第1話 人形っつ?
最初はマネキンか、ドコかのヲタクが棄てて行った等身大のフィギュアだろうと思ってた。
だけど、ヨクヨク見れば、銀髪のキレイな髪や透明でキメの細かい白い肌。暗くてハッキリとは判らないけど、それでも細部に至るまで精巧かつ繊細に人形が仕上がっているように思えて仕方が無い。どう見ても人造的なモノには見えないし。
いや、待てよ?
コレがモノホンだったら……だとしたら、こ、コレは……
ウソだ……
全身の血が一瞬で凍ってしまった気がしたし。
し、ししし『死体』しか無いじゃないかぁあああっつ!!!
「ひぃいいい〜〜〜」
あまりのショックに驚いて思わず腰を抜かし、その場に尻餅をついてへたり込んだ。
よく
朝
の新聞配達や牛乳配達の人が第一発見者とかって聞いたりするけど、俺もなのかよっつ? 宝クジみたいなのが当たっても、こんなのとは遭遇したくねぇよおおおぅ!!!
俺は涙眼になって、必死でこの場から逃げ出そうともがいた。
だけど、足が空回りして立ち上がれないし、かっつ、身体が動かせねえええ〜〜〜!
「……」
ごそ……
ゴミ袋の山から、ウチの店のゴミ袋がポロリと落ちた。
「うぎゃぁあああ!」
もぞっ☆と『死体』が動いた気がしたぁあああ???
メイド服を着た女の子は、蒼白い肌をして……キレイな銀髪のショートヘアに、猫耳がぴん! って……
って……え?
『猫耳』っつ???
本当に……女の子?
つか、人間っつ???
「……」
俺はこの状況から逃げ出したかったのに、逃げ出す事も視線を逸らせる事も出来なかった。
と、ととととにかく、警察に連絡をぉ……
……いや、待てよ?
俺はキレイな女の子の『死体』を前にして取り乱してしまったが、彼女の『猫耳』を見ているうちにダンダンと冷静さを取り戻す事が出来たんだ。
そ、そうだよ。
『猫耳』なんだから、コレはきっと『死体』じゃなくって『人形』なんだ。どこかのヲタクが、要らなくなったコレクションの処分に困って、棄てて行ったんだよ。
だけど、ココまで精巧に出来ているのに、棄てるだなんて勿体ないっつ!!!
しかも幾ら要らなくなったって言ったって、なにもこんなゴミ捨て場に棄てる事もナイだろうにさ……
そうだ。
コレは『猫耳』の『人形』なんだ。きっと、そうに違いない。
俺は勝手にそうだと決め付けて立ち上がり、ゴミの中に埋もれている『死体』……もとい『人形』に近付いた。
カラスが騒いでいたワリには、突かれたりしていないんだな。
俺はサイアクの状態を想像していたから、ホッとして気が抜けた。そして、もう一度『人形』の顔を近くでマジマジと見詰める。
辺りががまだ薄暗いせいもあって、蒼白い街灯に照らし出された肌は相変わらず蒼白かった。容の良い細い眉に、長い睫毛、ちょこんと付いてる低い鼻。愛らしい唇は、微かに解けて開いていた。
マジでキレイな女の子だなぁー。
あ? 眉と睫毛は銀髪じゃないぞ?
だけど俺、幾ら人形だからって、女の子を間近で見たのはコレが初めてだったりする。ガッツリ労働遣ってる俺なんかには、女の子なんて縁すら無いし、近寄ってもくれないし……
そう思うとナンだか遣り切れなくなった。
まあ、コレは『人形』なんだし、棄ててあったって事で。俺が拾っても別に問題は無いんだよな?
俺は近くに誰も居ないのに、自分的にヤマシイ事を遣っているんだと言う意識が働いて、辺りをキョロキョロと落ち着かなく見回した。
いっ、いや、べ、別に家でえ、えええエッチな事をするワケなんか……な、ないし……そ、そう、飾っておくだけだってば。
ああ俺ってば、『人形』を目の前にして、何オドオドしてるんだろ?
これじゃモロに変質者ヲタクだよー。
と、取り敢えずは、ココに放置ってのもナンだから……
『人形』に手を掛けた俺は、人肌よりも温かく感じられた肌に驚いて、ぱっと手を放した。
拍子に身体の下に積まれていたゴミが崩れて、猫耳娘の人形は凭れていたゴミ袋の山からズルズルと滑り落ちる。
その先には、カラスが散かした生ゴミが……
「ああ! 汚れる……よっ……と!」
俺はパッと手を伸ばして、猫耳娘の片方の手首を取ると、彼女の身体を横抱きにして肩車で軽々と担ぎ上げた。
お姫様抱っこって行きたかったが、彼女、俺よりも少し背が高そうだし、その……体重もありそうなんで。
……って思ったら、案外軽い。
ツイデに傍に落ちていたピンクのフレームの眼鏡を拾った。
もしかしたら、この人形のかも知れないし、落し物ったってゴミステーションにあったのだから不自然だ。
「ふみぃ〜〜〜」
「おあ? しゃ、喋ったっつ???」
ヤケに温かい猫耳娘は、俺に担ぎ上げられてなにやら寝言を呟いた。可動式人形? ロボット???
つか、酒臭せぇ〜〜〜っつ!!!
ナンだよ? 化け猫人形の癖に、酔っ払っているのかよ?
それとも酒をぶっ掛けられたんだろうか???
『人形』の顔が近付くと、きついポン酒(日本酒)の匂いがした。
いい気なモンだなと呆れながら、俺は彼女の猫耳を隠そうとして、片手で俺のスタッフ帽子をチョコンと被せてやる。
「店長ー、店先で寝ている子が居たんで、俺、ちょっと家まで送って行ってイイっすかぁ?」
客が疎らになった時間を使って店内で棚卸しをしていた店長に、俺は店のドアを半開きにして声を掛けた。
「どうしたの?」
『人形』に、今にもプロレスの大技でも掛けそうな担ぎ方をした俺を見て、店長が眼を丸くしている。
「知っている娘(コ)なんです。家に送り届けたら、十分くらいで戻って来ますから」
俺はデタラメな嘘を吐く。
「ああ良いよ? マサくんあと一時間でしょ? お客さんも少ないし、今日はもういいから先にアガッて早くそのコを家に連れて行ってあげなさい」
「店長ー、すみませんですー」
俺は店長の気前の良さにカンドーした。
「いいんだよぉー、ウチも一時間時給払わないで済むからねぇー。お互い様さね」
「あ☆そ、そ……っすか」
そう言う事かよ?
サスガに時給でのバイトは容赦ナイ。全く悪気のナイ店長の爽やかな笑顔が恨めしく思えてしまった。
普段でもお客の出足が悪くなれば、サッサとあがる様見切りを付けられてしまう。
「よい……しょ……っと!」
俺は一旦猫耳娘を背負い直すと、自分のアパートに向かって人気の無い暗い道を歩き始めた。
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