第三話 媚薬




    「うぉ?」

    彩香に鞭をくれようと大きく腕を振り上げた途端、榛名が短く叫んで崩折れた。

    「……?」

    身体全体で大きく呼吸をし、半ば意識が遠退いていた彩香がその異変に気が付き、気怠そうに頭を擡げた。虚ろな視線が彷徨う。

    「相変わらず酷いなあ、明兄(あきにい)さんは」

    倒れた榛名の後ろには、先程車で迎えに来た男二人が仁王立ちになっていた。

    「あーあ、こんなに怪我させちゃって……可哀想に」

    ロン毛の史也(ふみや)が腕組みをし、肩を揺すって笑いながら彩香に味方する。

    大きく肌蹴られた彩香の白い胸元には、服の上から付けられた鞭の細い痕が幾つも重ねられ、剥がれ落ちた蝋の痕が痛々しく熱を帯びて赤くなっていた。

    「商品なんだぜ? このままだとどうよ?」

    くっくと含み笑いをしながら、金髪男の翔がクリスタル製の灰皿を足元にゴトリと落とし、右手を振った。

    「結構、石頭なんだ」

    翔の口元から白い歯が毀れる。

    「お、お前等……」
    榛名は後頭部を抱えて蹲った。

    「上の階にまで聞えてくんだよ。アンタの鞭の音が」

    鬱陶しそうに吐き棄てる。

    先程まで「明兄さん」と呼んでいた彼等の視線が急に冷たくなり、蹲った男を蔑む様に見下ろした。

    「この前それで商品駄目にしちゃって怒られたの、もう忘れちゃった? とばっちりは御免だよ?」

    「よ、よくもワシを……」

    榛名は口をパクパクさせながら白目を剥いて気を失う。

    「まあ、俺達に任せておきなって」

    言うが早いが翔が彩香の背後から抱き付いた。

    「ひゃあっ?」

    驚いて彩香は身を硬くした。

    どうやら彼等は彩香を救いに来たのでは無さそうだ。

    「うふん、ねぇ? こうされた方が良いでしょ?」

    翔の手は彩香の脇からラインの感触を愉しむ様に這い、胸の谷間を擦り抜けた。

    「あ……」

    彩香はその腕から逃れようと身体をくねらせるが、却って翔達には逆効果だった。

    榛名に引き裂かれた胸元から上は、仄かに上気して火照った素肌だ。桜色をした彩香の胸の間を、まるで蛇が獲物を狙って這っている様な動きにも見えるその手は、首から顎へと撫で上げ、無意識にその手を拒む彩香の顎を仰け反らせた。

    「……う? むぐ……」

    そのまま翔の左手が彩香の口を塞いだ。I型鋼越しに彼女の耳元でそっと囁く。

    「俺ね、喚かれるの、うぜーから嫌なんだ」

    そう言って彩香の右耳に息をそっと吹き掛け、耳朶の上部を軽く甘噛みした。

    翔の腕の中で、彩香が鋭く反応する。

    空いた右手で彩香のウエストからシャツの裾を肌蹴させ、彼女の滑らかな素肌の感触を愉しみ始めた。

    史也も彩香の前に廻ってストッキング越しに彼女の細い脚を撫で回していた。翔と同じ様に強弱をつけて彩香の肌に指先を滑らせながら弄び、舌を這わせる。

    二人共、彩香の敏感な処は態と外していたが、ソフトタッチだけで既に彩香は身体の芯が疼き、熱いモノを感じていた。

    史也がじれったく彩香のタイトスカートを身体のラインに這わせる様にして捲し上げた。

    上のランジェリーと同じく、淡いベージュのお揃いが現れる。その浅いハイレグラインからすぐ傍の右の内腿に、黒子があった。

    「うわ、お姉さん、えっちな黒子だなぁ」

    史也は嬉しそうに言うと、黒子のある内腿に熱い吐息を吹き掛ける。

    「ふぅン……」

    とろんとした瞳で彩香の顎が再び仰け反り、塞がれた口から切ない吐息が毀れた。

    バケツの水で濡れて乱された衣服が、見えそうで見えない彩香の素肌に纏い付き、彼女の姿を一層卑猥なものにする。

    堪らなくなって彩香が両脚を閉じて縮めた。

    「閉じちゃ駄目だよ」

    史也が彩香の両膝を割り、身体を捩じ込んで来た。指先が内腿をなぞり、スキャンティの上から彩香の秘所をそっと撫でる。

    彩香の身体がびくりと反応した。

    「うン! うう〜っ!」

    翔に口を塞がれていながらも、彩香は縋り付く様な潤んだ瞳で、懸命に首を横に振って史也に止めて欲しいと懇願する。

    しかし、建て前とは反対に彩香自信、既に身体の中心から何かが溢れ出している。

    「駄目だよ。まだまだこれからなのに」

    史也が意地悪そうに彩香の下半身から彼女の表情を見上げてくくくと笑った。

    「じっくりとイカせてあげるからさ。ねっ?


