙する二組。 異様な光景であった。 選手のほとんどが茶色のカービィなのだ。 特に黄組は帽子の上にハチマキをつけたカービィが多い。 「黄組はほとんどがストーン能力を持っているな…これはカビオたち厳しいな」 「うん、でも…」 青組のカービィたちも茶色い、が単純にハチマキをつけているだけだ。 スープレックス能力の保有者。 先頭のピンクのカービィはカビオである。 審判のカービィが銃口を空に上げた。 合図が…鳴った! 一斉に屈んで綱を掴む。 黄組のカービィたちは綱を持った途端に石化。 ストーンに変化したままでも動き出している石像が数個。 かなり能力に慣れた者がいるのだろう。熟練したものならば石へと身を転じた後でも動くことができるのだ。 黄組の有利は明らかだ。だが。 綱の中心は大きく青組の陣地に引き込まれている。 「う、うそーん」 「ど、どうゆうこと?」 「うむ、おそらくスープレックスの引きの強さを一斉に合わせたからだろうと思うが…」 ラビチャも信じられない、といった表情で勝負の行く末を見守った。 見るまでもない結果。青組の圧勝である。 意気揚々と、肩で風をきりながらカビオがカビチャたちの下へと向かってくる。 「…圧勝だったね」 「ったりめえだ。ストーンになると握りが甘くなるからな、楽勝だったぜ」 「ら、楽勝なの?」 バスケやバレーで言うなら背の高さ、相撲でいうなら体の大きさ。 常識化された強みすらも一蹴して言いのけることが出来るのはさすがというか。 「ってか、カビオの組ってあんなに能力者いたんだ…」 「ラッキーだったんジャン」 「バーロゥ。昼休みの間に一から叩き込んでやっただけだ」 「いやいやいや、それだけであんなに強くなるの?」 死中に活、ではなく悦あり、というイメージすらあるカビオ。 意外にも、後輩のカービィたちの育成には熱心である。いつか自分と戦う相手を育てているという噂もちらほらだが。 カビオに指導された青組。統制の取れた軍団のように円陣をくみ出す。 「勝てるかな…?」 「難しいな…」 不安げな表情をするカビチャに、ラビチャはかける言葉がなかった。 そして決勝戦。橙組の健闘空しく、青組の完勝。 この競技において不敗のジンクスを持っているカビオが相手だった時点で勝利の望みは薄かった。 その後も滞りなく競技が進められたような、違うような。 プログラムに組み込まれた「バーリトゥード」や「カバディ」を巡って抗議が巻き起こったり。 波乱の内に幕を降ろした運動会は、紫組が優勝を。 「チョット待ったー!」 「うあ!ビックリした…どうかした?」 「ここまで引っ張ってきて、名前すら出てこなかったチームの優勝ってどゆコトデスカー!」 「だってほらさ、最後の借り物競争で差がついたでしょ?」 「だあーー!ダイナブレイドの羽とか大王の槌とか、絶対ムリですカラ!」 「そういえばカビオ、借り物競争から姿がみえないけど…」 「えっとね、確かクリスタルとエクスカリバーを探しに行くって」 「…何、そのもの凄く誤解のうけそうな組み合わせは?」 後書き 時間軸がとても不明なお話。 定番(?)である対抗リレーはカット。もちっと研究委員会についての説明が欲しかったのですが・・・うーん、うーん。 司会、運営全部を委員会がやってるのですけど、出番ねえな(笑 委員会所属のオリカビを作れば話は早いんですけどね。 結局何が言いたいかというと、能力使って馬鹿騒ぎをして楽しんでいる。それがこの世界のカービィたちです。 ブラウザを閉じてお戻りください |