
| ――今日は新首都圏に一番近いローカル線、よねでん線を味わい尽くす!―― メールできた予定は、そんな文面だった。 ――いつもの横見さんだ。―― アニメ版鉄子の放映が終わって2年。 コミック版も終えて、平和な日々が戻ってきたと思ったら。 鉄子の同窓会というはずだったのに。 例によって朝6時集合。 ――結局いつもの鉄子の旅じゃん! 何とかならないものか。―― |
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神宿駅6時02分。 「キクチさん! 2分遅刻だぞ!」 相変わらず朝からテンション高いなあ。 「キクチさん! 鉄子の旅弁当、東日本編出来ますよ! よかったですね!」 カミムラはやってくるなりそう切り出した。 「ま、駅弁つーか、食の楽しみでここまでやったんだもんね。 でも横見さん、今回駅弁は?」 「あるといえばある、ないといえばない」 「また!? ホントは昼は駅弁ってはじめから約束だったのに!」 「そんなことより、急行が来たよ。乗らなきゃ」 やっぱりダイヤ優先か。 というわけでよねでん線の旅、スタート!! 「切符は沢禰よねでんフリーパス! 往復するだけで元が取れてしまう超お買い得切符!」 なんか、あれから2年たったけど、みんな何か成長しているんだろうか。 それにしても、あいかわらずフリー切符好きだよなあ、横見さん。 「まず北急で沢禰に出て、そこからよねでん線急行!」 相変わらず横見さんはテンションが高い。 沢禰まで北急の快速急行で行く。 「まずこの電車、よねでん線の急行!」 横見さんの様子がおかしい。 ? 「気づかないかなあ」 「なにが」 「気づかないかなあ」 「あれ、客室が半分しかない」 カミムラが気づいた。 |

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「その通り! この半室荷物車がシブイ! この時代にこの床が木でそのうえ荷物室付きの小さな釣り掛けの電車が爆走! この客室の狭さ! 今では珍しい合造車! すばらしい!」 「陶酔しているところ悪いんですけど」 私はさめていた。 「本屋さんでよねでん線特集してて、予習して来ちゃってるから、驚きがいまいちなんだよね。 この電車だって、毎回特集記事に出てるし。 だいたい、横見さんボロイの好きだってのも覚えてるし」 「ええっ、キクチさんが予習!?」 横見さんはうろたえた。 「ツッコミ期待していたのに……。 ホントに鉄子になっちゃったんだ……。 鉄子は本当に終わっちゃうんだ」 「あわわわ、キクチさん、そんなこといっちゃだめですよ!」 「だって、横見さんホームページに書いちゃってるんだもの。 今度よねでん線に取材に行くって」 「ああっ、そうか!」 横見さんバレバレ。 |

| 列車は田園地帯を走っていく。 そして、駅に止まった。 |

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女子高校生が一斉に乗ってきた。 「あ、『鉄子』の横見さんですか?!」 「ホントだ! すごーい」 黄色い歓声が上がる。 「カミムラさんとキクチさんだ!」 「写メ撮って良いですか!」 みんな狭い合造車にすし詰めのなか、応対する。 「横見さん、みなさんにサービスしましょうよ」 女子高生はみな、ノートをさしだし、横見さんと私がサインをする。 横見さんの様子がおかしい。 ――なんかついていけない。 ――黄色い歓声は期待していたけど、女子高生はなんかちがう。 なんか押し負けてる。―― なんか違う――。 「横見さん?」 ――俺、女子高生パワー苦手――。 「えええ!」 「そんなあ!」 しかし、次の駅で学生たちは一斉に降りていった。 去り際、一人の女子高生が言った。 「キクチさん、横見さんってもっと格好良いじゃないですか!」 横見さんはぱっと顔を上げた。 「そうなの! それもっと言って!」 結局復活した横見さんだったが、女子高生たちは風のようにやってきて、風のように去っていった。 |


「これで分岐駅の雀屋敷まで乗る!」 「ここからゆきでん線! よねでん線本線は特急が乗り入れられるけど、支線のゆきでん線は小型車のみ!」 |

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「まずひよどり駅! ここは鹿山神社への最寄り駅!」 「電車が可愛いですね」 「そう! インターネット会社のPR車両が動態保存されているの! これで鹿山神社まで乗る!」 「つーか、境内のどど中を走っているんですけど」 私は驚いた。 江ノ電で体験した以上の急カーブで、ゆきでん線の電車は軒先や崖っぷちをかすめながら進んでいく。 「この狭さがゆきでん線の魅力! 降りてすぐ神社! まさに駅前一等地!」 |


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降りると、お祭りだった。 にぎにぎしく御神輿が通っていく。 |

