第11話 タイムUP!




    俺は、抜け目の無い美弥の視線から逃げ出そうと顔を背けた。

    「あっれぇ〜? くすくす……もしかして、やっぱり当たっちゃった?」

    美弥が俺のコトをなんで知っているのか、そして一体ドコで会っているのかは判らないけれど、彼女の言った言葉は当たってる。

    自分のコトなのに他人の美弥から指摘されて、チョッと悔しかった。

    ……確かに今の俺って、女の子と視線を合わせるのが苦手だよ。

    一人っ子だから、女の子の心理が判らないってのもあったけど、子供の頃から……つか、未だに子供扱いされたりしちゃっているけれど、俺のコトを気に入ってくれる女の子は、決まってウソみたいに、みぃ〜んな俺よりも背が高かった。

    別に付き合ってたツモリは無かったけれど、彼女達は結構自意識過剰で、強引で……しかも一緒に居るとナンだか女の子に保護されているみたいで、息苦しかった。

    俺はそんな女の子達に、自分を合わせて行くのに疲れたんだ。

    ……って、今ココでも美弥に合わせているし。


    あうう、マブタが重くなって来るぅ〜〜〜。

    「み、美弥さん?」

    「なあに?」

    美人フジネコが『にゃー』と鳴いて振り向いた……ように思えた。

    「俺、あと数時間で出社しなくっちゃいけないんです」

    「ドコ?」

    「だから、会社」

    「それがなにか?」

    「……」

    いや、そーじゃないでしょ?

    『会社へ出勤する前に、仮眠取らないと眠いんだ。だから、美弥もサッサと家に帰れよ……』って言いたいけれど……言えなかった。

    俺と美弥は平気で『もう帰れよ?』って言える仲じゃないし。

    「だから、眠いって言っているでしょお?」

    「じゃ、寝れば?」

    屈託の無い笑顔で返事されてしまった。

    「……あのなぁ……」

    困ったなぁ。

    美弥は帰りそうもないし、出て行く素振りさえ窺えない。

    でも俺は少しでも寝ておきたいんだっつ!

    もー、美弥無視して寝ちまおうか……?

    それも考えたけれど、さっきみたいに襲われるのはゴメンだし。

    それこそ寝てしまったら、美弥の思うツボになると思った。

    「……」

    暫し、淫魔の美弥に襲われている情ナイ自分の姿を妄想して、密かに身の危険を感じてしまった。


    「いいなぁーマサくん」

    「え?」

    急に美弥の大きな眼がトロンとして俺を見詰めた。

    どき!

    な、なななナニ?

    色っぽい眼で見詰めるなっつ。

    また相棒が元気になりそうで怖くなった。

    「あたしもお風呂に入りたぁーい」

    「〜〜〜」

    こっつ、コレは美弥がわざとボケているんだろうか? 

    それとも美弥って天然なのか?

    ダレがお風呂だ。ダレがっつ? 

    風呂のコトなんか聞いてナイでしょ?

    俺は話が通じない美弥に向って、深い溜息を吐いてしまった。

    「いいですよ? だけど長湯はエンリョしてくださいね」

    見るからに長湯しそうな美弥に向かって、先制してクギを刺す。

    「なんで?」

    「ガス代……かさみますから」

    ……て? あ? 俺もしかして言い過ぎ?

    口走ってしまってから、美弥と視線が合ってハッとさせられた。

    「……わかった。じゃあ、止める」

    ボソリと美弥が呟く。

    「ど、どうして止めるんです? 遣っても構いませんよ?」

    「ガス代……かさむんでしょ?」

    「い、いや、それはあの……その、単なる言葉のアヤで……」

    答えに詰まってしまった。

    たった一言で、美弥を少しだけ落ち込ませてしまったみたいだった。

    しかも、美弥から『ドケチ!』って言われた気がしたし。

    まぁ……本当にドケチ……なんだけどね?

    多額の借金を背負っている俺は、いつの間にか独り暮らしの貧乏生活に馴染んでしまってた。

    独りだから、自分がガマンさえ出来ればそれで済むって考えで。

    今は美弥が居るんだから、もう少し頭の中を切り替えないといけなかった……よな?

    俯いてしまった俺は反省しながら、そろりと美弥を盗み見る。

    「ん?」

    美弥は俺と偶然眼が合って、にぃいいい〜〜〜と笑った。

    「どしたの?」

    俺の視線にキョトン☆ とする。

    アレ?

    俺のコト『ケチ!』って怒っていないのか?

    さっき言った俺の酷い言葉で、美弥をてっきり怒らせてしまったんだと思ったのに。

    家から一歩外に出れば、少しは寛容になれる俺だったが、まさかのアクシデントに見舞われて、こうして女の子が部屋に居る。

    ナンだか調子、狂っちゃうよ。

    こんな状況初めてだから、どうすればいいのか判らない。

    つーか、眠てぇ〜〜〜。

    どーでもよくなって……来たぞ?

    ははは……眠くて自分でナニ考えてんのか判んないや。


    ゆらりと俺の上体が傾いた。

    美弥には悪いけど、これ以上睡眠を削るとマジで業務に支障が……

    ガタ!

    「きゃ!? ま、マサくん? おぅい! どうしたのぉ〜〜〜?」

    美弥がすぐ傍にいるハズなのに、慌てた彼女の声が随分遠くから聞こえてた。

    返事をしないうちに、俺は遂に電池(バッテリー)切れになって、テーブルに突っ伏してしまう。


    マッタクもって美弥は変わった女の子……だよな?

    まあ、普通の女の子がどんなのか、その基準値さえ俺の中ではアヤフヤで怪しいから、俺には想像付かないや。

    美弥は俺が羨ましく思ってしまうくらい、マイペースで脳天気。

    一緒に居れば居たで落ち着かないけど、不思議と厭味が無いんだよな? 

    で、そんな飽きない美弥をもっと眺めて居たかったんだけど、もう限界。

    即効で睡魔に襲われた。

    もしかしたら、コレって夢じゃないのだろうか???

    拾った猫耳人形が化け猫人形で、睡魔に襲われている俺に幻覚を見せている?

    「きゃ―――、ヤダ! 死んじゃらめぇ―――」

    「ね……寝ひゃひぇひぇふりゃひゃい(寝させてください)……すぅ―――」

    って、あと一時間も無いじゃないか―――っつ!



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