第3話 撮影
男は常盤(ときわ)克己(かつみ)と名乗った。
半年前に、彩香と修司が絡んだ事件――人身売買組織の幹部であった榛名明彦の部下で、克己は特に中野翔を慕っていたらしい。
彩香が榛名の車に追突した時に呼ばれて来た三人の内の一人で、ワンボックスの運転手だった男だ。
後部席で史也と翔に構われていた彩香が、克己の事を覚えていないのは無理も無い。
修司達公安は、唯一の目撃者であったこの克己を捕り逃がしていたのだ。
道理で手の内がバレバレだった筈である。
自分から彩香に直接触れようとしなかったのも、そう言う事情であれば頷ける。
「撮り終えたら、コピーを公安に送って遣るよ。さぞ見ものだろうな?」
克己は勝ち誇ったようにせせら笑った。
「ナニ独りではしゃいで興奮してる?」
修司は醒めた一瞥を克己にくれると、するりと背広を脱ぎ、ネクタイを解きながら仏頂面で吐き棄てた。
浮かない表情とは逆に、シャツを脱いでさっさと自分の仕度をする。
「……何?」
思っても見なかった修司の反応に、意表を衝かれた克己はポカンと口を開けた。
「海外に流出・流入している成人向け関連の取り締まりも手懸けて、コッチは見飽きているんだ。そんなコトで一々騒いで居られるかってーの。ガキ!」
完全にハッタリではあるが、実際に取り締まる部署は存在している。因みに修司は、残念ながらそれ関連の業務では無い。
しかし、克己にとっては知り得ない実情だ。素直に修司の言葉を鵜呑みにして鼻白む。
修司はトランクス一枚になった。
「やん、修司、靴下は脱いで」
彩香の指摘で、慌てて黒いビジネスソックスを脱ぎ棄てた。
鍛え上げられた、無駄の無い引き締まった細身の身体だが、肉体美の克己は修司の身体を見て貧相だと馬鹿にして笑った。
「お前とは鍛え方が違うんだよ!」
今度は修司がせせら笑う番だった。克己の筋肉美が実戦に向いているか如何かぐらい、見れば解かる。
完全に観賞用だ。
克己の野次には一向に臆する事無く、意外(?)と修司はその気らしい。
彩香が誘(いざな)うかも知れない死への恐怖よりも、目の前にある肉欲の煩悩(=彩香)に完全に負けてしまったのだろうか……?
ヤル気満々で居る修司を見た克己は、怯んで所在無く視線を奔らせた。
失神して倒れている悠里が視界に飛び込む。
「……畜生! こうなったら……オイ! その女も起こして嗾(けしか)けろ!」
縛られていた縄が解かれ、先乱暴されて紅くなった悠里の頬が軽く叩かれる。
「オイ!」
「うぅうん……?」
色っぽい声を上げて、ぼんやりと悠里が眼を覚ました。
「片山クン! しっかりしろ! 大丈夫か?」
修司は悠里を気遣い声を掛ける。
「んあ? ……せぇえ〜んぱぁあ〜い? どぅしたんですかぁ〜? ……うふふっ」
赤らんだ頬を緩めて、何故だか悠里はご機嫌だ。
「……はあ?」
修司が軽く首を傾げた。
悠里が酔っ払っている様に見える。
引き裂かれた衣類を身体に纏わせている淫靡な姿が、今の彼女の精神状態と全く合致していない。
悠里が壊れてしまったのかと思ったのだが、実際に壊れてしまった女達を見て来た修司の眼には、そうは映らなかった。
「あふぅんっ……」
悠里が修司に流し目をして媚た。
「はうっ?」
ぎょっとして息を呑んだ。
トロンとなった悠里の色っぽい視線に、修司は一瞬、彩香の雰囲気を重ね合わせてドン退きする。
「へへへ……さっきは良かったぜ?」
修司の変化に気付かない克己達は、悠里を見て下衆な笑みを浮べた。察する所、三人とも悠里を戴いて満足した様子が窺える。
悠里は相変わらず酔っ払った様子で、時折「くすす」と陽気に笑っている。
修司の脳裏に、何種類かの覚醒剤の名前とサンプルが浮かんだ。悠里の状態を見れば、使用した可能性は高い。
「さては彼女に薬を飲ませたな?」
修司が克己を睨んだ。
「薬? ……嫌?」
克己は全く知らないと首を振った。そして、笑って肩を揺すっている悠里を見て舌打ちする。
「え……?」
克己達の表情から、どうやら薬でこうなったワケでは無さそうだ。
「何だ、もう壊しちまったのか? 遣えねーな」
克己は、悠里が本当に壊れてしまったのだと勘違いした様子だ。
どうやら調子に乗り過ぎた様だ……
修司は内心焦った。
何処の世界に自分の情事を撮られ、同僚にばら撒かれて平然と出来る者が居るだろうか?
