2008年4月12日

東奥日報社

代表取締役社長 塩越隆雄 様

「人体の不思議展」に関する公開質問状

 

                         「人体の不思議展」に疑問をもつ会[1]

          代表 刈田啓史郎(東北大学元教授、生理学)

 

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福島県立医科大学医学部人間科学講座    

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私どもは、「人体の不思議展」にさまざまな問題があると考え、その展示興行に反対している有志のグループで、「人体の不思議展」に疑問をもつ会と申します。                      

 貴殿が主催しておられる「人体の不思議展」は、実物の人間の死体を標本として一般公開している営利的展示です。これまでの展示会場には、模型ではなく本物の人体を樹脂加工した標本が展示されています。その中には人体をプレート状に水平にスライスしたものや、わざわざ弓を持たせてポーズをとらせているものもあります。さらには人体標本に触るコーナーまでありました。

 

現在、この展示を疑問視する機関が増え、以前に後援していた日本赤十字社、日本看護協会、日本医学会、日本医師会、日本歯科医師会が後援を取りやめました。

埼玉展開催に際しては、さいたま市教育委員会が、当初から倫理的に問題があるとの理由で後援要請を拒否しました。

 

また、ドイツ国内では「Body Worlds」と称して開催された同様の展示に対して多くの反対意見が寄せられ、2003年2月には、ミュンヘン市が展示を禁止しているそうです[2]。教育界・宗教界も反対しており、2006年11月にはブランデンブルグ州の教育大臣(ドイツは州ごとに教育大臣がいる)は、生徒が展示を見ることを禁止しました[3]。ドイツ医学界も批判の声を上げています。ドイツ解剖学会は、「Body Worlds」に対して、「展示開催者は医学の規定に違反している[4]」として抗議声明を発表しています。また、ドイツ病理学会も、この展示について声明を発表し、「解剖学的標本は尊厳を以て扱わなくてはならないし、商業的なものであってはならない[5]」と述べています。

今年2月15日付けの米国ABCニュースは、米国ニューヨークと中国の捜査当局が、「Body Worlds」の人体標本のブラックマーケットに関して調査に入ったと伝えています。

 

私どもは、現在日本全国を巡回している人体の不思議展[6]、について以下のような疑問点があると考えます。以下の疑問にお答えいただきたく、公開質問状という形をとって質問いたします。

 

1、標本の人体は、本当にインフォームド・コンセントを経た献体かどうか疑問です。仮に同意書があるとしても、果たして上記の扱いを受けることまで納得していたのか、たいへん疑わしいです。このような不審な点があるにもかかわらず、主催を決定された理由をお答え下さい。

 

2、展示されている標本は、すべて日本の国内法の適用を受けない中国人のものです。仮に日本の国民が医学教育用に献体の意思を示しても、このような標本化と展示をなされることは、日本の現行法の「死体解剖保存法」などの制約によって実質的に不可能です。標本がすべて中国人であることは、法的あいまいさにも起因していますが、日本社会にある民族差別の問題にも根ざしていると考えます。このような人権上問題のある展示開催を決定された理由をお答え下さい。

 

3,すべての人は、死後遺体となっても人間としての尊厳が守られなければなりません。遺体に対しては、最大限の丁重な扱いをするのが当然です。しかし、この展示が興味本位の見世物になっていることは、倫理的に大きな問題です。展示方法に関して貴殿は、関知し容認されたのでしょうか。

 

4,展示は、一般市民から高額の入場料を徴収しており、いわば、死体が金儲けの道具になっています。会場では、キーホルダーなどのグッズを会場で販売するなど営利目的は歴然としています。死体を商品化することを貴殿は容認しておられるのでしょうか。

 

5,主催者に名を連ねるテレビ・ラジオなどは、この展示の広告を新聞紙上や電波で流して集客につとめています。マスコミの責任は重大です。この展示のコマーシャルを行うマスメディアは、人権無視の展示に荷担しているとお考えになりませんか。

 

6、日本医師会・日本医学会・日本看護協会等は後援を取り止めました。問題の大きいこの展示に医療・保健関係の諸団体がお墨付きを与えることは、いわば自分の首を自分で絞める結果になるとの倫理的判断ゆえと推察します。一般市民の信頼を得られるのは、真の患者本意の医療であるはずです。インフォームド・コンセントが存在したどうか疑わしい標本の展示を主催することは、被験者や献体を申し出ようと思っている人の信頼を得ることには明らかにマイナスです。この展示への後援と、医療関係者としての信頼の獲得とは矛盾するとお思いになりませんか。

 

7、教育委員会が後援しているため、小中高の学校の生徒・学生には、教育的な展示と思いこまれてしまいます。しかし、実は倫理的にも学術的にも、標本とその解説は低劣と言わざるをえない内容です。むしろ、これから、人体の有機性・複雑性を学ぼうとする若い人々には有害でしかない内容のように見うけました。貴殿は、標本の内容についてどのようにお考えでしょうか。

以上7点にわたる問題点を挙げました。

貴殿は、「人体の不思議展」の主催者として説明責任があります。上記7点につきまして、明確にお答え下さり、4月22日までにご回答を下さいますよう、お願い申し上げます。

以上                        



[] http://sky.geocities.jp/jbpsg355/

[] 『ドイツ医師会雑誌』ニュースレター20031028日付。

[] 『ドイツ医師会雑誌』ニュースレター2006年11月22日付。

[] 国際解剖学会のNews Letter である『Plexus2004 12 月号に掲載。

[] 『ドイツ医師会雑誌』ニュースレター2004120日付。

[] http://www.jintai.co.jp/main.html

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