    彩香の口を塞いでいた翔の手が離れた。両手で彩香の大きめのバストを下から持ち上げる。深い谷間がランジェリーの形状を無視して寄せ上げられた。

    彩香の胸の蕾は既に敏感になっている。

    背中を這わせた片手で、あっという間にランジェリーのホックが外され、豊かな白い胸がシャツの下で弾けて揺れる。

    「はぁんっ……」

    翔が彩香の眼鏡を外して背後から彼女の甘やかな唇を乱暴に奪った。貪る様に含んだが、彩香は歯を喰いしばってガードしている。

    翔はニヤリと笑うと、猫の爪とぎを思わせる様に、彩香の胸を服の上から軽く掻き毟った。

    ランダムに刺激を受け、彩香の豊かなバストが揺れる。

    悲鳴を上げて彩香の身体が大きく仰け反った。


    敏感に反応して艶めかしく喘ぐ彩香の渇いた唇が、微かに動いた。

    「……お……水を……」

    「水? ああ、それなら……」

    翔は部屋の隅に置かれた小型のサーバーからミネラルウォーターを取り出し、封を切った。

    「翔、俺も」

    史也が気怠そうに腕を伸ばす。

    喉を鳴らしてがぶ飲みする二人を虚ろな視線で彩香が見詰めていた。

    「お姉さんも要る?」

    彩香の視線に気付いた史也が、首を傾げてミネラルウォーターを軽く持ち上げた。

    彩香は素直に頷く。

    ごくりと喉が鳴った。

    「じゃあ、次はこれね?」

    彩香を吊り下げていたI型鋼が緩められ、自然と彩香は鋼材の重みでお辞儀をする格好になった。

    彼女の目の前で史也の膨張した男がそそり立っている。

    「コレが欲しいんでしょ?」

    史也は右手に持ったミネラルウォーターのペットボトルを軽く振って、意地悪そうに笑った。

    背後で翔が彩香の腰を掴んだ。


    全身を激しく痙攣させて彩香が何度目かの絶頂に昇り詰めた。

    力無く縛られているI型鋼の鎖に身体を預けるが、彩香の両肩は鎖で擦れて真っ赤な痕が出来ている。

    汗に塗れて吊り下げられた彩香の肢体からは、内腿を伝って二人の体液が爪先にまで流れ、床に水溜りを作っていた。

    彩香が反応を示さなくなっても二人は猶も彼女に挑んでいる


    「う……も、限界……」

    彩香の両膝を抱えて、腰を激しく打ち付けていた翔の下腹部の内圧が高まった。

    「あっ、イク……」

    ほぼ同時に彼女の後ろを貫いていた史也も一気に昇り詰め、お互いが彩香の身体を挟んで凭れ掛かる。

    翔と史也は十分目的を果して、これで終わったと満足……していた――

    「……えっ?」

    二人の身体がびくりと反応した。


    自分達の身体がおかしい……?

    「くすっ……」

    それまで何度も昇り詰め、失神していた筈の彩香の口元から笑みが毀れた。

    「おっ、お姉さ……?」

    驚愕した二人の瞳に、憂いを帯びた表情の彩香がそっと眼を見開く。

    「ああッ?」

    彩香の身体に圧力が掛かった。離れようとしていた彼等の分身が締め付けられ、再び彩香の深淵へと引き摺り込まれる。

    気付いた時には既に手遅れだった。

    目的を果し終えた筈の彼等の分身は、彼等の意思とは反対に、治まる処かますます感度を高めていきり立ち、まるで媚薬を盛られた様に彩香の身体を貪欲に貪り続ける――

    「はあ……はあ……な、何?」

    翔と史也も激しく呼吸を乱し、涎を垂らしながら全身に酸素を送る様に喘ぐ。

    体力は既に限界点を突破していた。

    皮膚は汗を掻かなくなり、心拍数と体温が一気に上昇する。

    「どうして……?」

    強烈な眩暈が二人を襲い、視線が宙を彷徨った。



    ―「はっ、あっ……ぁああ……」

    乱れた呼吸と艶めかしい吐息、そして肉体を打付け合う淫靡な音――

    彩香の服に付けていた小型マイクから音を拾い出し、イヤフォンでずっと状況を聴いていた男の口元が緩んだ。

    「流石はアヤ」

    (やっと本気の戦闘モードかよ……心配掛けさせやがって……)

    男は路肩に止めた車に凭れ掛かり、彩香が攫われたビルを見上げて呟いた。



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