第12話 正体?(彼女サイト)
がちゃ☆
ドアが閉まって鍵が掛けられた音で、あたしは目が覚めた。
マサくんは、あたしに強制サービス受けちゃってそのまんま寝ちゃったし。
眠く無かったあたしも、彼につられていつの間にかテーブルに突っ伏して、眠っちゃってた?
「ふぇ?」
寝惚け眼を擦りながら、あたしは目の前に鍵が置かれている事に気が付いた。
「えっ、えっ?」
この鍵は?
もしかしなくても、ココの鍵……だよね?
あたしはナンの変哲も無い部屋の鍵を手に取って、目線よりも高くかざして見た。
あたしよりも先に出勤して行ったマサくん、女の子達には無愛想だし、いつも見た目ダサイと思ったけど、案外女の子に優しいんだぁ。
だって、一緒に部屋に居ても、自分の都合が悪くなるとスグに怒って追い出しちゃう連中ばっかだったもの。
まぁ、このあたしに男運が無いって言うのも確かなんだけどね?
あたしはダレも居ない部屋で、アゴが外れそうになるような大欠伸をした。
今日は週明け平日だけど、有給申請してるもんね。
で、マサくん、働け! 勤労……『金労』青年。
あたしは彼が出て行った部屋のドアを眺めた。
「ん? イイニオイ……?」
あたしは、テーブルの反対側にあった、白いお皿の上に乗っかってキツネ色にこんがりと焼けたトーストに気が付いた。
あれ? ナンだかこのトースト、サイズが……ヘン?
半分のトーストと、湯飲みからほわほわ湯気が立っているお茶。
ウソ……
なんでトーストが半分なの?
『素』焼きだけ……って、ジャムとかバターが何にも塗られて無いじゃない。
しかもフツー、パンにはコーヒーかカフェオレでしょ???
なんで湯飲みにお茶なのよっつ???
「あ? 茶柱が立ってる……」
って、言ってる場合じゃないし。
そこまで思って、あたしはマサくんの生活状態にハッと気が付いた。
『清貧』ドコロか『赤貧』のような殺風景な彼の部屋。
年頃の男の子の部屋じゃないでしょ?
もしかして、あたしが来たからトーストが半分こになってるの?
マサくん、このパンの片割れを食べて仕事に行っちゃったのかな?
そう思うと少しだけ悪い気がしてしまった。
あたしは彼が焼いてくれたトーストを、モソモソと食べた。
あ?
『半分こ』って言葉と、このシチュエーションにちょっとだけドキドキしてるわ。
ドラマか何かに出てきそうで。
それにしても、驚いたわ。
まさかこのあたしが、あのマサくん……もとい『トッキー』の家に転がり込んでいただなんて……
あたしは指先を揃えると、直して貰った眼鏡のフレームをぐい!とばかり押し上げた。
眼鏡が無かったから、よく見えなくって気付くのが遅くなったけど、彼があのトッキーこと『土岐正宗』だったなんて……あたしってば、何てラッキーなの?
「ん?」
『トッキー』と『ラッキー』の語呂にハマッて、思わずあたしはくすっと吹いてしまった。
ジミで冴ないチビメガネ……男性社員からはそう思われ、見た目でも立場関係上でも低く、軽ぅ〜く侮られているし、『未成年じゃないのか?』だなんて入社当時はからかわれたりしてたけど、実は何でもこなせる器用な一面を持っている。
まあ、オクテで内向的なのがかなり……てか、トッキーの外見を必要以上に根暗い無能に見せ掛けてはいるんだけどね?
ところが……意外にも、トッキーは業務遂行能力値が他の男性社員とはケタ違い。
入社後一月も経たないうちに、トッキーの業務能力評価は一転した。
新入社員のワリに、タイピングがもの凄く速いし正確で、報告書には誤字脱字なんて皆無だわ。
恥ずかしながら、指導するべきあたしの方が、書類作成のノウハウを教えて貰いたいくらいだし、手書きの書類だって綺麗な筆跡に、見易くて無駄の無いレイアウト。
履歴書にはペン習字の有段者って書いてあったし、他にも各種免許を取得しているのに、記入欄が狭くて書き切れなかったらしいと言うエピソードを、あたしは部長から聞いていた。
要するに、仕事がデキる社員さん。
しかも親切丁寧がモットー?
……って、何処かの引越し会社みたい?
いまどき人にモノを訊ねるのに、開口一番『スミマセン』は無くってもいいのに……と思ってしまうのよね。
それはきっと、トッキーの人柄なんだろうなと思うのよね。
ただ、気を遣い過ぎなのよ。
他の男性社員が同じコトすれば、イラッとなりそうだけど、トッキーなら許せちゃう。
童顔で小柄な体型って言うだけでも、丁寧過ぎる物言いは悪い気はしないし、あたし的にはOKだわ。
まぁ……あれだわ……居眠りさえなけりゃあパーペキなのに……ね?
と、日頃のトッキーの勤務状況を、主任のあたしは評価している。
童顔で小柄だからって、トッキーは内面コンプレックス持っちゃっているらしいせいか、女の子と口を利けば、スグに真っ赤になってオドオドしちゃって……妙にカワイイ。
そんなだからか、部署内でも結構女性社員に人気がある。
ところがオクテなトッキーは、自分に送られている彼女達の熱烈サインに気付いていない。
気付かない……にも、ホドがあるっしょ?
実はあたしもそのうちの一人だったりするのよね?
あたしよりも年下だし、背丈も同じくらいだけど、彼が入社してからずうーっと気になってる存在だったのよねぇー。
って、ナニがあったのかは判らないけれど、彼に自宅に連れて来られたのは事実だし、部署内の並み居る若い子達を差置いて、あたしは万馬券を手に入れた気分だわっつ!
上機嫌なあたしは、トーストの最期の一欠けをぽいっと口に放り込み、まだ熱い湯のみに手こずりながら、トッキーの淹れてくれたお茶をすすった。
「お? お茶が美味しい……?」
あたしは不思議に思って飲み掛けのお茶を眺めた。
……どう見たってスーパーで売っているお買い得商品のような色をしているけれど、もしかして実は有名老舗の高級なお茶……なのかしら?
だけど、そんな高級なモノをあのトッキーが買い……そうには無いわよねぇ。
麦茶もそうだったけど、なんでこんなに美味しいのかしら?
美味しいお茶の淹れ方?
飲んだ後での一杯だったから、あたしの体調のせいかも知れないけれど、こんな些細なコトでも知っちゃっただなんて、ナンだか嬉しい。
Web拍手です。ぽち☆ してね?
BACK * NOVELS * NEXT