第14話 メイド…ってあたしっつ?(彼女サイト)




    「私、土岐さんにお会いするために此方に参った次第です。土岐さんはおいでますかな?」

    ケントさんは、ドアの影に隠れたままでいるあたしに向かって背筋を伸ばし、キレイな直立姿勢を保って丁寧に頭を下げた。

    ……ナンなの? この超スマートな身のこなし。

    トッキーは、女の子達と視線を合わさないように俯き加減で歩いているから、やや猫背。普段の彼のイメージから、こんな紳士と知り合いだなんて、想像なんて付かないよー。

    あたしはケントさんに見惚れてしまった。

    世の中には、こんな紳士も居るんだわ。

    「……? お嬢様?」

    「は、はひっつ!」

    「如何なさいましたか?」

    イカでもタコでもないわよう〜〜〜。トッキーもいいけど、ケントさんも素敵なおぢ様。

    だけどケントさんみたいな人が、トッキーに何の用?

    まさか、新手の取立て屋さんじゃあないでしょうね?


    イケメン系ホストの取立て屋集団だったら、あたし、何でも差し出してしまいそうだわ。

    って、そこまで考えて、あたしはトッキーのホスト姿を妄想した。

    冴えないダサダサ眼鏡を取って、髪にムースでふんわりとエア入れて……

    ……

    ……きっつ……

    きゃぁあ―――! イケてるぅう〜〜〜!!!


    入社式で、新入社員代表の式辞を読んだトッキーの凛々しい姿を思い出し、あたしはケントさんを無視して、独りで真っ赤になって盛り上がってしまった。

    業界最大手のK工業の子会社として発足しているW・グローバル社は、本社の主力となる医療関連機器と肩を並べるほどの副戦力。このご時勢も相まって、新卒採用は狭き門になっていた。

    競争率の激しいその中で、入社式には成績最優秀者が代表式辞を皆の前で読み上げるのだけど、その栄光にトッキーは選ばれた。

    まさかその彼が、あたしの部署に配属されるだなんて思ってもいなかったけれど、その『まさか』が実現しちゃったのよね。

    トコロが、入社式でサワヤカにジョシ社員達のハートを幾つも射止めていたにも関らず、スーツ姿のイケメントッキーは、すっかりナリを潜めてしまったの。

    予想外に女の子から騒がれたのも原因の一つらしいけど。ホントーの所はあたしでさえ不明だけど、彼のキアイモードの後で変身しちゃった姿を見破ってしまったジョシ社員達は、未だにトッキーを狙ってる。

    あ? あたしも……なんだけどぉー♪



    「あのぉー、もし?」

    「はっつ?」

    ケントさんのその声で、あたしは現実に引き戻される。

    ああん残念……って、今はそんなコト思ってる場合じゃなかったし。

    妄想の続きはまた今度ってコトで。

    我に返ったあたしは、ケントさんの事を妙に勘繰ってしまい、中々部屋には通してあげなかった。

    「あの〜、貴方とマサくんとのご関係は?」

    あたしはケントさんをぢ―――っと……胡散臭そうなフリをして見上げた。

    「おお、コレは失礼致しました。私、土岐さんの爺やでございます」

    「?」

    ……自慰や???

    「……何か妙な勘違いをなされておられますな?」

    ケントさんはあたしの様子に少しばかり眉を寄せて困った顔をすると、コホンと咳払いを一つした。

    「一応、『おジイちゃん』だと申しておきましょう」

    「はぁ……」

    ナンなの? その『いちおー』ってのは???

    それでもあたしはケントさんの言葉に、何となくだけど相槌を打った。

    少なくても取立て屋さんじゃないみたいだし、害は無さそうでしょ? ってコトで。

    表札も出ていないこのマンションで、トッキーのフルネームを言ったのだから、少なくとも身内・知人は間違い無いでしょ。


    「して、お嬢様は?」

    「ああ、あたしはそのっ……」

    ドアの物陰から名乗るのは失礼だと思って、あたしは一旦ドアを閉め、チェーンを外した。

    そして、あたしはドアを開けてケントさんを部屋に迎え入れようとした。

    「んな、ナンとおおお!」

    「は?」

    あたしの姿を見た途端、ケントさんは仰天した。

    アッツ! しまったぁあああ! 

    あたしってば、コスプレメイドのまんまじゃんっつ!!!

    つか、誰だって朝の初っ端からこの格好はキビシイでしょ。

    あたしはこの時、一瞬でケントさんに嫌われてしまったと思ったの。

    「えーん、許してくださいぃ〜〜〜」

    もうコスプレの格好で朝までウロウロしませんからぁ〜〜〜。

    あたしはカワイコぶって、胸の前で両手を祈るように組み、小首を傾げて肩を竦め、涙ぐんで見せる。

    「もう御付の方が居られたとは」

    「はいぃい?」

    「土岐さんも中々のお方ですな」

    「???」

    『御付きの方』……って、あっつ、あたしぃいいい???

    まあ、確かにメイド服で留守番していたらそう思われたりするのかしら?

    でも……取り敢えずは、あたしがケントさんからヘンタイ目線で見られてなくって良かったってトコロよね。

    「あのっつ……」

    「して、土岐さんはイズコにおいでますかな?」

    「へ?」

    ……

    ケントさんはあたしの格好にたいして……ってゆーか、殆んど反応しなかった。

    コレってどゆコト?

    トッキーといい、ケントさんといい……この『萌え系メイドの猫耳ちゃん』が珍しく……ないの? 

    ……昨夜のコンパじゃウケが良かったのにぃ。

    あたしは二人の反応に、少々納得がイカナイけど……まぁ、いっか。

    どうせレンタルだし……って、ヤバっつ! 衣装返却すんの、忘れてたぁ!!!

    「多分、夜遅くにならないと帰らないと思いますよ? あたしもそろそろ家に帰るところですし」

    「然様でございましたか。実は私、長旅で少々疲れておりますゆえ、暫らく此方にお邪魔させて頂きたいのですが?」

    「いいんじゃありませんか? マサくんのお爺様なら」

    知り合いなんでしょ?

    あたしはドアを大きく開けて、ケントさんを迎え入れた。

    「しからば御免」

    「じゃ、あたしはこれで〜」

    早くこの衣装返さなくっちゃ、延滞料金取られちゃうよー。

    あたしはケントさんと入れ違いに外へ出て行こうとした。


    その時だ。

    「待たれよ!」

    「はぃい?」

    ケントさんの鋭い一声が背後でとんだ。

    「このまま放って行かれるお心算ですかな?」

    って……☆

    振り返って部屋の中を覗いたら、ミニテーブルにはあたしが食べた朝食のパンくずや、飲んだ後の湯飲みがそのまんまの状態だった。

    「あ? ああ、はいはい」

    片付ければいいんでしょ? 片付ければ。

    チョッと忘れていただけなのに、ケントさんったらキビシイのね?

    あたしは口を尖らせて、トッキーの部屋に戻った。




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