しかも、相手はあの『彩香』である。調子に乗って下手に触れれば文字通り殺される。
それは彩香との契約を何度か破った修司の迂闊な行動で、半殺し体験を実証済みだ。
早く克己達をソノ気にさせて、自分と交代しなければならない。
困難な問題を課されて、修司は気が重くなり、途方に暮れて宙を仰いだ。
「アヤ姉、ごめんな?」
「遅ぃい」
ずっとお預けを喰らっていた彩香は、艶やかな唇をツンと尖らせて、不機嫌そうにソッポを向いた。
子供っぽい仕草に半ば呆れながら、修司は背後から彩香に抱き付き、そのまま彩香を膝の上に乗せてベッドの端に腰を降ろす。
彩香の首輪からベッドに繋がっている鎖がジャラジャラと音を立てた。耳障りな音に興醒めする上、首輪のお陰で折角の美味しそうな彩香の白い首筋が台無しだ。
「コレ、邪魔」
修司はそう言って彩香の首輪をさっさと外した。
手錠も外せと克己に訴えたが、立場を弁(わきま)えろと銃で威されて諦める。
彩香の左手を取ると、修司は自分の指と彩香の指を深く絡ませ、丁寧に唇を這わせて舐め上げた。
指輪をしている左の薬指を穢す様に執拗に舌を這わせて弄る。男避けの筈である指輪が、却ってそそられた。
彩香が修司の意図を察して、感じながらも軽く睨む。
視線が合い、修司の眼が意地悪そうに軽く笑った。
右手で彩香の後れ毛を撫でて掻き上げ、きめ細かな白い項に唇を這わせる。
彩香の性感帯は熟知している心算だ。
仄かな彩香の体温と甘い体臭が修司を誘った。
彩香が遣っているいつもの甘美なムスクの香りとは別の、清楚で甘い花の匂いが漂っている。
「……うン」
彩香が軽く反応した。
眼を閉じて視覚を遮断し、肌を撫でる修司の熱い掌の感覚に意識を集中させている。
修司は空いた左手でスーツのボタンを焦らしながら外し、その下の薄手のブラウスも同様に外して行く。
ストラップレス(肩紐無し)のランジェリーを外そうとするが、キャミソールが彼女の素肌に触れる修司の手を軽く拒否して邪魔をした。
彩香が項で感じている間に、修司は片手で彩香のスカートとストッキングを取り掃い、膝を割って跨(また)がせる。
ブラウスの裾から、淡い水色のスキャンティが透けて見えた。
スーツの上着も取り掃いたいが、彩香が手錠をしているので、これ以上は脱がせられない。
大きく肌蹴た胸元へ上着の裾から両手を潜らせ、修司の片手で有り余る程の豊かな胸を鷲掴みにして揉みしだく。
「ああん、あん……」
彩香の身体が膝の上で大きく揺れ、敏感な部分が反応した。
顎を上げて喘ぐ甘い吐息が、修司の頬に掛かる。
=「修司……」
彩香がウインクして囁いた。
軽く顎を突き出して、キスの催促をしている。
「?」
「うふん」
彩香が修司の腕の中で媚びると、くるりと身体の向きを変えた。
そして、柔らかくて弾力のある彩香の唇が修司の唇を奪う。
彩香の敏感な舌先が修司の中を弄った。
修司も彩香に応えて遣る――
「うむっ?」
彩香から口移しに何かの薬が押し込められた。
傍目からは濃厚なディープキスにしか見えない。
離した彩香の唇から、唾液が糸を曳いて修司と繋がっていた。修司はそれを啜るようにして、再び彩香の唇を貪った。
=「アヤ姉、コレなに?」
=「しッ! 早く呑んで続けて」
そう言ってしな垂れ掛かると、修司の右耳を甘噛みした。
「……?」
(こういう場合、続けるのか?)