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それを見送る。 「これって……」 「そう! ちゃんとこの日を選んだの!」 ――なんだ、横見マジックじゃないのか。―― 「横見さん、お祈りはなにを?」 カミムラが聞く。 「ローカル線がこれ以上廃線にならず、駅巡りが今後も出来ますように、って」 ――そうだよね、横見さん、もう40代も後半だものね。―― |

| そしてお昼。 |

| 「小倉嵐山駅! コレがシブイ! 木造の旧国鉄の駅を思わせる作り!」 「はいはい」 「ここらへんには駅弁ないんだ」 はじめは必ず駅弁と言っていたのに、だんだん食がいい加減になる鉄子旅。 「でも大丈夫! 駅弁はないけど、駅から近く、漁協隣の釣り船『武蔵丸』のかもめ食堂を予約してある!」 |


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――えっ! 用意が良い! 横見さんってこんなにいい人だったっけ?―― 「旅の案内人だから!」 横見さんが吠える。 「成長したから!」「コーディネーターだから!」 「横見さん! 興奮しすぎ!」 みんながびっくりする。 「そんな飛ばしちゃダメでしょ」 食堂のオバサンがとどめたのだった。 「え、顔なじみ?」 「ええ。横見さんにはツアー組んでもらったりしているんですよ」 「でも僕の分は割り引いてくれないんだ」 「アタリマエでしょ」 オバサンはたしなめた。 生シラス丼は本当に美味しい。 食堂のオバサンも気がいい人たち。 「でも、これじゃ物足りない」 突然横見さんが口にした。 ――ええっ! だってここまでさんざん乗ったのに。―― 「よし、歩こう」 もう歩くことに抵抗がないというか、覚悟がすんでいる自分がイヤ。 |



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「小倉嵐山駅を降り、併用軌道を渡って」 「通りを通ると」 |

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「そこは小倉志井駅だった!」 ――あれ? もう終わり?―― ――鉄子だと何時間も歩いてたから、コレじゃ物足りないな。―― ――って、物足りないって、絶対おかしいって!―― すこしずつ暗くなっていく町並み。 灯りがぽつり、ぽつりと付いていく。 「やはりよねでん線は夜がイイ!」 きた。 これでこそ横見さんだ。 「なに言っちゃってるの! 私今日中に帰らないと仕事飛んじゃうってば!」 「大丈夫! 最終の乗り入れ特急の指定席切符用意してあるから。 キクチさんのために!」 |

| 「はいはいわかりました」 |

| 解散して夜の小倉嵐山駅で乗り継ぎ列車をまつ。 荷物の準備をしている駅員さんの向こうの灯台に、灯りが入ってる。 ――なんか、ムーディー。 これを見せたかったんだろうな――。 ――横見さん、案外考えてるな。 やっぱり鉄ヲタブランド化計画はすこしずつ成功しているのかな――。 |

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――思えば、横見さん、少しファッション気にするようになったし。 ジャケットにおばちゃんパーマだったのが、今日はちゃんと髪セットしてたし――。 「この電車、<あらしやま>6号です。ご乗車になってお待ちください。 当列車全席指定です。指定席券をお持ちでない方はご乗車になれませんのでご注意ください。 なお、次の雀屋敷をすぎますと、沢禰から北急線に入ります。 発車まで少々お待ちください」 ――へー、これがVSEの前展望か。 撮ってくれた切符は展望席じゃないけど、前がよく見える。 「カミムラさん、こういうのすきですよね」 「ええ。これはみんな好きだと思いますよ」 「内装もオシャレだし、なんか、いつもの鉄子のぼろい列車とは同じ列車と思えない」 「そうですね」 そろそろ発車だ――。 そのとき、早足で展望席へ向けて通路を歩いていく黒い影。 ――え、横見さん? そのつれている女性は?―― 「麻綾ちゃん! VSEの前展望だよ、これが! 3ヶ月前に予約したんだ! まさにプラチナチケット!」 ――麻綾ちゃん!?―― |
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「ってのが、 全部Nゲージだったわけですよね」 「あれだけ実際に乗れないからって模型趣味ないと言っていたのに」 「麻綾ちゃんと一緒に見られるからって、帆浦さんがNゲージジオラマを展示する間に、どんどん妄想があふれ出しちゃって」 |

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「特に、一緒に見ている麻綾ちゃんに『レースクイーンでレールクイーン、レースクイーンでレールクイーン!』って何度も」 「ああ、その言葉が耳にこびりついて離れない」 「ホント大変でした」 「さすが横見さんだね」 編集長は笑った。 「帆浦さんも変わった人でした。横見さんのために麻綾ちゃんのコスチュームショーしたり」 「ほんと、あの人も結構ワルイ人だった。 ああいう人って、どうしてああなんでしょうね」 「災難だったね」 「ええ」 「でも、まだ続くかもよ」 編集長の言葉に、キクチは震え上がった。 書き下ろし地獄はまだ続くのか? そしてまだまだ続くか? 鉄子ブーム。 |
<了>
2008/1/1
鉄子シリーズのさらなる展開を祈念して。
http://ameblo.jp/yonebor/