キスの余韻がまだ抜け切れていないのか、彩香の切ない吐息が首筋に熱く掛かった。
納得出来ずに、疑問を抱きつつ、修司の理性は除々に消し飛んで行く――
彩香を向かい合うように立たせて、一気に水色のスキャンティを剥ぎ取った。
「あんっ……」
頬を上気させ、彼女は軽く顔を背けて恥らった。
そして、自分は浅く座った状態で彩香の上半身を抱き締めると、彼女の踝(くるぶし)の内側を自分の足で固定し、膝を伸ばした状態で左右に大きくゆっくりと拡げさせる。
ブラウスがすっぽりと彩香の腰部を覆い隠していて後姿からは確認出来ないが、恐らく曝け出された秘裂が拡げられている筈だ。
仕事柄、護身術等で柔軟性を高めて鍛えている修司は、普通の男よりも身体が柔らかい。逆に、彩香は運動音痴で身体が硬く、勿論開脚等は大の苦手である。
「あっ、厭ぁ! ……止めてぇ……」
彩香は柳眉を寄せ、顔を顰めて艶かしく首を振る。
腰に廻っていた修司の右手が、彩香の限界に引っ張られている内腿を後方からゆっくりと上下に往復して撫で擦り、更に柔らかな奥へと進んで行った。
掌全面で彩香の秘裂を覆い、焦らせる様に優しく揉んでやる。
彩香のふっくらとした容の良い唇が解けて、切ない声が漏れる。
時折、親指で『うてな』を剥いた花芯を突くと、彩香は敏感に反応した。
筋肉の緊張が程よく解れた処を見計らい、たっぷりと潤った秘裂に指先を潜り込ませて掻き回す。
恥毛の奥のぬめった熱い襞が、修司を迎え入れて絡み付き、締め付ける。
修司は奥へとゆっくり、しかし力強く何度も指を突き上げた。
瞬く間に彩香自身の許容量を越えた愛液が、修司の指から手首を伝ってトロトロと滴り落ちる。
「はぁあ……うっ! ……あぐ! ……やっ! ……厭あぁあん……」
淫靡な粘液の音が、ブラウスで隠れた秘裂から漏れ聞えて来る。
彩香は細い柳眉を寄せて全身で修司の指を感じながら、甘く淫らに反応した。
身体が弓形に撓(しな)り、白い内腿がびくびくと痙攣を繰り返す。
左肩を竦めて引いていた顎が仰け反った。
彩香の喉元に大きく口を開けて振るい付き、甘噛みして舌を這わせると、貫ける様に白い全身の滑らかな肌が上気して桃色に染まり、呼吸が大きく乱れ始める。
上着の開いた胸元の隙間から、キャミソール越しに豊かな胸が隆起し、ピンク色の蕾が呼吸する度にシャツから見え隠れしていた。
修司のペッティングに早くもトランス状態になって悶える表情が堪らない。
見詰めていた克己達の前が起きて来る――
撮影のカメラが開脚した彩香の下に潜り込もうとした途端、悠里が体当たりをかまして来た。
「厭あぁん、もっと悠里もぉお」
「うわ?」
カメラを構えていた男が、甘えた猫なで声の彼女にいきなり押し倒され襲われた。
彩香達が来る前に、悠里は既に自分達がご馳走に預かって失神させ、壊してしまった筈だと思っていたのに復活している。
カメラマンの男が慌てた。
もう一人が悠里を引き離そうと後から押さえ付けて来たが、悠里は素早くその手を掻い潜り、逆に二の腕で男の首を捕らえた。
悠里の細い片腕一本で呆気なく投げ飛ばされる。
新卒とは言え、流石に修司達の居る部署に配属されて来た婦人警官だ。
圧倒的に男の方が体重でも力でも悠里より勝ってはいたが、肝心なのは投げ飛ばすタイミングである。それさえ合っていれば力など殆ど不要だ。
「うン、順番よう……焦らないで待っててネ」
あどけない笑顔で小首を傾げ、軽く肩を竦めて悠里は媚びた。酔っている様な症状は未だに変わらない。
彩香にも負けないくらいの白い大きな胸がクスンと揺れ、湿った緩やかに流れる亜麻色の髪が背中の汗で更に濡れて貼り付いた。
「この……小悪魔……」
投げ飛ばされ、器材で後頭部を強かに打った男が呟いて気絶した。
(いっ? ちょ、チョッと待て……)
彩香の肢体に指を這わせ、素肌の感触を愉しんでいた修司が、横目で悠里の乱行を目撃して驚いた。
「か、片山ク……ン?」
彩香もそうだが、悠里も普段のイメージが桁違いに懸け離れている。
(ひょっとして、片山クン……も……?)
修司の厭な予感が的中しそうだ。
「何遣ってる!」
克己が怒鳴った。
悠里を襲った男が、今度は逆に彼女に襲われている。
克己は額に青筋を立てて苛立った。
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